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6-5 精霊達のロンド

 とりあえず、ベスマギルはアイテムボックスの肥やしにしておく事にした。

 これについては、また余った魔力で定期的に生産しておこう。


 別にこんな物、作ろうと思って作ったわけじゃないしな。

 真理用の魔力バッテリーが出来たんで、それはそれで良しとする。


 一応は縦横十倍サイズ(千倍容量)の物も作ってみた。

 そいつを七本作ったら、MPがレベルアップ寸止め状態になってしまった。

 また真理に睨まれそうだし、レベルアップは止めておこう。


 肝心な事を忘れていた。

 真理さんからのメールを翻訳して陛下のところへ持っていかなくては。

 あれ? まだメールが届いてないや。

 メールを待っている間に出来ちゃったのか、伝説の魔法金属ベスマギル。


 ベスマギルを解析してみたが、やはりこの上の魔法金属はもうなかった。

 だからベストマギなのか。

 やっぱり、ベストマギメタルっていう事なのかね。

 そういや武が架空の命名をしたから、こういう英語風の名前として世界に存在するんだよな。


 ただ待っているのもなんだから、その間にケモミミ園を見て回る。

 ああ見えて、子供達の間にもブームというものがあるのだ。

 今流行っているのが「鉛筆回し」だ。

 みんな熱心にやっている。


 手先が不器用な俺は、子供の頃に流行っていたこいつが苦手でね。

 あっという間に鉛筆がどこかへすっ飛んでいく。


 鉛筆だと、そのうちに長さが変わってしまうので、ボールペンやシャーペンなども供給してみた。

 結構字が書けるようになった子もちらほらといる。


 おっさんの読み書きの勉強もそれなりに進んだのだ。

 とても日本語のような具合にはいかないが。


 ノートなんかの表紙も、画像を合成して色々なデザインのノートを作ってみた。


 ミシンも足踏みタイプの部品を部分的に作っていた。

 こいつは複雑な機構なので、さすがに一気には作れない。


「伝説の魔法金属ベスマギルは御茶を飲みながら作っちゃうのにね」と真理が笑う。

「だって、あれは作るの簡単じゃん!」と言い返してやると、呆れたような顔をするのだが。


 実際にあれの製造は難しくない。

 莫大な魔力が必要なので俺以外には作れないだろうが。

 それとセブンスセンスなどのサポートもある。

 あれは理屈抜きであれこれとわかっちゃう能力だから、未知の物品の製造にも威力を発揮してくれる。


 デニム、ジーンズ生地はよかったな。

 俺のジーンズからコピーしたり織り方を解析したりで簡単に出来た。

 あれだって、いろいろなタイプがあるのだから。


 厚手で大変丈夫な生地だから、簡単に破れないのがいい。

 伸縮性も多少はあるし、色も染められていていい感じの素材なのだ。


