64-5 魅惑の島
ジュースとおやつの時間を経て、やがてブルーアイランドは、その美しい姿を子供達の前に晒す事になった。
「アテンションプリーズ。
まもなく本機はブルーアイランドに到着いたします。
皆様、御疲れ様でした。
アルフォンス航空の、またの御利用を御待ちしております」
今日の斉藤ちゃんの御遊びは、スチュワーデスごっこのようだ。
うちのゴーレムっ子達は今風にアテンダントなんて言わないらしい。
そいつは昭和生まれの俺からの影響なのだろう。
女性看護師さんだって、今でも俺の中では看護婦さんなのだ。
俺の人生の途中で勝手に看護婦さんの呼び方を変えるんじゃねえよ。
子供の頃から、その呼び名前で刷り込まれているんだから。
ブルーアイランドはロス大陸の南にある大きめの島だ。
サイラス沖約五百キロメートルの場所に位置し、赤道直下ではないが、それだけ南国だとかなり暑い。
そのため、ブルーアイランド・リゾートなどは精霊に頼んで気候を調節してもらってある。
島全体を弄ると生態系にマズイ影響が出てしまうので、そのようにしてある。
この島は全長約百キロメートル、幅は五十キロメートルそれなりの大きさを誇っている。
面積的に淡路島が十個くらい入る巨大な島なのではないか。
巨大生物はいないけどな。
島の中央が山岳地帯で、この島には巨大な湖が二つもある。
それらが連なる様子を見ると、断層湖のようにも見えるし、あるいは地形からくる堰き止め湖のようにも見える。
平地ではなく、山地にこのような湖があるのは珍しい気がする。
通常山の手には、カルデラ湖などのような丸い感じの湖があるのが普通ではないだろうか。
そしてそこから何本もの川が流れている。
途中には美しい見事な三日月湖が見られる。
南の島らしく降水量は多いため、湖の水量は豊富だ。
島の周り全体が真っ白な砂浜で覆われて、いかにもリゾートアイランドといった趣を醸し出されている。
場所を選定する際に、写真を見せただけで葵ちゃんがうっとりとしてしまい、ここに即決されたのだ。
この島では大概のリゾートにあるような遊びが楽しめる。
もっとも、候補に挙がった一番の理由は危険生物がいない事だ。
地球でもそうなのだが、この手の南方の島には、毒を持った生物や危険な動物などが普通にいたりするが、これだけの大きな島であるにも関わらず、この島は何故かそれが無かった。
島の風景で一番印象的なのが、南側中央に位置するほぼ円形の形状をした汽水湖である。
普通ならば、山地の湖と逆の形をしているものなのだが。
何か異変でもあったか、あるいは単に異世界であるからであろうか。
海との境目はラグーンに近い形状をしているが、この手の湖によくある砂が堆積して出来た物ではなく、陸地が削り込まれて丸くなった大変珍しいものなのがよくわかる。
汽水湖なんで、ここでは色々と美味い物が獲れる。
それだけでも充分魅力的だ。
それは熱帯にある浜名湖みたいなものだ。
ここは浜名湖の二倍くらいの面積を誇るので、何もかもが余裕であるが。
ここには戸建の別荘地を作ってある。
気候も島の中では穏やかな方だし。
日本の俺の家から見て、近場の別荘地というと浜名湖リゾートになるんだ。
普通に温泉も出る場所なのに、あそこの別荘地には何故か温泉引き込み別荘がない。
そのせいで別荘価格も他の温泉付き別荘地と比べて少し安めだ。
勿体ない。
あの辺の温泉も結構いい御湯なんだがな。
その神々しいとさえも言える自然の美しさに目を奪われている間に、機はやはり携帯空間のようになっている拡張空間の中にある空港へと着陸態勢に入った。
その近代的な空港には、他の飛行機も色々な機体が、各々塗装やマークを誇示している。
別に他の飛行機は必要ないのだが、飛行機の中から見る他の飛行機もまた味がある風景のワンシーンだと思い、わざわざ配置してある只のオブジェなのである。
本物サイズの飛行機を使った一種のジオラマのようなものだ。
俺がそういう風景を好きなんでね。
他に飛行機がいない、寂れてガランとした空港は何か味気ない。
巨大な飛行機が空港の路面を走行し、ターミナルへ横付けしていく過程に子供達は興奮していた。
