62-4 このはし、渡るべからず
おやつ満載のリュックを背負ったせいか、ふんふんと鼻歌を鳴らして御機嫌でおやつを齧りだした神聖エリオン様の可愛い御手手を引きながら、俺は探索を続けた。
そうしながらも、こいつは俺から魔力を吸い上げていく。
まあ今のところは微々たるものだがな。
今の俺は魔力の塊のようなものだ。
子供ファルスの要求する魔力に応える事など造作もない。
なんていうか、発電所に豆電球を一個繋げる程度の負荷でしかない。
それに、常にベスマギルバッテリーを大量に持ち歩いているので、魔力の補充が出来ないここでもそうは困らない。
俺は伊達に魔王などと呼ばれてはいないのだから。
だが如何せん、まだここのMAPが殆どないので不案内だ。
この間は上の階層しか行っていないし。
今回はいきなり三十八階だった。
武がいた頃よりも今回の方が手強いのだろうか。
魔物は一匹も出てこないが、その事が却って不気味だ。
そして、やがて「橋」が現れた。
「このはし、渡るべからず」
そう書かれた、ふざけた立て看板を携えて。
なんかこう、江戸時代風の奴だ。
一〇さんか!
生憎と橋の方はハリウッド映画とかゲームとかに出てきそうな、今にも崩れて落ちそうな奴だったが。
岩のブリッジといったらいいような、よくある蛇行した細い奴だ。
真ん中あたりが特に細くなっている如何にもっていう感じの奴だった。
その下は奈落の底になっている。
はしを渡るな、か。
また御丁寧な事に、はしの部分は日本語のひらがなで書かれている。
こういう知識も俺の記憶から吸い上げたものなのだろう。
アドミンめ、本当に厄介な野郎だ。
そういう事が出来るのなら、もしかしたら定番のアレがあるかもしれないな。
「どうする~。
はしを渡るな、っていう事は真ん中を渡ればいいっていう事になるが」
「え? どういう意味ですか」
日本の事情をよく知らないベル君は首を傾げている。
「日本では端っこの事をはしと言って、橋と同じ字や発音になるのさ。
真ん中を通るのはOKというオチだ。
いわゆる、とんち問題なわけだが、ここではそうすると単に『やあい、引っ掛かった。ざまあみろ~』で終わると思う」
「ええ~、それに何の意味があるんですかー」
「単にアドミンの御楽しみなんだろう。
前に進みたけりゃ、ここを渡るしかないな。
たぶん橋が落ちると思うけど」
それを聞いたベル君の嫌そうな顔。
まあ、無理もないか。
この面子でそんな事になったら、ただ一人だけ無事に済みそうにないのが、こいつだからなあ。
ベル君は凄い顔をして、必死で目視による転移魔法を試していたが、とうとう諦めたらしい。
「まあまあ、こういう時のためにアレを用意しておいたんだから。
使い方の練習はしておけって言ったよな?
いつでも使えるように準備だけはしておけよ」
「ま、まあ。
一応は使えますけど」
あまり嬉しそうではない表情で、彼も装備の確認に入った。
それを待って号令をかけた。
「じゃあ、出発進行!」
俺達はぞろぞろと橋を渡りだした。
俺がファルを抱えて先頭で、ベル君がその後に続き、最後に真理がつく。
これでベル君のフォローはなんとかなるだろう。
その後に、ハイキング気分のゴーレム達が続いた。
斉藤ちゃんは、どこで拾ったのか手頃な木の枝を杖代わりにしている。
次が名場面になるアニメのような、凄い風景のところを俺達は歩いていった。
今にも崩れそうな細い岩の橋が谷を越えて渡されており、下が溶岩の海でないだけまだマシな部類か。
そして『ビキっミシミシ』というようなヤバイ音が聞こえてきた。
お、やっぱりと思いつつ、ふと何かが気になって振り返ったら、沖田ちゃんと斉藤ちゃんが手でバランスを取りながら、両側の端っこを歩いていた。
「こ、この馬鹿者どもが~。
端を歩くな~」
「てへっ。
いやあ、万が一にも橋が落ちないといけないなと思って、念には念を入れてみました」
「アホかあ~」
俺達は駆け出したが間に合わなかった。
橋は一瞬にして全体が皹割れていったかと思うと、ついに一気に砕け散った。
「うわあ~~」
ベル君の情けない悲鳴が宙に、いや崩落する岩の群に当たりながら幾重にも木霊した。
「そらよっと」
俺はアレを起動して宙に【吹き上がった】。
そう、こいつは五月病トーナメントの時に使った、あのアイテムボックスのエア噴射である。
ちゃんと作動してよかった事だ。
まあ、なくてもなんとかなるのだろうが。
そいつが駄目なら、俺はまた空気を蹴りながら降りていくだけなのだし。
ベル君も何か大声で叫びながら、なんとか起動に成功していた。
こいつは、どんな体勢をしていても下方にエアを噴射してくれるので、こういう時には使い勝手がいい。
例え魔法が無くても、機械式のコンプレッサーを使えばエアを補充出来たりするが、今のところアイテムボックスやコピー能力はちゃんと使える。
ファルはいつのまにか自力で飛んでいたので、俺はベル君を引っ掴んで足の裏から勢いよく高圧空気を噴射して反対側へと渡った。
魔法ではなさそうなファルスの能力には制限がかからないらしい。
ゴーレム共は楽しげに、くるくると空中浮揚を楽しんでいた。
沖田ちゃんが土方の上に大きめの岩を落としたので、またいつもの追いかけっこが空中で始まっていた。
やれやれ。
みんな、すっかり行楽気分だな。
そこを抜けると三十九階へと下るスロープが見つかった。
ここの裏ダンジョンは、通常ダンジョンと同じようにスロープで降りるようになっている。
つまり転移石があるダンジョンで探索する場合には、転移する事になるわけだ。
その場合は空間トラップがありそうで嫌だな。
分断される可能性が一番困る。
他の奴ならいざ知らず、ひ弱なベル君が一人だけどこかへ放り出されるというパターンとかが困るんだよなあ。
今からベル君のブートキャンプを始めないと駄目だろうか。
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