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55-6 3つの僕(しもべ)

 俺はその足で、ミハエルの部屋へ飛んだ。


「おーすっ、ミハエル。

 はいこれ」


 俺はそう言って例のブツを渡した。


「ん、なんだ。何かの証拠物件か?」


 そう言って奴は渡された物を見たが、次の瞬間に目から火を吹いて怒った。


「これは、この間の五月病に撮った私の写真か!

 全部消しとけって言っただろうが~」


「うははは。

 よく撮れているだろう。

 で、こっちが問題のブツだ」


 ちょっとこっちを睨みながら、ハンニバルな王子様が例のスクロールを受け取った。


「これは!」


 途端に奴の目に剣呑な光が宿る。

 これは決して使ってはいけないものなのだ。


「これをどこで手に入れた?」


「こいつを持っている部隊を、ケモミミハイムとマウテニアの国境付近でたまたま見つけたんだ。

 今とっつかまえてあるよ。

 他にもいないか、現在周辺区域において盛大に山狩りをして捜索中だ。

 一体どこを狙うつもりだったものやら。

 かなり訓練された連中で少数精鋭部隊だった。

 ケモミミハイムに入られる前になんとか捕らえたが」


 ミハエルは考え込んだが、重々しい様子で答えた。


「おそらく王都の国王などの重要人物をやるつもりだったのだろう。

 それをやられると、また話が拗れる。

 ケモミミハイムにはこちらから連絡しておこう。

 よくやってくれた」


 ふふ、こういう絶妙なタイミングによって御都合主義的な事を引き起こすのが、セブンスセンスにとっては得意中の得意技なのでな。

 何しろ、この俺が何もする必要はないにも関わらず、勝手にこういう事になるのだから。

 まあそいつは敏腕なミハエルにも絶対に理解出来ないだろうな。

 そう、この俺以外の誰にも。


「連中は、明日あつら(明日あたり)、もうおっぱじめるらしいぜ。

 一応手は打ってあるけど」


「そうか。

 まあ、ほどほどにな」


 そいつは十分に心得ているさ。



 それからケモミミ園に戻って、明日のケモミミ園の警備はアルスに頼んでおいた。


「へえ、ついに明日始まるのかい?

