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7-7 お仲間

 アルスをケモミミ園に送ってエドに紹介してから、園内も軽く案内してやった。


「ここが俺の部屋だ。

 とりえず、君はここを使っていてくれ。

 俺はまた帝国へ戻るから」


「オーケー、ボス」


「あ、これを渡しておこう。

 こいつは通信の魔道具だ。

 使い方は……」


 そう、魔法携帯をまた作っておいたのだ。

 まだ個別の回線割り当てが出来ていないので、こいつも俺とアルスの専用回線だ。


 これはアントニオ用と二台持たないといけない。

 男との専用電話ばかり増えていくのが非常に虚しい。

 また今度改良しようっと。


 帝国の宿に帰ったら、マリウス伯からの伝言が届いていた。

 即座に転移魔法で大使館へ行く。

 もう面倒なので、転移魔法が使える事は大使にはゲロしてある。


 あれ?

 まだ国王陛下にも言ってなかったような気がするのだが、まあいいや。 

 いやスタンピード事件の時に、エルミアの子達を転移魔法を使って連れてきていいと許可をくれていたから陛下は知っているよな。

 何しろ物凄いとんぼ帰りで、短時間であちこちを行き来していたし。


「やあ、遅くに呼び出してすみません。

 御依頼の絵細工の出所ですが、魔道具職人の名前が判明しました。

 アオイと名乗る若い女性だそうです。

 貴方と同じ黒髪黒目の」

 

 やっぱり、そうだったか。

 俺は政府の特殊失踪者リストを覗いてみたら、ちゃんとその名前があった。

 萩原葵、高校二年生の時に神奈川県にて失踪か。


 若い女性なら、たぶんこれだな。

 他にリストにはアオイと読める名前がないし、たぶん間違いないだろう。


 ここは一つ正面から会いに行くか。

 彼女の居場所は訊いておく。

 明日会いに行ってみるとしよう。

 正確には、俺は純粋な黒髪黒目じゃあないがな。

 まあ会えば日本人だとわかるだろう。



 そして最初に帝国へやってきてから三日目の朝になった。

 朝御飯を食べてすぐに出かけた。


 今日からAランク試験の試合が始まるのだ。

 もう試合場は下見しておいたので、会場内はどこへでも転移出来る。

 インビジブルをかけておけば人目は憚らない。


 転移魔法とフライを乗り継いで、アオイという女性がいる現地へ行くと、そこには工房のような看板が立っていた。


 なかなか立派な建物だ。

 これなら相当に値が張る物件だと思うのだが、まだ若い人らしいのに大したもんだ。

 日本じゃ女子高生が豪邸を買ったりはしないよな。

 これって金額的には都心タワマン最上階の億ションに相当するくらい、いやそれ以上の物件じゃないか?

 もしかしたら賃貸かもしれない。


 入り口に警備の女性冒険者らしき人が立っている。

 工房の中へ入ろうとすると、あまり険の無いよう鞘を握った状態にて軽く剣帯から引き出された剣で牽制され、鋭く彼女に制止された。


 なかなか仕事が出来そうな冒険者だな。

 心映えが良いというか。

 思わず少し上がった唇の端が俺の内心を表す。


「勝手に入ってはいけない。

 強引に商品を作らせようとする、おかしな連中がしょっちゅう来るんでな」


「なるほど、了解した。

 では彼女に取り次いでくれ」


「駄目だ。

 商業ギルドマスターを通して約束を取ってくれ。

 怪しい人間は会う事も出来ないだろうがな」


「じゃあ、こうしよう。

 タカヒロが君に会いに来たと、彼女に伝えてくれ。

 それで駄目なら引こう。

 だが、彼女はきっと俺に会いたがるだろう」


 それを聞いて彼女も怪訝そうな顔をする。

 俺があまりに敵意がないというか、その正反対の雰囲気だからな。

 何しろ俺は、単に彼女を『御迎えにあがった』だけなのだから。


「どこのタカヒロだ」


「アイチケンのタカヒロ君さ。

 カナガワケンのアオイちゃんに会いに来たんだ。

 いいか、名前はしっかりと『君付けちゃん付け』にしてくれよ」


 ははは、稀人相手に「これを言ったらお終いよ」みたいな内容だよな。

 そして彼女は訝しみながらも取り次いでくれ、そしてすぐに戻って来た。


「彼女が早く会いたいと言っている。

 しかし、君は何者なのだ」


 俺は笑って、黙って自分の髪を引っ張ってみせたので、それで彼女もなんとなく察したようだった。

 案内された先には日本人の若い女の子がいて、そわそわしながら待ってくれていた。


「あ、あの、本当に日本の方なんですか?」


 久し振りに耳にする生の日本語だった。

 眼鏡でやや丸顔をした若い御姉ちゃんが泣きそうな顔で聞いてくる。

 髪はいかにも女子高生といった感じの肩までのセミショートで、なかなか可愛い方かな?


