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8-1 ウドンの香りに誘われて

 これは異世界へ来て三か月くらいの頃、おチビちゃん達と出会った時の物語だ。


 自分には、あまり料理の才能が無い。

 というか、はっきり言って皆無だ。

 食事はスーパーの出来合いかインスタントなどが多かった。

 その癖、今更キャンプへ行って楽しもうなんて無謀な事を考えるのだが。


 この世界でも色々と料理を作ってみたけど、はっきり言って適当なものばかりだ。

 ここは、やっぱりプロにお願いしたいと思って、王都の商業ギルドで料理店の三男以下の余っている人材を集めてもらう事にした。


 彼らにはラーメンとかを作ってもらう事にしたのだ。

 フードコートも作る予定だしね。


 街の端っこのうらぶれたあたりに「ラーメン研究所」を作ってみた。

 それはそこに建っていた手頃な建物を買い取って、再生のスキルで新品状態にしたものだった。


 持ってきたガス器具も多少はあるのだが、一応(かまど)でやる事にした。

 なるべくこの世界の物でやると後世まで残るしね。

 あと火力の問題もある。

 

 魔道コンロもあるのだが、それらは一般的に高価な物だから、今回はラーメンを広く普及させる事を念頭におき、それを無しでやってみる事にした。

 俺がそういう物を作るとまた問題がありそうだし。


 石で出来た竈は前に買っておいた奴を並べて、あれこれと調理器具も揃えた。

 本格的な魔導冷蔵庫ではなく氷魔法を用いた魔石内臓の冷蔵庫も用意し、アイテムボックスは使用しない。


 こいつは昔の日本で使っていた氷式の冷蔵庫のイメージだな。

 うちの親が若い頃はそれを使っていたらしい。

 俺自身は、そういうタイプの物を実際に見た事がない。

 ネットで売っているのは見た事がある。


 たぶん、それは戦前から戦後の焼け跡日本が復興していく頃にかけての話だな。

 はっきりと何時の時期だったかを聞いた事はない。

 当時は氷屋が大繁盛していたようだ。


 魔石は魔力の補充が頻繁だと俺が面倒なので、交換用にカートリッジ風の魔石を用意しておいた。

 さすがに、特に重要な関係者ではない一般人に対してアイテムボックスを持たせるのはキツイ。


 同じ小麦粉から作るうどんをここで一緒にやっても良かったんだが、あれこれやっても半端になりそうなんでやめたのだ。

 ここは当座ラーメン専門でやってもらう予定だ。

 それが第一目標なんだからな。


 普通に料理を作っていた人達なので、俺が食べたいから他の物も作ってもらったりはしているのだが、基本的にはラーメンを開発してもらう場所なのだ。


 以前に小麦でパン生地なんかを作っていた工房が近所にあると聞いたので見にいった。

 職人さんはいらしたが、今は工房をやっておらず細々と別の仕事をしているという。

 うちで働いてくれないかと訊いてみたら、条件次第でOKと言われた。


 材料や設備などは当然こっち持ちで、一日銀貨一枚の報酬で取引は成立した。

 そこそこ年寄りの方なんで、ここアドロスではそんなものだろうか。


 これだって月給三十万円相当なのだから悪くない条件だろう。

 うどんを作るだけなんだし。

 もちろん副業禁止の規定なんかないので、他の仕事も今まで通りやっていてくれていいのだ。


 最近、魔法PCに翻訳機能があるのを発見した。

 文書でも翻訳出来るのだ。


 それは心を鞭で打つような衝撃だった。

 これを最初に発見しておけば最初の頃に字が読めなくて、あんなに苦労しなくてもよかったのに。

 御蔭で辺境の街にすら入れなかったのだ。

 まあ結果オーライではあったのだが。


 早速、うどんのレシピをネットからダウンロードして、こっちの言葉に翻訳して紙に転写した。

 もう絶対にプリンターが欲しい。

 超便利機能付きのアイテムボックスが無かったら、こんな事も出来やしない。


 スープはとりあえず、いつも使っている安物の粉末うどんスープで妥協した。

 ああ、近所のうどん屋で食べられたイベリコ豚スープのつけうどんが旨かったなあ。

