65-3 ○公爵現る
そして禄でもない事をする連中と言えば、やはりこいつらだ。
ザ・プリティドッグ。
そんな風にこそこそしている南の公爵を、連中は気配を消して付け回して楽しんでいる。
まあ、この犬相手に逃げ隠れするのは無理な芸当なんだが。
こいつらの犬としての感覚は、野生の魔物として更に強化されているし、その上感知魔法なども凄い。
だが一番の能力は感知無効系ではないか。
優秀なシーフであるデニスに気付かれないようについていく遊びもするし、逆にデニスが尾行すると一瞬にしてあっさりと撒かれてしまう。
そしてカウンターでデニスを追尾して遊ぶのだ。
のんびり屋のミニョンでさえ、その芸当を片手間にやってのける。
そりゃあ、こいつらは簡単に見つからないはずだ。
いざとなったら人化して誤魔化すし。
多分、使おうと思えば俺並みの隠蔽も使えるはずだ。
今回よく人語を喋るのも発覚したので、人の中に紛れられたら、もはや発見は不可能だ。
俺は隠蔽されていても鑑定でこいつらの事を見抜けるのだが、実は他の人間はミハエルクラスでも見抜けない。
アーモンやアルスのようなSランク冒険者でさえ見られないらしい。
どうやら稀人は鑑定すらチートであるもののようだ。
あるいは、この俺の圧倒的なまでの魔力がそうさせているのかもしれない。
連中だって、わざと鑑定させたい相手にはそうして見せてくれるのだろうが。
そういや俺だって、そういう高度な隠蔽などの芸当は自動で出来ているのだった。
やってくれていたのはセブンスセンスだけど。
あれには本当に助かったもんだ。
山本さんなんかはもう、鑑定すら持っていないからな。
たぶん彼は、鑑定なんていう代物が世界に存在する可能性すら考慮した事がないので、想像の範疇外であるものらしい。
おたく女子の葵ちゃんは、しっかりと鑑定その他を持っていた。
山本さんは、それを補って余りあるスキル(リアルの技能含む)を持っている人なのだが。
見つからないだけで、案外とあのプリティドッグの連中も地球の犬と同じくらいの数がいたりするのかもしれない。
土方が奴らの尾行に気付いて(たぶん、わざと気付かせている)、ビビって選手交替を申し出てきた。
鬼の副長、だらしねえな。
いつもの強面振りはどうした!
仕方がないので南の公爵には沖田ちゃんと斉藤ちゃんを付けておいたのだが、今度はケモミミの子供達が面白がって、それについて回っている。
あの二人は相変わらず子供達から懐かれているな。
あの子供達も案外と気配を消すのは上手かったりするのだ。
頼むから、あの公爵だけは怒らせないでくれよ。
当の公爵は、何かに気を取られているものか、他の連中には全く何も気付かない。
公爵たる者が、ちょっと無防備過ぎやしないか?
