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3-6 死闘

 雑魚魔物を戦闘ユニットで掃討し、四十六階のボスと出会った。

 そいつの名はヒュドラ。

 こいつは九つの首を持つ巨大な怪物だ。

 いわゆる『八岐』という奴で、通常なら九頭竜と呼ばれるタイプの怪物だ。


 よく八岐大蛇の事を首が八つあるいは九つと、伝承により首の数が異なるのだが、八岐は「八つの股」の意味であるはずなので、字面から数えれば本当は首が九つのはずなのだ。


 嘘だと思うのなら、両の掌をこちら側に向けて、小指を重ねてから指の股の数と指の数を数えてみればいい。

 指の股は八つで指の数は九つになる。


 だが権威のある古文献である古事記や日本書記には首八つと書かれているので、古代日本にてあれを編纂した編集や校正がきっと勘違いしたのだ。

 本来の日本語の解釈であるならば、八岐と九頭竜は同じタイプに分類されて、首が九つある怪物でなくてはならない。


 というわけで、今俺の眼のまえにはその八岐野郎たる九頭竜っぽい感じのAランク魔物がグイっと聳えている。

 日本神話の世界ではなく、ちょっとギリシア神話っぽい展開になってきたな。


 丸っこい胴体はずんぐりとしていて、キメラよりもかなり大柄な感じだ。

 確か再生能力が強いんだったな。

 再生持ちじゃなかったら、こいつから再生を見取れただろうか?


 試しに新しく覚えた中級魔法、ウインドブレードで首を切り落としてみる。

 だが地球の伝説みたいに二本は生えてこなかった。

 そしてニュルポンっという感じに首が再生してきた。

 うわ、きしょい。


 なんか、つるんっていう感じで首が生えてきたな。

 駄目だな、これは再生のスキルじゃない。

 こいつは単に再生力が強いだけなのだ。

 最初に再生スキルを手に入れておいてよかった。


「おい、遊んでいるなよ」

「じゃあ、お前がやれよ」


 アントニオは返事をするまでもなく魔道鎧を纏うと、素手で全ての首を切り落とし、再生の暇も与えずに奴の巨大な体躯を左右真っ二つに両断していた。

 溢れる大量の内臓と血潮がダンジョンの深層を生臭く染めた。


 お持ち帰りは、収納持ちである俺の仕事だ。

 あの鎧は防御や攻撃も凄いが、一番のメリットはあのスピードだろう。

 更にファストの重ねがけも出来るんだから始末に負えない。


 まるで高速サイボーグだ。

 だから、それを生かすために初動が非常に大切で、発動までのスピードが大事なのだ。

 俺は某アニメをイメージして使っている。

 奥歯をカチンと鳴らせば鎧を瞬時に纏える。


 魔法はイメージが重要なのだ。

 魔法を使うスキルである魔道鎧も例外ではない。



 四十七階のボスはバジリスク!

 こいつは石化蜥蜴か。


「いかん。

 奴の目を見るな。

 魔道鎧を使え!」


 だが間抜けなおっさんは、ちょっとそいつを物珍しげに観察していて、うっかりと出遅れてしまった。

 そして足の先から石化が始まった!

 ど、どんくさー!


