7-4 帝国の街へ
というわけで、今日は朝から御土産探しに励んでいた。
俺の頼れるバディは大使館の女の子だ。
御名前はミルティちゃん。
バディだけあって、彼女もなかなかのナイスバディなのだ。
結構可愛いし。
という訳で、おっさんはデレデレしながら可愛い女の子と御買い物の最中だ。
こういう本国から来た御客さんの御機嫌取りも大使の大切な仕事なのだ。
その辺は日本の外務省なんかと同じで、こういう事の積み重ねが出世に大きく関わってくる。
マリウス伯爵は実に如才ない人物だ。
まずは気になっていた絵細工とやらを見せてもらう事にした。
そいつを見たいと頼むと、ミルティちゃんはその専門店に案内してくれた。
そして、そいつを拝んでから俺は驚愕した。
こ、これは~~!
なんとそいつは魔道具のアニメだった!
ア、アナログアニメか。
これは意表を突かれたな。
恐るべし帝国。
今初めて帝国に脅威を感じた。
絵細工なんていうからあんた、ブロマイドみたいなものか絵を描いた玩具かと思っていたのに。
薄くて丈夫な紙にたくさん絵を描いて、高速でフィルムのように巻き取っていく仕組みのようだ。
昔の8ミリ映写機かいな。
どういう仕組みになっているものか、後ろから光を当てる魔道具がついており、正面のガラス? のようなものに映像を映し出していく構造だ。
スクリーンに大きく投影という考えは無いようだ。
……この世界の人が独自にこんな仕組みを作っていたのだと?
そのような事が果たして有り得るのだろうか?
もし稀人がこの国に技術協力していたとしたら、帝国に魔導戦車くらいあっても不思議はない。
そのパーツに転用可能な「モーター」があるんだからな。
近代兵器の代わりに「魔砲」を搭載すればいい。
一般兵士が高速な機動力のある魔砲戦士に早変わりだ。
帝国に豊富にあるというダンジョンにて魔物から入手した魔石を動力源に使って、と。
うーん。
思わず俺の足は止まってしまった。
もし、そんな機動力と攻撃力を備えた大量生産品の新兵器が敵方にあるんだったら、アルバトロス王国なんぞ簡単に蹂躙されてしまう。
国王陛下に進言すれば、こちらもそういう兵器を作ろうとする話になるだろう。
魔導技術が売りであるこの国ならば、そのような最新技術を必要とする代物も短期間で開発出来てしまうかもしれない。
そういう物は、なるべくこの世界にはあってほしくないなあ。
間違いなく街を埋め尽くす死人の山が築かれるだろう。
そして、あちこちの街自体も瓦礫に変わる。
ただでさえ命が安い世界だというのに。
「この道具は、いつからこの国に出回っているんだい?」
そうミルティちゃんに聞いてみた。
「確か、五か月くらい前からだそうですが」
彼女も不思議そうに聞いてきた。
五か月ねえ……それは俺が来てから、そう経っていない頃だな。
もしかして御仲間の仕業なのか?
「とりあえず色々欲しいね。
ソフトも欲しいんだ」
「ソフト?」
「あ、いやその、おそらく違う絵巻も見られるようになっている機械なんだろう?」
「ええ、そうですわ。
よく御存じですね」
まあ、子供への御土産にいいのはわかった。
帰ったら真理の意見も聞いてみるか。
この国にも稀人がいる可能性があるのか大使に聞いてみよう。
とりあえず、御土産探しは続行した。
あと王国には無いような絵本があった。
それらには不思議な事に政治色は全く無いようだった。
さっきのアニメ魔道具のソフトにも。
そういう発想が無いのかな。
実に意外だ。
昔のソ連のSF小説なんて、ぷんぷんと共産主義臭が薫りに薫りまくって、まるで燻製のように香ばしかったもんだが。
政治にまったく関心のなかった小学生の俺には、そのイデオロギー的な背景がとんと理解出来ず、その奇妙な表現に対して首を捻っていたものだ。
あんなイカレた物を小学校の図書館なんかに置きやがって、阿呆共が。
これだからビチグソ左翼日教組腐れ教師は困るんだよ。
街では時折、首輪を付けた亜人を見かける。
皆獣人だ。
亜人奴隷っていう奴か。
「この国の亜人って獣人さんだけなのかい?」
「ええ、殆どがそうですが、たまにエルフさんもいますね」
ガタっ。エルフだと?
