表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/1334

3-10 Sランク

 俺は王都冒険者ギルドのギルドマスター執務室で、光輝くSランクの冒険者カードを当日すぐに受け取った。

 虹色のかかった光沢を持つそれは、魔法金属とかではないが特別な錬金素材で出来ている。

 それは、この魔道魔導の都アルバでなければ作れない物であるらしい。


 アーモンは、この滅多に出さないだろう特別な冒険者証を、俺を信じてもう用意してくれてあったのだ。

 なかなか粋な真似をしてくれるもんだ。

 思わず胸が熱くなるな。

 その信頼には、きちんと応えたぜ。


「お前は、これからどうする」


「予定通りさ。

 とりあえず屋台を始める。

 これで、あの借金取りどもが諦めてエリの一家に手を出さないならよし、手を出すなら潰す。

 どの道、エリ一家が借金しているのは確かな事なんだ。

 さっさと借金を返させて、これからの生活の目途も立てさせたいし」


「ふむ。

 ところで上級ポーションを定期的に出さないか」


「へえ。

 そいつは助かるけど、あれは出したら駄目なんじゃないのかい?」


 俺は芝居気たっぷりに目を見開いて言った。


「いや、もうここまで来れば大丈夫だろう。

 バラまいた関係の貴族は、お前が健在な方が自分の利益になるからな。

 いざとなったら味方をしてくれる公算も大きい。

 それにAランク試験で、あれだけ派手にやったんだ。

 もう今さら表立って手を出してくる馬鹿もそうそういないだろう」


 さすがはギルマス、色々と考えてくれているんだな。

 それで魔法をフルに使えるような助言をくれていたのか。

 決勝相手の彼の御蔭で、それも最大限の効果を発揮してくれた。

 改めて彼の偉大な魔法使いに感謝する。


 じゃあ、ここは一つ御言葉に甘えるとするか。

 これから金はいくらあってもいい。

 色々な事をやれるからな。


「ああ、そうしよう。ありがとう」


 俺はそう言って、とりあえず二百本の上級ヒールポーションを取り出して渡した。

 取引した金はギルドに預けておく事にした。


「あと、まだドラゴンを二頭持っているだろう。

 あのドラゴンの引き取りの希望が出ているがどうする?」


「先にアントニオの奴に聞いてやってくれ。

 あいつの分をずっと預かったまんまなんだ。

 俺のドラゴンは、まだ持っていたい」


「別にいいが、そんな物を何に使うんだ?」


「あれをドカンと並べてやると、馬鹿を脅すのに非常に効果的だ。

 キメラで味を占めたからな」


 ちょっとドヤ顔で言ってみる。

 まだ肝心の大掃除が残っているんだよ。

 大量に作っておいた『コピー品のドラゴン』は、出したらきっとマズイだろうしなあ。

 またそんな物をどこで狩って来たとか言われちまうのがオチだろう。 


 まあ当分の間はドラゴン・ステーキなんかには不自由しない。

 個人的には日本から持ち込んだ和牛サーロインやミスジなんかが好みなんだが。

 異世界へはシャトーブリアンを持ってくるべきだった。

 あれは炭火焼にすると最高なのだ。

 今度「魔物シャトーブリアン」でも開発するか?


「まあ、それならそれでいいけどな」

 