 物騒だなあ。

 まあ園長先生の事だから、もうとっくに手は打ってあるんだよね。

 こっちの方は任せてよ」


 かつての故郷が組んだ相手なのだ。

 アルスも心中は複雑だろう。


 そして電話が鳴った。

 現場に戻った斉藤ちゃんからだった。


「どうしたい?」


「船なんですけど、やはり兵隊を乗せて出るみたいです。

 おおよそ大型船が二百隻。

 兵隊が寿司詰めで、五~六万人はいますかねー。

 陸路からの主力部隊と併せて、ケモミミハイム軍を挟み撃ちにするつもりのようです」


 そう来ましたか。

 じゃあ予定通りに『魔王海軍』の出番だな。


 それにしても、あの連中も結構船を持っていやがるもんだ。

 もしかして、いずれゲルスと組まずともロス大陸方面をやるつもりだったのだろうか。


「ああ、あっちは海軍部隊にやらせよう。

 そっちは予定通り本体の対応を頼む」


「はあ~い。

 ああ、腕がなるなー。

 ちょっと荒っぽくならないかな」


 うーん、なんて血の気が多いんだ。

 困った奴だな。

 まあやる気が無いよりはいいのだろうが。

 あの世にも物騒な壬生の狼たる新選組から名前を取ったのがマズかったのだろうか⁉



 この世界の船は近距離ならば、かなり足が速い。

 基本は手漕ぎかつ帆船なのだが、風魔法で帆を押し、身体強化で大型オールの漕ぎ手を強化する。

 生憎と俺のように馬鹿みたいな魔力量を誇る魔力の塊のような奴はまずいないので、そう長くは持たないらしいが。


 今回みたいに国境付近で本隊がぶつかる態勢の時にはそう距離も無いので、ああすれば一気に奇襲が決まる。

 だが誠に残念ながら、今回ばかりはそうはいかないのだ。



 もう船は出していくようだ。

 ケモミミハイムに、それを迎え撃つ海軍は無い。

 じゃあと言う訳で俺はポケットから取り出した『指令装置』に手をかけた。

 まあ只の無線装置だがな。


「あー、山田君、鈴木君、佐藤君。

 そろそろ君達の出番だ。

 宜しく頼むよ」


 とうとう虎の子の三銃士が出動する場面がやってきた。

 いやあ、こいつらを揃えるのにはマジで苦労したわ。


 俺は三銃士が待機している真上の空へ転移した。

 そして海の彼方を見つめながら待っていたが、やがて水平線上に奴等が現れた。


 押し寄せる猛速の魔法船団。

 いかにも異世界の戦争には相応しい雄姿であるといえよう。


 だが、そのスピードじゃ蚊が止まるぜ。

 地球ならばオーバーマッハで航空優勢や制空権を取りに行くのが現代の戦争だ。

 こんな雑魚どもは対艦ミサイルの餌食になるのがオチだな。


 まあこいつらなんか、一発一千万円くらいの安い魚雷でも十分か。

 しかも潜水艦から魚雷で狙えば為す術もないのだろうが、生憎と本日海中を進撃するのは潜水艦なんていう異世界において不粋に感じるような代物ではないのだ。


「やれ」


 俺は静かに命じた。

 そして俺の三銃士は水面下を凄まじい移動速度で進んだかと思うと、奴らの目前に大量の海水を吹き上げながら現れた。


「うわあああ。ク、クラーケンだあ!」

「馬鹿な、クラーケンが何で三匹もまとめて~」

「よりによって、こんな時に現れるなんて!」

「こ、こいつは大物だあっ!」


 水兵達がたちまち恐慌に陥った。

 いやいや、こんな時だからこそ現れたんだがね。

 どいつもこいつも、オーバー1000フィートクラスの怪物なんだぜ。

 俺の必殺コレクションさ。

 どうだい、十三か国連合さんよ。

 粋な計らいだろう。


「静まれ、静まれ、馬鹿どもが。

 奴らとて、不死身ではない。

 見ておれ、わしのサンダーレインを!」


 ゴツイ髭を生やした提督っぽい人が前に出て、なかなかのサンダーレインを放った。

 だが俺は言った。


「バーリヤっ!」


 俺は小学生のような声で掛け声をかけると、山田君・鈴木君・佐藤君達の体表面に超強力なバリヤーを張り巡らせた。


 これ、俺が子供の頃に流行った遊びなんだよ。

 元祖巨大特撮ヒーローの得意技だったのでねえ。

 ちょっと童心に帰ってみた。


 あれはこの世界の魔法でいうなら、バリヤーというよりもシールドっていう感じの代物だったのだが。

 まあ「障壁」という意味合いならば、あれでも間違ってはいないのだ。


 そして無常にも敵の大将が放った必殺の上級魔法は、俺が遊び同然で放った身体防護魔法に弾かれて、巨大魔物の体表面にて火花を散らしながら掻き消えていった。


 そして俺は彼らの面前に姿を現した。

 空中に浮かんで、文字通り目の前に。


「うおお、貴様は~」


「どうも、アルバトロスの魔王アルフォンスです。

 いかがですかな、うちの子達は。

 いやあ、大型クラーケンを探すのに苦労しましたよ。

 用も無いような時には勝手にしゃしゃり出てくるのに、いざ探すとなると、これがまた中々いないんだな」


 それを耳にした彼は、怒りのあまり俺に向かってサンダーレインを放ってきたが、その百倍くらいのパワーがあるサンダーレインを食らわせてかち合わせ、綺麗に吹き飛ばしてやった。

 目の前で炸裂したので凄まじい雷轟であった事だろうな。


 その威力たるや、天の怒りかと思うほどだ。

 それから光線魔法のメギドを数百発ほど海面に向かって撃ち込んでやった。

 むろん敵の心を折るために放った威嚇攻撃なので、敵船には掠らせてもいないが。


 神々しい光の柱が、神話の世界の出来事のように海面へと降り注いでいった。

 そのエネルギーで海は煮えたぎり荒れ狂ったので、船団は激しく揺れ動いた。

 俺はいつものケモチビ用の魔法を用い、敵兵が誰も海へ落ちないように配慮しておいた。

 この相手の心を折るためだけに放った「特殊効果」で死人が出るとマズイ。


 こいつは、かつてメテオレインと共に魔法演習場をガラスの園に変えた必殺魔法なのだ。

 僅かに掠っただけでも、この世界の木造船は易々と燃え上がってしまう。

 まるで人体が12・7ミリ重機関銃弾を翳められただけで、その衝撃により大ダメージを受けるように。


 かなり危ない代物なので実戦では使った事がないのだが、敵軍団への視覚効果はなかなかのものだ。


 ここは海の上なので、ウォーターウエイブやテンペストにトルネードなどの強力な天災型魔法は、海の持つ物理的なエネルギーを台風のように吸い上げて威力を増大させるから非常に効果的なのだが、俺の魔力でそんな派手な魔法を使ってしまうと一発で相手が全滅してしまう。


