表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

324/1334

55-4 仁義無き同盟

 街道沿いに色々見てみたが、やはり慌しい空気に包まれている。

 特に自国がケモミミハイムへの陸路を押さえる形になっているせいで、主な兵站を担当する事になったマリノでは商人の動きが激しい。


 気の早い国は、もう既に尖兵となる軍勢を送り込んできているようだ。

 宿はどこも満員で、提供された宿営地に簡易な営舎を作っている者達もいた。


 商人も宿を確保するのが大変で宿代が高騰していた。

 こういう事は世界は変われども、いずこも一緒だな。

 旅行するのならシーズンを外すに限る。


 特にマリノから国境を接する、マウテニア・ボルトン・バーグの積極派三か国は活発な動きを見せていた。


 その一方で、上手に立ち回ろうと画策している裕福な海運国ホープは、準備はしつつも他の奴らの御手並み拝見といった感じだ。

 ホープは上手い事いけば、マリノと同じく半ばこっちに付く可能性もあるな。


 このホープという国は経済活動が活発な西海岸側に位置し、その上ひよこ大陸の左角を取るという、北にも東へも足を伸ばせる地理的に非常に有利な位置取りとなっており、十三か国連合に所属する海運国の中でも一番の大国に相当する。


 囲碁で言うと、いかなる勝負においても『九つある星すべて並びに、四方の隅っこの残り各八個ずつの四十一個』を最初から全部取らせてもらい、その状態からしか絶対にゲームを始めない、自分に有利でない勝負には最初から乗らないような真似ができる反則国家なのだ。


 聞いた話では、更に油断すると自分の色の石が何故か向こうの倍の数があったり(白黒合算した石の総数は正規の数と変わらない状態で)、また自分の石を入れる容器の中に、これまた何故か既定の数だけ自分の石が入っている中に相手の石が二十個くらい混ざっていてもそのまま飼い殺しにしているような、本来ならば絶対にやってはいかんような反則も力業でいくらでもやるという強引なタイプの国らしい。


 ある意味で、その時の情勢を見ながら十三か国の趨勢を巡る盤上を、いかようにも好きに支配できるといってもいい国だ。

 もし今のような情勢の中で、この強国たるホープ王国が今回の陸路の要にして自らも海運国として大国であり反戦路線でもあるマリノ王国と結託していたら、他の国が何を言おうとも何ともならない。


 そんな今の状態が自国に有利過ぎるような国が、他大陸とわざわざ戦争なんぞするはずがない。

 ホープは余計な真似をした馬鹿どもを背中から撃つ気満々なのだろう。


 だからわざと最後の一票をタイミングよく投じて、敢えて他の馬鹿どもを戦場へと押し出したのだ。

 決して表に出ない御得意の戦法で。


 その気なのは積極派の内陸四か国と、沿海国だが小国だから後の無いバーグだけで、他の海運国六か国は全て様子見している感じだ。


 ホープほどではないが、それなりの海運国であるペロニアも同盟国である内陸の小国ベリーオの意向に沿って賛成票を投じただけなのであって、特に自分から積極的にやる気はない。