「じゃあ帰るわ。

 しばらくアドロスにいる予定だ」


「わかった」


 エリ達との話し合いの結果、最初の屋台はドーナツとチュロスで行く事になった。

 子供が高温の油を扱うのはどうかなと思ったのだが、これは絶対にウケるとエリ-ンが熱弁を振るったのだ。


 まあ、こいつがそこまで言うのなら、それでやってみるか。

 確かに地球でも大人気の商品なのだ。

 念の為、火傷に備えて超威力のポーション類はエリにたくさん持たせておいた。


 屋台設備も暇を見てバッチリと作成済みだ。

 俺って、こういうマイペースでやれるチマチマした仕事は大好きなのだ。


 チュロスの型にする星形っぽい形の口金も作ったし、クリームドーナツも完成している。

 この世界の素材でカスタードクリームも作成したのだ。

 レシピを元にそれを作ってくれたのはエリなのだが。


 御蔭でエリーンは大狂喜している。

 これで万が一、俺がいなくなってもシュークリームをたらふく食べられそうだし。


 まだ屋台関連を始めたばかりなので、念のため別のCランクチームも護衛に手配しておいた。

 彼らには、おかしな動きを見かけたらすぐ報告するように頼んである。



 翌日、ダンジョン前の広場で屋台を設置して商いを開始した。

 屋台にはライトウエイトの魔法を付与した魔石を組んであるので、それをスイッチ一つで発動させればエリのような子供一人でも楽々引ける。

 新しい屋台を物珍しそうに人々が遠巻きに見ていた。


 そして、俺は『幟』を立てた。

 バンンガローの土台に使われていた材料をアイテムボックスで加工して、コンクリート製の幟を立てる台を作成したのだ。


 よくドラッグストアやコンビニなんかで、たくさん並べて使っているアレだな。

 縦書きの旗で、こちらの文字でドーナツとかチュロスとか書いてある。

 そして集まった人々に試食品を配った。


 ポールとマリーも御配りを手伝った。

 この日のために衣装も用意したのだ。

 なかなか可愛らしいぞ、お前ら。


 エリとリサさんは準備をしている。

 万が一材料が足りなくなったら、アイテムボックスから在庫を出せる。

 俺がいればコピー出来るから商品切れは無い。

 でもいつかは俺も手伝えなくなる。


 しかし重曹だけは困ったな。

 あれは地球で、普通にどうやって作っていたんだろうな。

 化学的な製法で作っているはずだから、この世界でも錬金道具で作れるはずなのだが。

 あれもそう複雑な物質ではない。


 今は持ってきた物をコピーしているだけだから、よくわからん。

 重曹はキャンプであれこれと有用な品なので大袋で持ち込んではいるのだが。


 ネットで重曹の作り方を見ても、アイテムボックスの能力抜きで実際に一から作れといわれると困る。

 ベーキングパウダーは重曹があれば、この世界の材料で何とか作れる。


 とりあえず今は、材料を全部俺が用意している。

 ベーキングパウダーも、地球の食い物から分解して作った素材なんかもある。


 試食品の評判は上々だった。

 その場で商品を買っていってくれた人も大勢いた。


 この世界での材料や人件費から計算して、将来の事を考えて商品は一個銅貨二枚で売った。

 税金も払わなくちゃいけないしな。


 屋台の場合、商業ギルドで支払う場所代が一日で大銅貨二枚だ。

 それで代官名での営業許可証が出る。

 屋台は零細業者だし、売り上げの把握も面倒だ。

 場所代の支払いは一律だが、売り上げが少ないと材料費・燃料代なども相まって赤字になる。


「おい! 誰に断って商売してやがるんだ?」


 藪から棒に強面のタイプが声を荒立ててきた。


「御代官様だ」


 だって本当の事なんだから、しょうがない。


「なんだと、ふざけるな。

 このあたりの屋台は皆俺が取り仕切っているんだぞ。

 ショバ代を払え!

 一日大銅貨五枚だ」


 ほう。

 それは面白いことを言うなあ。

 俺はそいつにニコニコと笑いながら近づき、目にも留まらぬ速さでアイアンクローをかまし、そのままぶんっと人のいないあたりへ投げ飛ばす。


 そしてドラゴンの首をドンっとそいつの目の前に置いてやる。

 もう一つのドラゴンの首も追加した。


「うひい~~」


 いきなり現れた血塗れの大巨獣の首に挟まれて、そいつは腰を抜かす。

 情けない野郎だ。

 弱い人相手にしか威張り散らしてこなかったからそうなるんだ。


「そのドラゴンは、ちょっと口の利き方がなっていなかったので俺が『躾けた』。

 お前も躾けがいるか?」


 ついでに反対側にも、血塗れの恨めしそうな顔をしたキメラの首を置いてやる。


「ひいいーー」


 そいつは、また情けない悲鳴をあげて逃げ出していった。

 やっぱりこの首は使える!

