57-1 グランバースト公爵家騎士団
そんなこんなで、とうとう俺は結婚した。
まったく実感が無いのだが。
当り前だ。
真面な結婚式じゃなかったからな。
俺は式を終えた後で子供達の頭を存分に撫でてから、王宮前広場からフライングパレスを発進させた。
もう機内には気心の知れた人しかいないので、俺はさっさと着替えさせてもらった。
シルにも換装機能付きのアイテムボックスを持たせてあるので、彼女も着替えていた。
さすがに今日はトレーナーを止めたようだが。
俺もジャージや作務衣は遠慮した。
俺はエルフさんが仕立ててくれたスラックスとボタン止めのシルクのシャツだ。
どちらかというと気楽なGパンの方が好きなんだけどなあ。
シルは光沢のあるピンクのプライベートドレスを着ている。
この五十年以上にも亘る人生で嫁さんなどというものがいるのは初めてなので、誠に以って実に妙な気分だ。
まあ相手は気心の知れた奴なので、いきなりでもそう気にはならないのだが。
「この飛行機っていう奴は通常に使える物なのか?」
ドランが訊いてくるので教えてやった。
奴にも俺と似たような服を着せてある。
着こなしは断然向こうが上なのだが。
「お前も魔法を使えるからわかると思うが、こいつは魔法が阻害されたりしていない時はフライを使用している。
フライという魔法は通常あまり使用されていない。
理由はコントロールの難しさと継続的な使用魔力量にある。
この機体が自由に飛べるのは、俺の魔力を無尽蔵に使っているのと、ゴーレム魔核を埋め込んである一種の飛行ゴーレムだからだ」
飛行魔法は制御のために莫大な魔力を食うのと、その難しい制御に人間の方が長時間耐えられないのだ。
センサー群で武装した最新のエアコンを動かすスイッチを入れた最初に起動した頃のイメージに近いだろうか。
やたらとスイッチの入り切りすると電気を食うのと同じで、制御関係だけで魔力を馬鹿食いする。
そうなると、いきなり空から落ちる。
大体、滞空時間は十五分程度が限界じゃないのか?
しかも、そこまで目一杯に魔力のリソースを注ぎ込むと、他の魔法が一切使えなくなってしまう。
普通は通常の移動のためには使われず、戦闘ないしは非常時の逃走用に使用される魔法なのだ。
俺の場合何ら問題なく使えるのは、飛行機械が豊富な世界から来たので空を飛ぶイメージが容易なのと、魔法の使い方がこの世界の人間と少し異なるからだろう。
魔力は豊富過ぎるほど豊富だし、そういう事情は全然知らないで自然体で使っていたけどな。
だって日本の小説やコミックの主人公とかは、特に苦労せずに普通に飛行・飛空の術を使えているじゃないか。
「なるほど、特殊な物のわけだな」
「いつか、この世界にも本物の飛行機が飛ぶかもしれないが、それが必ずしも幸福かどうかはわからないな」
幸いにしてこの世界には、通常は空爆などという恐ろしい物はない。
うちにも爆撃機はあるが、特にそいつを戦闘で使った事はない。
この今乗っている機体を作る前は王太子殿下の輸送に使ったくらいだな。
爆発物は使い勝手が悪いので、あまり使ってこなかった。
魔法の方が断然使い勝手がいいのだ。
爆発物も最初の頃は大いに役に立ってくれたけどな。
その御蔭で俺の二つ名は爆炎なのだから。
メルスで見つけた魔法のスクロール爆弾などという物もあったが、あれは威力が低い。
もっと威力を上げる方法もあるらしいが、それも技術が要るし、通常は意味をなさないのでそこまでやらないらしい。
物凄く手間を食うのだ。
この前の連中もそこまでやっていない。
つまり不意討ち用の奇策として、奇襲に使えればいいだけの物だった。
銃も魔法銃が便利な上に威力があるので、火薬式の銃器は魔法を封じられた時用に持っているだけなのだ。
まもなくブルーアイランドが見えてきた。
まさか、この俺本人がここへ新婚旅行のためにやってくる事になろうとは。