 逆に言うとペロニアが他の海運国から言われて引けば、内陸にあり力の弱い弟国のような立場のベリーオは引かざるを得ない。


 この二か国は血縁関係にあり、ペロニアが常に一方的にベリーオに力を貸しているような関係だ。

 別にベリーヌがペロニアの子分であるというような従属関係という訳ではないため、今はペロニアが血縁関係にある小国ベリーオの意見に引っ張られているだけなのだ。


 ここは二か国だけの血縁同盟を重視し、昔から堅持しているのだ。

 ロス大陸でいえば、アルバトロスとサイラスの二か国血縁同盟がこれに近い。


 ペロニアは比較的穏健派の国で、周囲の国家とも融和的な態度なので、御隣の強国ホープがぐいっと押せば、あっさりと反戦方向へと落ちるはず。


 小国ベリーオも、今は周囲の強国に押されてちょっと追い詰められている感があるので、今回は頑張っているだけなのだろう。

 ペロニアは生暖かく、その弟国の頑張りを見守っている。


 ベリーオもホープ次第で落ちるだろうし、ここは陸路専門の軍隊なので、マリノが裏切ればこれまたどうしようもない。


 実質は十三か国ではなく五か国連合という按配だし、こっちの立ち回り次第でその数はもっと減る。

 十三か国連合め、数だけで案外と見かけ倒しだったな。


 こいつら積極参戦組の五か国だけを遺恨が残らないよう上手に叩いておけば、残りの八か国とは交戦無しで手打ちにできるな。

 後で商売に差し障りが出るのは、こっちだって困る。

 今ようやくメルス大陸へ本格的な進出を決定したばかりなのだ。


 地理を整理してみると、まずケモミミハイムとの国境沿いにあるのが左から順にマリノ・マウテニア・エルガイア・ピークネス・アクリア。

 そこも東西の端にある海運国のマリノとアクリア以外は閉塞した内陸国だ。


 西の海に接した沿岸国は、西海岸側の一番上にあるマリノから始まり、小国のバーグを挟んで、ひよこ大陸の左下角に当たる強国ホープへと続く。


 マリノ・バーグ・ホープ以外の残りの沿海国は、そこから逆時計周りに左角のホープの右側に位置するペロニア、その右隣でひよこ饅頭の下部右半分並びに右下角にまで位置して長く海岸線に恵まれたパゴニア、その上の完全に東海岸側となるエスクニア、更にその上にある東海岸側で一番上に位置するケモミミハイムと大河を挟んで接するアクリアまでの四か国で、沿海国は全部で七か国となる。


 内陸国六か国のうち、東部にあるブラキアとピークネスは、アクリア・エスクニア・パゴニアの東部海運国と組む東部五か国同盟に所属しており、それらの国の情勢は非常に安定している。

 国情は、それほど切羽詰ってもいない。


 この東部五か国同盟は、どこも積極的に侵攻賛成を表明していない。

 そして、どちらかと言えば反対のくせに、敢えて反対も口にはしない立場だ。

 結果はどっちに転んでもいいと。

 自分にとって利益があればいいのだ。

 表向きの完全な反対票はマリノだけだ。


 強国に囲まれて切羽詰っている感じの、東部内陸国のうち中央寄りに位置するエルガイアとペリーオは積極派だ。


 後は西部の内陸国マウテニアとボルトンが一番の積極派だろう。

 このあたりの西部内陸国は比較的北方への距離は近いものの、ケモミミハイムへも直接出難いし、マウテニアとボルトン両国も隣り合いながら仲が悪いので、互いに発展の障害となっている。


 マウテニアとボルトンは特に血縁関係もないし、今回はたまたま利害の一致を見て協力関係にあるだけだ。

 そして両国にとっては、ここマリノが北方進出への栓になっている一発であるという認識だ。


 マリノは十三か国の中で唯一、陸路が十三か国以外のメルス大陸の中での二大国と真面に繋がっており、またロス大陸諸国とも関係が深いので断固侵攻に対して反対を表明する立場だ。

 ただし、さすがに周りの国全部を敵に回す気はないので渋々承認したものだ。

 その上で自国の軍は出さないと、はっきり表明している。


 マリノが十三か国連合から抜けてパルシアやケモミミハイムと組む選択肢もないではないのだが、ケモミミハイムがでかすぎて、却って地理的に自分が孤立して敵に晒される感じになるし。


 おまけにケモミミハイムがマイペースな上に、上手い事人族と噛み合わない感じの獣人国だから、両国の同盟は非常に難しい。

 とりあえず、そんな形だ。


 当座の情報収集を済ませて、うちへ帰る事にした。


「ただいま~」


「オミヤゲは~」

「はい、これ」


 集まって来た園児に渡してやったのは、ケモミミハイム王国の品々だ。

 雑なデザインで、質の良くない布地で作られた荒い縫製の服。

 荒っぽく刻まれた木の置物。


 そして素朴でパサッとした、味の薄い食べ物。

 みんな、うちで使っているような素晴らしい物ではない。

 食べ物も、それほど美味しくはないだろう。


「なにこれ。だっせ~」

「へんなのー」


「えんちょうせんせい!