 もったいなくて売れやしねえ。

 まだまだ活躍してもらおう。


 できたら新しいのも欲しいな。

 北の迷宮の底にも行ってみるか。


 見ていたギャラリーの市民達も最初は驚いていたのだが、奴の腰の抜かしっぷりを見て大爆笑だ。


「やるねえ、御兄さん。

 あんたが噂のドラゴンスレイヤーなのか。

 Sランク冒険者なんだって?」


 俺はにっこりと笑って、キラキラと光る特徴的なSランクカードを見せつける。


「困るな、アルフォンスさん。

 雇い主のあんたが俺達の仕事を取っちゃ」


 そんな風に笑いながら、俺が頼んでおいた警備の冒険者が言ってくる。


「何、数は力さ。

 あいつらも諦めないだろう。

 もうしばらくの間は頼んだぜ」


 あれこれと凄い客寄せになったので、初日からエリの屋台は爆売れした。


 それから連日の大賑わいだった。

 警備は他の冒険者もいるので、もうエリーンも屋台へ投入した。


 こいつは案外と小器用で、そんな仕事もオールマイティにこなす。

 そこそこ美人で愛嬌もあるので、客の男共からの評判も悪くない。

 これで、あそこまで食い意地が張っていなきゃなあ。


 あいつらは、あれから見かけない。

 おそらくは様子見をしているのだろう。

 このままだと埒が明かない。

 やっぱり元から潰さないと駄目なようだ。

 後で俺のいない時なんかに、連中に出てこられても困る。



 異世界六十三日目。


 十日に渡って商いをやって、エリ達も金はだいぶ貯まった。

 そろそろ、頃合かな。

 俺は突然にアドロスの代官屋敷を訪ねた。


「こんにちは。

 私はSランク冒険者のアルフォンスです。

 貴族ではないが伯爵同等の身分です。

 代官殿に御目にかかりたい」


 俺は、こういう時にだけ使う得意の猫撫で声で頼み込んだ。

 代官に面会して、エリの家の利息の軽減の計算を御願いした。


 普通ならそんな事はやってくれないのだが、Sランク及びソロドラゴンスレイヤーWの威光と、人気者の王子を救った英雄のネームバリューで受けてもらった。


 代官によると、あの連中は以前から大問題になっていたようだった。


「あまりにも阿漕な商売をしているので、苦虫を噛み潰した顔で見ていました。

 王都の悪党貴族と組んでいますので、中々手も出せない。

 今回の件は渡りに船の話でもあります」


 それから代官や彼の武装した家来と共に、エリを苦しめていた借金取りのところへ乗り込み全員を捕縛した。

 抵抗したら俺の出番だ。

 へっぽこな腕前の剣など抜くまでもない。


 魔法もいらない。

 だがダンジョンの魔物達には活躍してもらった。


「それ、首首首のオンパレードだ。

 ほらほらほら、滅多に拝めるもんじゃないんだぜ~。

 ありがたく奉れや」


 そう言いつつ、そいつらを首の下敷きにしてやったし。


 超身体強化をして、自らが倒した血塗れの巨大な高ランク魔物の首を振り回す俺は、この界隈の悪党達にとって恐怖の代名詞となって語り継がれた。

 首狩りアルフォンスの伝説は長く伝えられたという。


 俺は、戦国時代に大暴れに暴れ尽くした日本一の首狩り衆の子孫が住む街からやってきたので、その呼び名もあながち間違ってはいない。


 ここぞとばかりに大はしゃぎして、心行くまではっちゃけさせていただいた。

 まるで一週間溜まった洗濯物を片付けたかのように無茶苦茶すっきりした。


 何しろ、あの日頃は口煩いギルマス・アーモンからも暴れてOKという許可を貰えている希少な案件なのだ。

 誰にも遠慮なんかしなくていいんだからな。


 スキルに物を言わせて、証文などの証拠書類を押収する。

 後は貴族と交わした覚書なんかも。


 この俺のMAP検索からは絶対に逃れられない。

 何度も何度もキーワードを変えて検索しまくった。

