5-6 事の顛末
結局、ダンジョンで捕まえた男は何も喋らない内に自害されてしまった。
超貴重な転移魔法持ちが捨て駒なのかよ!
王国の密偵達によれば、スタンピードに合わせ隣国の軍が出立寸前だったそうだが、スタンピードが失敗したので臨戦状態は一旦解除されたようだ。
例の石に関しては、残っていた物は全て回収され研究用に回された。
研究は石の効果を無効化するのが目的だ。
確かに、あんな真似を早々やられてはたまらん。
国王陛下は、隣国は侵攻を諦めたわけではないだろうと言う。
相手は勢力拡大に凄まじい意欲を持っているのだ。
なんせ帝国とか名乗っていやがるそうだからな。
あと、俺の功績を称えてSSランク資格が与えられた。
これは「国家の危機に並々ならぬ功績があったと、国王・宰相・冒険者ギルドのギルマスやサブマス・その他の国王の前で証言できる十名以上の関係者による問答無用の満場一致」が必要とされるが、あっさりと認められた。
今のところ、生きている人間では世界で俺一人だけの称号だ。
普通は亡くなったSランクの人に対して、長年の尽力を称え敬意を持って贈られる名誉称号なのだ。
そして名誉の殉職を遂げたような立派な人には、二階級特進でSSSランクが与えられる。
証言者はダンジョンの門番達(彼らは最後まで持ち場を離れずに命をかけて職務を全うしたので騎士爵扱いとなった)、アドロスのギルマスや職員達、それと冒険者達だ。
そしてアドロスの街の重鎮達に、真理やアントニオ、ライオルさんやベルグリット達だ。
ちっとばかり照れくさいが、みんなに感謝だな。
そのSSランクには名誉侯爵位が付属していた。
これも通常は、冒険者が王国に仕官しないと貰えない一代限りの貴族である名誉爵位なのだが、今回与えられるものは王国に対して一切の義務を持たない権利だけの爵位なのだ。
男性のバロンの男爵位に対する女性の名誉男爵位バロネスのような与え方で、地球にも一代限りの名誉爵位が存在するが、ああいう感じの物ではないだろうか。
むろん各種義務が付帯する王国の正式な貴族としてではなく、正式な貴族扱いを受けられる名誉爵位という意味合いであろう。
万が一、更に一つ上のSSSランクに上がると血族公爵扱いの特別な名誉公爵位が与えられる。
つまり名誉王族扱いだ。
絶大な功績のあった臣民公爵なんかも存在するのだが、SSSランクは名誉王族扱いとなる。
優れた血を王族に取り込みたいという狙いもあるのだ。
この場合は王族の女性との婚姻を望まれるそうだが。
その結婚を受けた場合は一代限りではない本物の公爵位の持ち主となる。
以後、俺は本物の王国高位貴族である侯爵と何ら変わらない扱いになる。
ここでは基本的に王族である公爵を除けば最高位の貴族位となるのだ。
まあ義務を先払いした人しか貰えない特別な地位なので何も問題はないらしい。
これに関しては煩型の貴族連中も絶対に文句を言わない。
「じゃあ、その時お前は何をしていた?」と言われるのが嫌だからだ。
王都から一族を挙げて急遽逃げ出していた連中もいたそうだし。
あれを初代国王船橋武が見たら泣くだろうな。
さすがに、そういう連中は思いっきり株を下げたらしいが。
俺は馬車やマントに紋章を入れる事が出来(普通は商会の紋章以外で平民がやったら重罪)、そして他国においても正式な貴族として扱われる。
もしかすると俺が暴れ過ぎないようにするための、首に付けられた鈴みたいな物なのか?
