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8-8 熊幼女ミヤ

 熊幼女ミヤ五歳。

 この子も服作りが好きな子である。


 長めの黒髪で目も黒なのだ。

 見事なまでの稀人カラーだな。

 色合いが御揃いなので、結構福猫兄妹と一緒にいたりする。


 服に興味があるのは、自分の熊尻尾が気になっているのかもしれない。

 他の子達の長細い尻尾と違うため、色々と気を使う感じである。


 結構型紙とかを上手に切り抜いている。

 縫い合わせる方は、中々上手くいかないようではあるが、へこたれずに頑張っている。


 そこへ意外な応援がやって来てくれた。

 エリの母親のリサさんだ。


「子供が三人いますからね。

 服を作ったり繕ったりはしょっちゅうです。

 エリも小さい頃は御転婆で。

 体を壊す以前は、私も御針子の仕事もしていたんですよ」


 そういやエリも最初はダンジョンで出会ったんだった。

 本当に大人しい女の子だったら、何があってもダンジョンの中なんかへは行かないよな。


 みんな丁寧に服作りを教えてもらって、彼女もすっかり「リサ先生」と呼ばれて子供達から懐かれてしまった。

 そして時間があったら、また来てくれることになった。

 彼女も嬉しそうにしていたので何よりだ。

 久しぶりに彼女を鑑定してみたが、病気はぶり返していないようだったので安心した。


 幼女達がミシンに取り付いている。

 チビ猫レミもミシンテーブルの上に乗っているし。

 あの(滑り台)に比べたらこんなものなんだと言いたいのか?


 まだ登頂者気分が抜けないようだ。

 そのうちにジャングルジムを作ってやろうかな。


「えんちょーせんせー、これおっきくてつかえないよー」

「大人用だからね、これ」


「えー、つかいたいー」

「あー、どーするかな」


 とりあえずミシンを縮小コピーで小さくしてみた。

 糸の穴とか押さえの部分のサイズとかが色々不都合だな。

 まあ動く事は動いたのだが。


 トーヤもやってきた。

 バラすつもりなのか?

 とりあえず、おチビ猫をトーヤに預けて両者封印した。


 最近は抱き上げてもチビが逃げたり文句を言ったりしなくなった。

 慣れてきたのかな。

 真理に言わせると、「いつも楽しそうな事をしているから興味津々なのよ」だと。


 色々と弄ってみて、子供用ミシンもなんとか使えるレベルに仕上げられた。

 洋裁グループの子達が熱中している。


 トーヤにも一台与えて、小さくした故の問題点となる部分を教えておいた。

 結構、大きい物の方はそれなりに理解できたようだ。


 おチビ用にもう少し小さめに作った奴を与えたら、床に座り込んだまま猫耳を揺らして一生懸命に回していた。

 そいつは玩具みたいなものだし、ただ回すだけの物だけど。

 あれは本当に楽しいよな。


 自分で動かしてゴムベルトが回るだけでも楽しいのに、針がダダダダっと音を立てて動くのがなんともいえない楽しさなのだ。

 あれは俺もよくやったもんだ。


 一回ハムスター用のあれにチビ達を入れてみたい。

 あのくるくると中で走って回す、回転する車輪みたいな奴ね。

 でも、こいつらに与えるとゲロ吐くまでやりそうだし。

 

 ただでさえ子供なんて、涎・鼻水・ゲロ・しっこ・うんこの塊なんだからな。

 おっさん一人で御世話なんて絶対に無理だ。

 真理や職員さんがいてくれて本当に助かる。

 あと、生活魔法万歳だ!