 そういうのを作れるのか爺さんに聞いてみたら、昔は料理屋をやっていたのでやれるという。


 よかった。

 俺が持っていた大阪風のスープの素の味が薄くて非常に不満だったのだ。

 あれはスーパーの特売で安売りしていたから買っていただけなのだ。


 とにかく一回スープを作ってみる事にした。

 なんやかやで、一時間あまり捏ねたり色々やって生地を作って寝かせてみた。


 ここから肉スープの製造だ。

 塩・醤油・味醂とかを使って、色々な物を作ってみた。

 ネット上のレシピがあるので非常に助かる。


 肉はうどんを販売する事も考えて、安い豚肉でいってみたが十分いけそうだ。

 結構匂いが広がるなあ。

 いやあ、こいつは堪りません。


 そういや厨房に換気扇も無いんだよな。

 日本でも昔はどうしていたんだろう。

 まあ匂いは垂れ流す形だったんだろうなあ。


 その時の事だった。

 ふっ、と視界の隅で何かが動いた。


「ミミ」が見える。

 その、なんていうか、耳じゃなくてミミっていう感じの可愛い奴が。


 そーっと可愛い頭がチラっと扉口から覗く。

 ミミはなんとなく狐っぽい感じか。

 か、可愛い!


 俺の瞳がミミをロックオンしていたので、自然とミミの持ち主と目が合った。

 するとミミがさっと引っ込んだ。

 狐っ子は男の子だな。


 そのまま知らん顔をしていると、「ぐーーっ」と可愛らしく御腹が鳴ったので、そっと怖がらせないように声をかけてみた。


「よお、御腹が空いているのかい?」


 すると、そっと再び現れた小さな頭が無言でコクンと前に一回倒れ、可愛いミミが揺れた。


「そうか、じゃあ食っていけよ。

 まあ試作品だから味は保障しないぞ」


「ホントに?」

「ああ」


 その子はちょっともじもじしながら、こう訊いてきた。


「他の子も連れてきていい?」


「ああ、構わないよ。

 量はいくらでもある。

 これから作るから、ちょっと時間がかかるかもしれないが」


 すると狐っ子は速攻でダッシュしていった。

 うーん、揺れる尻尾の後姿が可愛過ぎ。

 もちろん、撮影ポッドで記録中だ。

 その後ろ姿を一緒に見ながら、御爺さんはポツリと言った。


「あの子たちゃあ、みんな親が死んで孤児なんでさあ。

 隣の国に比べたらまだ随分とマシだけど、やっぱり獣人の子は扱いがね。

 可哀想なもんだ。

 孤児院にも入れやしねえ」


「そうですか……」


 さってと、少ししんみりしてしまった気持ちを切り替えて、あらかじめ作っておいた麺棒で生地をガツンと伸ばしていく。


 御爺さんは実にいい手際だった。

 生まれて初めて作るだろう、うどんの生地を上手に粉ねていく。

 まあパンを作っていたそうだから、それも納得できる。


 俺は製作途中の各段階のものを、いつでもやり直せるようにコピーしておいた。

 それを御爺さんが包丁で、なるべく形よく切っていって、みるみるうちに手打ちうどんの試作品が出来ていく。


 これを俺がやると手付きが慎重過ぎて、物凄く時間がかかるのだ。

 しかも形がなんか歪になるし。

 俺って野菜を切る時もそうなんだよな。

 もう全部プロに御任せだな。


 スープも試作品を全ての段階でコピーしてあるので、どこからでも作り直せる体制だ。

 これで子供達が何人来ても大丈夫だな。


 またぴょこぴょこと、可愛いおミミさんが現れた。


「つれてきたー」


 子供は全部で五人か。

 床に断熱用のアルミ蒸着マットを敷いて、その上に更に毛布を敷いて、座布団代わりにクッションを並べてみた。

 そしてアルミテーブルの足をスキルによる加工で短くした奴をおいて、そこに料理を置く事にした。

 毛布にもふもふしている子もいて、なんとも可愛らしい。


 うどんを、ちゃんと食べられるだろうか。

 みんな小さい子ばっかりだ。

 御箸は使えんだろうしな。

 つけうどんは上手に食べるのは無理だろうし、熱いのもキツイだろうな。


 そう言う訳なので、温めの肉スープに入れた奴を食べさせた。

 ネギが入っているけど、獣人ちゃんは大丈夫なのか?


