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6-4 真理の秘密

「な、なんと……知らぬとはいえ、とんだ御無礼を!」


 あれ、王様が真理に跪いちゃったよ!

 なぜ!? 


 臣下達が慌てる。

 そんな陛下を諌めようとする者、あるいは陛下に倣って跪く者。


 初代国王の妹、そんなに偉いんか?

 本物の真理さんが見たら目を白黒するぞ。

 もちろん、これらの偉い人達の痴態は全て撮影済みなのだが。

 映像ファイルを真理さんへ送ろうと思って。


「陛下! 違う違う。

 何を言ってるんですか?

 皆さんも!


 話は最後まで聞いて。

 この子は迷宮の番人だって紹介したでしょう。

 いいですか?


 初代国王船橋武さんは早くに御両親を無くし、苦労して十歳年下の妹さんを男手一つで育ててきました。

 だが、こんな事になってしまって。

 故郷に帰りたくて転移の腕輪まで作ったのに、とうとう帰れなかった。


 それでも一目妹に会いたくて。

 だから彼女を作ったのです。

 この子は名前も姿も、彼の妹である船橋真理から取っているのです」


 俺は一息にまくしたててから、息を継いで話を続けた。


「そしてこの異世界で人生の終わりを迎えるにあたり、初代国王はダンジョンの奥底に彼女の安住の地を作ったのです。

 彼の死後、真理が悪い連中に狙われないようにと。

 あそこなら番人のドラゴンもいますから。

 更に伝説の指輪とこの国の未来を彼女に託したのです。

 彼女は千年待っていたって言ったじゃないですか」


「そ、そうであったか。

 そういえばそうじゃったの。

 とっさの事で慌ててしまった。


 ふむ。

 これが初代国王の妹御の顔か。

 確かに初代国王の肖像画の面影があるのお。

 わが真祖、初代国王は千年の時を越えてなお、この国で尊敬を受け続けておる。

 その係累とあっては、下におけぬどころか儂の上に在る存在だ」


 そこまで?

 こりゃあまた一つ、真理さんをからかういいネタが出来たなあ。


「ちなみに」


 俺は高さ一・五メートルサイズのでかいタブレットを出してみせた。

 ちょっと画像が荒いのは仕方がないよな。

 限りなくLEDボードに近い。

 ラスベガスにあった巨大な奴は、実写映像でもそれなりに見れた。


「これがほぼ等身大の妹さんの写真です」と、本物の真理さんの写真を見せた。

 本物の真理さんの方が些か大人になっているのが、真理と比較するとこの写真からでも見てとれる。


「おお!」


 いろんな意味で驚いたらしい。


「そうか、これが。

 時に彼女と御話をする事は出来ぬのか?」


「すみません。

 ここには電波というものが来ていないので会話はちょっと無理です」


 スマホを取り出して見せ、少し説明した。


「これが携帯電話機といって遠く離れた相手と会話が出来る道具です。

 本来ならば、この世界の反対側にいても話が出来ます」


「なんと」


 国王陛下は目を見張り、異世界のアーティファクトを脳裏に焼き付けた。


「しかし、ここでは設備がないので使えません。

 これは初代国王も持っていましたよ。

 そういや、宝物庫の初代国王の遺品の中にはありませんでしたね。

 遺品として真理に預けていたようですから。

 私は色々と用意があったのでこれを動かせていますが、もし体一つで来てしまえば、ここでは一日も経たずにガラクタになります」


「そうであったか」


「ビデオメールという言伝の形でなら、言葉を日本へ御届け出来ますが。

 逆に日本からこちらへ彼女の御言葉を賜る事も可能かと」


「それはまことか!」


「本来なら、このスマホ一台でも出来ますが、圏外なのでこのまま送れません。

 それに、どの道映像は取り出さねばならないので、こっちのビデオカメラにしましょう。

 こちらの方が綺麗に撮れます」


 そう言ってから三脚を立てて、ビデオカメラをセットした。

 万一の撮影失敗に備えて、撮影ポッドも出しておく。

 こいつはインビジブルがかかっているので、人からは見えない。

 気配を感じて犬は吼えるみたいだけど。


 あ、悪い事には使っていませんよ~。


「陛下、宜しいですか?

 撮影はもう始めていますが」


「おお、このまま喋ればよいのかね?」

「そうです」


 それから陛下は約三分ほどお話になり、最後に深く頭を下げた。


 マイクロSDカードをカメラから抜き取り、アイテムボックスでタブレットにセットした。

 そしてタブレットを拡大コピーして外に出し映像を再生した。

 その国王陛下が喋っている姿を、全員が驚きの表情で見ていた。


「これが真理様に届くのだな?」


「はい。

 あ、翻訳しないと彼女には伝わらないですね!

