4-2 指輪探索
異世界七十二日目。
「アントニオ!」
朝っぱらから冒険者ギルドで見つけた奴に声をかけた。
「なんだい?」
そこには振り向いて返事をする色男の偉丈夫がいた。
「お前、今暇か?」
「ああ、まあ暇って言えば暇だな。
それが何だ?」
「ちょっと一緒にアドロスのダンジョンまでいかねえ?」
「それはいいけど、まだドラゴンも復活していないだろうし。
一体何をしに行くんだ?」
あー、自分が欲しい獲物がいないと行かないわけだな。
俺と違って生粋の冒険者のくせに、Aランク魔物以下なんてアウトオブ眼中なのかよ。
「お前も大概な奴だな。
まあいいや。
いや、ちょっと頼まれ仕事でな。
あんまり変な奴は一緒に連れていけねーんだわ」
「へえ?」
「ここじゃなんだ、少し付き合えよ」
次の瞬間にスパっと一緒にガラスの園へと転移する。
「おい、嫌も応もないな」
「あっはっは。いやな、あんまり人に聞かれたくない話なんだ」
そして例の指輪の一件を話す。
「なるほどな。
そいつは面白そうだ。
それで、そいつを見つけたら俺をSランクに推してくれるって?」
「それはあくまでAランクになってからの話だが。
まあ、お前ならAランク試験もよっぽど問題はないだろうしな。
もうドラゴンスレイヤーなんだ。
それだけでもSランクへの推挙は通ると思うが、ここで駄目押しをしておけば堅い。
先に何があるかわからんしな。
これは第三王子サイドからの推挙という形で王家からの推薦になる。
元々、この案件は国王が第三王子に下した勅命なのだから、そう悪い話じゃないぜ」
「ふむ。
やってみてもいいぞ」
興味深げに、即座に了承するアントニオ。
「助かる。
一応保険をかけておきたいんでな。
万が一俺が戦闘不能になっても、お前ならドラゴン相手でもなんとかなる。
それに、お前の前でなら自重無しでやってしまってOKだしな」
「そいつは嫌な信頼のされ方だな」
「ギルマスも、俺一人で行かせるのは不安だろうから御目付けがいると安心するだろう」
また愚痴愚痴と小言を言われても嫌だ。
あの人って結構口煩いんだものな。
「ちゃんと自覚があるんだな。
安心したよ」
「まあ、色々とやらかしているしな。
よし、決まりだ」
それから、その足でギルマス・アーモンを訪ねて、一応断ってから行く事にした。
「またそんな話か。
まあ王家から直接の依頼なのだしな。
行くなとは言えんが……うーむ、不安だ」
「そのためのアントニオじゃないか」
俺は笑顔で脇にいるアントニオを右手の親指で指しながら言った。
「最初からそんな手配をしておくなんて、より狡っからくなったな」
「進歩したと言ってくれ」
資料を検討し、指輪の番人に関してのギルマスの意見も聞いておく。
「アントニオ、支度は出来ている。
いつ出発してもいいぜ。
あ、これを渡しておこう。
自作の無限収納の腕輪だ。
今回用の強力な武器や、水や食料にテント、ポーション類、それに魔力切れ対応の魔石なんかが入っている」
「ほお、いいもんを持っているな。
そいつは俺にも寄越せ」
ギルマスからも注文が入った。
毎度ありい?
「はいよ、これでいいか?
一応中身は空だけど」
「構わん。
こいつは便利そうだ」
二人が腕輪をちゃんと使えるか試してもらって、問題なさそうなので出かける事にする。
さすが、このクラスの人材はいきなりでも特殊な新装備を平然と使いこなす。
とりあえずの行き先はアドロスダンジョンの四十階だ。
資料によると、指輪は最深部のあたりに隠された。
それは最深部五十階とは限らない。
指輪は独特の波動を出しているといわれ、魔力感知に優れた者ならば波動をキャッチできるとも言われている。
ある冒険者パーティは指輪を感知していたものの、何故か指輪が移動しており見つけられなかった。
ギルドの最終見解では魔物の気配と間違えたのだろうという事になった。
ただし、感知したのはBランクのシーフであり、明らかに魔物の気配とは違っていたとレポートを残している。
リーダーは高名なAランク冒険者であり、魔物説に懐疑的だった。
その理由は、あまりにも階層間を行き来し過ぎな事で、上は四十階までも確認したという。
はぐれでも、常時そこまで動くものはいないのでないかと。
「というわけで、俺達は今四十階にいる。
まずはここを起点に下へ向かって行こうというわけだ」
「どうやって探す?