「おい、何をやっているんだ。

 早くキャンセルポーションを使え」


 そう言うなり、奴は電光石火の動きでバジリスクの首を落とした。


 おっさんは慌てて、ナースポッドを出す。

 自動判定でキャンセルポーション(特級)を振りかけてくれる。

 すぐに石化が解けていく。

 やれやれ助かった。


 この石化という状態異常は、まるで生きたまま死後硬直が始まるみたいに嫌な感触で、実に薄気味悪い感触なのだ。


 この状態異常用の『特級』ポーションはまだギルマスにも見せていない。

 どうせ「人に見せるな」と言われるのがオチなのだし。


 アントニオの野郎がどこかで間抜けに石化でも食らったら、助けて恩の押し売りでもしてやろうと思っていたのに、どうしてこうなった。


「間抜けめ。

 魔道鎧を発動すれば石化魔法は防げる」


 マジかよ。

 そいつは先に言っておいて欲しかったぜ。

 確かにあれは魔法なんかを弾いたり吸収したりしてくれるんだけど。


 生憎と石化魔法はバジリスクの固有魔法なので見取れなかった。

 残念ながら体で覚える事は出来なかった。

 使ったら、ちょっと楽しそうな魔法だったのに。

 あの感触を忘れないうちに、後で自分で作ってみようっと。



 そして四十八階。

 ここはフェンリル、電光の白銀狼の縄張りだ。


 接敵して間髪入れずに魔道鎧を展開し、そして散開した。

 巨大な狼の大爪の一撃が、俺達の寸秒前までいた場所に炸裂する。


 そこは頑丈な迷宮の壁だから被害は殆ど無いが、そこに生身の人間がいたとしたら粉々だったろう。

 というわけで「MIRV」の出番だ。

 こいつは多弾頭搭載の弾道弾をイメージした、俺のオリジナルであるミサイル魔法だ。

 そして搭載する弾頭は好きな魔法を選べる。


 一発に二十四個の大型魔法を搭載でき、それぞれがレーダーMAP連動で敵に突き刺さる。

 本来なら広い場所で、大型の魔物か魔物の軍勢にでも食らわしてやるための魔法なのだ。


 今回は、すばしっこくて強力な魔物なので、こいつを選択した。

 魔法だから本来の弾道弾とは違う使い方も出来る。

 だから奴めがけて『ICBM』を水平発射してやった。

 奴は瞬時に飛んだが、次の瞬間に驚愕した。


 ミサイル魔法が弾けて、四方八方からそこに載っていた魔法が飛んでくる。

 頭の上からも飛んできていて、素で魔道鎧に匹敵するスピードを誇るフェンリルも、さすがに逃げる空間が無かった。


 迎撃も不可の代物だ。

 多弾頭ICBMによるミサイルの飽和攻撃に対して完全に対抗出来る防御法は地球でもまだ見つかっていない。

 それでも奴は前足の一撃でそのうちの一発を払おうとして『近接信管』が作動した。


 その途端に強烈フレアの炸裂花火がダンジョン深層に咲いた。

 そして全ての弾頭が命中すると累計で二十四発の強烈フレアが炸裂した。

 だがダンジョンの中で使用したせいで、ちょっと豪い事になってしまった。


「この気違いめ!

 こんな狭いところで、なんて事をしやがる」


「ちゃんと超強力なハイシールドをドーム状に張っていただろ?

