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59-4 内覧会準備

 そして、いよいよ大宮殿が完成した。

 エルフさんやドワーフが大挙して訪れていたので、この巨大な離宮にしては信じられないような速度で細部まで完成していった。


 更に人足として大量のゴーレムを投入している。

 どいつもこいつも人間重機みたいな奴らだし。

 もっと正確に言うならば人型重機なのだが。


 そして公爵邸のエンブレムが出来上がったので、記念式典を取り行なう事になった。

 式典にはエンブレム製作に尽力してくれた親方御一行とバルドス、離宮の住人になる使用人の人達と、王家からはミハエルが来てくれた。


 エンブレム埋め込み式の開催だ。

 これは新公爵家にとり非常に重要な儀式らしく、必ず王子など王家の立会人が必要だそうだ。


 炎の鷹。

 俺の爆炎のエンブレムが、そのままグランバースト公爵家の紋章となる。

 俺も武に負けないように、この異世界に色々と逸話を残すとするかな。


 俺自らがそれを受け取りフライで飛び上がると、前エンブレムが外された台座の跡を魔法で丁寧に整えてから嵌め込んだ。


 魔力でエンブレム裏側の分子そのものを土台となる石板に結合して、それはもう強引に魔法接着して完全に一体化させたので、こいつはもう普通の方法では剥がせない。


 自己修復機能も組み込んであるので、この世界に魔素ある限り、この魔力結合が緩む事はない。

 アルバストーン(船橋コンクリート)から応用してみせた、そういう特殊な再生機能も組み込んであるのだ。


 分子の概念を知らない魔法使いには決して取り外す事が出来ないのだ。

 万が一、このグランバースト公爵家が滅んだ落日には、下のアルバストーンの台座ごと取り外してもらおうか。


 シルの侍女筆頭であるシェルミナさんも、これで一安心といった感じだ。


「この公爵邸こそが、公爵家の顔と言うべきもの。

 ここを疎かにするなどという事は絶対にあってはなりませぬ。

 本来ならば、主様にもこちらに住んでいただかなければならないのですが、これさえ整えていただければ姫様の面目も立とうというものです。

 そして、この紋章こそは公爵家そのものを表す大切な物なのです。


 あと立派な離宮も建てられていますしね。

 小国であれば、あれでも本宮としても見事に通用するでしょう。

 いえ、それ以上の代物です」


 彼女も、かなり満足してくれた御様子だ。

 多数の精霊達が管理する美しい庭園を持つ離宮は、少し厳しめな侍女さんの心の琴線にも触れたようだ。


 最初のがっかり感からのギャップで、余計に感激されたかもしれない。

 なんというか、悪だった不良がいい子になると、却って普通の子よりも高い評価を受けるみたいな感じだろうか。


 稀人の国にある素晴らしい宮殿を模したというのもポイントが高いのだろう。

 それは他の公爵家には絶対に真似が出来ない芸当なのだ。

 当然、彼女達侍女や他の使用人も鼻が高い。


 そしてミハエルからも合格をもらった。


「上等だ。

 これだけの物を、この短期間に作ったという事は逆にポイントが高い。

 あの状況で突然結婚させられたのだから、仕度なんて出来ていなくて当然だ。

 単にイチャモンがついているだけの話なのだから。


 そうであるにも関わらず、お前はあれだけの離宮をあの勢いで造ってしまえるのだからな。

 他の公爵家の人間なども見にきていた。

 あれらは家宰クラスの重鎮だったはずだ。


 あれは、それらの作業を直に見て、お前という人間を測ろうという事だからな。

 各公爵家の重鎮が見に来ていたはずだ。

 諸々、これだけの物を作り出せる稀有な人脈がある事を見せつけた訳なのだし」


 ゴーレム隊がてきぱきと精霊族謹製の調度を出来上がる端から設置し、一部屋終わると侍女さん達の細かいチェックを終え、駄目出しが出たところをゴーレム達が修正していく。


 建物本体や固定設備に不具合があった部分に関しては、俺自身が出向いて調整していった。

 じゃんじゃん作業を進めていくぜ~。


 原型は趣味の悪いギンギラギンな建物ではなく、地球にある幾多の国からやってきた観光客の皆さんから「最高!」と御墨付きを頂いている代物なのだ。


 なんたって元は広大なスペースを誇る世界遺産なんだぜ。

 こいつはその中でも、間違いなく、かなり上級のものに分類される立派な宮殿だろう。

 いわば一流ブランドの宮殿なのだ。

 三星宮殿といったところか。


 そして中庭の外壁に壁画を描いてもらうために、ブラウンゴブリンの芸術家達を招いた。

 その他邸内の部分にも描いてもらう予定だ。

 彼らも皆、口々に褒めてくれた。


「公爵様、これは素晴らしい。

 これは異世界の建物を模した物なのですか?