護衛の一人くらい連れてこいよ。
一応、電話で警備の連中にも声をかけておく。
「エド! あの公爵に絶対に何もないように気を付けてくれ」
そもそも、俺の邸内にも等しいようなここで賓客に何かがあるようなら、うちの警備態勢を一新しなければならないのだが。
「ええ、モニターで見ていますけど、あの方は一体何をやっておられるんでしょうねえ。
なんだかやたらとキョロキョロしているし。
普通の人だったら穏便に連行して、詰め所でお話を聞かせていただくのですが。
さすがに、あの方を連行するのは無理です」
うーん、なんなんだ。
こっちの方が落ち着かない。
なおも、こそこそする南の公爵。
それを付け回す犬ども。
それらを監視するゴーレム。
その後をまた子供達が付回す。
いや、子供は遊園地で遊ぼうよ。
ワンコもさあ。
せっかく、いつも休眠させている設備を今日は動かしているんだから。
地球と違って電気代はかからないけど、バカップルな犬夫婦だけを遊ばせておくのも、ちょっとなあ。
だが子供達は総動員で公爵を付け回していた。
なんか楽しいらしい。
まあスパイごっこみたいなものか。
今度、スパイ手帳セットでも作ってやろうかな。
俺は子供の頃に売っていた缶入りのあれが大好きでさ。
特に水に溶ける紙で出来た手帳とか。
あれも今よく考えてみたら、ただの字が書ける硬いトイレットペーパー……。
あれはスパっと溶けるんじゃなくって、丁度そんな感じで溶けるんだよね。
質の悪い紙だと、あまりよく溶けないし。
あと他にも色々入っていたんだよなあ。
何が入っていたかも、もう思い出せないけど。
自分の御小遣いで何回買ったのか記憶にないくらい魅力的な商品だった。
あの頃の物価の急激な上昇に伴って、スパイセットの中身が段々と価格に見合わないほど粗末になっていったのが悲しかったのを覚えている。
なんたって、あの俺が小学生低学年時分の当時は、当初十円で買えたカップのアイスが、みるみるうちに僅か数年で五十円にまで上がっていったから無理もないがなあ。
あの頃は今と違って、ちゃんと給料も物価上昇に見合うだけ上がっていったのだ。
向こうは、そのケモミミ園総出の催しに全く気付いていないようだ。
そうこうするうちに、とうとうやらかした奴がいた。
後ろから忍び寄って南の公爵を脅かした者がいたのだ。
俺は魔法PCで監視映像を見ていて思わず噴いた。
やめろ~。
「わっ」
「うおおお、なんじゃあ」
「ねえ。
おじちゃん、そんなところで何をやっているのー。
一緒に遊ぼうよ。
遊園地楽しいよー」
ファル!
お前かあ~。
「い、いや、わしはなんにも。
ああっと、そうだ。
わし、ちょっと王都に用を思い出した~」
不意討ちで神の子に背後を突かれてしまった南の公爵は、なんか慌てて逃げ出していった。
一体なんなんだ。
「エド、彼はどうやってここへ?」
「おそらく王妃様が来る時に一緒にゲートを潜られたのでしょう。
今、映像をチェックしたら、そうなっていました。
ゴーレム達も、特に害意は感じなかったようなのでスルーしたかと」
おいおい。
もうザル警備だな。
しかし、害意は特に感じられない、かあ。
なんか慌てて逃げていったし。
本当になんなの。
「あ、エド。
彼はどうやって帰る気なんだい?」
「あー、なんか困ってうろうろしているみたいですけど」
監視映像を見ながらエドが答えてくれる。
何をやっているんだ、あの公爵は。
この国の公爵の中では一番強面なんじゃなかったのかよ。
「彼に何かあってもいかん。
誰かに送らせてくれ。
さ、さりげなくね」
「わかりました。
デニス、エリーン。
馬車、いやもう車でいい。
あの公爵を送ってさしあげてくれ。
如何にも王都へ行くついでに拾いましたっていう感じでね」
「了解」
「任せておいて~」
頼むぞ、エリーン。
お前の御愛想だけが頼りだ。
「あ、ついでに何の用事があったのか、聞き出せたらでいいので頼む」
「わかりました。
エリーンにやらせましょう。
あの子はそういう事が得意ですから」
エリーン達が公爵を王都まで送ってから転移魔法で帰ってきた。