 後で翻訳して、翻訳文を添えて送っておきます」


「うむ。

 宜しく頼んだぞ!」


 こうして視察は無事に? 終了した。


 それから例によって、子供達を連れての大試食会だ。

 あれから子供が四人ほど増えている。

 しかも全員ケモミミである。


 別に狙って集めているわけではない。

 この世界では獣人の子の方が割を食っている奴が多いというだけだ。

 何、隣の帝国を名乗る国なんかよりは遥かに扱いはマシなものさ。

 ここは船橋武、日本人が作った国だものな。


 またはしゃいでるチビをあやしつつ、俺も御店を回ってみた。

 やがて屋台を回りまくって御腹もぽっこりと膨れ、電池の切れたチビスケ共をかき集めてから、名簿で二重にチェックしてから転移魔法で帰った。


 まあここなら万が一忘れたとしても、俺が自分にファストをかけて走って取りにきたって大楽勝なのだが。

 子供が自力でも余裕で帰ってこれる場所だけどな。


 ここアドロスは元々、彼らにとっては勝手知ったるホームタウンなのだから。

 俺なんかよりも在住期間はよっぽど長いのだ。


 いくら迷宮都市だからって街中に魔物は出ない。

 もし出たとしても街中冒険者だらけだから、あっという間に狩られて魔物が御飯や報奨金に変換されるだけだ。


 世話係の人に後の事は一任して、陛下のビデオメールを翻訳し……例の国王跪き事件の動画も一緒に添付して(ププーーっ)、真理さんに送った。


 それから約一時間後、大慌ての真理嬢からメールが届いた。


「何をやっているんですかもう~。

 国王様があたしに? 跪いちゃっているじゃないですか。


 えーと、今からビデオメールを作って送ります。

 兄さんの事、千年経っても子孫があんなに想ってくれているなんて。

 あ、御墓への餡子の御供えありがとう~。

 うん、餡子の団子も大好きだったわよ~」


 あとはメール待ちなので、食堂で一服入れる事にした。


「御疲れ様。

 はいコーヒー」


 コーヒーの良い匂いをさせて、真理がやってきた。


「サンキュー。

 そういやさ、お前って一体何なの?

 見た目は完全に人間っぽいし、突いても柔らかい感じだし。

 アンドロイドかと思っていたけど、そうやって普通にコーヒーも飲めるし、別にオートマタみたいな機械じゃないよな?

 魔物でもないし。

 えーと、やはりゴーレムとかなのか?」


「ああ、私は魔法の錬金術で作られた人工生物よ」

「一種のホムンクルス?」


「ええ、そうなるのかしらね」

「それ、錬金術士の夢やで?」


「あなただって好きなだけ、金だのなんだの、剰えオリハルコンに至るまで作り放題じゃないの」


 笑って真理がそう言う。

 そうだった、錬金術ってその二つを作るのが二大目標なんだったな。

 俺と武の日本人勢で独占かよ。

 二人とも地球でその成果を発表する機会もなく、異世界に島流しの刑だけどな。

 一人は既に次元の彼方にて没したし。


「ところで、その体って消耗するのかい?

 魔力が動力なんだろ。

 戦闘力は?」


「この体は魔法から作られたのよ。

 純粋な魔法力で。

 オリハルコンなんかと同じよ。

 だから耐久性には自信があるわ」


「なんだって?」


「まさか、あなた知らないの?

 あんなに自分でオリハルコンを作りまくっているくせに。

 オリハルコンは純粋魔力の塊みたいなものよ。

 ミスリルは魔法聖銀。

 聖なる破邪の性質を持つ唯一の金属である銀が、とてつもない魔力を受けて長い間かかって変質した物なのよ」


 俺は、ひょいとミスリル剣をコピーして出してやる。


「だあかあらー、あなたは特別なの!

 普通の人には、そういう真似は無理だから。

 Sランク冒険者だろうが、王宮筆頭魔道士だろうがね。

 あなた、他の人の魔力量なんて見た事がないんでしょう」


「そうだな」


 そういや、一度もないような気がするな。


「とてつもない魔力を凝集させていくと、マギクリスタルという魔力結晶になるわ。

 それこそ迷宮の奥深くのような魔力の凝集する場所で、悠久の時を越えて生み出されるの。

 そのマギクリスタルが、更に0からまた魔力を蓄えて。

 オリハルコンはそうやって、更に時をかけて作り出されるわ。

 そう簡単に見つかるものじゃないの。

 とてもじゃないけど値段なんて付けられないわ」


 俺はまたひょいと、オリハルコン剣をコピーしてみる。


「だ・か・ら!」


「でもこれ、凄い魔力を食うんだけど。

 一本作るのに二千億MP以上かかるんだし。

 もっとでかいのを作る時なんか二百兆MP以上が必要なんだぜ?」


「もう!

