61-7 神々の晩餐
俺とシルと、そして堂々と主賓の席に座るファル。
それと俺の御膝の上にはレミがいた。
本当はいてはいけない存在の、おチビ猫には誰もケチはつけられなかった。
国王夫妻がケチをつけていないのに出来るわけがない。
そして来賓としてタヌキミミ大使様を俺達の隣の席に御呼びしてある。
昨今の微妙な政情の中で多大な貢献をしてくれたケモミミハイムの【エルム公爵】閣下に対して、この場でケチを付ける度胸のある奴はいなかった。
そして、彼も実によくわかっている。
事あるごとにタヌキな笑顔で同じ獣人族であるレミを可愛がり、俺の数々の偉業を称えてくれた。
そのような帝国以来の続編マオ&タヌ第三部(ついに本物の狸登場)が上演される中、その左側に座って愉しそうに微笑む疾風のミハエルの笑顔が妙に印象的だなと、列席している人々は思っているような様子だった。
そんな芝居が上演されていた。
貴族が開催する晩餐会なんて、基本はそういうものではないだろうか。
それから宴は、段々興奮というか酩酊というかそういう方面へと移行し、なんというか参加者達も段々とヤバイ顔付きになってきたんじゃないか。
みんな、何かこう魔王っぽい感じか?
うん、なかなかいい雰囲気になってきたな(どこが)。
続いて出された物はドラゴンの腸詰だ。
中に詰められていた物は、とことん色々なヤバイ原料で練り上げた、ドラゴンの極上部位と厳選したツバメの巣だ。
ドラゴンの腸詰も、そのままのサイズだとあまりに腸が厚くて、また巨大になりすぎるのでギュッと引っ張って伸ばし、細く絞ったものだ。
それでもまだ皮が厚い感じだ。
何しろ、巨大なドラゴンの腸なのだ。
だから大きさに比して腸詰の皮部分が厚いのが特徴なのだ。
そのせいで歯応えがあって、プリっとして最高の物だった。
使われた塩は、これも俺が強大な魔力で練り上げておいた魔力塩だ。
それも美味いと評判の高価な海塩の産地へ行き、そこの海水から製塩したものだ。
その茹で上げた熱々のソーセージを、オリハルコンの大包丁で薄く切り上げる。
それに山グルミのペーストをベースにしたソースをかけ、各種ソース二十一種類を好みによりトッピングしてもらう。
神野代行者たる神聖エリオン様は、既に熱々の出来立てに齧り付いておられる。
俺は遠慮のえの字も無く、堂々とファルをこの宴席の『主賓』として上座に祀ってあるのだ。
国王陛下を差し置いて。
それに相応しい食いっぷりであった。
もちろん、俺も遠慮なくいく。
皆も取り憑かれたように食っていく。
そして希少だと言われる特別なトカゲも用意されていた。
こういう物もあったんじゃないか。
レッグさんから追加で情報が上がってきていた物だった。
あの人も青鰭蜥蜴だけの人ではなかったのだ。
こいつは擬態が上手くて殆ど幻の食材と化しているが、俺が作った生息地を表すレーダーMAPの印刷物を持たせ、Sランクのアルスと超優秀なシーフであるデニスの必殺コンビで狩りに行ってもらった。
味見は勝手についていったエリーンが済ませていたようだ。
これがまた大猟だったので非常に喜ばしい。
エリーンの奴は、今日もちゃっかりとこの場で御相伴に与っている。
まあ狩りは手伝っていたみたいなのでよしとしよう。
御褒美だな。
試食係として単なるオマケでついていっただけの筈の彼女が、圧倒的なまでに一番の猟果を上げていたと彼ら二人が苦笑していた。
どれだけ食い意地が張っているんだか。
まあ元々は冒険者ではなくて凄腕の狩人だったんだし、それも当然の結果か。
なんたって、三歳の頃から十年以上も野山を駆けまわって狩人をしていたんだからな。
そいつの肉は柔らかく、そして良い匂いがした。
これが肉食魔物ではこうはいかない。
その柔らかく、それでいて噛むとしっかりと濃厚な味わいがある肉質は、他の食材では決して味わえない美味だ。
これは出汁を利かせて蒸し上げた物と、上から熱い油をかけて中華風に調理した物を用意した。
安直にステーキにしたりはしなかった。
蒸すとしっとりと柔らかく、また高温の油でパリっと仕上げれば、なんとも言えない香りと歯応えとなる不思議な肉質だ。
これに使った油も、精霊しか知らない場所に生えている植物から生成した特別なものだ。
熱を加えると、とんでもなく良い香りがするし、健康にもとても良い。
祝福成分まで入っている可能性がある素材だ。
普通は出汁で蒸し上げたりなんて事はしないが、こいつの場合はこれがいいという話になったらしい。
異世界産食材は不思議だ。
とにかく、これでもかと言うほど料理がファルの御腹に収まっていく。
レインボーファルスって、本当に謎と不思議に満ちているな。
四次元胃袋の持ち主なのか?