 水兵どもは震え上がって、その場で両膝を着き、武器を投げ捨てて降伏した。

 何しろ、それ以前に先頭の船数十隻は、クラーケンの触手に捉えられていて風前の灯の運命だ。


 船団が詰まっていて後ろの船も進めないし、前の方にいる船が下がる事も不可能だった。

 大体こんな木造船はクラーケンにかかれば、あっという間に触手の鞭の連打を食らって船団ごと木っ端微塵にやられてしまうからな。


 そしてクラーケンは強力な魔法も使う。

 だてにSSランクに指定されているわけではないのさ。

 それが、まさに海の暴君と呼ばれる由縁だ。

 こいつが一匹出るだけで、その海の通商路が完全に封鎖されてしまう。


 それが三匹もいる上に、魔王によって大強化されているのだ。

 いや、その上役の魔王が一番ヤバイんだが。


「ええい、馬鹿物どもが。

 怯むな、戦え」


 だが、提督も更に三発放った高威力のサンダーレインが虚しく露と消え、ついに魔力が尽きたようだ。

 唇を噛み締める提督の背後から情容赦のない言葉が武人を打った。


「もう気が済んだ~?

 あんまり手間をかけさせないで」


 提督は飛び上がって振り返ったが、そこには前方のマストに(もた)れた、地球の水兵服を着た女の子がいた。

 それは、この世界には本来なら存在しないタイプの軍服だった。


「な、何者だ。貴様いつの間に」


 だが、つかつかと踵を鳴らしながら近づき、気色ばんだ提督の顎を素早く掴んで黙らせると、彼女は名乗りを上げた。


「グランバースト公爵隷下、魔王海軍所属の山崎一尉だ。

 諸君らは既に我々の捕虜だ。

 逆らうのなら、そこのクラーケン三人衆、山田三尉・鈴木三尉・佐藤三尉が相手になるぞ。

 ああ、御希望なら魔王様も御相手してくださるようだが」


 お前ら、魔王海軍なんていうものを何時の間に作った。

 俺が自分でそういう事を言う時は、ほんの冗談なのだがなあ。

 そんな物騒な物を無許可で作るなよな。

 それにクラーケン共が何故か尉官になっているんだが。


 山崎ちゃんってば好き勝手にやっているな。

 まあいいか。


 この子は髪を後ろに纏めて、切れ長の目をした気合の入った子だ。

 当然この名も新選組由来で、そのポジションは海兵隊相当だ。

 だから今も敵艦に乗り込んでいる。


 それを聞いてがっくりと膝を付き、さしもの提督もついに御縄を頂戴した。

 他の連中はゴーレム部隊が既に制圧済みだ。


 この提督はたいしたもんだ。

 なかなかの威力のサンダーレインを五発もぶっ放した。

 稀人子孫で元Sランク冒険者であるギルマスのアーモンだって、でかいサンダーレインを十発くらいがいいところだって言っていたのに。


 やがて俺の作り上げたエセ護衛艦隊が姿を現して、敵の乗組員は呆然として巨大な鋼鉄作りの帆もない船を眺めている。

 これらの船って元々は蟹漁船の護衛用に作ったものなんだが、戦でデビューしてしまった。

 普段はゴーレム達が漁をしているアルバトロス北方の海でパトロール航海をしている。


 五隻の鋼鉄(オリハルコン)の船が、次々と敵船に接舷して捕虜を収容していく。

 中は携帯空港と同じような拡張空間になっている。


 それが空間魔法の檻となり、自力では逃げられない。

 水兵服を着たゴーレム達が楽しそうに捕虜をひったてていった。

 幸いにして今回はむさ苦しい男の裸は見ずに済んだようだ。


 これから尋問タイムなのだ。

 後で言い逃れができないよう、しっかりと言質を取るために。


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