63-3 残念エルフが逝く―精霊さんは平常運転―
俺はグスタフのところへ顔を出す事にした。
奴は今、エルフの代官さんのところにいる。
「おーい、グスタフ」
グスタフは薪割りの手を休めて、その端正な顔で振り返った。
「なんだい、園長先生」
上半身裸で斧を手にして野性味をたっぷりと主張してはいるが、寸分も無駄の無い引き締まった体から立ち上る気品は、それの所有者が貴族の生まれである事を示している。
何よりも見た目が貴公子だ。
いずれも俺には欠片も無いものだった。
未だに俺の事をグランバースト公爵などという畏まった呼び方をする奴は数えるほどしかいない。
貴族連中でさえ、知り合いは「あ、魔王様」とか「園長先生~」としか呼んでくれない。
学園関係の人は「アルフォンス先生」だし。
別に俺はそれでもいいんだけどな。
体面とか面子を気にするシルの侍女さん達は気にするかもしれない。
ロドスは最早達観して気にしない事にしているようだ。
まあ、その辺の話は流れに任せるとしよう。
正式な舞踏会デビューに備えて、俺もシルとダンスの御稽古に余念がない。
俺はその手のセンスに著しく欠ける為、身体能力に頼りきったダンスではあるのだが。
そこは生粋の王宮育ちである相方にカバーしていただく予定だ。
せめて、ついていく事くらいはしてみせよう。
なるべく足は踏まないようにね。
あのブルー・アイランドで、フォークダンスくらいは彼女と一緒にちゃんと踊ってみせたがな。
「よお、最近はどうだい?」
「いや、なんかこう体が鈍ってしまいそうなんでな。
いっそ王国騎士団の訓練に参加するのもいいなと」
こいつもよくやるよな。
王国騎士団の訓練は、通常でも自衛隊ならレンジャー訓練に相当する物で、とんでもない内容だ。
しかも自衛隊とは違って年柄年中そうであるらしい。
いや、それ以上のものだ。
本来なら回復魔法使用を前提にした厳しい訓練を、魔法抜きの素でやってしまうのだから。
奴ら、凄まじく精鋭なはずだわ。
どうせそれも、みんな初代国王船橋武の差し金なのに違いない。
俺なら絶対に御免だぜ。
「それなら丁度いい。
今、裏ダンジョンの探索というのをやっているんだが、そこにいる奴がちょっと手強くてなあ。
是非、祝福の鎧持ちには参加してほしいんだけど。
どうかな」
グスタフは、両の掌を杖代わりにした大斧の柄に押し当てるようにして、リラックスしながら聞いている。
貴族風の格好よりも、むしろこの格好の方が似合っているというか精神が落ち着くようだ。
こいつも日本なら、女の子達がきゃあきゃあ言いそうな色男なんだが。
街ゆく女の子が全員振り返りそうなレベルだ。
真に惜しいと言うべきか。
あるいは生まれる世界を間違えたとしか言いようがない。
まあ、あの船橋印の『呪いの鎧』が脱げただけでもマシっていうものかな。
今はこうして端正な貌を晒していられるのだから。
さすがに、あの格好では女の子も寄ってこないだろう。
「へえ、面白そうな事をしているな。
なかなか楽しそうだ。
退屈はしなそうだな。
是非混ぜてくれ」
「助かる。
向こうでは魔法も封じられるんで、俺の手数も限られるんだ」
こいつも魔法はたいした事はないが、なにしろ強者の中の強者だからな。
魔法は俺がやった腕輪に仕込んであるし、スキルというか魔法という形で、なんと魔道鎧まで仕込んであるのだ。
普通ならとてもじゃないが、すぐには使いこなせないはずなんだが……こいつめ、たったの一度展開しただけで、あのコントロールの困難極まる魔道鎧を見事に使いこなし自力習得しやがった。
ありえねえ。
うちのゴーレムじゃあるまいに。
こいつって一体何とリンクしていやがるのだろう。
一応アンドレさんに指導は御願いしたのだが。
彼も拍手喝采で大絶賛してくれた。
あの習得に滅茶苦茶手間取って散々御世話をかけて、アンドレさんにおんぶに抱っこという為体だった俺の肩身が狭いぜ。
そういえば、こいつもAランクだったんだよな。
