63-7 大切な預かり物
「そうじゃのう。
確かに預かったような、あるいは預かっていないような」
いや、爺。
預かったのは、あんたじゃないだろ!
「おい、魔王の旦那。
大昔の事だし場所も若干曖昧だが、記憶を辿って行ってみようぜ」
そういう訳なので、みんなでぞろぞろとジェイミー婆の後をついて歩いていった。
やがて、里を守って見下ろすような場所にある丘の上に着いて、彼女は子供のように無邪気な笑顔を煌かせた。
「ここだ。
確かにここだ。
ここに、当時の長やヘレンと一緒に埋めたんだ。
今はここに植わっていたはずの精霊樹も姿を消してしまったが」
あれ?
そういや、ここって。
「ちょいと待ったあ。
それは昔の里の話じゃあないの?
ここは昔の里に似せて作った場所なんだよな」
何度も里を移したって言っていたし。
「ああ、それはなんて説明したらいいかよくわからないが、里を丸ごと移したという事だ。
大切な先祖の墓などもあるしな」
ははあ。
あれか、俺の携帯空港みたいに里ごと持ち歩けるのか。
空間魔法を使う精霊が、里を丸ごと移動させているのかな。
それをそのまま、引越し先に移転させてしまっているのだろう。
何かを埋めていれば、それも一緒に持ってきているというわけか。
「だが、正確な位置がよくわからないんだ。
入れ物が魔法を受け付けない物のようなので、探知魔法でも多分わからないぞ」
う、俺のMAP検索でも駄目だな。
武め、また厄介な物に入れやがって。
後で探す人間の身にもなってみやがれ。
こうなったら土魔法で徹底的に掘りまくるしかないのかね。
仕方ない、また『奥の手』を使うかと思った、その時。
「んー、こっちじゃない?」
え、おファルさん、わかるんかい?
「えーとね。ここ掘れワンワン」
ファルは思いっきり駆けていった先で、なんか飛び跳ねていらっしゃる。
ホンマかいな。
そいつはまた、葵ちゃんから仕入れたネタなんだろうな。
「しょうがないな。
じゃあ一つ掘ってみますかー」
他にどうしようもないしなあ。
アナログっぽく探す手が無いわけではないんだが、アレはイコマの奴もちょっと苦手なんだよな。
むしろ真理が不調だった時みたいに千里眼を応用した方がいいくらいだ。
とりあえず、箱を壊さないようにシャベルでそっとね。
おっさんは作務衣を脱いで、地下足袋と土方ズボンに着替えた。
上半身裸で、むさ苦しいったらありゃあしない。
穴を掘るならツルハシの方が良かったかしらん。
ファルの指し示した場所にシャベルを突き立てたら、一発でカチンと金属的な音がする。
え?
シャベルで上っ面の土をこそぎ取ったら、なんか出てきた。
これは見た事があるぞ。
王宮の宝物庫で見た、武が製作した何かと同じ物だ。
確かコピー出来なかった物の一つだな。
またなんか、おかしな魔法の術式がかかっているみたいだしなあ。
爺さんと女子供ばっかりだったから浅く埋めてあるのか。
それって埋めた意味があるんだろうか。
まあ、それでアドミンにもわからなかったんだから、確かに効果はあったわけなのだが。
埋めた本人がどこへ埋めたか忘れちまうくらいに。
武の奴も、ここでやっとアドミンの野郎に1P返したっていう事だよな。
自分が死んでから、しかも千年も経ってから。
また気が遠くなりそうな話だな。
引っ張り出した箱は、宝箱のような感じの装飾が施された、どこかで見たようなタイプの箱だった。
宝物庫で見た時に、よく遊園地でやるイベントの宝探しなんかで使われるような、チャチな玩具のような箱だなと思ったのを覚えている。
きっとあのシスコンめ、幼い妹を連れて、そういう遊園地の親子連れ用の企画イベントへ足繁く通っていたのに違いない。
「長、箱を開けてみてもいいかな」
「ああ、いいですともいいですとも。
しかし、わしゃあ、こんな箱を埋めたかのう」
だから、あんたは埋めていないだろう。
もう、いっそ替わりにこの爺さんを埋めておこうか。
里のエルフ達が見守る中、俺は魔力を注いでみた。
俺の考えが正しければ……。
カチンというような小さな音がして、パカっと口が開いた。