馬車では時間がかかり過ぎるので、俺が新スキルで作り出した乗用車で送ってきたのだ。
昔、俺が乗っていた4WDのワゴン車を用意した。
今となっては超旧式だがDOHCターボの凄い奴だ。
俺は信号からのゼロ発進でアクセルをベタ踏みにして、後ろの車に向かってガソリン冷却の白い煙を排気管から吹き付けながら走っていた。
御蔭で三年ほどでATミッションが御釈迦になってしまったがな。
これが今、デニスとアルスの大の御気に入りなのだ。
あの二人は趣味が合っていて気が合うのか、非常に仲がいい。
道は「アルバストーン」で整備された街道があるので、乗り心地は悪くないはずだ。
わざとゆっくりと走って、話を聞きながら行ったらしい。
「それで、エリーン。
何かわかったかい?」
「犬でした」
「は?」
「だからあの人、プリティドッグが大好きらしいんですよ。
限りなく王妃様の乗りに近いんじゃないんですか、アレ」
あの公爵め、なんとうちの犬が目当てで、ここへやってきていたのだ。
さすがに公爵ともあろう者が、いくら可愛いプリティドッグとはいえ、犬なんかを追っかけているのは格好がつかないらしい。
それで、あんなにこそこそとしていたのか。
一応は強面で鳴らした男だしな。
もっとも犬の方は、雁首揃えて彼の事を付け回していたのだが。
「いやあ~。
なんか最初はすごく口が堅かったんですけどねえ。
あれこれと攻めていったら、なんかポロポロと。
あたしにかかったら、まあこんなもんですよ~。
前に王宮でもミニョンの大名行列に加わっていたそうで」
いたのかよ、あの中に。
おそるべし、エリーン。
さすがは御愛想の鬼だな。
うちの秘密諜報員に任命しよう。
南の公爵と会わなくてはならなくなったら、絶対にコイツを連れていこう!
「それで、彼はワンコが欲しいのか?」
「あー、そうなんじゃないんですかねー。
生まれてすぐの小さい子犬が欲しいらしいんですよ」
ははあ、次に生まれてくる子犬を狙っているのかあ。
それは厳しいんじゃね。
あの家族を大事にするプリティドッグが、うんと言うはずがない。
残念だったねー、南の。
それにしても、わざわざうちに自らやって来て見張っているなんてな。
帰りの足の事さえも忘れて。
大公爵ともあろう御方が、なんとまあ。
いっそ大の字に点を打って犬公爵にしてやろうか。
しかし困ったな。
プリティドッグの赤ちゃんを寄越せとか言われても、うちの子じゃないんだし。
ちゃんと親がいるんだから。
まあ何かあったら「王妃様」に任せるか。
いや、あの人だとミイラ取りになりそうな嫌な予感がする。
ああ、精霊の森へ預けておけば、さすがに手出しはできんだろう。
個体認証付のドッグゲートを精霊の森へ繋いでおくか。
俺はその場でジョリーを呼んで、その許可をもらっておいた。
あと、アルバ大神殿も退避先として付け加えておいた。
かくして、精霊の森・ケモミミ園・シルベスター離宮などのアドロス、アルバ王宮・北の公爵邸と西の公爵邸などの王宮ゾーンと、貴族街・商人街区にあるアルバ大神殿、そしてハイド王宮。
その辺りを自由に闊歩するプリティドッグの群が見られるようになった。
日替わりで好きなところにたむろして、いろんな物を御馳走になってくるらしい。
あまりにも可愛いので、結構あちこちで喜ばれているようだ。
たまに御菓子目当てでついてきてしまった精霊が混じっているようだが、それもまた先方では喜ばれていた。
たまにファルも混じっているようで、そうなると最強の縁起物集団だ。
なんだか、あちこちの家を好きな時に渡り歩いて、やりたい放題にしている野良猫みたいな連中だ。
あれって家ごとに呼び名が違うんだよな。
まあ、別にいいんだけどね。
どうせプリティドッグなんてフリーダムな生き物なんだし。
やつらの巡回コースに精霊の森を混ぜてやったので、南の公爵も、とやかく言ってくる事はなかろう。
だが、彼はいきなり離宮へやってきた。
マクファーソン・フォン・エルリア公爵、通称南の公爵は。
ちょっ、あんたなんで来たの?
エリーン!
エリーンはどこだ!
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