 こればっかりは地球には無い恩恵だな。


 とりあえずトーヤをミシン専属メカニックに任命しておいた。

 まあ、おチビさん同士で楽しくドタバタやっておくれ。


 講習室の一つをミシン作業所にしておいた。

 大人に踏んでもらって、御膝の上で一緒にやるっていう手もあるんだけどな。

 しっかり縫おうとしたら普通サイズのミシンを使わないと無理だろう。


 足踏みミシンは案外と強力でしっかり縫える。

 家庭用の安い電動ミシンはモーターが柔なので縫う力は弱い。

 でも六十万円以上もするような高級機は凄い性能らしい。


 ああ、ネットで買い物してえ。

 魔法式の発電機もあるのによー。


 あと案外と真理がミシンを使いこなしていて、びっくりした。


「舐めないでよ。

 伊達にあの練金魔王と長年付き合っていたわけじゃないのよ」


 そう言いながら、もう子供達のために服を縫っている副園長先生。


 葵ちゃんは慣れない足踏みミシンに苦戦していた。

 これは縫うだけなら、手馴れた上級者なら電動ミシンじゃ敵わないとも言われているが、それもあくまで上級者ならの話だ。


 だが頑張っている。

 元々自分専用のミシンまで持っていた裁縫女子らしい。

 この子の事だからコスプレ趣味があったのかもしれない。


 彼女こそミシンの素敵さを知り尽くした、この異世界でたった一人の人材なのである。

 それは異世界でミシンを作りあげた張本人であるこのおっさんも知らない世界なのだ。


 俺は小学校の家庭科で作ったボロ雑巾までだな。

 あれは古タオルみたいな、もう捨てるような服とかの布地で作るからな。

 あれでさえも出来はあまりよくなかったのだが、雑巾の縫い方なんて、もう適当適当。


 どうも足踏みミシンで真っ直ぐに縫えないんだよね。

 俺の『気針体一』が、しっかりと出来ていないのに違いあるまい。

 剣道か!

 針の剣を携えた一寸法師なら、それで合っているかもしれん。


 あとネットを見ながら、ラメとかボタン・ベルクロ・ファスナー・ホックボタンなどを再現し、地球から持ち込んだ手持ちの服飾品などからもコピーしたりして色々作ってみた。

 

