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8-4 爆誕「ケモミミ幼稚園」

 孤児の子供達をなし崩しに保護してみたのだが、ちょっと困ったのは隅っこで膝を抱えてしまっている子達がいる事だ。

 元気いっぱいの子が多いので最初は気が付かなかったのだが、今は四人ほどいらっしゃるので目立つ。


 エルミアの教会にも無関心なような子はいたが、去り際には少し心を開いてくれたようだったのに。

 きっとこういう事は時間が解決してくれるはずだ。


 とりあえず、もう少し活気があった方が彼らの気分も変わるだろうと思い、設備を広げて幼稚園っぽくする事にした。

 ネット掲示板では冗談で園長先生を名乗ってみたのだが、本式にやってみてもいいかもしれない。


 こんな異世界で世界最高ランクの冒険者になってしまったくせになんなのだが、冒険の旅へ行く予定は急遽止めにした。

 そもそも、わざわざ冒険なんかに行かなくたって、ここにダンジョンがあるのだし。


 おまけに冒険する理由とか目的とかが特にある訳でもない上に、俺が後数年で完全な爺になってしまうような年齢の超高年のおっさんなんだからな。


 真理の奴も特段「約束通りに冒険の旅へ出かけよう」などと言わないし。

 そもそも、ここのダンジョンの底に真理の大事な家がある訳だし、今は彼女も子供の世話が楽しいようだ。



 何かやる事があれば変わる子もいるだろう。

 とりあえず、セーフハウスと同じ物をもう一軒隣に作った。

 もっとも建物をコピーして、魔法で据え付けのための木工事をするだけだけどな。

 そして、そっちは教室設備にしてみた。


 元々これはこのアドロスで工房として建てられていた建物で、もう老朽化して打ち捨てられていたものだ。

 だが、元は大変にがっしりと作られていた。


 物には記憶があるという。

 その辺に落ちている石ころにも、もしかしたら嘗ては勇者並みの凄い物語があったのかもしれない。


 原子レベルで記憶があると唱えていた人がいたような気がする。

 もしそうだとするならば、素粒子や超極微粒子みたいなものが記憶のシステムを作っているのだろうか。


 原子は長い永い時間をかけて旅をして、様々な記憶を、HDDが記録を塗り替えていくように幾重にも記憶を蓄えていくのかもしれない。


 再生は基本的にその物体の持つ記憶を再現する能力だ。

 魔力を原資にして、その物体が持つ記憶の通りに再構成していく。


 この辺の能力は武が真理を構築したのと似たようなものなのかもしれない。

 俺には魔道ホムンクルスなんていう凄い物は作れないがな。

 あの子は人形というよりは、やはりホムンクルスと呼ぶべきか。

 真理はオートマタみたいな只の人形とは訳が違う、完全な人工の魔法生命体だ。


 再生のスキルは、生き物の場合は少しずつ再生していくので生命活動には影響ない。

 人間なんて体を構成する素材は細胞の入れ替わりによって変わってしまうと思うのだが、俺は見事に再生された。

 もしかしたら、生き物の場合は脳神経や体の覚えている記憶、遺伝子レベルの記録を魔力によるスキャンで読み取っているのかもしれない。


 この俺のユニークスキル(固有スキル)は地球の科学知識の断片などを元にしている。

 俺が理屈っぽくて、そういう事に拘る人間だからだろう。

 それがこの世界の理と折り合いをつけてスキルとして象っているのだ。

 それらはこの世界で出来る事の範囲内でしかない。


 少なくとも老朽化した建物を、再生のスキルにより建てられた当時の状態にする事は容易なようだ。

 基本的に魔力量の制限がない自分だから、その辺の事は思いっきり出来るのかもしれないが。


 工房は幾つもの広い部屋で出来ている。

 ここで働いていた弟子達は幾つかある部屋で雑魚寝していたと思われる。 

 親方用には自分の部屋がある。


 工房も二十畳くらいの狭い部屋が六つあり、五十畳の広い部屋が三つだ。

 大きな食堂と調理場があり、水は魔道具で作られていた。


 天井は高さ四メートルほどある。

 ここで一体何を作っていたんだろう。

 比較的広い建物だから、それなりに大掛かりなものだな。

 再生した後に、その痕跡は見受けられなかった。


 平屋作りで木のほぼ丸太で出来た柱に、斜交いの上から板張りされて、その上から漆喰の壁が塗られている。 

 工房の内部は木の壁になっていて趣がある。

 親方は英国人のように木の質感を愛していたのかな。


 ちゃんと天井裏もある。

 天井裏で、おっきなケモミミのネズミがちょろちょろしそうだ。