役割を終えたので、宝箱はまるで死んだ貝が貝殻を開くように開きっぱなしとなり、その中身を見せ付けた。
そこには銀色に輝く鍵があった。
魔力の篭った特別な代物だ。
材質は多分ミスリルだろう。
まさに宝箱だ。
やった。
ついに鍵を見つけたぜ。
棚ボタとはいえ、これで次回は二個目のダンジョンに進めそうだ。
この箱は、この鍵が必要な稀人が来た時に開けられるように、稀人の魔力がキーになっていたようだ。
そんなような気がしていたんだ。
王宮の宝物庫にあった転移の腕輪の時にも、稀人に便宜を図るような細工がしてあったみたいだし、もしかして今度もと。
それにしても、レインボーファルスの謎能力がまた一つ。
宝探しの御伴にはレインボーファルスが必需品だ。
相変わらず、よくわからない謎生物だな。
謎言語も操るようだし。
あと何か小さな腕時計のような物が入っていた。
何々、裏を見たら「ダンジョン・レーダー」とカタカナで刻印してある。
裏ダンジョンで使える道具なのかもしれない。
武が裏ダンジョン探索に使っていて、後の人間のために遺してくれた物なのだろう。
しかし、あいつもあっちこっちで色々な事をしていやがるな。
まるで、どこかの御老公みたいだ。
という事は、真理があのキャラ担当だったのか!?
あと、他に手紙が入っている。
ラブレターでも入っていそうな感じの封筒だが、宛名が「船橋真理様」となっている。
裏を見ると、差出人は船橋武とあった。
住所も確かに彼らの家のものだ。
本人が書いた物で間違いないだろう。
赤い蜜蝋で封がしてあるな。
アルバトロス王家の紋章だ。
他に小さな紙が入っていた。
「この手紙を読んでいるという事はあなたも地球からやってきた稀人で、多分日本人なのだろう。
何故かは知らないが、今までもそうだったと聞く。
この世界から抜け出すためには、ダンジョンの裏側にある秘密のダンジョンを制覇しないといけない。
詳しくは、私が作り上げたダンジョン・レーダーを見てくれ。
そこに記録を残してあるから。
もし、あなたが無事日本に帰れたとしたら、同封の箱に入れた手紙を妹に渡してほしい。
その時代に、まだ妹が生きているかどうかはわからないが。
では、名も知らぬ同胞の君よ。
幸運を祈る」
ありがとう、武。
お前からの支援、確かに受け取ったぜ。
超助かる~。
まさか、過去からこんな援軍が来るとは思わなかった。
妹には、もう色々と通知されてはいるけれど、出来れば直接この手紙を届けられるといいな。
どうしても駄目ならスキャナーで取り込んでメールでね。
ああ、そういやここにはスキャナーなんてなかったな。
あれも魔導具として作れないものかな。
俺はその場で日本の真理さんにメールをして、発見物の処置について確認した。
エルフ達と御茶会をしていると、真理さんからメールの返事が返ってきていた。
「園長先生、おめでとう。
帰還に一歩近づいたわね。
その手紙は、無事に日本へ帰れた時に直接手渡してちょうだい。
待っていますから。
もうどうしても帰れない、完全にギブアップとなったら、その時は中身を開けて写真に撮った物をメールに添付して送ってちょうだい」
そうか、向こうもそれを御希望のようだ。
では、そのようにするとしよう。
帰還第一回の目的は郵便配達の御仕事に決定か。
手紙には、なんて書いてあるんだろうな。
まだ手紙はあちこちに託してあるのかもしれない。
もしかすると、あのバルドスも一つくらい隠し持っているかもしれないな。
食えない爺さんだし。
後は王宮の宝物庫あたりか。
あの同じようなデザインの箱が怪しいな。
今度箱の開封にチャレンジさせてもらうとするか。
ファルが集まった精霊やエルフに、得意の「よしよし」をしてやっているので、俺もエルフの子供達や精霊どもに御菓子をやりながら、もう少しこの場所での余韻に浸ることにした。
ダンジョンクライシス日本
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こちらもよろしくお願いいたします。




