57-3 初夜
夜はファイヤーダンスのショーだ。
バリ島とかで、こういうディナーショーをやっていなかったかな。
うちは不燃性のゴーレム達がやっているので、結構過激なのだ。
舞い散る炎が目まぐるしい。
火の粉が、まるで空中高速蠅写真スカイフィッシュのように軌跡を描いていく。
いかにも南の島にあるリゾートといった感じのメニューだ。
プレートに載った料理はリゾート料理な感じで、いかにも南の島の物といった趣だ。
ビールを注いだグラスは、俺がドワーフの工房に篭りきりで作り上げた高性能なグラスだ。
グラスの汚れを常に落とし、ビールの泡立ちを助けてくれる特別な魔導表面処理がなされた魔法のグラスなのだ。
いつか、この二人に結婚祝いとしてプレゼントしてやろうと思って、帝国の紋章を親方に彫金してもらった逸品なのだ。
それがまさか、こうして一緒に楽しむ事になろうとはな。
やがてショーも終わり、皆それぞれに部屋に戻った。
小粋なバーもあるのだが、今晩そこを利用する者は多分いないだろう。
うーん、ちょっと困ったな。
ゴーレムが世話を焼いて、シルが御風呂に入っている。
なかなか出てこないのは、なんていうか「アレ」の準備のつもりもあるんだろう。
うーん、色々と説明しておくべきだったか。
特に稀人の国の結婚に関する法律などについて。
でも、いきなりだったからなあ。
だが俺の困惑とは別に、シルが風呂から上がってきた。
おそらく素肌にガウンを羽織っただけという姿だ。
「御風呂、お先です。じゃあ待っていますから」
待っているんだ!
そうだよな。
千年来の公爵家が、あんな酷い形で消えてしまって。
その後、新たな千年を継ぐ家の跡継ぎを産むのが、彼女の王族としての使命なのだ。
新しい稀人の血を、強力な魔法使いの血統を一族に取り入れる。
王家はそのために俺を家族として迎え入れた。
俺もあの人達の事は好きだ。
彼女は俺を合格と言ってくれた。
拒否したらきっと傷つけてしまうだろう。
俺もいつもよりは、かなり時間をかけてから風呂から上がった。
「えっへっへ。
旦那~、御世話しましょうかあ~」
とか言って、両手をにまにましながらやってきた斉藤ちゃんに強烈なデコピンを食らわせて、ゆっくりと一人で湯に浸かった。
だが心を決めて寝室に行った俺を待っていたものは、昼間はしゃぎすぎたのか、可愛い寝息を立てているシルの姿だった。
「やれやれ」
俺も今夜はゆっくりと寝る事にした。
「おやすみ、奥さん」
「旦那あ、残念でしたね」
枕元で斉藤ちゃんが、にやにや笑いを堪えていた。
「やかましい!(小声で)」
シルが寝ているんじゃなかったら、思いっきりハリセンをかましてやったんだが。
そして、日は昇った。
「きゃああ~、御免なさい~。
うっかりと寝ちゃっていましたー」
「あっはっは。
まあそう気にするなよ。
俺達はこの先ずっと夫婦なんだぜ。
うちは公爵家だ。
あいつらみたいに、王様だの皇帝だのをするわけじゃないんだから優雅なもんさ」
その代わり、毎朝子供達の面倒を見る戦争が待っているけどな。
なんか艶々とした感じの二つのカップルを尻目にシルが若干しょげていたが、俺は朝食を楽しんでいた。
この面子で、こんなにのんびりした日を過ごすなんて、もう生涯二度とないだろう。
「シル、朝御飯美味しいよ。
今日はまた楽しいアクティビティを用意してあるから」
そう、この子はもうすっかり御飯派だ。
船橋家は元より御飯派。
それを日本の真理さんに聞いて以来、あの王家の朝御飯は、御飯に味噌汁と相場が決まっている。
「日本人はパンじゃ力が出ない、米飯を食べないと」という話をしたので、騎士団にも米食が広まっている。
訓練に飯盒炊爨とカレー作りを取り入れたようだ。
俺が持ち込んだ美容に関する知識の中にあった、日本食の美容と健康への貢献について貴族の御婦人連中が凄い勢いで食いつき、いまや空前の和食ブームだ。
そして、この世界における和食の大家といったら、あの方しかいない。
山本さんは、今やアルバトロスにおいて貴族が招きたい賓客リストの一番上へ常に留まっている。
王宮厨房の調理人達は山本さんをこう呼ぶ。
「仙師」と。
この世界における伝説の一つに、とんでもなく素晴らしい料理人がいたという。
その人は黒髪黒目で、仕事には一切妥協せず厳しかったが、弟子達にはとても優しかった。
彼は仙師と呼ばれ、今ではそのレシピもほぼ失われてしまったが、いくつかは残されているという。
日頃から納豆を食べていなかった俺は持ち込んではいなかったのに、何故かこの世界には納豆があった。
それは絶対に稀人の仕業だよな。
異世界だろうがどこだろうが、まったく御構いなしなしに存在する納豆菌。
御飯を食べているうちに元気が出たのか、シルも観光に行く気になったようだ。
「今日のアクティビティはどんな奴なの~?」
「請う御期待。
今回初公開の代物だぜ~」
まあ、そいつは見ての御楽しみだ。
それは、いずれこの島で就航させようと思っていたグラスボートと観光用の潜水艦だった。
グラスボートは底がガラス張りになっている天然の水族館だ。
そして潜水艦もガラス張りで、地球では観光用に使っている奴だ。
まずはグラスボートから。
乗客を乗せて、少し沖へ出てから船を止めさせて船底へ降りる。
そこは、まさに竜宮城の世界だ。
ここはサイラスの南にある島、つまり地球なら沖縄よりも南に位置するはずだ。
美しい、人跡未踏の海中の楽園だった。
ここの珊瑚は、観光で痛めつけられた地球産よりも種類が豊富で色も鮮やかだった。
それは魚も同様で、なんとも息を飲む光景が広がっていた。
「いや、これは凄いものだな」
いつもは冷静なドランも目が吸い付いているようだった。
シルとナターシャ嬢は、ガラスにべったりとくっついて夢中になって観ていた。
「旦那衆、御酒でもいかが?」
俺はグラス片手に誘ってみた。
女性陣は酒を飲まない人ばっかりだ。
その方がいいんだけどね。
王族は付き合いで飲む人も少なくはないが、その辺の話もしてみた。
「ええー、そうだったの。
知らなかった」
「あはは。
よく考えてみろよ。
御腹の中で母親と繋がっているんだぜ。
体が未発達な赤ん坊に酒なんかを飲ませたらどうなるか、考えなくともわかる事さ。
それは脳の発育にも物凄く影響が出るからな」
立場ある二人の男どもは、それについて考えを巡らせているようだ。
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