 おいしくないよ、これー」


「めいぶつに、うまいものなし!?」


 やれやれ、思った通りの反応だな。


「それ、お前らの御先祖が住んでいた国から持ってきた物だぞ。

 もうちっとくらい、ありがたがれ」


「えー、だってまずいんだもん!」


 そう、この国にいる獣人も元はケモミミハイムにいた人達だった。

 昔からメルス大陸でも、ケモミミハイム周辺にしかいなかったみたいなんだが。


 昔はロス大陸には人族だけが、メルス大陸には獣人族だけが住んでいたという。

 南の大陸は無人の魔物大陸と化し、北の大陸は基本的に死と氷の世界だ。


 そしてロス大陸から見て西方面にある、ロス大陸と同じく小パンゲア大陸群の一部である小大陸にある国々とはあまり交流が無い。

 ロス大陸の東側に位置するハイドとは反対側にあるので、そっちの方面へはハイドからもあまり行かないし、他の国は大海へ進出しなかった。

 海の強者ハイドといえども、そうそう無用な危険は冒さないのだ。


 元は同じ小パンゲア大陸から分かれたはずなのに、それぞれの小大陸群は、なかなか個性的になってしまったものだ。

 ロス大陸とメルス大陸だけが積極的に交流しており、今はそこに在る殆ど全部の国が関わった大戦争が勃発しようとしていた。


 その向こうにある他の大陸は、遠すぎて今は交流が無いようだ。

 真理の話だと、武は空中庭園を使って行った事があるという。

 俺もいつか行ってみたいな。

 俺のMAPには載っているのだし。


 またそっちの方面には珍しい食い物とかもあるかもしれない。

 やる事が非常に多いので、今行くのはパスだな。


 一応、敵軍の進軍予定があるメルスの街道には、各所に監視用のゴーレム部隊や監視ポッドを置いておいたので、しばらくは俺が行かなくてもいいだろう。


 一応、罠も色々と張っておいた。

 兵隊を殺すと後が面倒だからな。

 今までの経験からすると、大勢の死人さえ出なければ大概のやり過ぎはどこも最終的に大目に見てくれる傾向にある。


 その辺の手間が余分にかかってしょうがない。

 侵攻の中心となる五か国の王は、二度とこういう事を考えないように、きっちりと心を折っておかねばならない。


 ゲルスとやる前に後顧の憂いは断っておくに限る。

 出来れば王も一緒に進軍してきてくれれば手間が無いのだが、さすがに出てこないだろうなあ。

 これが地球にあった昔の大帝国が拡張路線にあった時なんかだと、王や皇帝が出張って戦争をしていたのだろうが、ここは現状そうではないのだ。


 残りの国々は、向こうの利益をある程度考慮してやれば自然に収まるだろう。



 午後になって、いきなりケモミミハイムのタヌキミミ大使さんがケモミミ園を訪れた。


「やあ、御久しぶりです。

 どうなさいました?」


 この人が、やっぱり狸親父なのがわかってしまったので、前ほどミミには執着していない。

 それでも若干視線はそれに吸い寄せられるのであったが。


「いえ、本日は十三か国のお話をちょっとしたいと思いまして」


 すると大使は、よっこらしょっと可愛らしい感じに座り込んだ。

 くそっ、やっぱり可愛いな。

 ミミ以外もなかなかのものだ。

 うーん、狸しっぽ。


 いかん、これもこの大使の手管なのかもしれん。


「そうでしたか。

 チラっと見てはまいりましたけどね。

 向こうさんも一枚板ではありませんねえ」


 俺は少し値踏みするような感じで大使を見る。

 どうせ、この狸さんの事だから、その辺の事情も加味しているのに違いない。


「ははは。

 全くもって仰るとおりでございまして。

 実は小国群の中にも、既に我々と密約を交わしている国もあるのですよ。

