66-1 まずは大物から2
夏休みの課題といえば思い出す。
俺は溜めに溜め込んでラストぎりぎりから始めて、学校が始まってから猶予を貰って片付けていた。
おまけに内容的にコンプリートした事は、ただの一度もないという為体だった。
これって実は親父からの遺伝なんだよね~。
あの糞親父と来たら、大切な部下のボーナス査定をギリギリまで放っておいて、最後の日に徹夜で片付けていたのだ。
俺も親父似なので会社の提出物でやっていたよ。
俺の場合は逆に査定される側で、ボーナスがかかっていたのによお。
我ながら本当に困ったもんだ。
そんな超ズボラな俺が、今や異世界で学園長先生か。
王都の学園にも教え子がいるしな。
そっちの方は魔法だけだけど。
と言いつつ、ダンジョンなどでヤバイ催しなんかもやっているがな~。
小学校の教師達は、地球レベルの授業内容に追いつくために、脳天から煙を噴きながら必死になっている。
子供達にも夏休みの課題を与えてあるのだ。
あの御馴染みの冊子一冊になったドリルのような課題を。
あれ、何て言ったっけかな。
確か「夏休みの友」だったか?
「お前なんかと友達になった覚えはないわい」などという子供の言い訳は通用しないほど強面な、総合力に優れた好敵手なのであった。
まあ、うちの奴の中身はそうたいした事はないのだがな。
掲示板のメンバーに考えてもらった奴なので。
トーヤやエディは、張り切って一日で片付けてしまったようだ。
今は絵日記を熱心にやっている。
トーヤはクレパスで、エディは水彩画でやっている。
二人とも、なかなか絵心がある。
クレヨンよりクレパスの方がさらっとしている感じなので、トーヤの御気に入りなのだ。
百均のクレヨンとクレパスに色鉛筆と、スケッチブックと一緒にそういう文房具は色々と買ってきてあったのだ。
生憎な事に俺本人は使う前にこちらへ来てしまったのだが。
こっちに来てからは余裕がなくて、それどころじゃなかったがな。
アイテムボックスの能力で派生製品は各種製作しておいたのだが。
おチビ猫の得物は、ねっとりとした重厚な質感のクレヨンだ。
「壁画製作」が彼女の御好みなので、他所に連れていく時は非常に用心が必要なのだ。
一度、うっかりと余所見をしていたら、王宮の通路の壁にやられてしまった事がある。
しかもそういう時に限って、たまたまそういう保守をやる部署の偉い人が通りかかったところで。
彼は、おチビのドヤ顔を見て顔を引き攣らせていた。
俺はにっこりと笑って、その壁画にパーッとでかい布を覆い被せて「ワンツースリー」とカウントしてみせた。
布を取り外すと壁は見事に綺麗になっていた。
いやあ、あの時はさすがに冷や汗をかいたぜ。
レミちゃんったら『筆が速い』んだものなあ。
御役人さんが、ちょっとこっちを睨んでいた。
何、アイテムボックスでクレヨン画を回収して、布地の方に転写しただけだ。
うっかりとそのままの向きで写し取ったので、アイロンプリントみたいな感じで絵柄が反対向きになってしまっていたが。
あれは俺の宝物として大切にとっておいてある。
おチビの結婚式の時には、思い出スライドの一環として、あの若き日の御茶目を御披露してやろう。
その時に本人がどんなコメントをくれるのか、今から非常に楽しみにしているのだ。
カミラやアンソニーなどは、俺と一緒で宿題溜める派のようだ。
カミラなんかは、裁縫みたいに好きな事には目の色を変えるのだが、御勉強自体にはそう熱心ではない。
熊ちゃん達なんかは熱心にやっているのだが、まだ終わっていないようだった。
猫族の子は気ままにやっているようだ。
彼らは、いきなりスイッチが入って目の色を変えて取り組むかと思うと、次の瞬間には課題を放り出してごろごろしている。
まさに猫そのものだ。
その他に「自由研究」を申し付けてある。
それは裁縫製品の提出作品だったり、あるいは工作だったり絵だったり。
これはやりたい事をやらせて、各人の将来に向けての適性を見る資料にするのが目的なのだ。
昆虫採集とかは自由研究の定番だが、こいつらの場合「食料採集」に近い。
彼らの好みは、セミ・芋虫・デンデンムシなどなど。
子供達が変なウイルスを持っていないか、いつもヘルスチェック魔法でチェックに余念がない。
寄生虫の心配もある。
これがまた、結構子供達が検査で引っ掛かっているんだ。
実以って困ったものよ。
だが、中には食用以外の昆虫採集に対して果敢に挑む強者達もいたのだ。
そして、そいつらはやってきた。
もちろん、それは例によってトーヤとエディの御稲荷コンビだ。
しかも宿題を手伝ってくれという。
「ほお?
