63-2 帰還の試練
奴? 管理者?
そう聞いても、あの忌々しい野郎の顔以外は浮かばねえ。
顔っていっても、あれでは案山子野郎としか言いようもないのだが。
あの案山子が奴だったという保障もないけどな。
「どういう事だ?
話を聞かせてくれ。
事と次第によっては力になろう」
あの忌々しい案山子野郎の手掛かりが、なんと向こうから転がり込んでくるだなんて。
最早、地球に帰るとか帰らないとかの問題じゃあない。
あのふざけた野郎に一泡吹かせないと、こっちももう収まらないぜ。
「あいつがやってきたのは、つい先日の事だ。
鍵を寄越せ、と」
鍵だと~。
俺は思わず、そいつの端正な横顔を見つめてしまった。
「で、その鍵とやらは、どうしたんだい?」
俺は逸る気持ちを抑えられずに急かすように訊いた。
「いや、そんな物に全く心当たりはない。
だが奴は、必ずあるはずだと我らを責め立てた。
管理者。
あれは人の理を越えたものだ。
いくらエルフとて太刀打ち出来るものではない。
あるいはファルスならと思ったのだが」
それはいい事を聞いた。
霊的な祝福の力は奴に対抗できるのかもしれない。
今度はグスタフも連れて行こうかな。
おファルさんと三人で霊的パワートリオを組むぜ。
「奴は他になんて言っていたんだ?」
「そ、そうだな。
『帰還の試練は簡単にはクリヤ出来ないものだ。
あいつらにまだ鍵は渡せない。
さあ、鍵を出すのだ』と」
帰還の試練……それをクリヤ出来れば地球へ帰れる可能性があるのだと?
だが奴の存在は一体なんなのだ。
なぜ帰還の試練とやらの試験官みたいな事をやっている。
奴にそれを命じた者がいるとでもいうのか。
これはヤバイ匂いがプンプンするぜ。
「それで今、里はどうなっているんだ。
滅びるとはどういう事だ」
「や、奴は悪魔だ。
里の者達は次々に倒れた。
何かよくわからない物に体を蝕まれて、魔力が枯渇し萎びていくかのように」
ジェイミーは顔中に恐怖を刻みつけ、震えながら言葉を搾り出した。
するとヘレンも、失われた時に思いを馳せるかのように語った。
「まるで帝国の仕業のようね。
あの連中に石の力を搾り取られたハイエルフもそうなったわ。
いわばあの魔晶石のような働きを、生まれながらに持っている者がハイエルフなの。
凄い力を持っていたり、寿命が長かったりするのはそのせいね。
普通のエルフ自身にも多かれ少なかれその働きはあるわ。
エルフの秘術とは、いざという危機の時にエルフが滅びてしまわないよう、特別な魔石にハイエルフが自分の命を封じ込めたものよ。
だから我々はあれを使ったわ。
エルフの全てが消えるよりもマシに思えたから。
今思えば、それは愚かな事だったのかもしれないけれども。
里の中でも意見は別れ、激しく言い争った。
最後には個人個人の意思に委ねられたわ。
そして多くの者が、魔晶石を使用する事を選んだ」
これはまた豪い事になっているな。
しかし、あのアドミンの野郎にエルフ新町へ来られても困るんだよなあ。
しばらくの間は厳戒体制でいくか。
裏ダンジョンにいるのでなければ、そうこっちの力を削がれる事もないだろう。
逆に、野郎にもそれはわかっているってこったな。
まあ奴は鍵が欲しいだけなのだ。
裏ダンジョン以外での争いは番外編なのだろう。
今までの敵のように、わざわざ俺の管轄だからという理由で、ここアドロス界隈へ攻めてくるわけでもなかろう。
これは鍵を取った方が、このラウンドは勝ちという事かな。
どっち道、これ以上探索を進めるというのならば、あの開かずの扉の鍵は絶対に必要なのだからやるしかない。
「とりあえず、エルフの里へ行ってみよう。
あと、俺にどうしてほしい?」
ジェイミーは俯いてしまい、なんと言ったらいいのかわからないようだ。
どうせ里へ行ってもアドミンの奴はもういまい。
「まあいい。
とにかく明日だ。
エルフの里へ行ってみるしかあるまい。
今、里は帝国あたりか?」
「明日教える。
ヘレン、済まないが今夜は……」
「ええ。泊まっていってちょうだい。
千年ぶりに積もる話もあるわ」
また豪く気の遠くなるような会話をしていやがるなあ。
これだから人外っていう奴らはよ。
「じゃあ、明日迎えに来るから。
シル、今夜はゆっくりやろう」
「うん。また変な話になっちゃったね」
人の相談に乗るのもいいが、夫婦の時間は一番大切なのだ。
俺達は人だ。
エルフではない。
悠久の時を生きる生き物ではないのだから。
ヘレンさんの店で、今晩はシルと二人でゆっくりと楽しんだ。
翌日一番で恒例となっている門前掃除の儀式を終えると、その格好のままヘレンさんの店へ行ったが、何故かアルスが板前の格好で今日の仕込みをしていた。
現役のSランク冒険者が鍋の蓋を持って、菜箸で煮物の具合を見ているのはなんだかな。
冒険者としては、俺もあれこれと、あまり人の事は言えないのだが。
「あれ? アルス、お前何をやっているの?」
「あ、園長先生。
おはよう。
いやね、あの人がさ」
ははあ。さては……。
覗いてみたら案の定、残念エルフが二日酔いでぶっ倒れていた。
うんうんと唸りながらヘレンに看病されている。
ハイエルフが和室で御布団を敷かれて、二日酔いで寝込んでいるのもまたシュールな光景だな。
ハイエルフには精霊が付いているはずなのだが、奴らはどこに行ったのだ。
確かに昨日は居たはずなのだが。
俺に吸い付いてきていた、日頃見ないような上級精霊がいたからな。
大方、この町の御菓子店でも巡りながら散策しているのに違いない。
エルフ達は精霊に優しいからな。
回復魔法をかけて無理やりに引き摺っていこうかとも思ったが、不粋な真似は止めにしておいた。
あの二人には、きっとこういう時間も必要なのだろう。
特にこのエルフ達ときたら凄い長生き同士だから、「また会えるからいいや」のノリになりかねないのだ。
そして、そのまま生き別れになるケースが、実は人族よりも多いらしいし。
特にこの二人は、その度合いが並みのエルフの比じゃあないからな。
「ヘレン、それじゃ昼からまた顔を出すからよろしく」
「ええ、御願いね。
まったく困ったものだわ」
まあ、そう急ぐ話でもあるまい。
ヘレンも口とは裏腹に笑っているだけだ。
それにアドミンの野郎も、多分あそこにはもういないはずだ。
とはいえ重篤なエルフがいると困るな。
里へは早めに行った方がいいかもしれない。
だが、そんな厄介な普通の状態ではない重病人を、俺にいきなりなんとか出来るものかどうか。
やれやれだな。
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