66-6 新しい家族たち
そして、お次は四十七階のボス、石化攻撃を持つAランク魔物である石化蜥蜴バジリスクだ。
さすがに状態異常を引き起こすこいつは危ないので、子供は土魔法で緊急製作した退避壕に仕舞っておいてから攻める。
そこにバリヤーやサイレントの魔法をかけておく。
最近あまり使っていない魔道鎧を引っ張り出してきて石化を防ぎながら、思いっきりサンダーレインを食らわせてやった。
こいつバジリスクには、ちょっと嫌な思い出が~。
さっさとそいつを収納すると、俺達は四十八階のフェンリルのゾーンへと向かった。
銀色の電光狼は、大変嫌そうに俺達を迎えた。
今日の迷宮魔物は妙に人間くさいな。
まあいい。
そして奴も構えていた。
電撃の跳躍行動に移る構えか。
ん? なんだろう、この感じ。
「俺の中のあいつ」、イコマの奴が笑っている。
正確には「笑い」を示すサインを出してきている。
左手の一指し指を引き攣らせるように、何度もピクピクさせて、最後に仰け反るように手首を支点に手ごと上にクイっと持っていく。
そして人差し指が天を指し示す。
これが、人間の言葉を交わさない、俺の中の者であるイコマと取り決めた「笑い」を示すサインだ。
他にも一応は『言葉を紡いで会話をする方法』はあるのだがな。
こういう時間がない時に、イコマの奴とそいつで語り合うのは無理。
正確には人差し指が天を指し示すのは『爆笑もの』を意味する。
指先が天を何度も突くのは、その最上級を表す。
普通の笑いは指をくっくっと上に動かすだけだ。
一体何年ぶりの真面な「会話」だろう。
体を壊してからは、こいつとこんな風に「会話」をする事もなくなった。
神経、そして肩の筋肉をやられてしまって「信号」が上手く伝えられなくなって、こいつと自分の肉体を通じた会話が成立しなくなったのだ。
この「肉体を通した交感」は、一体何年ぶりなものか。
こんなにはっきりと。
これは俺達独自の通信方法だ。
他にも方法はあるのだが、いずれにしても体を壊してからは完全に「回線切れ」状態となっていた。
こっちの世界に来てからは大立ち回りが多くて、体が再生されてからもあいつとの交流を思い出す事は少なかった。
だから体を壊してからの慣習で、「強い衝動」や「頭の中への白抜き文字メッセージ」に「自動誘導」などで、いつも御知らせをくれていた。
こいつがこんな風に笑っているという事は。
結果が間違いなく爆笑物のレベルになるという事だ。
次の瞬間には、引っくり返って御腹を見せて、舌をはあはあと出しているフェンリルが目の前にいた。
やっぱりかあ。
おい、うちはワンコならもう間に合っているからな?
だが子供達には、その大人の理屈は通用しなかった。
大喜びでむしゃぶりついていっている。
もふもふ度が半端ない光景だ。
当然迷わず俺も混ざる事にした。
よく見たら、斉藤ちゃん達は、とっくにもふりまくっていた。
乗用魔物が一人一匹持ちになったので、大層御機嫌な子供達を連れて四十九階へと進んだ。
一歩、足を踏み出す度に「もふっもふっ」と音がしそうな光景だ。
もちろん付き添いとして、沖田ちゃん達が帯同している。
俺は、すうっと大きく息を吐き、念じた。
(イコマ、奴はいるか?)
彼はサイレントに「イエス」を意味するサインを送ってきた。
そうか。
(上か?)
再びイエスと。
俺は、子供達を安全なところまで下がらせて、奴のいるボス部屋風のゾーンの中へ入っていくと右手の人差し指を天井に向けた。
初めて、ここのダンジョンへやってきた頃とは桁違いの威力を持った、超火炎放射が天井を地獄の業火で舐め尽した。
一応は魔法と言っても、これは物理火焔を生成する地球武器の威力の再現なので、この魔法を食ってしまう特殊な魔物に対しても使用可能なのだ。
そのあたりはドラゴンブレスと同様なのであった。
こいつは元々通常のスライム、天井の殺し屋の退治用に開発した魔法なのだが、もはやこの厄介極まる特殊スライムの相手をするのにも、ドラゴンブレスさえ使用しなくてよいほどの超威力に高められていた。
声にならぬ、とてつもない苦鳴をあげて、燃えながら奴が落下してきた。
俺はどうせならと、奴にたっぷりと魔力を注いで、貴重な素材である真っ赤に変化した核を抉り出した。
奴は煉獄で炎に焼かれながらも至上の魔力を飽食するという、「魔力喰い」たるヒュージスライムの終焉の場としては、ある意味で非常に悪くない最期を遂げた。
ヒュージスライムの核は、子供達が標本用に欲しがったのでくれてやった。
これって売ったら物凄い値段が付くのだろうな。
だが、敢えてそれを理科標本にしてしまう俺こそは、ケモミミ小学校の現役校長先生なのだった。
さてお次は、皆がお待ちかねのドラゴンだ!