お前の事だ、何か考えているんだろう?」
「俺のスキルで特定の物体の位置を特定できる。
指輪は資料で見ただけでイメージが曖昧だから、なんとも言えないけど。
まあ他の人間に比べたら分はいいだろう。
あと……」
俺は少し躊躇いがちに語尾を濁した。
だってなあ……。
「あと?」
「まあ、最初にハッキリ言っておこう。
この指輪、ヤバイ代物だから初代国王が封印したんだよな」
「まあそうなるな」
軽く頷いて、アントニオの奴も答える。
「つまり、なんらかの防御のギミックがあると考えるのが普通じゃないか?」
「そうだろうな。
封印場所にはトラップとかがあるんじゃないか?」
アントニオは当たり前の事を言うな、という顔でそう言ってくる。
「だが、指輪はその防御システムと共に移動しているのかもしれない。
大人しく安置されているなんて誰も言っていない」
「まさか」
やや、驚きの顔で答えるアントニオ。
「そのまさかの可能性もある。
もし千年間も指輪を守って動き続けてきた代物なら、そいつはきっと手強いだろう」
「魔物か?」
「いや、俺はたぶん初代国王が作ったものじゃないかと思う。
前に王国の宝物庫の見学をした時に、初代国王が作ったと思われる魔道具もたくさん見た。
それらは半端なもんじゃなかったぜ」
「なんだと思う?」
手を顎に置く仕草でアントニオも首を傾けた。
「もし本当に初代国王が作った物が指輪のガーディアンなんだとしたら、多分ゴーレムだ」
ゴーレムというか、きっとアレだ。
「何故そう思う」
「初代王は稀人。
稀人の国には様々なゴーレム(ロボット)の物語がある」
「何故、お前がそんなことを知っているんだ」
何を言ってるんだ? こいつ。
「そんなの俺が稀人だからに決まっているだろ?」
「…… 何ーっ!」
「あれ? 言ってなかったっけ」
「聞いてねーよ!」
「そういやアーモンにしか言ってなかったかな。
まあいいや」
「よくはないが、まあ今更そんな事を言ってもしょうがない。
それで、そのゴーレムとやらは手強そうなのか?」
相変わらず物事に動じない奴だな。
まあ話が早くて助かるのだが。
「多分、多分だが、初代国王はあまり自重しないタイプの人間だったと思うんだ」
「…… 」
アントニオが、お前が言うなと言わんばかりにジト目で俺を見た。
「そんな顔で見るなよ。
とにかくヤバそうだったらすぐ撤退だな。
大人しく逃がしてくれるかどうかはわからんのだが」
「わかった。
しかし、お前がそんなに弱気になるような相手とはな」
奴も少し渋い顔だ。
俺達は一緒にドラゴンを退治した仲だからな。
俺の暴れっぷりは重々承知しているので、なおさら気にかかるだろうよ。
「いや、相手が稀代の稀人が残したシステムとなると、果たしてどんなものなのか。
俺なんか、その内容がなまじ想像つくから怖い。
ここは慎重に行くぞ」
アニメに出てくるような奴が出てくると困るな。
目からビームとか願い下げなんだが。
BC兵器とかは絶対やめてね。
もちろんA兵器もいらないから。
ああ、今だとA兵器じゃなくってN兵器って言わなきゃいけないのかな。
冷戦の時代はABC兵器って言っていたのだ。
NBCよりもABC兵器って言う方がゴロがいいのに。
普通にわかりやすくアトミックボムのイニシャルであるAでいいだろう。
なんでAからNへ勝手に替えた!
BとCは変わらんのに。
指輪を検索してみたが、この階にはいないようだ。
代わりに魔物が現れた。
毎度御馴染みの御散歩魔物キメラだ。
迷宮の大地から弾けるような感じに襲ってくる。
そしてブレスを吐く体制に入った。
魔道鎧発動。
一瞬にして詰め寄って魔道鎧の手刀で首を落とす。
最初はこいつにもてこずったもんだけど、今は完全に雑魚扱いだ。
面倒なんでもう攻撃ポッドを展開する。
これも搭載する魔法をバージョンアップして強化してあるのだ。
そして魔物を掃討しながら探索を続けた。
指輪の番人は、この階には居ない。
おそらく居るのは最深部だろう。
だがレポートを見る限りでは上から攻めた方がいいように思う。
俺達は順に攻めていき、たまに出る大物を御気軽に狩りながら行った。
このあたりはボス魔物以外は出ないのかと思っていたが、案外と普通の魔物も出るもんだな。
まあ出さない道理もないのだろうが。
キメラ以外のAランクは出てこなかった。
ドラゴン同様、まだ各階のボスは復活していないようだ。
キメラは何か特別なのかな。
異様にしぶとかったし。
俺達は雑魚魔物をアイテムボックスに収めながら次々移動していき、他の階層門番にも出会うことなく最下層である五十階層へ辿り着いた。
「やっぱり、この階にいたぜ。
なんだかヤバイ気配がする。
アントニオ。
お前、魔道鎧はどれくらい持つ?
ドラゴンとやりあったレベルの魔力放出で。
少しでもヤバイと思ったら、迷わずアイテムボックスに入っている魔石を使え。
必要なら魔石は追加出来る」
「今なら、あのレベルで一時間は持つが」
それなら、なんとかいけるか?
「ヤバかったら一時撤退だな。
あいつはきっと、元々はこの最下層である五十階にいやがるんだ。
あのドラゴン様が門番って訳だ。
おそらく探索者が来たら指輪を守るために、戦わないで移動するようになっているんだろう。
ただし、出会って指輪を奪いに来たらどうなるか」
「了解した」
いざ討ち入りとなっても、実に落ち着いた物腰だ。
さすがは武門の誉れたる「王国の剣」と呼ばれた一族の出だけの事はある。
「正直、相手を舐めていた。
一緒に連れているのがお前じゃなかったら、ここで一旦撤退だよ」
「そうか。
さあ、拝んでやろうじゃないか。
初代国王の遺産とやらを」
こうして俺達は、指輪の番人へ挑む事になった。




