7-5 対策会議
夕食後、大使であるマリウス伯爵とアントニオの二人と話をした。
「いや、全く頭が痛いですな。
あのニールセン侯爵め。
パルミア家の御嬢様を弱みに付け込んで修道院から引っ張り出し、挙句は貴族の娘を売女のように使い捨てようとは。
確かに貴族の娘ならば躾もよくされており上品で器量も良いですから、そういう仕事に向いていなくもないのでしょうがね。
パルミア家の御嬢様方も器量良しで知られております。
あの元将軍も、相も変らぬ悪辣ぶりですな。
それにBランク冒険者に盗賊ギルド、果てはアサシンギルドですか」
俺の話の後でボヤいて溜息を吐くマリウス伯。
「俺を薬漬けにして言う事を聞かせ、帝国が攻めてきた時に呼応させようだと?」
アントニオも手に爪が食い込まんとするほどに拳を握り締めた。
「大使、アサシンギルドが何かやってくるとしたら、どんな手段で?」
「そうですね。
まずは毒が考えられますね。
即効性の強力な毒でやられたら、まず助からないでしょう」
「グレーターポイズンヒールでも駄目かな?」
「そのような上級回復魔法をお持ちなので?」
「持っているけど、それだと心許ないかな」
「敵の出方がわからぬ以上、なんとも言えませんなあ」
じゃあ、久しぶりに工作というか魔法製作の時間にするか。
俺はまず、割り当ててくれた大使館の部屋で回復魔法のランクアップを図る事にした。
それも魔力量が異常な稀人たる俺ならではのやり方でだ。
圧倒的なまでの魔力をぶち込めて、そのランクの魔法に収まらないほど上級の魔法を作る方法なのだ。
超過給圧のターボエンジン・トリプルチャージャー・ハイパワーモーター使用のブーストシステム・電磁加速カタパルト・ロケットエンジンを搭載した車輪付きの地上用マッハカー・宇宙船打ち上げ用のブースターロケットなどなどの、ありとあらゆる強引なまでのブーストをイメージする。
おっとニトロを忘れちゃいけねえな。
大昔アメリカが使っていた武骨な資材打ち上げ用大型ロケットのサターンVを、豪華七連装の束にしたスーパードラゴン大花火『サターンV7』なんていうのはどうだい?
そいつの発射の際には、最強の大型打ち上げプラットフォームに、炎が大地を舐めまくる神の劫火が噴き上げるだろう。
もしも、そんな物で燃料に猛毒のヒドラジンを使っていて、発射の際に失敗して地上でコケたなんて言ったら、世界の終わりが来たかと思うような大惨事になる。
そこまで壮大なイメージを喚起する。
そこまでの強烈なブーストイメージを魂の底から吹き上げてみた。
MPの数字だけなら俺は、真理が言うように確実に魔王と呼ばれるのが相応しい人間なのだ。
そうやって創り上げた極限魔法は、単にランクが上というより、もはや完全に別物の超魔法だ。
もちろん内容をきちんとイメージしながら作るのでないと駄目だが。
アルバ大神殿でジェシカから習った幾多の上級魔法を次々とランクアップしてみた。
「ゴッドヒール 体に受けたいかなるダメージも瞬時に修復する」
その代わり、通常では考えられないほどの莫大なMPを必要とする。
効果を優先し、それを保障する代わりに対価として果てしなくMPを消費していく。
要は物凄く燃費の悪いエンジンを積んだ、猛烈なパワーを持つ車みたいなものだ。
ある日本車メーカーのスポーツクーペはサーキットなんかを走ると、市販車のくせにリッター2キロくらいしか走らなくて、みるみるうちに燃料メーターが減っていったというが、その対価としてとびきり性能は凄かったという。
まあそんなイメージか。
その代わり、その車はノーマルのままだとブレーキ性能が覚束なくて「ブレーキの壊れたスポーツカー」状態だったらしいが。
まあ、それくらい弾けた魔法で丁度いいかな。
「ゴッドポイズンヒール 体に受けた、いかなる毒によるダメージも瞬時に回復する」
これもMP消費は毒の威力次第だ。
しかも基本的に使っただけで凄まじいMPを消費しまくる。
なんてまあ、えげつない魔法なんだ。
作った俺自身が思わず引くわ。
これ普通の人間は絶対に使えん禁断魔法だな。
魔力が枯渇して即座にぶっ倒れるわ。
へたをすると、そのまま死亡する。
まさに禁術っていう奴だな。
「ゴッドエリアヒール 指定の範囲内の人間の、体に受けたいかなるダメージも瞬時に修復する」
こいつも指定範囲や人数次第で、とんでもないMPを消費する魔法だ。
「ゴッドキュアー 体のいかなる病気も瞬時に治癒する」
これも病気の病状次第で消費MPが跳ね上がる。
そしてゴッドクリヤブラッドやゴッドリジェネなども作成した。
とりあえずゴッド系魔法を六つ作成した。
最早ここまでくると、奇跡の御業を行う聖者の領域だな。
日本なら新興宗教の教祖を務められそうだ。
それらの魔法をアントニオのアイテムボックスの腕輪に付与し、それらの治癒魔法が治療ポッドのように自動で発動するように付与した。
攻撃を検知して起動させるセンサー魔法を使用し、腕輪にはアントニオ用にベスマギル・バッテリーを空間魔法を用いて山盛り組み込んでおいた。
それ無くしてゴッド系魔法の行使は不可能だからな。
そして、その腕輪の魔力残量は俺の魔法PCで確認できるようにした。
ゴッド系魔法内蔵腕輪は自分用にも作り、一応魔法の空撃ちで試してみたが中々いい感じではある。
この出来ならばギルマスも欲しがるかな?