この世界には、そのような怪しい方々がいらっしゃるのか。
それは是非とも拝見したい。
早速エルフさんの見学を御強請りしてみたのだが、ミルティちゃんは困った顔をして、なんだか真っ赤になってしまって、しどろもどろだ。
「そのお……エルフさんとか……は、その大変容姿が美しい方が多い……ので」
あー、そっちの方面の需要でしたか。
「いや、無理を言って悪かったよ。
次は御菓子がいいな」
まあ可愛い子の赤面する姿も見られたし、いいかな。
それから何件も菓子屋を回り、御土産はなかなかのラインアップとなった。
これでいつ退場しても、園長先生の面目は保てる!
帝国遠征は大成功に終った。
ああ、まだ全然終ってねーや。
アントニオのAランク試験が済むまではな。
当分はケモミミ園には帰れそうもない。
まあチビの寝顔は夕べも見にいったけどね。
転移魔法万歳だ。
国境さえ正規に越えておけば、後は中抜けなんかやりたい放題だ。
アントニオも転移の腕輪を持っているんだから、いざとなったら逃げればいい。
その後に逆襲すればいいんだし。
後ろからこっそりと忍び寄ってなー。
そいつには俺も付き合うぜ。
なんたって俺達はバディなんだからな。
後は洋服屋を回りまくって子供服を買いまくりだ。
やっぱり違う国だと、また趣の違う奴があるなあ。
御昼御飯を食べてから大使館へと向かった。
いや、帝国は飯も美味いなー。
意外過ぎる帝国の素顔。
地球のソ連あたりとは全然違う佇まいだ。
昔のイーストブロックの住人達の生活は悲惨以外の何物でもない。
大元のソ連自体が、金儲けが超ド下手な国だったからな。
あの国から逃げ出す奴らが引きも切らなかったのも無理はないぜ。
末期のソ連に纏わる有名な小話で、こんな話があったように思う。
確かブレジネフ書記長を揶揄した話だったかな。
彼が奥さんに向かってこう言った。
「このままいくと国民が皆逃げ出して、最後はお前と二人になってしまうな。
すると奥さんはこう答えた。
「いいえ、最後はあなた御一人ですわ」
ソ連崩壊後も、かつての衛星国どもが次々と西側へ寝返っていったのは貧乏暮らしをしたくなかったからだ。
旧ワルシャワ条約機構の国々が次々とNATOへ寝返ったなんて当たり前過ぎる。
それがわからなくて、アメリカやNATOの工作でロシアの縄張りを奪い取ったなんて阿呆な事を言う大馬鹿者が引きも切らない。
そいつら只の馬鹿なんじゃねーの。
マジで知能指数ねえだろ。
その事に関してロシアは憤懣やるかたないといった感じらしいけど、あれこそ身から出た錆びってもんだわ。
『俺と一緒に死ぬまで極貧生活しろ』なんて言われて誰がついていくんだよ。
そんな事に同調してくれるのは北朝鮮くらいだわ。
なんたって金日成の遺訓なんて「スターリンの遺訓」そのものなんだからな。
中国だって、そんなもんに付き合う事無く「お前らって本当に共産主義?」と言われちまうくらい贅沢にやっているよ。
ここは見たところ、そんな事はないんだろうな。
ソ連みたいに勝手に空中分解してくれない分は、なお悪いっていう奴だけどな。
そして俺は大使のマリウス伯爵に聞いてみる。
「ねえ。
ぶっちゃけ、帝国にも稀人はいるの?」
伯爵は少し考える風で訊き返してきた。
「どうして、そのようにお考えに?」
「もし帝国に稀人がいたら、おそらくアルバトロス王国は敗北するだろうから。
元々、あっちの方が戦力はでかいんだろう?」
伯爵は難しい顔をして空を睨み、腕を組んだ。
「帝国は御存知のように皇族貴族などの選民思想が強く、平民は虐げられ亜人に至っては奴隷です。
もし帝国に稀人がいたとしたら、見つかれば密かに幽閉されて表には出てこないでしょう。
さすがに私どもにもわかりかねます」
「俺の事は国王陛下から聞いている?」
「はい。稀人様だと。
決して失礼があってはならないと」
「うむ。
俺の目から見ると、これは稀人の痕跡がある技術で作られたように見える」
そう言って買ってきた絵細工の機械を見せた。
「この技術は強力な兵器に転用できる」
「それは!」
思わず目を瞠り吃驚する大使。
何しろこいつは、只の土産物品である玩具なんだからな。
「こいつの出所を探れるかい?