だが、イコマの奴がまたもや爆笑しているじゃないか。
これはもしや……。
レーダーで確認したが、奴らはいた。
相変わらず、御一家でいらっしゃる。
そして俺達を待ち受けていたのは……ドラゴン一家の見事な土下座だった。
ええーっ。
今日はもう、どうなっているんだ。
そして上目遣いで俺を見上げる子供達。
仕方が無い。
こいつらが拾ってきたわけじゃないので「元のところに捨ててらっしゃい」は通用しないだろう。
この竜どもの躾けは「ロドス」に任せておくか。
俺はこの場で、特別な「従魔の首輪」を作ってドラゴンどもの首に巻いた。
ついでにワンコとニャンコ?? にも着けておいた。
それから、さすがにドラゴンを「はぐれ」させるには通路が狭いので、ゲートを開いて外へと連れ出した。
そして直接公爵家の離宮へと連れ帰ったのだ。
迷宮入り口でドラゴンを出すと大騒ぎになるからな。
入り口の門番には、ダンジョンから直接外へ出た旨は後で言伝しておこう。
今では俺がこの街の領主なのだから、放っておいてもそう困りはしないが。
こんな迷宮如きで俺が死ぬ筈がないから、門番もわかっているからな。
「ああ、また御領主様ったら転移魔法で出入りしてるな。もう本当に困るなあ」くらいのものだろう。
「ここ」なら何が起ころうと、人は不思議とは思わないというか単に諦める。
俺達は転移ゲートで帰還した。
たくさんの新ペットを引き連れて。
そして主を出迎えてくれた忠義者に、軽く労いの言葉を投げかけておいた。
「ただいま、ロドス」
「おかえりなさ」
いませ~!? という感じに、途中で言葉を飲み込んで目を見開いていた出迎えの家宰がいたが、彼は直に己を取り戻した。
さすがだ、それでこそ魔王に使える執事頭の鑑。
家宰だの執事だのは、やはり千年物に限るな。
「こいつらは今日から俺の家族になった。
世話というか、躾を頼む。
ドラゴンは右からドラ子、ゴン太、ゴン美だ。
他にキメラとフェンリルがいる」
「承りました。
それでは、みんな。
こちらへいらっしゃい」
屋敷裏の空きスペースへ赴いたロゴスは佇まいを整え、待機の姿勢で俺の行動を待った。
俺の雑過ぎるネーミングに、ちょっと不服そうな顔をしたドラゴン達を尻目に、俺は竜舎を作る事にしたのだ。
ちなみにドラ子が可愛いタイプで、ゴン美が美人タイプだ。
パッと見て、なんとなく判別がつく感じだ。
ゴン太の好みは、どっちなんだろうな。
俺ならドラ子だろうか、いやゴン美も捨てがたいかもしれない。
雌ドラゴンを見て、つい自分にとって好みのタイプかどうかを考えてしまう俺は、もはや完全に手遅れなほどのケモナーなのかもしれない。
ドラゴンはケモノじゃないがな。
生憎な事にうちのドラゴンは、新説ティラノザウルスのデザインのように羽毛ふさふさではなく爬虫類系の皮膚の持ち主で、それはもう鱗三昧の格好良さなのであった。
充分なスペースを確保した離宮の裏手口に、割とデザインが合いそうな感じの物を選び、建築してみた。
これは離宮に使用したパーツを使い回して建てることにしたのだ。
まずは基礎部分から作っていく。
住む奴が住む奴だけに、とにかく頑丈に作る。
新ペットどもは雁首揃えて見学している。
連中には、オヤツでもやっておいた。
よく考えたら、もうどでかいクラーケンを三匹も飼っているのだ。
今更少々の陸上大型魔物が増えたところで何の問題もなかった。
ドラゴンは、でかい奴が高さ五十メートルほどあるので、大小様々のゴーレム部隊を駆使して天井の高さ八十メートルサイズに作る。
魔王城の番竜小屋だ。
建築材は当然の事ながら初代国王謹製のアルバストーン製で、当然オリハルコン筋を使用だ。
これに用いた膨大な量の素材の代金だけでも、小さな王国が買えるほどの値打ちがあるのではないだろうか。
そいつにたっぷりと強化魔法をかけていく。
このアルバストーンは、各種現代魔法の発明者である船橋武が発明しただけあって強化魔法などの魔法と非常に相性がいい。
ドラゴンの奴が寝ぼけて恐竜映画並みに思いっきり体当たりしても、簡単に崩れたりはしないだろう。
その間に斉藤ちゃん達が、最初の躾が終了したドラゴンに芸を教え込んでいた。
今度、ドラゴンサーカスでもやってみようか。
火の輪潜りなんかをやらせてみてもいいかもしれないな。
炎の輪は自分達で作らせよう。
おっさんキャンプ 緊急でコミカライズ決定しました。
http://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/1794031/
いつも応援ありがとうございます。
たくさん応援をいただけて緊急重版いたしましたので、それがこの結果に繋がったのだと思います。
感謝です。
また宜しくお願いいたします。




