58-1 ゴーレムの日々
俺は朝から別荘用のパーツ作りに忙しい。
傍で斉藤ちゃんが欠伸を噛み殺している。
何故こいつが俺の傍にいるかというと、俺の護衛というか何でも対応する係なのだ。
さしずめ、生き物係ならぬ魔王係かな。
なんていうか、最近やたらとごたごたしているので、あれこれと面倒な事とかもやらせるために傍に置いている。
それに、昔いきなりニールセンに殺られかけた事もあるし、この世界は油断大敵なのだ。
この世界では結構魔法を封じられたりする事なんかもある。
自分のために命を張ってくれる不死身の連中が一緒にいてくれるのは嬉しい事だ。
なんていうか、この斉藤ちゃんは個性豊かで面白い奴なのだ。
ゴーレム自体が全体的にそうなのだが、斉藤ちゃんは妙に殊更人間臭いというか。
別に俺がわざわざそういう風に作ったわけではないのだが、こういう奴の方が傍において退屈しない。
ゴーレム達は妙に個性を主張する。
犬や猫だって一匹一匹性格が違うのだ。
基本的に、うちのゴーレムは量産コピーで作られた物で元は同じ物に過ぎない。
最新型は真理の魔核を解析して作った劣化コピーに過ぎないのだ。
だからゴーレムどもはみんな、真理の事を「御母様」と呼ぶ。
俺の事はマスターと呼ばれるが、魔王様と呼ぶ奴もいる。
俺の呼び方とかも、この前の近藤みたいに特に指定しない限りは、それぞれが好きに呼んでくれる。
ロールアウトした瞬間に個性のような物が生まれるのだ。
何故なのか、それは作った俺にもよくわからない。
元の魔核を創った武なら理由を知っているのだろうか。
ランダムにそうなるよう術式が組まれている可能性もある。
あるいは案外と知らないのかもしれない。
多分、あいつは俺みたいにワラワラとゴーレムのような物を作ったりはしなかっただろう。
もしかしたら、魔導ホムンクルスとして真理を作っただけかもしれない。
魔核にも改良も加えてみるが、それでまったく違う別のゴーレムになってしまうわけではない。
持って生まれた魂は不滅だ。
武はオーダーメイドで逸品を作っていたようだ。
俺は型で抜くような感じにスッポンスッポンと大量生産しているだけだ。
想像してみよう。
工場から出荷されてくる規格品の家電や道具なんかが、まるで一人の人間であるかのように個性豊かに振る舞う様を。
家電の中には喋る機能を持っている奴もいるしな。
製品ナンバーを伝えて、その事をメーカーに問い合わせたりすると、担当者が頭を抱えるのに違いない。
そういう時って同じような案件が山盛り集まるだろうからな。
昔あった自動車での騒動がそのような物だった。
こういうものは、やはり魂とでも呼ぶべきものなのか。
この魔法の世界がファンタジー世界だから、そういう物が生まれるものなのだろうか。
製作者にさえよくわからないもの、それがゴーレムの魂。
この世界に来て以来、最も俺の興味を引いたものだ。
シルにも訊いてみたが、よくわからないらしい。
「こんなに精密で人間臭いゴーレムの話などは聞いた事もありません。
真理さんの事も、それほどはっきりと伝えられてはいません。
彼女の存在が明らかになって以来、『初代国王が彼女を守るため意図的に王国史から抹消したのでは』という歴史家による研究もされているようです。
初代国王様が彼女に例の指輪を預けていましたしね」
普通は土くれや岩からゴーレムを作り出して戦わせる「ゴーレムマスター」の能力が知られているようだ。
だがそれも人型をして命令を聞くというだけで、動きものろいためフェンリルのような強力で電光石火の動きを見せる相手には容易に倒されるという。
うちの子は魔道鎧を着込んでオリハルコンやベスマギルの剣を振るい、MIRVで上級魔法を撃ち込める。
それ以上の力も与えてあるのだ。
たかがフェンリルなんぞに遅れを取るような間抜けな奴は一人だっていやしねえ。
日頃は、「やあああ」「とおおお」とか言いながら、その辺で拾った木の枝や箒なんかでチャンバラごっこをしているような緩い奴らなのだが。
そして混ざってくる子供達にパコスカにやられて「うっわー、やられた~」とかやっているから、うちの子達からも見事に御友達認定されている。
特に斉藤ちゃんとか沖田ちゃんなんかがそうだ。
お前ら、一応新撰組の剣豪から名前を取っているんだからな?
そういや超強力な剣士であった長倉新八がいねえなあ。
斉藤ちゃんは俺の作業を見守るのに飽きたのか、風船ガムを噛みながらスマホゲームを始めた。
これでいて、別系統ではきちんと警戒モードを実施している。
魔核は複数のコアで作業を実施しているのだ。
沖田ちゃんはケモミミ園の中に植えられているドライアドが育てた大木の上で、まったりと御昼寝を楽しんでいるようだ。
個性や感情が豊かなだけあって、彼らも精神的に疲れる事はあるようだ。
結構睡眠を好む者が多い。
いざという時には寝なくても全然大丈夫なのだが。
沖田ちゃんも、子供達が遊ぼうといって誘うと起き上がってくる。
別に子供の遊び相手として作ったわけではないのだが、今ではそれも充分に有意義な仕事になっている。
地球のSFやコミックなんかにも、家政婦というか子守りをしてくれるロボットはたくさん登場するよな。
あるいは、不眠不休こそがゴーレムの本懐! などと叫び、絶対に眠らない主義の奴もいる。
山崎がそうだ。
局長扱いの近藤なんかは、詰め所で胡坐をかきながら、よく転寝しているっぽいのだが。
土方もあまり眠らない。
サボっている隊士を探しては気合を入れていくのが趣味の奴なので。
よくサボリ魔の沖田ちゃんと追いかけっこをしているのが、ケモミミ園における新しい風物詩だ。
秋山は趣味の拷問に関する研究に余念が無く、ネットで日々探求しているので寝るのをつい忘れるらしい。
まあ、あいつらは無理に寝なくてもいいんだけどな。
あいつが拷問について調べている時の恍惚とした表情は実にキモイ。
まあいざとなったら、その研究成果は遺憾なく発揮してもらうわけなのだが。
新撰組幹部の連中は、セーフハウスと幼稚園の間に作った新撰組詰め所にいる。
二つの建物に跨るような感じで『貼り付けてある』のだ。
空間魔法を使って内部は拡張しておいた。
もっとも、沖田みたいに常時いないような奴とか、斉藤みたいに俺付きになっている奴とかはいるのだが。
斉藤ちゃんは新しい事や楽しい事を探すのに余念が無い。
その割に飽きっぽかったりするのだ。
だが、俺の心を捉えて離さない物語もある。
そう、あれは忘れもしない、あの日。
俺がニールセン邸へ乗り込んでいった日の事を。