 元は確か労働者用の丈夫な服に使う物で、金鉱探しなんかの作業にも使っていたくらいの、これまた丈夫な帆布(キャンパス生地)と似たような物だからな。

 織り方や素材はちょっと違うけど、いわゆる『破れにくい丈夫な布』のカテゴリーに入る奴だ。


 子供は、のべつまくなしに転んだり滑ったりして、いつでも全開だ。

 いつのまにか、隅っこで膝を抱えて蹲っていた連中も今は元気に走り回っているし。


 色々な昔からある日本の遊びも教えた。

 そして、この世界には空き缶が存在した。

 俺が各種缶詰や缶飲料を持ち込んだので。


 だから当然のように缶蹴りもある。

 異世界のオリジナル・バリエーションだけどな。

 盗賊ギルドと警邏隊で、警泥ならぬ警賊とか。


 縄跳びも作ったし、リバーシに積み木崩しに、後はやっぱりボードゲームだな。

 ウーノとトランプは持ってきていた。


 特にウーノなんかはユースホステルでみんなと遊ぶために三十年前に買ったのだが、なかなか使う機会がなくて未だに封を切っていない超年代物の新古品なのだ。

 あれも当時は凄く流行っていたんだよなあ。

 もう遊び方も忘れちゃったけど。

 最後に上がる時に「ウーノ!」って叫ぶ事だけ覚えてるわ。 


 値札を見たら、今はもうとっくの昔に無くなってしまった駅前の玩具専門店の奴だった。

 懐かしい~。

 今はそこのビルも確か居酒屋かなんかになっていたはず。

 今なら百均ショップの玩具コーナーで買えるかもしれない。

 それとも、もうあれは廃れてしまったか。


 トランプは、ラスベガスのホテルの前で配っている客引き用のクーポンを使ってスロットを引くと景品で貰える奴だったと思う。

 それにはヌードトランプもあったような気がするが、幸いにして持ってきていた奴は普通の愉しそうな絵柄だった。


 あとネットで売っているような子供用のバスケットゴールやフットサル用のゴールポスト、そしてボールも作ってみた。


 そしてバトミントンセットに、後はやはり卓球だろう。

 もう遊びの道具ばかりが充実していく。

 ああいう物は子供も大人サイズの物で遊ぶしなあ。

 その他の物も、大人の職員向けの奴も作ってみたのだ。

 子供と一緒に遊んでやってほしいからね。


 こういう物は商業ギルドから販売してみてもいいかもな。

 有害なプラスチック製じゃない、こっちの素材で出来た奴も作ってみるか。


 見回りのつもりが、ついついおチビ達と遊んでしまった。

 みんな昼寝から起きてきて、夕食までの腹ごなしをしている。



 その後で真理さんからメールが届いたので、さっそく翻訳して王宮へ届けた。

 なんだかもう国王陛下が大感激していた。

 向こうは、ただの一般市民なんだけどな。


 そして王都へ来たついでに冒険者ギルドへも顔を出しておいた。


「お! アル。

 久しぶりじゃないか」


 そんな風にギルマスから言われてしまった。

 そういや、そうだった!

