7-6 またまた懐かしい再会
「アルス?
君がどうしてここにいるんだい」
「ああ、お前はまだ知らなかったな。
現役のSランクは今世界で三人しかいないと言っただろう。
こいつが残りの一人だ」
そいつはビックリ。
そういや、ちょっと知り合っただけの人を鑑定とかしないもんな。
それに、彼はあの時……王都の前でずっと並んでいた。
並ぶ必要はまったくないSランク冒険者であるにも関わらず。
「はは、改めてよろしく。
貴族とかじゃないんで、僕に姓はない。
気ままな暮らしが好きなんで、あちこちでぶらぶらしているよ。
今は久しぶりに、この王都アルバへ帰ってきたところさ」
「いいな、そういうのって。
俺はここに根城を作っちまったからな」
「今は身寄りのない子供達の世話をする園長先生なんだってね。
いかにも君らしいよ。
それにしても転移魔法とは羨ましいな。
転移魔法は世界でも五人とは持っていないらしいし」
なんだと⁉
「待て。
ギルマス、その話は本当か?
転移魔法の使い手が世界で五人といないだと。
だって、この間は帝国から使い捨てにされていたじゃないか」
「それだけ、あれが重要な事件だったっていう事だ。
いくら貴重な人材でも口を割るくらいなら始末されるさ。
あれは自害じゃなくて帝国に口を塞がれただけだ」
何だってー。
そんな話、俺は聞いてねえよ。
「ギルマス。
彼アルスは信用出来る人間かい?」
「ああ。
少なくとも、お前よりはな。
俺もこいつとの付き合いは長いんだ」
「ひ、ひでえな。
いや、マジでエドよりも信用していいか?
俺の今までで一番ヤバイこの案件で」
「その中身が非常に気になるが、まあこいつなら大丈夫だ」
「そうか。
なら丁度いいや」
そして俺は改めて彼に向き直ると勧誘を始めた。
「なあアルス。
うちでちょっと仕事しないかい?」
「へえ、何の仕事?」
「幼稚園の警備」
「幼稚園?」
「ああ、俺が園長をしている、まだ小さな子供達が勉強するところさ。
孤児院も兼ねている」
「ゴメンよ~。
あまり小さい子の相手は苦手でねー。
一人二人ならともかく、何十人もいるとなるとね。
パス」
しかし、俺はアイテムボックスから転移の腕輪を取り出して彼の目の前で見せつけた。
「こいつをやろう。
世界で五人の内に入らないか?
これは転移魔法を使えるようになる魔道具だ」
それを聞いて、ギルマスがまた頭を抱えている。
「それは本当かい?
そんなものがあるなんていう話は聞いた事がないが」
「ここアルバの王宮の宝物庫の一番奥に、初代国王の遺品がある。
その中にあった転移の腕輪を解析して、俺なりに再現して作った物なんだ」
「……」
「お、疑っているな?
じゃあ、ちょっと待っていてくれ」
テストのために、ちょっと転移してから戻ってくる。
「お待たせー」
「え? ちょっとちょっと、なんなの?」
テストのために連れて来た真理が目を瞬かせる。
あ、いけね。
おチビ猫も一緒についてきちまった。
俺は、ひょいっとおチビさんを抱っこする。
きょときょとしていて凄く可愛い。
小さなお耳がピコピコしているし。
「おーっす!」
はい、おチビさんが元気に御挨拶出来ましたね。
もう毎日男の子達に混じって元気に走り回っているからなあ。
ちなみに、うちは女の子達も元気がいい。
「いきなり連れてこないでよ。
びっくりするじゃないの。
昔は武にもよくやられたもんだけど……」
真理はちょっと懐かしそうだ。
なんとなく嬉しそうなのは気のせいだろうか。
「アルス、こいつを解析してみろよ」
「もうっ。こいつなんて言わないでっ」
ぞんざいな扱いを受けて、真理が少し頬を膨らませている。
「どれどれ。
えっ?
なんだ、こりゃあ」
真理を解析して驚くアルス。
「この娘は初代国王が魔法錬金術で魔力から作り上げた魔導ホムンクルスさ。
この生き証人によると、初代国王は稀人らしく自重をしない人物だったんだと。
転移の腕輪くらい平気で作っていたんだ」
「園長先生がおまゆう」
真理から容赦なく突込みが入った。
最近は、こいつも遠慮がない。
俺と初代国王は色々と被っているらしいし。
もう、おチビが生欠伸を始めていて眠そうだ。
真理が優しく俺からチビを抱き取っていく。
「もういいんでしょう?