 広い工房の一つは外から来た子達のフリースペースになっているセーフハウス部分だ。

 そこにはオモチャや絵本が置いてあり、その奥のスペースは元からいるここに住んでる子達の居場所になっている。


 その間の壁には幅四メートル高さ三メートルの大きな開口部となっている。

 自分から気楽に奥の子のところに遊びに行ってもいいし、逆でもいい。

 奥にいる子に手を引かれて入るのもいい。

 大人は一切無理強いはしない。


 一番奥の部屋は勉強部屋だ。

 皆で並んで床に座れる勉強机が置いてあり、自分のロッカーもある。


 幼稚園のようなカリキュラムは特にない。

 勉強したければ、ここにくればいい。

 別に必ずしもここに住む必要は無い。


 これらの工房の隣は幅三メートルもの通路になっており、向かいには食堂がある。

 住んでいる子も外から来た子も、ここで一緒に御飯を食べればいいのだ。


 二十帖の六つの部屋の内、一つは職員の当直部屋にしてある。

 住み込み職員にはバンガローの住居をあてがった。

 毎日全員が真夜中に、子供に起こされていちゃあ体が持たないからな。


 残りの五つは子供の寝室だ。

 今は一部屋二十帖で四人当てだから、まだまだ部屋はスカスカだ。


 結局仲良しグループで分かれるのだが。

 幸いにして、みんな元からの仲間がいるのでボッチな奴はいない。


 はっ!

 いたわ。

 それは他ならぬこの俺だ。

 俺だけ一人で寝てます。


 拡張した新しく建てた幼稚園部分は、建物自体はセーフハウスと同じ物をコピーした物だが、その構成はまったく違う。


 五十帖ある広い部屋の内、第一教室は自由カリキュラム・ゾーンだ。

 ここはセーフハウスとは違ってなんでもいいのではなく、あくまでカリキュラムに沿った中で、自分のやりたい勉強をするという事だ。

 この世界で使われている教科書や教材なんかもある。


 第二教室は工作・美術・洋裁などの技能的な事をやる。

 都度、授業内容は区切っているので、年間の途中からついていけないという事はない。

 まあ粘土細工とか御絵かきとか、御人形さんの御洋服とかだけどな。

 所詮は幼稚園なもんですから。


 第三教室は室内運動場だ。

 まあ、プロレスごっこや御遊戯ゾーンだね。



 これ以外の小さな部屋は座学とかに使う予定だ。

 第四教室は絵本の読み聞かせや、簡単な文字の書き方や足し算引き算の教室だ。

 小さい子にはまだ早いかな。


 第五教室は音楽室でサイレントの結界付きだ。

 ここはもっぱら、御歌の授業だな。

 簡単な楽器の演奏をやってもいい。

 小学校の音楽の授業みたいなものか。


 第六教室は道具の練習室。

 簡単な道具や工具などの使い方を教える教室だ。


 七から九は講習室で、いろんな講師を呼んでの講習も面白いと思っている。

 冒険者・屋台の親父・武器防具屋・ウエイターやウエイトレスさん・騎士・代官・御者などだ。


 あとはダンジョンの専門家でベル君あたりを連れてこようか。

 この中からも冒険者を目指す子も出てくるだろう。

 なんたって、このアドロスはダンジョンの御膝元にある街なんだしな。


 講師に王様とかはさすがに無しの方向で。

 大穴でエミリオ殿下か。

 あの子なら歳が近いし、あの性格からすれば案外といけるかもしれない。 

 まあ御友達乗りで。


 外にはもふもふ運動会を想定して、運動場を広く取ってある。

 お砂場にブランコにシーソー、タイヤを埋めたアスレチックなどを設置しておいた。


 街の御店で御揃いのスモックも作らせたのだ。

 ネットで選んだ、とびきり可愛い奴をな。


 外の塀にはネットから探しまくった可愛いケモミミちゃんの絵をアイテムボックスの中で板に転写してある。

 花柄なんかもあしらってみた。


 それを外塀の正門横に貼り付けた。

 そいつの御蔭で、なかなか幼稚園らしくていい感じになったのだ。

 看板には日本語で縦に「ケモミミ幼稚園」と書いてある。


 かくして、この園長先生の圧倒的なまでの拘りの下、ここにケモミミ幼稚園は異世界に爆誕した。


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― 新着の感想 ―
[一言] 記憶ですか?緋色優希さんある学者が言ってたが, 将来量子コンピューターが実用化された時の記憶素子は 水になるかもとね!水は一度酸化物質に汚染されると 不味い水の記憶が蒸留しても保持されると言…
[一言] 異世界転移の状況とか掲示板なんかもろパクりですね。
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