 政府の特殊失踪者リストに写真が載っていた顔だ。

 生憎と、俺の場合は顔写真が手に入らなかったらしく写真は載っていない。

 世捨て人状態の一人暮らしだったから無理もない。

 ノーイメージっていう奴だな。

 そもそも自分の写真なんて殆ど持っていないし、SNSなんかもやっていなかった。

 真理さんに連絡するためだけに、わざわざSNSのアカウントを作ったくらいだからな。


「ああ、生粋の名古屋人だ。

 多分君と同じくらいにこっちへ来た。

 俺は去年の十一月十八日だ」


「わ、私も同じ日です。

 萩原葵といいます。

 去年まで高校二年生でした」


「俺は井上隆裕だ。

 去年まで引き篭もりをしていたおっさんだよ。

 ああ、日本語か。

 いや懐かしいなあ」


「ええと、おっさんには見えませんが?」


「ははは、無理もないな。

 まあこれも異世界的な事情でなあ。

 こう見えても今は五十三、いや……やだ、おっさん五月の誕生日がもう過ぎたわ。

 もう五十四やねん」


 それを聞いた葵ちゃんは目を丸くしていた。

 まあ若作りにも、ほどってもんがあるわなあ。

 ひょろっとした二十二歳くらいの肉体で、その上結構童顔だし。


「今は冒険者をしているんだ。

 SSランクで、御隣にあるアルバトロス王国の名誉侯爵もしている。

 まあ肩書きは幼稚園の園長なんだが」


「幼稚園?」


 彼女が首を傾げていたので、俺はタブレットを出して写真を見せてやった。

 ブログも見せてやる。

 タイトルは「ケモミミ達の挽歌ー園長先生奮戦記」だ。


「わあ、可愛い~。

 って、これもしかしてネット?

 この世界にインターネットが通じているんですか?」


「ああ、これは俺のスキルさ。

 ステータスがPC画面になっていて、普通に接続タブで日本のインターネットに接続できる。

 俺自身がルーターみたいなものだから、手持ちのノートPCとかタブレット・スマホなんかでもネットが見れるよ」


「なんですか、それは~。

 本当にチートですね~」


「それだけじゃねえぞ。

 キャンプに行った先だったんでな。

 着いたばっかりでこっちへ来ちまったから、色々と日本の食い物や物品を持っていて、しかもそれをMP消費でコピー出来るし。

 ほれ」


 俺はショートケーキを出してやった。

 御姉ちゃんは、もう何を言わずにそいつを夢中でかきこんでいる。

 そして目をうるうるさせて皿を出し、御代わりを要求していた。


 エリーン二世の誕生か?

 いや、あいつとはまったく理由が違うわな。

 もう一個ケーキを出してやり、カップのコーヒーも出してやった。


「落ち着いたかい。

 ところで、君って帝国と通じているのか?」


「はて、通じているとは?」

「お前さんの技術や知識を帝国に提供しているのか、という意味だ」


「よくわかんないですが、現状そうなってはいないかと」と可愛らしく小首を傾げていた。


 はあ、暢気なもんだ。

 こっちゃあ、ほぼ殺し合いのムードなんだがなあ。


「まあ、確かにそうなんだろうな。

 そうなら今頃、お前さんはきっと牢屋の中かどこかに監禁されている。

 きっと厳しい拷問が待っているぜ」


 ブフーっと、葵ちゃんがコーヒーを吹いた。

 俺はこの国の実態と、アルバトロス王国との軋轢の話をしてやった。

 それを聞いて彼女は震え上がった。


「うわあ、知りませんでしたー。

 てっきり普通の国なんだとばかり。

 確かにいろいろと厳しい出来事はあったのですが、それもここが異世界なんだからだと思っていたのですが」


「まあこの国って中身はアレなんだが、見かけだけは何故か結構普通っぽい感じの不思議な国だからな」


「ど、どうしましょう。

 捕まって拷問は嫌ですう」


 この国の事情を理解した葵ちゃんはもう半泣きだ。


「ええい、しょうがねえな。

 まさか、こんな話だったとは。

 お前さんの作った絵細工を見て、兵器に転用できそうな技術だと思ったからな。

 てっきり、その技術から作った兵器が隣国侵攻の原動力になったのかと思っていたんで様子を見にきたんだが」


「えー。

 あれ、そんなにヤバかったですか」


「まあな。

 じゃあ、とりあえず一緒に来い。

 君はまだ未成年の女の子なんだ。

 うちで保護する事にするから。

 まあ、俺が日本政府の現地代理人みたいなもんだと思ってくれ。

 少なくとも、年齢的には稀人長老なのは間違いないだろうしなあ。


 商業ギルドとかへ挨拶をしていかんとマズイか?