 し尽くした。

 そして全てを暴き出した。


 連中が不正に蓄えていた金も全て押収して、利息再計算の上で払い過ぎ分から元本を引いて、それを被害者に配分する事になった。


 まあ全部は戻らないのだが、そこは「お金が返ってきたら嬉しくありませんか?」という事で我慢してもらう。

 あまりにも暴利を貪っていたので、全ての人の元本返済が完全に認められた。


 代官は、もう長年の便秘が治ったかのようなスッキリした顔付きだ。

 悪党貴族が直に暗躍して代官はスルーされていたので、代官には全く実入りがなかったらしいし。

「悪徳貴族ども、ざまあみろ」とか思っているんだろう。


 俺はただ、払い過ぎの分を計算してもらうつもりなだけだったのになあ。

 どうしてこうなった。

 代官曰く。


「やるのなら、今回のように徹底的にやってしまわないと自分の方が危なくなります。

 私は貴族でもなんでもありませんので。

 アルフォンスさん、あなただけが頼りです!」


 今回の発端を作った立役者としての役得で、エリ達の分は先に計算してもらった。

 都合銀貨三十枚が返ってきたので、エリ一家も嬉しそうにしていた。


 証拠書類はもう、途中でもみ消されないようにルーバ爺さんを通して国王陛下へ直に送りつけたのだ。

 阿漕貴族共の所業が詳細に証拠付きで明るみに出て、はっきりとした数字で訴状が上がってきたのだ。

 王国もついに重い腰を上げて処分をしないわけにもいかなくなった。


 俺を盾にしたアドロスの正式な執政官である代官から、第三王子付きであるルーバ爺さんを経由して国王本人に対して証拠を突き付けられたんだからな。

 誰にも言い逃れなんかさせないぜ。


 子爵家三、男爵家十が、この地から永遠に消えてなくなった。

 当主などは処刑されたらしい。

 アルバトロス王国の貴族社会には、かつて無いほどの激震が走った。


 伯爵以上の上級貴族は概ね歓迎ムードだ。

 分不相応な暮らしを望んでいた者達が、王国貴族の名誉を貶めていたのだから当然の処置であると。


 子爵以下は震え上がり、明日は我が身かと観念した。

 もちろん下級貴族にも清貧を尊ぶ人間も少なからずいるので、全ての下級貴族がそうではないのだが。


 アドロスで悪事を働いていて、今回たまたま粛清を逃れた者などは皆戦々恐々だ。

 彼らは証拠を残さないように、そっとアドロスから撤退していくのだった。

 もうこれからは、こんなに実入りの良い裏ビジネスにはありつけまい。

 悪徳貴族ども、ザマア。


 この国の貴族社会に俺の悪名が雷鳴の如く鳴り響いた。

「貴族殺しの竜殺し」だとよ。


 いやあ、本望本望。

 だが、それでアドロスの貧しい人達が救われるわけではない。

 問題がすべて無くなったわけではないのだ。

 その場しのぎの手段が無くなって生活に困る人もいるかもしれない。

 でもエリの家みたいに、借金する前よりもずっと貧乏になっていたら話にもならん。


 色々と考えて、「何か仕事を創出出来る内容があれば」という話を代官としてみた。

 それに関しては悪くない反応が返ってきている。

 まだ具体的な話は出ていないが、行政のトップが前向きなのは決して悪い事じゃない。


 そして今この世界には「インターネット」の力があるのだから、その辺りの話は地球から何かネタを貰えば、きっとなんとか出来る筈なのだ。


 とりあえず、この無頼の異邦人を受け入れてくれた愛すべき異世界のために、俺に出来る事を何かやってみたいな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
もう、竜の首の使い方が雑~~ww(;^ω^)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