 これで現在世界最高位のSSランク冒険者とはなあ。


「子供の相手をしていると、あっという間に時間が経ってね」


「そういやアントニオの奴は、もうすぐ試験だぞ」

「なんの?」


 それを聞いたギルマスは大いに呆れた顔で言った。


「お前。そんなもの、Aランク試験に決まっているだろう……」

「あ」


 いや大勢の子供の相手ばっかりしているとさ、それ以外の事ってすぐ忘れちゃうのよ。

 アントニオの奴も遠慮して、特に声をかけなかったらしい。

 悪い事をしたな。

 俺の時は特訓を手伝ってもらったのに。


「あれ? 時期的に試験ってもう終っているんじゃないの?」


「それがだな。

 今回は御隣の帝国主催なのだが、大幅に遅延している」


「それ……もしかして、こないだの騒動の影響なのかい?」


「わからん。

 だが、このままやらんという事は無いはずだ。

 どこの国も戦力確保の機会みたいなもんだしな。

 帝国も、次から仲間外れにはされたくはないだろう」


「アントニオは?」


「今日は見ていないな。

 あいつも少し難しい顔をしていたよ」


「無理もないな。

 Sランクへの昇進と御家復興がかかっているのに、これはない」


「ところで、今日は何の用だ?」


「いや、上級の回復魔法の習得をずっと忘れていて。

 子供が大怪我でもしてきたら困るなと思って」


「ああ、そういう話もあったな。

 色々あったんで俺も忘れていた。

 役所へは連絡しておこう。

 この前に問い合わせだけはしてあるのだ。


 今から確認して書状を書いてやるから、それを持って明日王宮の担当部署で聞いてみろ。

 大神官もかなり忙しいはずだが、まあお前みたいな大金持ちが相手ならば多分大丈夫だろう。

 今は身分的にも問題はない」


「サンクス」


 異世界にも『じごかね(地獄の沙汰も金次第)』的なお話があるようだ。

 まあ俺としてはその方が話が早くて助かるがな。


 一通りの用件が終わったので、ケモミミ園に帰って晩御飯にする。

 ケモミミが一斉にわふわふと揺れて、夢中で御飯をかき込んでいる様は、いつ見ても壮観だ。


 御風呂に入って轟沈しなかった子は絵本タイムだ。

 そして一人また一人と撃沈され、御世話係の人達に布団へと連行されていく。

 歯磨きは御風呂で済まされているので安心だ。


 おっさんは、ここから小説書きの時間かな。

 タイトルは「ケモミミたちの挽歌」だ。


 これは、只の園長先生奮戦記だ。

 気まぐれに小説投稿サイトへ不定期に投稿している。

 挿絵は子供達(クレヨン画伯)が授業で描いた奴ね。



 翌日、俺は王宮へ向かい取り次いでもらったら、神殿の管轄を見ている文官のところへ案内された。


「これはアルフォンス名誉侯爵様。

 御初に御目にかかります。

 上級回復魔法を習得なさりたいとか」


「はい。

 宜しくお願いします」


 呼ばれ方が失笑物だ。

 名誉貴族のくせに名前しかないからな。

 姓も日本のものでよいのなら、ちゃんとあるのだが。


 アルフォンス・イノウエか。

 なんか南米あたりの日系人の名前みたいで締まらんなあ。

 ここの貴族の名前っぽく、間にフォンでも入れておくか。


 地球だとフォンってミドルネームじゃあなくって、フォン・ホルストとかフォン・ブラウンみたいなドイツ人なんかのファーストネームのはずなんだがな。

 でもあれも、何故か有名人でもファーストネームを省略した名で知られていたりするんだよな。

 それでフォンがファーストネームみたいになってる。


 俺が大好きだったフォン・ブラウン大先生の名前なんか、子供の頃にその手の本で読んでいるはずなのだが、もうファーストネームも思い出せない。


 あと北欧方面あたりだと、VONと他のミドルネームを組み合わせた長めの名前もよくあったような。


 そして王宮ゾーンから壁一つ離れた場所にあるアルバ大神殿の、大神官のところへ連れていかれる。

 ここは王都の中にあるちょっとした山の上にあるのだ。

 そして大神官は若い女の子だった。


 彼女はまだ十五歳だという。

 神託があって連れてこられたというのだが。


(神託って……この世界に実在の神様がいるのか? それとも嘘っぱちの神託か)


「初めまして、ジェシカと申します。

 上級回復魔法を習得したいと御伺いしておりますが」


「はい。

 宜しくお願いします」


 相手が可愛い女の子だと、何故か丁寧な言葉になるおっさん。


 うわあ、この子もめっちゃ美少女だ。

 透き通るような肌と整った顔立ち、そして長く伸ばした輝くような銀髪。

 この世界へ来て以来で一番の美少女かな。

 神秘的な雰囲気を纏っているので更に評価は高い。


 王女様達も可愛かったけど、これは更にその上をいくな。

 眼福、眼福。


 そして大神殿の奥へ連れて行かれて説明してくれる。


「本来なら回復魔法は治療ではなしに御見せするようなものではないのですが、たくさん御寄付をいただけるそうなんで特別に!