 まあ、どこの国かは大体おわかりかと思いますが」


 俺は軽く頷いた。

 それは例の侵攻積極派五か国以外の国で、その筆頭がマリノ、そして次がホープだな。

 他にもいるかもしれないな。

 東部五か国同盟の連中も容疑者だな。


 案外とベロニアなんかもそうだったりして。

 やる気満々の弟国に無理をさせたくないとかいう兄心のような理由で。


「ただし、それには条件があるのですよ。

 それは貴方です」


 ああ、勝手に人をダシに使っていましたか。

 まあこの人は敵じゃないのだから別にいいんだけどさ。

 でも、ちょっとだけ睨んでおいた。

 だが大使は俺の視線の強圧など、どこ吹く風という感じで話を続ける。


「彼らは今回の事態を大変憂慮しております。

 現状でも特に困っていないというのに、わざわざ魔王相手に戦争をする必要があるのかと。

 向こうから、そう話が来ましてな」


 う、満面の黒い笑みを浮かべた狸か!

 なんとも言えない見物だなあ。


「まあ要するに、自分達は日和見するから魔王には話をつけておいてほしいと。

 国王同士で、既に密書も取り交わしてございます。

 その上で、貴方様の商会との取引の仲介もしてもらいたいというお話でして」


 そして彼は紐で縛って丸められた密書の写しらしき物をそっと手渡してきた。

 もちろん、それは一つじゃなかった。


 これは、おそらく転移魔法で迅速かつ密やかに取引されたものだろう。

 関係国のどこかに転移魔法を持つ魔法使いか、武や俺が作ったような転移アイテムを持つ者がいたようだ。

 どうやら、そいつは敵側の人間ではなさそうなので一つ安心材料かな。


 やれやれ。

 まあ、こちらとしても願ったり叶ったりの展開ではあるのだが。


「では彼らとの取引につきましては、ロス大陸の窓口はハイドにおけるアルフォンス商会の契約商会であるアルファ商会になっていますので、よろしくお願いいたします。

 向こうの大陸ではパルシアの王都商業ギルド並びに、ハイドの商会であるアルファ商会現地事務所なら話は通るかと思います。

 そのあたりの事はパルシアの商業ギルドに言っていただければよろしいかと。


 今回の件は、あまり遺恨が残らぬようなやり方で始末をつける予定でいますよ。

 今日現地にて検分してきた内容や、貴方からいただいた情報なんかも加味してね」


 どうせ取引の品はハイドの船で運ぶんだからね。

 まあ商売に関してはそんなところでいいだろう。

 こういう非常時にも全面的に仕事を任せられるように、信頼第一の条件でアルファ商会を紹介してもらっっておいたのだから。


 それを聞いたタヌキ大使は歯を見せて素晴らしい笑顔を見せた。

 いやあこのタヌキさんって、本当にやり手だねえ。


 それに、嬉しいと可愛いミミがピコピコしているのは、やっぱり獣人の性なのかな~。


7月10日発売予定書籍の、カバーイラストが公開されました。本日よりスペシャルサンクスキャンペ-ンなるものが始まりました。詳しくは下記URLの活動報告記事をご参照ください。


http://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/1729830/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
誤字報告です。  この二か国は血縁関係にあり、ペロニアが常に一方的にベリーオに力を貸しているような関係だ。  別にベリー(ヌ)がペロニアの子分であるというような従属関係という訳ではないため、今はペ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