 簡単なハンド編み機なんかもいいな。

 そいつは割と簡単に作れたし。

 なんか女の子達は編み機とかに夢中だ。

 ミサンガを編んだり毛糸の帽子を編んだり。


 とりあえず子供用ミシンは、なんとか使えているようで何よりだ。

 ネットで見たり、ミシン屋さんのアドバイズをもらったり、メーカ-に問い合わせたりで、ミシンの改良は日々行われている。


 日本のミシンなんかも細かい改良は現在もされていて、ネットの特許公報のページなんかにも載っているが、専門的過ぎて見てもよくわからない。


 俺はミシンを改良する傍ら、三輪車や自転車の開発に熱中した。

 作っていると、やっぱりトーヤがやってきた。

 そろそろ、こいつにも組み立てる事も教えないとな。


 今トーヤは俺が日本から持ち込んだMTBのバラシに熱中している。

 本当に分解小僧だな。 

 最近は色々な物を作ったりする時には助手に使ったりしている。



 無料型紙のストックなどもガンガン増やした。

 子供達に作った服を着せてネットにアップしたら、型紙を作って送ってくれる人もいた。

 それをまた作ってアップしたら、チビ達の可愛さに身悶えして次々と送ってくれた。


 学生さんの素人デザインだが十分に着れる。

 何よりも使える日本円が限られているので無料なのがありがたい。

 こっちの注文にも気軽に応じてくれるしな。


 御蔭で俺用の作務衣や、みんなの浴衣も手に入った。

 やるぜ、夏祭り。


 いつか隣の帝国の帝都にいるエルフさんにも着てもらいたい。

 エルフさんは皆エロフ状態におかれていて、ほぼ監禁状態なのらしいが。


 ミヤ達が一生懸命に縫い縫いしている。

 一心不乱にやっていて可愛いなあ。


 というわけで、おっさんは原料の生産に入る事にした。

 今までも、俺が日本から持ち込んだ衣服とかの布地はあった。

 これをネットから引っ張ってきた「織り方の情報」と合成するだけで、とてつもない量の布地の種類が出来上がる。


 布地はその織り方が違うだけで、まったく違う物になる。

 それを色違いにされただけで、原料は一緒でも素人には区別がつかない。


 織り方や織る為の機械とかの情報を詳細に残しておけば、これらは後世でも作ることが可能だ。

 織機の情報はネットでも見られた。

 あれだって結構複雑な機械なのだ。

 天然素材系の化学繊維なども、この世界でも十分に作成可能だろう。

 そもそも俺の故郷である愛知県西三河は、自動織機から始まって自動車生産に入った御国柄なんだからな。


 ああいう特別な機械を出すと色々とまずい影響は出ちゃうのかもしれないが、もう知ったこっちゃない。

 いい加減、この旧態依然とした世界に嫌気がさしている。

 元々は特に来たくもなかったのに何故かこんなところにいる俺。

 自重なんかしてやる必要がどこにあるっていうんだ。


 まあ今は、むしろ地球にいる時よりも結構幸せなんだからいいけどね。


 車やPC、その他の物品に使われている各種素材から作り上げる化学繊維。

 ナイフを使う時用にケブラーの手袋まで持っていたし。


 おおよそ、服地というものは原材料自体の種類は限られる。

 絹・麻・綿・毛・革その他。


 天然材料で色々異なるのは、概ね産地や品質であろう。

 ここでは更に魔物素材なんかが加わるが。


 化学繊維も大雑把な種類自体は少ない。

 ただメーカーごと型番ごとに種類があるのと、あと色番もあるし。

 今のところ手持ちでは、ポリエステル・一般的なナイロン各種・アクリルなどがある。


 化学繊維の四十パーセント以上がポリエステルみたいなもんだし、綿・アクリル・ ポリエステルあたりの各種混合素材とかを作っておけば、そこそこいけるのでは。

 寒いので毛糸のセーターなんかも持っているから毛糸はあるし、羊毛ならこの世界にもある。


 必要ならネットを見ながら新素材は開発できる。

 俺は日頃があれなんで只の暴れん坊に見えるのだが、日本の物作りの重鎮である愛知県で何十年も製造業に従事してきた生粋の生産系の人間なのだ。


 後で手にいれた魔法やスキルを除けば、俺は完全に生産系百パーセントのチートしかもっていない。

 生産用の魔力チートと、戦闘系への拡張オプションがあっただけなのである。 


 それらの糸・布、織り方、色を組み合わせて、とてつもない種類の布地種類を手に入れてある。

 そのうちの幾ばくかを子供達に与えてあるが、それでも目を白黒させながら目移りしているようだ。


 耳の動きがせわしないし尻尾もそわそわしている。

 ミヤが自作した、ちゃんと熊ちゃん用に専用設計された洋服からはみ出した尻尾。

 それがまた微妙な動きで、つい目で追ってしまう。


 真っ赤やパールピンクをしたサテンの品質は満足な出来合いだ。

 この世界ならば、きっと高値で売れる事だろう。


 なんといっても染料顔料の製作に一番苦労したのだ。

 それらはイメージ作成をうまく使って、自動合成開発をやってみた。


 原料物資から際限なく合成を行い、さらにそれをまた原料物資とは違う分子組成のものに分解しておく。

 これに試行錯誤しながら色々制限を加えておくと、決まった範囲内で自動的にその作業が行えるようになる。

 これが、魔法PCが新しく各種作業をまとめて新しく作ってくれた「開発指定」のスキルだ。


 決まった性質の原料、例えば布地染めの染料を指定しておくと、たくさん出来た物質の中に、それの色違いのものがたくさん出来るとかいうようなスキルだ。


 開発範囲も絞って限定できる。

 へたをすると、まだ地球に存在してない色合いまで入っているかもしれない。


 こいつは魔法PCのアイテムボックス内に在る専用インベントリの中で常時動かしてある。

 後は必要なものがあれば、そのコレクションから検索するだけだ。

 その中に無ければ、また条件を最指定して再トライする。


 俺は常に膨大な素材のサンプルを保有していて、それは常にその数を増殖させ続けている。


 とりあえず、派手なサテンにスパンコール、コサージュや装飾ボタンにひらひらのレースも作った。

 糸を引っ張ってギャザーを作るやり方なんかも教えて、チビ達に宛てがっておいた。

 どんなものが出来上がるか楽しみだ。

 模範解答はパーティドレスあたりなんだろうけど、こういう物に決まった答えなんて無い。


 ボタンみたいな単純なものは、サイズとか材質・色合いなんかが適当でいいならイメージ作成で大体加工できる。

 ミシンみたいな超精密機械は無理だけど。


 それらの服飾材料は子供向けに大量に作ってみた。


 俺は子供向けのTシャツや男の子用のズボンなども色々と適当に作ってみた。

 この辺は消耗品だし、まだ子供なんですぐ大きくなるから若干大きくてもOKだ。


 あとは簡単な下着類も作成してみた。

 そのあたりは葵ちゃんの技術協力もある。


 こうして、世界一の高ランク冒険者かつ名誉高位貴族のくせに、冒険もせず貴族としての振る舞いもなく、俺は園長先生として異世界で日々忙しいのであった。

 冒険の旅に出かけるとかなんとか言っていた話は一体どこへ行っちまったものか。

 もうそういう話もないんだろうなあ。


 なにしろ、一緒に冒険の旅へ行くとか言っていたどこかの副園長先生自身が、やたらと子供を拾ってきては世話を焼くのに俺よりも熱心なんだからな。


 

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― 新着の感想 ―
副園長先生も子育てという冒険中なのかも(*´▽`*)
[一言] 晩歌(エレジー)は死者を悼む哀悼歌、を指します 短い物語、語り調歌なら譚歌(バラード、またはバラッド)かと 例としてさだまさしの「雨やどり」など 鎮魂歌(レクイエム)かとドキドキしてました…
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