いざとなったら、そんなものに構ってはおれんのだが。
またエミリオ殿下にせがまれて、冒険の顛末を話して聞かせることになった。
色々な新作御菓子を振る舞いながら。
許可をもらって、エリも連れてきて目の前で作らせた。
また御菓子のバリエーションが増えている。
俺も自重せずに、エリには色々与えてあるのだ。
綿菓子製造機・ポップコーン製造機・たこ焼き屋台にたい焼き屋台・お好み焼きにラーメン焼きソバ・ソフトクリーム・みたらし団子・五平餅・ワラビ餅・安倍川餅・おでん・ジューススタンド・アイスクリームの冷凍ショーケース・ポテトチップにフライドポテト・クレープ・カルメラ焼きと、あらゆる食い物の製造設備が勢揃いだ。
インターネット様万歳だな。
小豆系がラインナップに無いのが悔やまれる。
せめて小豆の缶詰でも一つ持ってきていりゃあなあ。
途中で立ち寄ったコンビニには置いてあったのに!
もちろん、ケーキ・シュークリームにプリンも忘れない。
可愛いスタンド売り子用の制服と帽子も王都の店で作らせてやったし。
型紙は有料や無料で、ネットからダウンロード出来るのだ。
エプロンも超可愛い物を用意した。
必要ならネットを通して型紙の注文製作も受けてもらえるだろう。
エリは初めての王宮に大はしゃぎだ。
当然、王妃様と王女様達も来ていた。
エリは彼女達にすっかり気にいられて着せ替え人形にされていたし、御土産として色々な服などを貰っていた。
エリの家は狭いのだが、収納を付与された腕輪があるので物の置場には困らない。
あっちこっちへ連れ回されていて、あの子はどこの子? と不思議がられていたが。
綺麗な格好をしているので、まさかアドロスの貧民街の子だとは思われなかったようだ。
大人しめの顔付きなのだが、エリもなかなか器量良しだ。
御母さんがあれだけ美人なんだからな。
いい服を着せてやると結構映える。
ブロンドで青い目だし。
今回の御褒美に、エリ一家の王都在住権を貰っておいた。
リサさんは涙を溢して喜んでいたが、夫との思い出の深いアドロスを離れるつもりはないようだ。
エリはいつか王都へ「支店」を出すと張り切っている。
どうやら本店は動かさないつもりのようだ。
亡き父との思い出も深いアドロスの事を大切に思っているのだろう。
今回街を守れてよかったぜ。
まあ、その時は弟妹もいるしな。
あいつらも今はまだ食うだけの側だが、いずれは。
エルミアの孤児達も、いつでも転移魔法で王都へ連れてきてよいと国王陛下からの許可をもらったので、これも非常に楽しみだ。
ライオルさんやベルグリットは出世した。
ライオルさんはダンジョン管理局の総責任者である局長に昇進した。
そして、そのすぐ下の役職である次長としてベルグリットがついた。
それに関しては、国王陛下が直々に職場へやってきて任命したそうだ。
更に二人共、男爵と準男爵に叙爵された。
そう出来る枠は俺が開けておいたのだし。
ライオルさんは最初に調査を命じ、事を明らかにし、国家の危機を未然に防いだ事。
更にその後も深く関わり多大な功績があったと認められた。
もちろん大変有能であるので、今後にも期待してという話はもちろんある。
この人がいなかったら俺もこの件に関わる事もなく、アドロスも王都も豪い事になっていただろう。
あるいはその隙をついて隣国からの侵攻を受けて、この王国すらも蹂躙されていた可能性が強い。
俺も有能な彼には本当に感謝している。
ベルグリットにいたっては、陛下自ら肩にポンっと手を置き、こう耳元で囁かれたそうな。
「あやつの相手は大変であったろう。
御苦労であった」
これくらいしてやらないと割に合わないだろうという話のようだったが、当のベル君は真っ白になっていたらしい。
その場面を見てみたかったな。
現場で苦労したのは、あいつなんだし。
まあ、させたのは俺なんだが。
ところで陛下……あやつとは一体誰の事でありますかな。