そもそも人化した体形は仮初めの姿なのだしなあ。
本体のサイズが本来の胃袋容量を表すものなのかもしれない。
まあ、可愛いファルが幸せそうな顔をして食っているんだからいいか。
そして、おチビ猫も本当によく食べるようになった。
あと二か月足らずで三歳になるのだ。
元々獣人の子はよく食べるしな。
「公爵、公爵よ」
「陛下、公爵はここに四人おりますが」
外国産のタヌキ公爵様を勘定に入れると五人かな。
「そんなものは、お前の事に決まっておる。
いやはや、なんというメニューか。
よくぞまあ、急遽このような素晴らしい物を用意出来たものよ」
もう半分目が回ったような感じの国王陛下。
でも、まだまだ。
次が本番ですよー。
「おそれいります。
さて、お次がメインディッシュですよ~。
じゃ~ん」
そして俺が用意したものは「寿司」だ。
もちろん、俺が持ち込んだ最高の米を魔王水を使って竈で焚いてもらった物なのだ。
酢も出来得る限り最高の物を山本さんに作ってもらった逸品を用いている。
何、寿司の握り自体は、山本さんの指導の下にゴーレムに練習させまくっただけだ。
シルベスター騎兵団業務課糧食部隊の寿司中隊だ。
これは、ちゃんと口の中でホロリと解れる素晴らしい寿司なのだ。
生寿司が駄目な人にはチラシ寿司や助六もある。
どれもこれも特別素材なのだ。
頑張れば異世界でも色々とやれるもんだなあ。
給仕係のゴーレム達が寿司の食べ方を指南している。
あの醤油をチョンとつける本式の奴をな。
おチビ猫は、それはもうパクパクと食べていた。
どれだけ食えるんだよ。
御腹が痛くならないか心配だぜ。
ギュっと握った寿司って、後で胃袋の中で膨らむからな。
デザートはエリの最新作である極上チーズケーキだ。
これも今回は特別にあれこれとヤバイ材料が使われているがな~。
エッセンスの代わりに【エリクサー】を垂らしておいたし!
もう、皆が目を白黒していた。
今日は大変な一日であった。
そんな顔をしている。
東や南の公爵連中は、もう俺にケチを付けるどころではない御様子だ。
へっ、俺様の勝ちだな。
北の公爵ハリマオ様は笑っていたが、目がやり過ぎだろうと言っているようだった。
でも、あんたがこうしろって言ったんだぜ。
俺も笑いながら目でそう返しておいた。
料理はケモミミ園にも届けられていたので、子供達も満腹で轟沈している頃だろう。
彼ら御腹いっぱいに御馳走を詰め込んだ賓客達は、ゴーレム達に助け起こされながら、それぞれの客室に向かって消えていった。
俺も、御腹いっぱいでとっくに白河夜船のレミ坊を抱えて、同じくファルを抱えたシルと一緒に寝室へ向かうのであった。
この俺が領主を務める街は、主神ロスの名から取られ「神々の晩餐」という意味でアドロスという名を受けたが、永きに渡り貧困に喘いでいて、神に見捨てられた土地とさえ呼ばれていた。
だが今や、この国の王さえも息絶え絶えになるほどの晩餐が繰り広げられる街となった。
かくして俺の公爵生活は、その旅立ちの船出において、なんとか上手に帆を張る事に成功したらしい。
エリーン「いやあ、幻のトカゲ、無茶苦茶美味しかったですよ。でも、あれの肉も美味しかったですけど」
アルフォンス「あれ? あれって何だっけな」
エリ-ン「ほら! 今度出る本の外伝で、私が活躍したあの話に出てくる奴ですよ」
アルフォンス「あれかよ。活躍って、お前……」
というわけで、7/10発売のおっさんキャンプ。読みきりはエリーンさんがメインで活躍するお話です。宜しかったら、どうぞ。
ダンジョンクライシス日本
http://book1.adouzi.eu.org/n8186eb/
こちらもよろしくお願いいたします。