エアポートには係員が待機しており、ターミナルから乗降用のブームが伸びて来てドアと繋いでくれた。
地球でも見かける、辺鄙な空港での乗降やVIP客が使う時のための、車両による昔ながらの簡易式なタラップなんかも作ってあるが、日本から来た俺にとってはこの方が馴染みの物だ。
歩く歩道で進み、すぐにエスカレーターで下に降りる。
動く歩道や階段などにこの世界の住人は感心していたが、知らずにエスカレーターに乗ってしまったら、その辺の人なんかは大いにパニックするだろう。
それは階段ではなくて怪談レベルの話だ。
「綺麗な島ねー」
シルが目を細めて景色に見惚れていた。
「夏休みになったら、みんなで海水浴に来ようと思っていたんだがなあ。
その前に、こんな事になっちまった」
この島を飾ってくれる美しい砂浜は、ここで働くゴーレムさん達の献身的な努力の賜物だ。
アクセントとして、美しい光沢のある貝殻やヒトデに、海中で拾ってきたらしき綺麗な石がが散りばめられている。
俺達は送迎のリムジンに乗ってホテルへと向かった。
一回、ロドスの奴も連れてきておかないといけないな。
今度から正規の公爵ともなると、ここにて賓客をもてなさないといけなくなるような事態が発生するかもしれない。
あいつも夏には連れてくるとするか。
彼には早くケモミミ園の行事にも慣れさせないといけない。
うちの行事はあまりにも特殊過ぎる。
ホテルのVIPルームにあるテラスでのんびりしているとスマホが鳴った。
噂をすれば、そのロドスからだ。
ほう。
こんな時にわざわざ電話をしてくるという事は何かあったな。
なんとなく内容の察しはつくが。
「やあ、どうしたい?」
「はっ。
大事な御旅行中に大変申し訳ありません。
少し大切なお話が」
こいつの言う「大事な」という意味は、おそらく『御世継ぎ』とかの話だな。
おっと、そういう話もあるんだった。
今晩はどうしたもんかねえ。
「さては何かイチャモンがついたな。
今までは【名誉公爵】だったからそれほど言われなかったが、これが正式に公爵となるとな。
大方、シルを娶ってその座に付きたかった奴らもいるのだろう。
俺がいないのをいい事に、そいつらが騒いでいるのではないか」
「恥ずかしながら、まったくもってその通りにございます。
あれらは王都に危機が迫ったような時には逃げ出しておった癖に、こういう時だけは騒ぐのです。
陛下も一喝されておったのではありますが。
殊に【騎士団も持たぬ異界の田舎者】などと言い放つ者さえいて、陛下が怒り心頭でございまして。
私に即行で騎士団を編成せよとの仰せでございます。
資金は王国で御用意いただけるそうでありますが、如何にいたしましょう」
田舎者とは良くぞ言ったものだ。
俺は「大いなる田舎」たる名古屋地区から来たのだからな。
騎士団なんていう物騒な物も生憎と無かったよ。
せいぜい自衛隊駐屯地や空港併設の空自基地くらいのもんだ。
まあ守山あたりに自衛隊第十師団の本部くらいはあったがなあ。
「あっはっは」
俺の楽しそうな笑い声を聞いて、怪訝そうなロドスも声を曇らせた。
「笑い事では済まされませぬぞ、御館様。
最初が肝心、ここで軽んじられては末代まで祟りまする。
今すぐ各地より精鋭をかき集めて……」
「まあまあ、ロドス。
その話は帰ってからな。
俺の兵はいる。
誰よりも俺に忠実な奴らがな。
そしてシルの分は、これから【シルベスター騎兵団】なるものを編成する。
あと、お前に一つ頼みがある。
俺が帰るまでに思いっきり吹聴して喧伝しておけ。
帰ってすぐに、シルベスター騎兵団の観覧式を王宮前広場にて執り行なう、とな」
「は、はあ」
俺のやる事がまだよくわかっていない家宰は、なんだかわかったようなわかっていないような声を出していたが、まあそのうちにコイツもわかってくるだろう。
「それでは、そのように手配をいたします」