魔法抜きでの力量は完全にSランクの領域だろう。
今は「精霊の鎧」の持ち主だから、精霊魔法さえも生まれてこの方使ってきたかのように使いこなす。
ギルマスに言わせると、「グスタフは生まれながらの騎士の中の騎士だ。お前とは鍛錬のレベルが違う」だそうだが。
パーティ編成の中で、あまり戦力にならないベル君がマストのメンバーなんで、魔法も使えないような場所では御守がきつい。
ファルも連れていくからなあ。
こいつが来てくれれば百人力だ。
「ダンジョンへはいつ出かける?」
「探し物をしてからなんだが、そのガイドが今二日酔いで寝込んでいるんだ。
エルフが二日酔いって、どれだけ呑んだんだか」
ああ見えて、この世界のエルフは結構蟒蛇だからな。
あのドワーフと一緒に、ごく普通に呑んでいるんだから困ったもんだ。
「あははは。
それはまた楽しそうなお話じゃないか」
「そいつは、今アルスのとこにいるぜ。
ヘレンの昔馴染みなんだとさ」
「ふうん。
それで探し物とは?」
俺が放った日本製の上等なタオルで汗を拭きながら、奴も興味を隠し切れない風情だ。
「ああ、その裏ダンジョンにある扉から次のダンジョンへ移動するためのゲートキーだろう。
これが全く見当もつかなくて困っていたんだが、どうやらエルフの里に関係があったらしい。
裏ダンジョン探索の続きは、それを見つけてからの話だなあ。
まだ手掛かりらしきものがあるだけマシだ」
「そうか。見つかるといいな。
じゃ、ダンジョンへ行く時には声をかけてくれ」
ちなみに、グスタフにはアルバ大神殿助司祭の役を与えて、エルフ新町へ派遣という体裁をとっている。
エルフ達にとってもロスは大切な神なのだ。
その力を宿した祝福の鎧の持ち主は精霊達からも大変大事にされている。
いつの間にか精霊の加護も多くつけられているし。
ここは実家へ少し帰り辛い立場のグスタフにも居心地は良さそうだ。
彼らエルフがファルスへの敬意を込めて築いたエルフ新町神殿は、なかなかに見栄えがするものだった。
街のところどころに、提供された地球デザインも垣間見える。
厳かに飾られた装飾は、ドワーフ達も手伝ってくれた。
それから俺は色々と準備を整えた。
エリクサーに、地球の医薬品や設備を新スキルで再現したもの、同様の栄養食品なども用意した。
あと強力な漢方薬類も用意した。
例のツバメの巣やドラゴンエキスにマジックマッシュルーム、更にはウイルストン家謹製の青鰭蜥蜴を始めとする秘伝の品の数々を使った代物だ。
まあ味は推して知るべしといったところだが。
ファルが鼻を摘まんで警戒している。
いや、本来なら食い物じゃないんだから、これ。
素で青鰭蜥蜴を平気で食っている、あの地方の人間が少々いかれているだけなんだ。
そうこうしてヘレンさんの店に帰ったら、あの残念ハイエルフは起き上がってカウンターで、しょぼしょぼと粥を啜っていた。
だいぶ煤けた感じになっている。
「起きたか」
「おおぅ……」
駄目だ、完全に目が死んでいるな。
まあ、こいつは道案内が出来ればそれでいいんだが。
ヘレン女将が、賄いで特選アナゴ(らしき物)巻きと御吸い物を出してくれたので、ありがたく頂くことにした。
「園長先生、里を御願いね。
うちの子も行かせた方がいいかしら」
「いや駄目だったら、ファルを呼ぶなりなんなりするから。
おそらく戦闘があるわけじゃないと思うしね」
そして、その残念ガイドに声をかけた。
「おい、立て。
行くぞ」
俺は、その粥を食い終わって茶を啜っていたエルフなんだかゾンビなんだかよくわからないような奴の襟首を持って立たせると店を出た。
気が付くと、こいつの御守らしき精霊どもが俺にくっついて魔力をちゅうちゅうしていた。
やれやれ。
ダンジョンクライシス日本
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こちらもよろしくお願いいたします。




