64-1 執事募集
あいつ、あいつ、あいつが言う。
俺の中のあいつが言う。
いつものように。
今回は「長くなるだろう」と。
やっぱりか~。
裏ダンジョン攻略は間違いなく長期戦になりそうだ。
そうなるような予感が犇々としてはいたのだ。
それでも早期決着は諦めてはいなかったのだが、あいつが言うのなら仕方がない。
それに逆らったとろで、どうにもならんのは地球時代からの慣わしだ。
いつも思う。
あいつには、なぜそんな事がわかるのかと。
まあ、わかってしまうのだからしょうがない。
俺の中のあいつ。
それは別に俺が多重人格なのではない。
間違っても、精神のイカレた犯罪者が取り調べの中でよく吐露する「私の中の誰か」などという、とんでもない思い込みの代物ではない(そんな物は世の中に存在しない!)。
そんな狂った犯罪者が妄想で作り出した架空の人物とは全く別のものだ。
それはイコマの能力を鑑みれば、すぐにわかる事だ。
そもそも「俺の中のあいつ」という言葉自体、俺が作った言葉ではない。
ある有名な歴史上の人物が使っていた「私の中のあいつ」というフレーズを気に入ったので、そいつを借りてきて、ちょっと改造しただけの言葉なのだから。
ただし、その人物が言う「私の中のあいつ」はセブンスセンスとは異なるものだと思う。
その人物はかなりイカレた狂人として歴史に名を残した奴なので。
そういうアレな人間にはシステムマチックにセブンスセンスは与えられない仕様になっているはずなのだ。
だが、あいつの言う事はいつも正しい。
それに逆らった時の話は全て、俺の中で頭を掻き毟りたくなるような黒歴史になっている。
俺は仕方無くギブアップした。
出来れば葵ちゃんを日本の産院で出産させてあげたかったのだが。
もっとも、本人はもうこっちで産む気満々だ。
既に産婆さんの当てもあるらしい。
王族専属の方だそうだ。
山本家、なかなかVIPな扱いだな。
赤ん坊という物は、母親の胎内から外界へ出る時に外部の環境に適応するらしい。
この異世界で生きていくのなら、多分こっちで生まれた方がいい。
あの赤ん坊(胎児)は色々ありそうなので、日本で暮らすのはあまり良くない気がしている。
まあ日本へ帰る手段だけは用意しておいてやって、二十歳までに本人が選べるようにしておいてあげたいのだが。
あと、日本国への出生届けをネット経由にて電子書類で受け付けてもらえるように交渉しないといけない。
そうでないと地球では無国籍者になってしまう。
確か提出期限は一週間以内かなんかじゃなかったか?
あの旧態依然とした制度は、いい加減なんとかした方がいい。
親の不始末で無国籍者になってしまっている不幸な人間も結構いるらしいし。
まあ葵ちゃんも、かなりド派手にこちらの世界に来たようので、日本政府は彼女の事情をきちんと把握してくれているとは思うのだが。
実際に出生届けを受け付ける自治体の方はどうなんだろうな。
その辺は両家の家族が何とかするだろう。
それにきっと、あの強引な性格の御母さんが、可愛い初孫のために奔走するはずだ。
警察に捜索願を出したり東京から役人が来て話をしたりと色々やってあるようなので、事情は汲んでくれるだろう。
自衛隊も把握してくれているようだし。
俺がそんな事を言うと、シルなどは大笑いで俺の背中をバンバン叩く。
「もう、日本人はしょうがないわねえ。
こっちの人はみんな普通にこっちで産んでいるんだから。
あなたが気にしたってしょうがないわよ。
本人は気にしてないんでしょう?」
奥様よ。
君は知らないのだ。
日本の産院の快適さを。
もしも地球へ行く方法が見つかって、この世界の王侯貴族が日本の産院について知ったのであれば、「日本での出産」が一つのブームになるかもしれない。
先に言った事情があるので、それが生まれてくる子供にとって幸せかどうかはわからないのだが。
さてと。
まあ、それならそれでしょうがない。
鍵は見つかった。
だが次回の裏ダンジョントライはまだ先だ。
以前からの予定に従い、ケモミミ学園の行事を開催する。
ブルーアイランドにおいて臨海学校の開催だ。
とりあえず行事の栞作りからね。
ついこの間真理が拾い捲ってきた子達なんか、まだケモミミ園によく馴染めてないので、しっかりとサポしてあげないといけない。
幼稚園の職員さんも増員して二十名プラスの六十名体制だ。
一応、第二幼稚園の建物も、ケモミミ園の裏側にある職員宿舎の向こう側へ設置した。
そのするために離宮との間にスペースを空けておいたのだからな。
そろそろ子供達が寝る部屋が狭くなってきた。
それでも足りなくなった時用に更なる拡張スペースも確保してある。