もしかすると、それが今帝国が王国にちょっかいをかけてきている重要な根拠なのかもしれないし」
「わかりました。
すぐさま調べさせましょう」
伯爵はすぐに立ち上がり、きびきびと動いた。
さて、要件は一通り済んだ事だし、こっちはどうするかな。
とりあえずアントニオの宿へと戻った。
「そっちの按排はどうだい?」
「まあ相変わらずだな」
「そっか」
それでは、ちょっと御散歩させていただくとするか。
アントニオを付け回している連中に、気配を消して近寄ってマーカーを付けて回った。
そして残り八個は見事に使い切った。
パルミア家の女とニールセン侯爵には付けっぱなしにしてある。
そして連中のところには順繰りに御邪魔させていただく。
いや、ディスサーチ様々である。
見事にバレていない。
動きのあった一人目は、王都の本通の一つを抜けて裏通りにある場末の怪しげな酒場へ入っていった。
カウンターの中にいる酒場の親父風な上司に報告しているようだ。
そいつも酒場の親父にしては、あまりにも目付きが鋭すぎるが。
いいね、ホウレンソウは大事な事だ。
俺としては、ありがたく拝聴させていただく事にした。
「あの二人の動きはありません。
引き続き監視を行います」
この俺も、もう監視のターゲットとして勘定に入ってるんだな。
まあ当たり前か。
国境で口止めしたくらいじゃな。
わざわざ国境警備所を通り、正面から堂々と身分を明らかにして連中の敵として入り込んでいるんだし。
「二人には絶対に手を出すなよ。
動く必要がある時には指示する。
特にグランバーストには手を出すな。
奴は今回のターゲットではない上に、大義名分が出来たとばかりに大暴れして、全てが水泡に化す。
いやそれどころか、あいつは大喜びで外交問題にしやがるだろう。
あの御方の御立場が非常にマズイ事になる」
そいつは素晴らしい評価だ。
俺は口笛を吹きたくなる衝動を抑えるのに少し克己心を必要とした。
つまり俺に手を出させるようにしさえすれば、こちらの勝利条件を満たすという訳か。
大使公認という事で、俺が帝国で暴れちゃっても構わないらしいし。
ありがとう、上司君。
さて、どうやって因縁を付けようか。
もしかしたら、あの狸大使の出番なのかな?
この下っ端に付けていたマーカーを外して、上司である親父のほうに付け変える。
便利だけど使える数の少ない、このマーカーの数を増やす方法が何かないもんかな。
レーダーを見るとマーカー付きの、特に目を付けていた奴が動きだした。
MAPを利用して、そいつの近くまで転移魔法で移動して、後はフライで追跡だ。
あのヒュージスライムの尊い犠牲の御陰で、隠密系の魔法スキルが充実し過ぎて尾行は大楽勝だ。
俺はインビジブルで姿を隠し、鼻歌交じりに胡坐をかいたまま気楽に宙を飛んでいく。
そしてスラム街? と思しき、少し見窄しい小屋が並ぶ辺りへきた。
奴はその内の一軒に入っていく。
俺もこそこそと御邪魔するために、少し傾いたような丸木の柱むき出しの建物の中へ入っていく。
いや監視カメラの無い世界って最高だな。
あれもこの世界では俺しか持っていないという究極のアドバンテージなのだ。
サイレントなどの魔法の効果でドアとかを開け閉めしても音が出ないし。
先ほどの男が上役らしき男に話しかけている。
「オルストンの子倅は宿に引き篭っています。
どういたしますか」
「あの女は失敗したらしい。
所詮元々は深窓の御令嬢だ。
とにかく女を使って薬漬けにするという案は駄目になったな。
後は折りを見てオルストンの子倅を殺すしかあるまい。
なるべく試合中に死んでもらうのがベストだろう。
何、試験には盗賊ギルドに係わり合いのあるBランク連中が二十人も出場している。
試験は、この国で行われるのだから組合わせは自由に出来る」
「わかりました。
万が一手違いがあったとしたら、あっしらの出番と。
まあ出番が無くても金はもらえるんだから貴族様は気前がいい」
「おい、やたらな事は口に出すな。
誰が聞いてるかわからんのだからな」
もう聞いちゃったよ。
ついでにビデオにも記録しました。
貴族かあ、雇い主はニールセン侯爵辺りかな?
とりあえず、いくらかの情報は手に入った。
後は帰ってアントニオと相談だな。