あたしもう帰るわよー」
真理は、腕輪の転移でさっさと帰っていった。
「とまあ、あれが転移の腕輪の性能だ。
あ、俺のは自前の転移魔法ね」
「どこから突っ込んだらいいのかわからないが、とりあえず転移魔法の魔道具は魅力的だなあ」
ちょっと思案顔のアルス。
よし、もう一押しかな。
「謝礼は前金で白金貨五枚の後金でもう五枚。
これでどうだ!」
「乗った!」
よーっし。
幼稚園の護衛に、世界でも超貴重なSランク冒険者をゲットー!
なんたって残り枠たった一人の超人冒険者なんだ。
いくら金をかけたってスカウト出来るのならしておきたい。
信用に関してはギルマスが太鼓判を押して保証してくれる人材なんだから文句なしだ。
今回はそれくらいしてもいいほどの大ピンチなのだから、金に糸目は付けられない。
俺は、さっそく白金貨五枚(一枚一億円相当)を、まるで十円玉か何かのように無造作にアルスの手の平に落とし込んだ。
いくら超希少なSランク冒険者とはいえ、警備の仕事で十億円相当の報酬は破格だろう。
それでも、こっちの財布は超余裕なのだ。
これで、こっちはSSランク一人・Sランク一人・Sランク予定者一人。
おそらく向こうは帝国が箔を付けるために強引にランクを上げたのではないかと思われる、紛い物のエセSランクが二人プラス雑魚か。
あの帝国なら、それくらいのイカサマは平気でやりかねん。
他の国にSランクが一人もいないのに、あの国にだけ二人もいるのが無茶苦茶に怪し過ぎる。
さあアルス、ケモミミ園の平和は君に任せた。
そしてアイテムボックス機能付きの転移の腕輪をアルスの腕に調整する。
更にベスマギルの魔法剣を出して、わざわざ抜いて見せる。
「あと、これを君に貸与しよう」
「待て! それは一体なんだ?
そんな物、俺はまだ見たことがないぞ」
ギルマスから鋭いチェックが入る。
やっぱりバレたか。
というか、わざとバラしてみせたのだが。
「こいつはベスマギル。
オリハルコンを材料に作り上げた魔法金属の最終形態だ。
この国の初代国王も、自然発生はしないし人工的に作る事も無理だろうと言い残したという代物だ。
真理と御茶を飲んでいたら話題になったんで、試しに作ってみたら出来てしまったという代物なのさ」
「相変わらず自重をせん奴だ。
駄目だ、そいつだけは絶対に仕舞っておけ。
アルスもこの事は他言無用だぞ」
「ああ、そんな厄介な物に関わったら命が幾つあっても足りないな」
アルスが憮然として言い放った。
「安心しろ。
こんな話には、すぐ慣れる。
アントニオはもう慣れた」
「アントニオって誰だい?」
アルスが首を傾げる。
「有名な、あの王国の剣オルストン家の三男坊だ。
今ベルンシュタイン帝国へAランク試験を受けに行っているが、帝国が彼を殺したがっている。
そして奴らはその後でこの国に攻めてくる予定なので俺を幼稚園に足止めしたいらしい。
うちの幼稚園の襲撃を計画しているようだ」
「そこで、護衛である僕の出番というわけだな」
「そういう事さ。
どうせならSランクたる君に最高の武器を持たせたかったんだが仕方が無い。
このオリハルコン剣で我慢してくれ。
こいつは貸与ではなくプレゼントしてやろう。
その代わり、仕事の方は気張ってくれ」
「へえ、いいのかい?
こんな凄い代物を。
まあとんでなく貴重で滅多に見かける事さえないこのオリハルコン剣をくれるというなら、遠慮なく貰っておこう。
へえ、こうやって手にしてみるとやっぱりオリハルコンは凄いな」
アルスは楽しそうにオリハルコンの剣をスラリっと抜いて、軽く振りながらその山吹色の残像が撓る姿に見惚れていた。
さすがはSランク冒険者だな。
少しパッパッと振った程度なのに、その剣の振り方が凄く様になっている。
重量バランスなんかもあるので、交換や調整の必要も考えていたのだが、その必要はまったく無さそうだ。
竹刀なんかでも、剣道の強い人がパシっという感じに振ると実にいい音がするのだ。
俺が振っても全然いい音はしないんだけど。
というか、碌に音すらしないわ。
ギルマスは苦い顔をしていたが、ここは黙認してくれる方向のようだ。
亀の甲より年の功、アーモンよりも遥かに爺である俺の計算勝ちだ!
そのために、先に絶対アウトなベスマギルの剣の方を見せたのだからな。
かくして我がケモミミ園は、やる気に満ちた、強力なオリハルコン剣で武装した転移魔法を使えるSランク戦士を無事にスカウトしたのであった。