あの真理の事だから、今後も油断がならん。
あとロドスの奴をブルーアイランドへ連れていかないとな。
グランバースト公爵家で、あの島にて客人をもてなす場合の対応もありうる。
あと公爵邸と離宮に、それぞれ執事を入れてもらわないといけない。
使用人の男性はいるのだが、切り盛りする人間がロドスだけしかいない。
とりあえず今は財務関係の仕事を免除して、彼に両方の場所を見てもらっている。
財務はアルフォンス商会が代行している感じだ。
実質的に彼らは商業ギルドの人間だから仕事にも慣れており、非常に優秀なので助かる。
今はゴーレムを投入して凌いでいるが、あくまで臨時措置なのだ。
貴族王族の館に執事がいないのでは笑い者もいいところなのだから。
それだけは我が家にて鬼門なのだ。
シルの面子が立たない事だけは絶対不可条件なのだ。
『館の真の主』である、あの方の機嫌を損ねる事だけは絶対に出来ないのだから。
島の方はゴーレム任せにした方がいいけどな。
海洋遠隔地だし。
ゲートの魔法があるので、それでもなんの問題もないが。
執事は別に貴族の出でなくていいというか、彼らも使用人なので本来は貴族であってはならんらしい。
優秀な平民となると王都学園の生徒が好ましいのだが、生憎とこの前卒業した連中は皆文官として王宮などに就職してしまったらしい。
あるいは腕に覚えがあって、途中で進路を冒険者に変えた奴もいるかもしれんな。
平民の場合は文官志望が圧倒的だが。
逆にそういう風に就職出来なかったような駄目な残り者は、うちだって要らんのだが。
こいつはまたタイミングが悪かったなあ。
もっと早く執事の採用準備をしておけばよかった。
ちょっと学園の方まで、そのあたりの話を訊きに行く事にした。
転移魔法で学園長室の前まで行くと、一応の作法として体表面にバリヤーを張ってからドアをノックした。
「どうぞ~」
ドアを開けて中に入った瞬間、軽い爆発音と共に、いかにもポーションっぽいものが爆発しましたよみたいな白煙が朦々と押し寄せてきた。
後からピンクやブルー、果ては紫のような煙までが部屋中に立ち込めた。
俺は窓を開けて風魔法で煙を吹き払うと、頭の先から真っ白で他の色にもマーブル的に着色された、何かこう粉っぽい感じになった学園長先生に駆け寄った。
「ちょっと! 学園長先生、大丈夫ですか?」
「いやあ、失敗失敗。
夏期の合宿用にと思い、色々と調合していたのですが」
念のために浄化とヒールをかけておいたが、いやはや相変わらずのポンコツぶりだ。
いや探究心が強すぎるのか。
でも紫色の奴は多分ヤバイ物だろうから、使うのは止めた方がいいと思うの。
「今日はどうされました~?
また、いい訓練行事の御提案でもー!」
学園長先生は、またちょっと踊りだしそうなテンションなのだが、それは脇に置いておいて。
「いや学園の卒業生で、うちで雇えるような人材が余っていないかと思いまして。
実は執事をやってくれる人材が二名ほど欲しいんですが」
学園長は、右手で前から自分の頭頂を掴むような感じで、左手は見えないハンドボールを右の脇腹に押し付けるかのような、なんだかよくわからないポースで固まったまま、やや考え込んでいた。
そしていきなりパーっと両手を頭の上に上げて、カバディのようなポーズをとったかと思うと叫びだした。
「いました、いました。
先日の卒業生で、まだ就職の決まっていない学生が二人」
「え、本当ですか?
でも就職先が無かったとなると、あまり優秀な人間ではないのでは」
「いえ、そんな事はありません。
ただ、ちょっと貴族の子弟と揉めてしまって……その、干されてしまったのです」
学園長先生は顔を顰めていたが、突然にっこりと笑うと、こうのたもうた。
「本人達は大変優秀なんですよ。
非は一方的に貴族の子弟の方にありまして。
彼らの現状には我々学園サイドも大変頭を痛めております。
あなたとシルベスター様のところなら、それでも別に問題はないでしょう。
さすがに伯爵家の三男が喧嘩を売るには相手が悪すぎますから」
いや、しかし! と言いかけたら、いつものようにリズムを取って踊りだし、先に立って案内してくれた。
「さあ、さあ、さあ。
こっちですよ~」
駄目だ。
もう完全に人の言う事など聞かないモードに入ってしまったみたいだ。
まあ、優秀な人材を紹介してくれるのなら別にいいんだけど。
俺は諦めて、学園長先生の後についていく事にした。
ダンジョンクライシス日本
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こちらもよろしくお願いいたします。