 サイレントも併用して」


「ああ、高価な毛皮が……見事に台無しだ」


 だが俺は奴の死体を収納すると、アイテムボックスの解体機能を使用し、それからボロボロの毛皮にも再生をかけた。

 普通の魔物なら跡形も残らないほどの攻撃だったんだがな。

 やはりAランク魔物は化け物だった。


「ほらよ。

 こいつは山分けだぜ」


 アントニオの目の前に、素晴らしい状態である白銀狼の超高価で巨大な毛皮を放り出してやる。

 何しろ、そのフェンリルの過去最高であるだろう毛艶をした毛皮をスキルで再現してやったのだからな。

 さすがに奴も目を剥いたが、肩を竦めて歩き出した。


 こいつの、こういう細かい事を気にしないところは個人的には気に入っている。

 なんていうか、高い目標を目指しているとか遠い先の最終目標を見ているような人間は、そういうところがある気がする。


 俺もフェンリルの毛皮を収納して先に進む。



 四十九階のボス部屋へ着いたが、ここのボスが見当たらないな。

 最下層手前の深層のゾーンはボスしか出てこないような場所のはずなのだが。


「おい、油断するなよ」


 俺はアントニオに声をかけた。

 何か非常に嫌な感触がする。

 サイキックな何かで感じ取っているのだ。


 もちろん、二人共すでに魔道鎧は装着済みだ。

 何かヤバイ。


 感じる。

『いる』な。

 わかるぞ。


 だが、どこに。

 じわりと汗が垂れる感覚。


「上だ!」


 俺が叫んだ。

 なんていうか表現に困る感覚。


 問答無用で『上』と感じたのだ。

 通常のESPの感覚ではない。

 理屈ではない。

 こういうの物も実はセブンスセンスなのだ。


 セブンスセンスは御定まりの効果しかもたらさないものではない。

 そもそも、あれは『能力』などではないからだ。


 天井から降りかかってくる『視えない』何かでかい奴がいた。

 瞬時にアントニオを掴んで転移した。


 ボス部屋の入り口からそっと、その異形の姿を現して迂闊にも仕留め損なった侵入者を捜している不定形な怪物を見る。

 なんだ、あれは。


 鑑定。

 ヒュージスライム。


 文字通り、でっかいスライムだ。

 こんな場所のボスであるという事は、何か特殊なタイプなのか?


 例のアドロスの街で買った魔物事典によれば、ただのでかいスライムはビッグスライムというらしい。

 そいつは、御馴染みのグミっぽい感じの奴だ。

 あれは動き出すと、アメーバか粘菌みたいな感じになるのだが。


 あれはあれで結構面倒な奴だ。

 いわゆるB級SF映画の主役『ブロッブ』みたいに厄介な奴なので、魔法も持たない雑魚冒険者なんかは逃げるしかないのだが、あのスタイルのくせになかなか足も速い。


 それとは別の種類というわけか。

 俺ならこいつは、風呂敷スライムとでも名付けるな。

 いや通称名ピクニックシーターとでも名付けるか。


 しかし、何故レーダーに映らないのだ?

『視えない』奴は困るな。


「あれは、別名シーフ殺し。

 感知魔法を誤魔化す能力があるらしい。

 いや助かったぞ」


 マジですか~~。

 そんな魔物がいるなんて。

 俺の安全が大きく脅かされた瞬間だ。

 もし、そういう能力持ちの人間がいたら殺し屋とかをやっていそうで怖い!


「そう心配そうな顔をするな。

 こいつは滅多に見かけることはない。

 それに、そんな能力を持った魔物はこいつくらいのものだろう。

 ダンジョンの外で見かけることなど、ほぼない」


『ほぼ』ねえ。


「こいつが厄介なのは、被さられると魔力を食われちまう事にある。

 俺達、魔道鎧持ちの天敵だな。

 鎧ごと食われるぞ。

 もちろんスライムだから人間も溶かされる。

 魔法も通さないから魔法使いの天敵でもある」


 くそ、最奥のドラゴンの間に入る前に、肉弾系のメンバーの体力を消耗してきたパーティの魔法使いを潰す配置なのかよ。

 なんて阿漕でエグイ人事なのだ。

 これがダンジョンっていう奴なのか。


 仏頂面の俺を、アントニオの奴は面白そうに見ている。


「倒すには魔法以外の火で焼くしかないが、何か手はあるか?」


「ああ、持っている。

 お前は、あっちの方へ下がっていろ。

 面倒な奴だから、とっとと焼いちまおう。

 魔道鎧は着たままでいてくれ。

 重ねてシールドも張った方がいいかな。

 もし息が苦しくなったなら迷わず距離をとれ。

 風魔法で新鮮な空気を呼ぶのもいい」


 全く手のかかる魔物だ。

 だが相手が悪かったな。

 俺は『地球開発品の各種物理兵器持ちの超強力魔法使い』なんだぜ。


 俺はガソリンのインベントリから、十メートル四方もある奴の体の上にシャワーのように液体を撒き散らした。

 それはもうたっぷりと。


 点火(ファイヤー)

 火種インベントリから奴の上に、ポイっと火種を落とす。

 奴の体表から立ち上る、気化しまくったガソリンに小気味よく引火した音がした。

 ここはダンジョン自ら空調を効かせてくれてあるから、ほどほどにガソリンも気化してくれる。


 はっきり言って大爆発という奴だ。

 ダンジョン深層にて激しい炎が燃え盛った。

 やっぱりガソリンはヤベエわ。


 俺達は魔道鎧を装着して、シールドも張った上で風魔法を使って換気しているから、どうっていうことはないが、そこに生身の人間がいたらただじゃすまないな。

 