 へたに挨拶しに行くと、この国から出られなくなるかもしれんのだが」


「どういう事ですか?」


「君の技術を、この帝国や他のヤバイ連中が欲しがっているっていう事さ。

 商業ギルドに、そいつらと通じている奴もいそうだ。

 そういう話を何か聞いていなかったか?」


「それはあるかもしれません。

 親切な商業ギルドのギルドマスターからは、いろいろ言われてます。

 今まで狙われた事も何度もあって、結構ヤバイ事はかなりありまして。

 それで冒険者さんの御世話になっているのですから。

 い、今すぐトンズラしたいです」


 彼女はキッパリと言いきった。

 今までも、思うところはあったのだろう。


「それがいい」


「そういや、商業ギルドマスターからも稀人はマズイ事が多いと聞いていました。

 それどころか、この国自体が思いっきりヤバかったんですね~。

 道理で変な連中が大勢来ていたわけです」

 

「ここの家賃とかはどうなっているんだい?」


「あ、これ持ち家なんです。

 ジェレミーさんにあげていけば問題ないです」


「ジェレミーさんって誰だ?」


「外にいる冒険者さんです。

 彼女には随分と御世話になったもので。

 彼女の恋人共々、私の命の恩人なんです」


「そうか、じゃあそうしたらいい。

 自分で収納のスキルか魔道具、あるいはアイテムボックスは持っているか?」


「そんな良い物なんて持っていないですよ~」


「じゃあ荷物とかは全部収納していけ。

 これはアイテムボックスの腕輪だ。

 あげるよ」


「マジっすか!」


 彼女は両手で腕輪を捧げ持って「ほお~」とか観察したりして、その後で使い方を習得した。

 今の腕輪はセキュリティを強化したので、本人の意思でも脱着出来るようにしてある。

 そして万が一失くしても、念じれば所有者として登録された本人のところへ転移魔法でホーミングしてくる。


 さすが若い日本人の子だけあって、すぐに使い方を習得してくれた。

 そして荷物を次々と収納していった。

 彼女の持つ技術の痕跡も残さぬように全ての荷物を回収させた。

 支度が出来たので外の冒険者に挨拶をさせる。


「あのっ。

 ジェレミーさん!

 本当に長い事ありがとうございました。

 急な事で申し訳ないのですが、緊急でここを引き払う事になりました。

 私の同郷の方が迎えに来てくださいまして」


「それはまた急な話ね。

 でもまあ、訳有りのあなたの事だから仕方がないです。

 それにしても御迎えが来てくれてよかったわ。

 ずっと一緒だったのに寂しくなりますね。

 では元気でね、アオイ」


「ありがとう。

 あの、よかったらこの家を使ってください。

 今までよくしてくれた御礼です」


「そんな、いいんですか?」


 彼女は目を見開いた。

 そう、この立派な工房はそれだけの値段はするのだ。

 日本なら時価数億円はしそうなほど立派な工房付きの住宅だ。


「ええ、売っている暇が無いので。

 どうせ、ほとんど商業ギルドからの貰い物みたいな家ですし。

 中は片付けて、魔法で清掃をしてあります。

 家具はそのまま置いていきますので使ってください」


「わかりました。

 では、ありがたくいただいておきます」


「あなたの恋人にもよろしく。

 彼にも大変御世話になったのに、挨拶もせずにこのまま行くのが大変に心苦しいですが。

 あと商業ギルドのマスターにも。

 彼には本当に御世話になりました。

 あんなに良くしてくれたのに、こんな別れ方で心残りです」


「ええ、彼らには私から言っておくから大丈夫よ。

 あの人達は、あれこれとよくわかっているだろうから心配ないわ」


「またいつか、きっと遊びに来ます。

 皆に御元気でと御伝えください」


「二人で楽しみにしているわ。

 あなたこそ元気でね」


 また会いにか。

 そう出来る日がくればいいのだが。

 そいつに関してはもう帝国の出方次第なのだ。


 それにしても、この子が周りの人達から愛されていて良かった事だ。

 こんな国でよくもまあ。

 しかし彼らと再び会える日が来るかどうかは、今の情勢ではどうにもな。

 先の見通しはまったく立たない。


 俺は店先で見送ってくれていたジェレミーに感謝を込めて声をかけた。

 迷子の日本人の女の子のために尽力してくれていて本当にありがとう。


「その、君。

 急に失業させてすまんな。

 ああ、これを当座の生活費に当ててくれ」


 俺は金貨一枚を彼女に手渡した。

 彼女はおそらくCランク相当の冒険者だ。

 これまでの経験から、纏う雰囲気で大体ランクの判別はつく。

 警備の仕事なら、これが一ヶ月分の相場だろう。


「これは御丁寧にどうも。

 御気遣い、大変ありがとうございます。

 では遠慮なくいただいておきます。

 アオイをよろしく御願いしますね。

 彼女は私の妹のようなものなのです」 


 ジェレミーはそのように丁重に礼を言って受け取ってくれた。

 

「ああ、任せろ。

 こう見えて俺は現在世界で只一人のSSランク冒険者なんだぜ」


 それには彼女も目を丸くしていた。

 まあ、今のところ世界中で俺一人だけの称号だからな。


 それから俺達は、しばし二人が名残りを惜しむ間をおいてから、ジェレミーに笑顔で手を振って見送られながら、帝都ベルンのアルバトロス大使館へと転移した。


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