あ、エミリオ殿下にもあげとくか。
陛下も欲しがるかなあ。
そしてアントニオを呼んで、彼の魔力でないと腕輪を使用出来ない認証の付与をしておいた。
これは前に魔法銃で使った技術なので簡単に出来る。
さすがにベスマギルとかを使用しているので、他の人間の手には渡したくない。
アントニオに「体が訛るだろう、冒険者ギルドで鍛錬する?」と訊いたら、帝国内で敵に手の内はあまり見せたくないと言われた。
なんと俺の演習場である、あのガラスの園へ転移して好きなだけやっているらしい。
訓練を手伝おうかと言ったら、「お前の魔道鎧はもう別の物になってしまっている。命が惜しいので遠慮する。御家再興までは死にたくない」だとさ。
俺の魔道鎧はなんというかバージョンアップ版か、スーパー魔道鎧のようになってしまったようだ。
奴自身もベスマギルの魔力バッテリーのおかげで、以前とは違った戦い方も出来るような感じらしい。
魔道鎧本家の成長が楽しみだな。
成長分って、もしかしたらバージョンアップ分として見取り可能かもしれないしね。
暇な俺はネトゲしたりアニメを見てたりしいてもいいんだが、どうせならニールセン侯爵を冷やかしにいくことにした。
「瞬神」とまで呼ばれた男に興味がある。
むしろ皇帝だの皇子などよりも、よっぽど注目株だ。
楽しみにしているぜ。
野郎の阿漕な悪役ぶりを、超隠蔽機能付きのインビジブル劇場で楽しませてもらう事にしよう。
というわけで、さっそくニールセン公爵邸に転移してみた。
館の主であるおじさんは執務室だ。
仕事ぶりは後ろから観察させていただいた。
そして彼は、かなりヤバイ文書を書いていた。
そう、俺もこの世界の字をそれなりに読めるようになっていたのだ。
彼が認めていたのは、今回の作戦についての第二皇子への手紙で、そこに書かれていたのは王国への襲撃についてだった。
その中に、なんと「ケモミミ園襲撃」の項目が入っていた。
俺は思わず転移してしまった。
とんでもない殺気を漏らしてしまいそうだったので。
くそ、頭を冷やそう。
不法侵入の現場を押さえられるわけにはいかない。
隠蔽した撮影ポッドを一台空中へ置いてあるので、引き続き手紙の内容は全て記録されている。
最近はカメラに、俺の能力である魔法PCとのリンク機能を付け加えたのだ。
一度ポッドを出したところへは、座標を元にして自由に回収射出できるようになっている。
ポッドの大幅な小型化にも成功した。
以前の撮影機は大柄な戦闘ポッドと筐体を共用していたが、撮影専用ボディを与えることによってコンパクトサイズへの相当なダウンサイジングを可能にした。
ほぼ手の平サイズだ。
うん、いいな。
手の平サイズはさ。
あまり大きいサイズはって、いやいや一体何の話だ。
俺のポッドは、今やほぼステルス・ドローンと化していた。
取り急ぎ、大使にもその内容を伝え、本国に情報を送り密偵による調査をと依頼した。
アントニオにも報せ、ちょっとアドロスへ戻るからと言いおいた。
そして一時帰宅中のケモミミ園にて。
「わーい、えんちょうせんせい。
もうかえったのー、オミヤゲー!」
俺の帰りを待っていたチビ達が一斉にまとわりついてくる。
ちょっとミミとかをもふもふして和みながら、帝国土産の御菓子を配り、警備の連中を探した。
そして転移魔法でエドを連れ出してガラスの園へと向かった。
「なんですって!
とうとう帝国がケモミミ園を狙っているというのですか?」
「それで、今まで以上に気を付けてほしい。
出来たらBランクとかの人間を警備に雇いたいところだが、今回は敵方にも冒険者がいる。
試験参加者の一割にも当たる二十人のBランクがアントニオを狙う刺客だ。
そういうような話は聞いていたのだが、こいつは厄介だな。
へたに応援として冒険者を雇うと、とんでもない毒蛇を園内へ引っ張りこむ事になりかねん。
そいつらがうちを襲撃する予定なんだろう。
ちょっとギルマスに相談してくる」
エドをケモミミ園に送ってから、王都のギルドへと向かった。
ギルドのギルマスの執務室へ直接転移する。
ここはいつ来ても部屋の中はシンプルなんだけど何故か殺風景という気はしない。
部屋の主であるアーモンが大雑把な性格のせいか、適度に雑多な感じがして好感が持てる。
それに関しては几帳面な性格のサブマスのレッグさんはボヤいてるみたいだが。
あそこは仮にも大国の首都にある冒険者ギルドなんだからな。
しかも栄光ある冒険者ギルド発祥の地なのだから。
転移魔法で現れるとギルマスは苦い顔をした。
「おい!
やたらと転移魔法を使うなと、あれほど言ったろう」
見れば先客が一人いた。
おっと、やべえ!
だがよく見ると、なんと彼は俺が知っている顔だった。
「よお! アルフォンスじゃないか。
久しぶり」
それは王都へ初めて来た時に知り合った、あのアルスであった。