 奴はその巨体でくねり、伸び上がり、縮み、また伸びて。

 そして見事に焼きあがっていった。


 俺は巻き添えを食わないように入り口から見守り、必要なら燃料の追加をと思ったが要らなかったようだ。


 軽く生成した酸素を吹き付けてやっただけだ。

 あれだけ盛大に燃えまくっていると周囲の酸素も不足がちだし。

 それだけでも十分で、たったの数秒で炎の威力が天井まで届かんばかりにダンジョンを焦がす。

 まるで魔法のサーキュレーターだな。


 今は奴もはっきりとレーダーに映っている。

 それと見取りのスキルが「ディスサーチ」を覚えていた。


 あのスライムは焼かれている間も、隠密スキルを発して逃げようとしていたのだ。

 あれは魔法スキルだったのか。

 いや、ありがたい。


 こりゃいいものが手に入ったな。

 ちゃんと監視していてよかった。

 見取りはセブンスセンスによる解析で魔法発動の仕組みを見取るので、しっかりと目で見極めていないと魔法やスキルを手に入れられない。


 まだ燃えていたが、どれだけ大きくても所詮はスライムに過ぎない魔物はほぼ燃え尽きた。

 遺っていた大きな魔核だけが、かつての奴の威容を物語っていた。


 燃えている部分は魔核ごとアイテムボックスに全部収納して場所を空け、俺達は最終の番人が待つ会場へと進んだ。



 いよいよ、お次はラスボスだ。


 むう。

 そこにはやはり他の魔物の気配が無いな。

 だが事前にチェックしたレーダーには有り得ないものが映っていたのだ。

 そして今、俺達はそれを観覧していた。


 目の前に聳える小山のような三頭のドラゴンを。


「御一家でいらっしゃったとはな」

「言いたい事はそれだけか?」


 やけに冷静なアントニオが突っ込む。


「獲物が三匹に増えた。

 こいつは獲ったもん勝ちだぜ」


「お前な……」


 呆れたように答えるアントニオ。


「一頭は任せたぞ。

 お前もオルストン家の一族なら頑張れ~。

 骨は拾ってやる」


「軽く言ってくれる」


「なあに。

 次のBランク試験、そしてその先にあるAランク試験まで受けるんだろ?