 宜しくお願いしますね~」


 いやあ、若い子は、はっきり言うな。

 こっちも釣られて笑顔になるわ。


 そして彼女は順繰りに回復魔法を見せてくれた。


 御目当ての、体の大きな欠損まで回復してくれるグレーターヒール。

 軍隊レベルで回復持続してくれる、グレーターリジェネ。

 どんな毒でも即時消滅させるグレーターポイズンヒール。

 病気回復に超治癒効果を発揮するグレーターキュア。

 血を綺麗にする最上級魔法グレータークリヤブラッド。


 更に、聖魔法で呪い解除の効果があるディスカーズ。

 聖魔法の浄化効果を持つホーリーとその範囲魔法のホーリープレイス。

 精霊と契約できるというコントラクトと、その解除のディスコントラクト。


 これは、なかなかいいものをゲットできた。

 特にヒール系が素晴らしい。

 今この時に使い道が有るとか無いとかは関係ない。

 決戦には常に備えておくものだ。


 そして彼女はにこにこと営業スマイルで待ってくれていた。

 俺は近寄って、その可愛らしい耳元に小声で囁いてみた。


「習得の代金は相場でいいのかな?

 こういうところでは御布施の意味もあるから、そのあたりの事情はどうなの?」


「そうですね。

 少しそういう意味合いでも頂けたら嬉しいです。

 まあ、御気持ちという事で」


 俺は頷いて白金貨二十枚を小さな革袋に入れて渡した。

 さっき相場は文官に訊いておいたのだ。

 普通の治療なら白金貨一枚といったところか。


 それが十個分並びに御布施と言う事で、その倍を渡しておいた。

 彼女は中を確認してから嬉しそうに言った。


「結構です。

 たくさんの御寄付、ありがとうございました」


 こっちこそ、こんな魔法があれば安心だ。

 日本円で二十億相応の出費は、今の俺の経済状況からすれば決して高くない。


 だが、一つ気になった事があったので聞いてみる。


「コントラクトは精霊と契約とあるけど、精霊なんていうものが本当にいるのかい?

 たとえば、それは俺となんかでも契約してくれるものなの」


「あ、それは。うーん。

 た、大変申し上げにくいのですが……ここにもたくさんいますよ。

 そして」


 彼女は、俺の後ろをキッと睨みつけると大きな声で言った。


「貴方達! いい加減にしなさーい」


 俺は慌ててレーダーで精霊なるものを検索してみた。

 あ、いるわ。

 しかも殆どが俺の周りに集まっているようだった。

 どうやら魔力をちゅうちゅうと吸われているらしい。


 き、気が付かなかったー。

 俺って魔力量が凄く多いからな。

 少々魔力を吸われていたって、言われるまでまったく気が付かない。


 それに、きっと自然放射しているような、体の外に出てしまっている魔力を吸われているのだろう。

 そいつは気が付かなかったはずだわ。


 特に今みたいに何かに集中していたり会話していたらなあ。

 目に見えないような小さなダニに食いつかれているようなものかな。


 だが何かこう、精霊がつまらん言い訳をして大神官から怒られているようだ。

 なんつうのかな。

 俺には雰囲気でそれがわかる。


「御客様に無断でなんていう事を!

 もう、いつもいつも~」


「あはっ、こいつら常習犯なのかよ」


 案外としょうもないな、精霊ども。

 名前から想起されるような、ありがたみの欠片もねえぞ。


「ご、御安心ください。

 この子達は神殿から出られませんので。

 ただ、よその精霊には御気を付けください」


 なんかコントみたいで、ついほっこりしてしまった。


 神殿を出ようとしたら、何かに手を引っ張られたような気がした。

 レーダーで見てみると精霊が俺を引き止めているようだ。

 こんな風に気前よく強大な魔力を振りまいてくれる人間もそうそういないのだろう。


 ふふ、しょうがないな。

 可愛い奴め。


 俺は両手を広げて目を閉じ、魔力制御の鍛錬をするかの如くに魔力を巡らせて、練り上げた魔力を手から優しく放出した。

 それを受けて精霊達が喜んで乱舞している様がレーダーで見て取れる。

 しばらくそうしていたのだが、頃合を見てジェシカを促した。


「もう行きましょうか」


 今度は引き止められなかったようだ。


「うちの子達がすみません。

 あの子達は神殿の仕事を手伝ってくれているので、あまり無碍な事も言えなくて」


「何、滅多に出来ない面白い経験でしたよ」


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