 もしこの世に魔王なんていう者がいたとしても、そこまでの魔力は……あ、魔王目の前にいた」


「おい、ひでえな」


「そういえば、更にその上があるんだって」


 真理は思い出したかのように、唐突に話題を変えた。


「え?」


「だからオリハルコンの上位にあたる魔法金属があるのよ」

「ほお?」


 そいつはまた興味深い。

 魔王心をそそられる話題じゃないか。


「武が言っていたわ。

 理論上は存在する物なのだけど、それほどの魔力凝集が起こる事は天然・人工いずれにしても有り得ないって。

 オリハルコンを解析すればわかるって言っていたわ」


「へえ?」


 あれだな。

 理論上は作れる、いつかは存在させられるはずなのだが、まだ現実には存在していない元素番号の元素みたいな奴かな。

 あれってもう元素番号百七十番くらいまであったんじゃなかったけ。


 早速オリハルコンを解析してみた。


 あ、本当だ。

 これはなんていうか、砂糖を研ぐのに似ているかな?

 和三盆みたいに。

 魔法金属の場合は分蜜しないで凝集されちゃうけど。


 質量の問題はどうなっているんだろうか。

 魔力の塊だから関係ないのかな。

 例によって魔法により物理法則は無視っているのか?

 実際にどれだけ研げる?


 試しにマギクリスタルを作ってみる。

 長さ二メートルの結晶体にしてみた。

 これはまた綺麗なクリスタルだな。

 こいつも世には出せないな。


 これを千個ほどコピーして、それをオリハルコン化して合成してみる。

 すると同じ大きさのオリハルコンが出来た。

 例の大型魔法剣一本分だ。


 これで二百兆MPほど食った。

 これを研ぎ澄ませていくイメージで魔力をじっくりかけて……それが爆散した。


「ちょっと、あなた!

 今何をしたの?」


「いや、何って」


 久しぶりにMPがレベルアップしたのだ。

 二京MP以上の超魔力が見事に霧散した。


 ちなみに、これで世界に全く影響が無い。

 俺がレベルアップや時間回復で魔素を大量に吸収しても、世界を覆いつくす魔素の量に比べたら微々たるものなのだから。


 せいぜい、この界隈の魔素がほんの少し揺らぐ程度だ。

 真理は全身が元々魔力で作られているため、特別に敏感なだけだ。

 普通の人間なら全く気付かないだろう。


 そして、さっきのイメージでもう一度オリハルコンの凝集を行ってみた。

 するとオリハルコンが見事に『ベスマギル』となった。


 大きさも普通のオリハルコン剣一本分に縮小されている。

 五百七十六京MPの魔力が、五百五十六京MPに減っていた。

 二十京MPを消費したわけか。


 なるほど、作るのにオリハルコン剣を千本作れる量のMPを食っている。


 ミスリルは白銀色に、オリハルコンは山吹色のような輝く光を放っていたが、このベスマギルは少し青みがかかったような非常に透明感のある不思議な金属だった。


 こいつは金属というよりもクリスタルに近い代物なのかもしれない。

 だが、その強度や魔法耐性や魔法を通した時の威力がオリハルコンとは桁違いだ。

 たぶん強度などが千倍くらいの差か?

 MPを食った分は良い物になっているっていう事だな。


「……呆れた。

 そんな理論上にしか存在しない物質を本当に作っちゃうなんて。

 あたし、余計な事を言っちゃったのかしら……」


「俺、船橋武を越えたかな?」


「いいとこどっこいよ。

 あの人も大概だったわ」


「ぶはははは」

「笑い事なのかしらね……」


 この異世界にすら存在しなかった超魔法金属ベスマギル。

 語源はベストマギメタルっていうところかな。


 最凶の魔力持ちの稀人と、かつての稀人国王が作ったホムンクルスの茶飲み話から、あっさりと出来上がってしまった最強の魔法金属。


「よいしょっと、出来た」


「何が出来たのかしら。

 訊いてもいい?

 武もよくそんな事を言った後に、禄でもないものばかり見せてくれたわ」


 こいつ、もうとっくに御主人様呼ばわりを止めているな。

 まあ全然自重しなかった人らしいし、こいつからもかなり怒られまくっていたのだろう。


 つい、そんな心の声が漏れていたのだろうか。

 また癖の独り言が漏れていたようだ。


(おまゆう)


 真理の小さな呟きが聞こえた。

 そんな言葉も教わっているのか。


「何、いいものさ。

 お前さん用の魔力バッテリーだよ。

 今試したら、このベスマギルはさっきのサイズで二十京MPまで魔力を蓄える事が可能だ。

 とりあえず十個ほど作って魔力も満タンにしておいたから、全部君が持っておけよ」


「ありがとう。

 あなたにしてはナイスなアイデアね」


 何故だろう。

 いい事をしてあげたはずなのに、軽くディスられている気がする。


 自分用にも作って……あ、またMPがレベルアップした。

 MPが十四垓七千四百五十六京MPになった。


 それに気付いた真理が呆れた顔で睨んでいた。


この無茶苦茶な数字のMPには、ずっと後で意味があります。

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