 ドラゴンの手土産くらい持っていけよ」


 そして、のっけから俺が仕掛けていく。

 初見殺しのアイテムボックス技だ。


 目視転移して一頭の後ろから現れ、訓練により最早自由自在に動かせるようになった巨大オリハルコン刀を取り出す。


 そして、いきなりドラゴンのうちの一頭の首を落とした。

 こいつには魔法剣(風)として滅茶苦茶に風魔法をかけて切れ味を上げてある。

 パワー任せでゴリっと首を落としたドラゴンの死体をアイテムボックスに収納した。


 俺が狙ったのは五十メートルサイズの一番でかい奴だった。

 後に残るは小ぶりな三十メートルサイズが二頭だ。


「お先」

「マジかよ!」


 次に魔道鎧を着込んで、一瞬にして間合いを詰めて飛び上がり、一番でかい仲間がいきなり死んだせいで動揺しているらしきドラゴンの正面から超速で顔面にパンチした。

 堪らず巨大なドラゴンが仰向けに吹き飛ぶ。

 ダンジョンの底に響く、大音響の効果音。


 転がって無防備でいる相手に向かって、すかさず巨大オリハルコン刀のギロチンを食らわせると、血飛沫と共に転がる武骨な竜首。


 よし、ギルマスに言われた通りに出来た。

 収納収納。

 高額獲物を連続ゲットだぜ。


 長丁場にすると巨大生物とどつき漫才をする羽目になるからな。

 さすがに、それは御遠慮申し上げた。


 だが、もう一人のメンバーは違う考えのようだった。

 まあそれは承知の上で、俺は敢えてこう言ってやったのだ。


「おーい、残り一頭は任せたぞー」


 奴は苦笑いしつつも気合を鎧に込めた。

 一族で代々受け継いだ鎧に、最高の戦士の魂が吹き込まれた。


 それはもう、ちょっとした見物・死闘だった。

 実に見応えがあるプラチナチケットのゲームだ。

 俺はドーム状に張った超強力ハイシールドの中で、御茶のペットボトルを片手に胡坐をかいて見ていた。

 何があるかわからないのでビールはさすがに自粛したが、そんな感じにどっしりと見学していた。


「露払いは終えた。後はお前に任せたぞ」という、若者に対する年寄りからの熱いメッセージだ。

 こいつには必要な試練だろう。

 あいつの兄貴も同じ意見なのに決まっている。

 だから、この「セコンド付き」の試合を組んだのだ。


 俺も、時が経つほどにますます気に入ってきてしまったこの若者を、むざむざ見殺しにするつもりはないのだが、簡単にタオルを投げ込むような安易な考えは毛頭ない。


 真摯で真っ直ぐな若者が急激に成長していく刹那の刻ほど、俺のような年寄りを楽しませてくれるイベントもそうそうないものだ。

 アントニオの小僧にもその想いは伝わったらしく、若者らしく奮い立ったような様子だが、さて結果はいかに。


 襲い来るドラゴンブレス、そしてそれを防ぎながら繰り出される魔道鎧の一撃。

 返すドラゴンの裂帛のブレスが、半ば魔道鎧を吹き飛ばす。


 しかし、彼はその超絶なSランク魔物の猛攻に耐え、更に自身も猛攻と呼ぶに相応しい一撃を加え返す。

 終いには、貸してやったミスリルの剣さえ激しく捻じ曲がる。


 すかさず代わりのミスリル剣を放ってやったのだが、それもすぐに同じ運命を辿ったので、以後はアントニオも剣を投げようとする俺を手で制して、試合は素手でゴロマキに様変わりした。

 必殺武器オリハルコン剣の出番は無しになったな。


 ドラゴンもアントニオも、御互いに目を血走らせて吼えまくり、互いの全てを賭けた死闘を演じた。

 もちろん、いろんな角度から撮影用筐体でバッチリと記録した。


 そして、ありがたくドラゴンブレスはスキルとして頂いた。

 こいつは種族固有スキルのくせに何故か見取れてしまった。

 半物理スキルのせいだろうか。


 こいつはすげえ。

 これがあれば、さっきのヒュージスライムなんかイチコロだぜ。

 なんたって、ここのボス魔物の必殺技なんだからな。


 このブレスは魔法だが、マジックシールドさえも貫通する。

 魔法スキルであるくせに、魔法防御や魔法無効化状態を貫くのだ。


 強力なシールドやバリヤーには防がれてしまうようだが。

 しかし、こいつを俺の魔力で放ったならば!


 いやはや聞いていた通りの代物だ。

 アントニオの奮戦に感謝する。

 まあ奴も自分の力でドラゴンをやらないとな。

 Aランクを目指しているんだから、「その次」のためによ。


 そして、とうとうアントニオの奴も裂帛の気合でドラゴンを屠った。

 まるでギリシャ神話をテーマにした欧米の映画みたいに壮絶な戦いだった。


 既にアントニオは満身創痍だ。

 骨折や火傷が、一体何か所あるものか。


 俺はあっさりと倒したが、本気でドラゴンとドツキあったらこうなるのか。

 絶対にやりたくないな。

 そのために魔法を覚えたのだから。

 と言いつつも、自分の戦闘において真面に魔法は使っていない件について。


 俺のやったように一撃で首を落とすなんていう派手なやり方でなく泥臭い勝ち方だったが、この男にはその方が実のある戦いと勝利だったかもしれない。

 こいつの兄貴の狙い通りだな。

 これで弟も一皮剥けただろう。


「アントニオ。

 あのBランク昇進試合で今の気合があったのなら、今頃Aランクを目指していたのは、お前の方だったろう。

 コングラッチレーション。

 帰ったら兄貴に褒めてもらえそうだな」


 そう言って奴の奮闘を称えて拳を突き出してやると、座り込んでしまっていた奴も傷の痛みに顔を顰めて苦笑いしながら、大人しくそれに合わせてくる。


 どうやら今は俺に反骨する元気もないようだ。


 

 

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[一言] スキルだ魔法だってやりたい放題やってるだけなのも飽きたので お疲れ様でした
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