やがて伸びて迫ってくる乗降用のブームに、子供達から感嘆の声が上がった。
「かっちょいい~」
普段は、そういう男の子達の振る舞いに白い目を向ける女の子達も、今日は楽しんでくれているようだ。
みんな浮き浮きしている。
そんなんだから、水の事故だけは絶対に無いようにしないとな。
「はーい、みんな班行動してねえー」
小学校の先生や幼稚園の職員さん達が指導しながら、視も心も浮き立った子供達が移動する。
エルミアの子達は神父様と奥さん、それにダニエル、後はお手伝いの応援職員やエリ-ンとデニスが中心になって進んでいく。
ワンコどもは、もう犬の姿になっており、砂浜を駆けるのが待ちきれないようだ。
一応砂浜は、ほどよく冷却してある。
油断するとワンコが肉球を火傷しそうなので。
どうせ駆け回るに違いないと思っていたし。
日本にいる時にマンションの人が言っていた。
「夏場はアスファルトで犬が肉球を火傷しちゃうから、散歩は朝晩ね」と。
まあ、飼い主本人も暑いしね。
空港内の歩く歩道に子供達は大はしゃぎだ。
むしろ職員さんの方が馴染めなかったようで、あちこちで「うひゃあ」とか「おっとう」みたいな声が上がり、子供に笑われている。
どうしても駄目な人は歩道の外を歩いていた。
まあ無理もないのだが。
この異世界で、ここにしかない特殊な物なのだから。
そして、彼らはついに「エスカレーター」に出会った。
新婚旅行の時に、あの日頃卒がないドランが、うっかり境目に乗ってしまって「うわっ」といった具合に見事に姿勢を崩していた。
その様子がフランチェスカさんから笑いを誘ったのは内緒だ。
あの貴公子然としたドランにしては、なかなか珍しい光景なのだ。
案外と王太子カルロス君の方が、そういう物は何気にこなすのだ。
あの人は昔のイメージから、どんくさい人だという印象があるのだが、運動している効果があるのかな?
最初に乗る時、エドが新婚旅行の時のドランの二の舞になった。
エスカレーターは、案外と日頃シャキっとした連中がやらかす傾向があるようだ。
もちろん、そういう光景も臨海学校の思い出として写真集に仕立てておいた。
子供達がもう、はしゃぐはしゃぐ。
逆走して下りエスカレーターを駆け上がろうとする奴ら、逆に乗るタイミングが全然つかめなくて後ろが渋滞している奴。
「こらあ、ベルトの上に乗って遊ぶんじゃない~」
それだけは危ないから禁止だ。
だが一番はしゃいでいたのがエリーンで、いつまでも遊んでいて列が進まないのでエドのハリセン三連発を食らっていた。
もういつもの如く、ばたばたとしながらバスで移動した。
せっかくの南の島なので不粋なゲートなどで行かずに島の景色などを楽しみながら行くのだ。
アスファルト舗装の道路に白いガードレール、地球では当たり前の光景だが、この世界ではまだここにしかない絵なのだ。
そして海浜道路から見える、南国の島の白い砂浜と青い海!
言わずもがな、今日の面子では海を見た事が無い者が大多数だ。
もう窓ガラスにべったりと張り付いている。
空から見るのとはまた趣が違う。
海には、美しいスーパーヨットを色々と浮かべてある。
その中には鯨のような生き物に集られている船もあった。
御仲間だと思われているのだろうか。
デッキクルーを務めるゴーレム達が、舷側から身を乗り出して鯨の頭や鼻先を撫でている。
今うっかりと身を乗り出し過ぎて海に落ちてしまった奴が、鯨の鼻面で船上へ戻されていた。
やがて前方に見えてくる白亜のホテル「ブルーアイランド・ホテル・リゾート」。
この世界でも限られた人しか利用した事がなく、世間では噂でしか知られていない施設だ。
離宮での仕事を終えたら、ブラウンゴブリン達を慰労会に招待してやろうか。
この風景を彼らが目にしたならば、今度はどんな芸術を生み出してくれるのであろうか。
ホテルを目にして子供達から歓声が上がる。
女性職員達も、うっとりした表情だ。
さあ、楽しい臨海学校の始まりだ。
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