 種族としては、狐・猫・狼? そして熊。

 熊ちゃんは尻尾が丸くて可愛いな。

 みんな、三~六歳といったところか。


 そういや、うどんフォークなるものを作っておいたのだ。

 うどんを掬いやすいように、隙間が大きくなっているフォークだ。

 金属製のフォークのように熱くならず、それでいて温かみのある素材である木製だ。

 木のスプーンは汚れが落ちにくい気がするが、コピー品なので使い捨てにする。


 いずれ、この世界にも箸を普及させてやるつもりさ。

 アメリカ人だって、みんな箸くらい上手に使う。

 日本食料理店でフォークなんか使っている間抜けなアメリカ人は一人だっていやしない。

 日本人としては屈辱な事に、奴らは俺よりも器用で箸の使い方が俺よりも上手い。


 おチビさん達の間を順ぐりに回って食べ方を教えてやる。


「おいちー」「うまいね」「さいこー」

 みんな夢中でうどんを食べている。


 確かに悪くない味だった。

 さすがは元料理人が作ったものだな。


 お腹がくちくなって轟沈した子供達は、しっかりとカメラに撮影させてもらった。

 そして、その場でネットに投下する。


 おっさん、生まれて初めてのネットでのスレ立て。

 正直言って、非常に大変だった。

 凄く時間がかかってしまったのだ。



「異世界でケモミミの子供達が轟沈している件について」


1:名無しのうどん

 50過ぎたおっさんです。

 生まれて始めてのスレ立てにめっちゃ苦労した。


 今異世界にいるんだが、ケモミミの子供達がうどんで釣れた。

 ただいま、御腹一杯で轟沈中。

 後はどうしたもんだろうか。

 みんな孤児らしいんだが。


(転がっている写真)


2:名無しのうどん

 おっさん釣り乙


3:名無しのうどん

 フォトショおつ


4:名無しのうどん

 詐欺爺、IDはよ


5:名無しのうどん

 こうか?


(転がってる写真+ID) 


6:名無しのうどん

 ちょっと動かしてみて


7:名無しのうどん

 こうか?


(そっと、あんよを動かしてみた写真)


8:名無しのうどん

 尻尾の付け根の写真はよ


9:名無しのうどん

 うどん破壊力抜群

 箸使えるの?


10:名無しのうどん

 うどんフォーク開発


(うどんフォークの写真)


11:名無しのうどん

 そこの猫耳幼女の顔アップで見せて


12.名無しのうどん

 こうか?

(猫耳幼女の顔アップ写真)


13:名無しのうどん

 なんか本物くさいんだけど


14:グランバースト名誉侯爵

 1です。いやいや本物なわけないでしょ

 画像は豊富に用意してあるから!


 でもなかなかだろ?

 せっかくだから異世界の風景をお見せしよう


 (ドラゴンの死体の写真)


15:名無しのうどん

 風景って! 何それ

 >14 名前ww


16:グランバースト名誉侯爵

 ドラゴンだ。

 食うと旨いらしい

 こいつでラーメンスープ作れないかと思って


17:名無しのうどん

 ドラゴンチャーシュー作れ!


18:名無しのうどん

 後の風景はないの?


19:グランバースト名誉侯爵

 そうだな。これガラスの園


(ガラスの園の写真)


20:名無しのうどん

 それ何?


21:グランバースト名誉侯爵

 元はただの荒野さ

 俺が勝手に魔法の演習場にしたんで、こんな有様に

 速攻で検知されて王様にバレて冒険者ギルドに苦情が入ってた


22:名無しのうどん

 冒険者ギルド~


23:グランバースト名誉侯爵

 今俺は世界で一人だけのSSランク

 この国はアルバトロス王国っていうんだけど、ここの名誉侯爵だ


 Sランクまでは王国に仕官して申請しないと貰えないし、本物の貴族待遇じゃないけど、俺のは義務が無いけど貴族扱いされる優れ物の身分


24:名無しのうどん

 爺、都合のいい設定だな


25:グランバースト名誉侯爵

 >24 義務は先払いしたから


 あとこれがダンジョンの写真だ


 (写真10枚)


26:グランバースト名誉侯爵

 街の写真


 (写真10枚)


27:名無しのうどん

 よく出来ているなあ、渾身の作だね。


28:グランバースト名誉侯爵

 おうよ!

 すべて想像力の賜物さ


 あ、子供達が起きてきた!

 じゃ、またな


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― 新着の感想 ―
[一言] 虹色のガラスってテクタイトの事かな? 隕石の落下で高温に晒されると出來る奴? 松本零士がSF作品で之を超硬化させてデスシャドウ やヤマトの装甲に使ってた奴かな? 古代核戦争の痕跡とかで出て来…
[良い点] 素晴らしい!まさか、この作品でも「電車男」のようなやり取りが読めるとは。 設定が良く似てる作品が完結してしまったので、これから益々楽しみです。
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