先生に宿題を手伝えとは不遜な連中だな」
これが他の奴らなら、そう言って一笑に付すのであるが、こいつらの場合は非常に要注意だ。
特にトーヤあたりが。
「それで、何をどうするんだって?」
すると、トーヤはにっこりと素敵な笑顔でそれを提出してくれた。
それは見事なカマキリの絵だった。
細部まで細かく描写されていて、なかなか素晴らしいものだった。
その足元に描かれた、人間らしきものとのサイズの対比さえなければ。
そうそう。
こいつは「大物好き」なんだった。
だから「絶対に自分達だけで魔物を採集に行ったりしないように」きつく言い渡しておいた。
獣人という生き物は狩りの本能が非常に強い。
恐らく、なんらかの動物因子を持っているのだ。
俺は、それが何か人工的な要因でそうなっているのではないかと考えている。
この世界には不可思議な事象や事柄も多い。
例えば、このロス大陸を中心とした小パンゲア。
自然に移動したにしては、妙に不自然な形や移動方向をしている。
まるで、このロスを中心に各小大陸がパージされたかのようだ。
なんというかこう、爆発したといったほうがいいような感じだ。
地球のパンゲア大陸だって、こんな妙な移動をしてはいない。
この世界の小パンゲア大陸群は、まるで中心が爆発して各大陸が千切れて弾き飛ばされたかのようだ。
とにもかくも獣人という者は、そのように狩りの本能に従い無茶をしたりする事があるようだ。
冒険者も体力が同程度だからといって獣人ばかりでパーティを組むと、全滅する確率が高いので人族との混合が推奨される。
だが賢い狐獣人は、ちゃんと魔王を頼ってくるので一安心だ。
もしも子供達だけで勝手に狩りに行かれて、そのまま帰ってこないなんていったら‼
俺も真理も確実に発狂するぜ。
仕方がないので、俺は子供達の狩りに付き合う事にした。
表に出ると、斉藤ちゃんが木に登りパシっとセミを手掴みにしていた。
下で待っているのは、おチビ猫だった。
いつも美味しいのを色々食べているのにな。
ジージーいっている奴を丸齧りするのがいいんだろうか。
幸いな事に、「おいちゃん、はいこれ」などとセミを差し出された事は一度も無い。
これだけは絶対他人に譲れないものらしい。
レミ、芋虫も譲ってくれなくていいのよ。
あ、ヤバイ。
斉藤ちゃんが次々とセミを捕獲している。
あいつめ、また余計な真似をしくさって!
これだから子煩悩なゴーレムは困る。
へたをすると、おチビの食べきれない分が俺に回ってきそうだ。
なんとなく、おチビがこっちを見ているような気がする。
「おい。トーヤ、エディ。
早く行こう。
オオカマキリがお待ちかねだぜ!」
俺は慌てて、二人を連れて車で逃げ出した。
エディは、こんな風に普通に乗用車でドライブに行くのは初めてなので大はしゃぎだ。
トーヤと二人でおやつを食べながら騒いでいる。
いいけど、お前ら二人だけで魔物狩りに行ったりすると、お前らの方がおやつになるからな?
「いねえなあ」
しばらく探してみたが、オオカマキリは近場にはいない。
MAP検索にも映っていない。
「いないねー」
「このオオカマキリは、いざ探すとなると本当にいない奴なんだ。
いなくていい時には、どこからともなく湧いてくるんだが」
まるであの大魔物クラーケンのように見つからない。
特に「中身」が代替の利かない希少素材として高く売れる物なのだが。
「じゃあ、他の虫を探したい。
いっぱい集めたいの」
「そうか。
じゃあ、どうするかなあ」