 派手すぎず、それでいて品があり、とても美しい。

 確か、異世界ではこう言うのでしたね。

 ワンダフォー!

 ビューティフォー!」


 しばらく庭園を眺め、館を見定めながら、じっと思案するブラウンゴブリン達。

 今、彼らの芸術魂は熱く燃え盛っているのだろう。

 今度ベレー帽でも作ってプレゼントしておこうかしら。


 他には、レリーフを館内の壁に多数飾ってもらう予定だ。

 そう。

 この館は、ロスコー分館とでもいったような立ち位置になる。

 招待された人だけが入る事を許された、選ばれし者だけの空間だ。


 王都にあるコピー品のロスコー美術館などではなく、シルのためだけに作られた専用の一点物として、ブラウンゴブリン達の手により制作された作品ばかりが飾られる。


 彼らは、義憤により邪まな人間から彼らを助け、また彼らが憧憬を抱く稀人でもある俺に対して、並々ならぬ親愛の情を抱いてくれている。


 なんというか、もう稀人冥利に尽きるぜ。

 この離宮は既に美術館として独り立ちできるほどの内容となっているだろう。

 まあ、うちの子達は好き勝手に中を走り回るだろうがな。


 後の世には、多くの市民が訪れる元大公爵家の離宮として解放される事になるだろう。

 そういう事も申し送りとして子孫に言い遺しておくか。

 さしずめグランバースト公爵家開祖たる大魔王の遺訓っていうところかな。


 そうこうする内に、ブラウンゴブリン達は我が家の外壁へ絵筆によって刻み込んでいった。

 炎のように揺れ、波のようにさざめき鳥のように羽ばたく、彼らの魂そのものを。

 それが我が家の中庭の外壁いっぱいに素晴らしい筆致で刻まれていった。


 それらは製作中も魔法によって風雨から護られ、そして完成部分は随時、永く彼らの作品を守護してくれていた『御爺ちゃん』のドラゴン魔法によって超強力な状態保存の処置を施されていった。


 たくさんのブラウンゴブリンが来てくれていて、共同で作業に赴いたり、ゴーレムが御手伝いして高いところを描いてもらったりと忙しく立ち働いてくれている。


 中庭の真ん中には芝で我が家の紋章が描かれ、その周りの空間では、屋外用のレリーフに取り掛かってくれているブラウンゴブリン達がいた。

 彼らには、俺が丹精込めて作り上げた素晴らしい道具を与えてあるので、それらを用いて最高の物を作ってくれた。


 中庭を囲む建物の外壁に描かれた壁画も、稀人文化に触れて生まれた最新の「モダン・ゴブリン様式」で描かれている。


 これについてはブラウンゴブリン達の間でも激しい論争があるのだが、結局は古き伝統は守りつつも、新しい感性の芽生えを摘んでしまうのは良くない事であるという結論に達したようだ。


 今から百五十年くらい前の、日本文化による影響を受けたヨーロッパの芸術家みたいな感じなのかもしれない。

 ジャポニズム・イン・ディファラントワールド!


 ロスコーでは伝統派が主に活躍し、尚且つその外の都市においては新たな芸術スタイルにも芽を向けると。


 今回は、そのモダン・ゴブリン派の若いゴブリン達を中心に、多数のブラウンゴブリンが手を尽くしてくれているのだ。


 この中庭を囲む外壁は一辺が五十メートルほどある。

 それが三辺あり、高さは十メートルほどが、この壁画のために供されていた。


 約千五百平方メートルにも及ぶ芸術ゾーン。

 その中には、彼らの間に一千年伝わる恩人たる救世主、初代国王船橋武を英雄として描いた物もあった。


 なんというか、その製作している姿そのものが一つの芸術であるというか、異世界の人間である俺にとっては、まるで映画のワンシーンのようにも見えるのだ。


 よし! 決めた。

 この製作風景そのものも「内覧」していただくか。

 その旨を皆に知らせると、最初は大変驚いたようだったが、意外と賛成してくれた。


「そういう趣向も面白いな。

 お前らしくていいじゃないか」


 ミハエルが、そう高く評価してくれた。


「そのような催しは、他の公爵家や貴族家ではやれませんものね。

 姫様の名声が更に高まるのではないでしょうか」


 離宮の重鎮たるシェルミナさんも大変満足な御様子だ。

 この人のツボはここか!

 割と得意分野で助かったぜ。


 後は少々やりすぎた時とかに、いかにこの人からの「御小言」を回避するかだな。


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