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54-3 狂気のトーナメント

 俺は、今日の出来事は決して忘れないだろう。

 絶対に忘れられないような悪夢だ。

 あのレオンが生まれた時以来の大惨事だわ。


 なんていうか、地球で一番これに近いイメージはリオのカーニバルあたりか。

 病気が原因という点では異なるし、不定期開催の点でも違う。

 それにカーニバルじゃなくて、こいつはハンニバルだけどな。


 これと違ってブラジルのカーニバルは死人の山が出来るけどな。

 その昔、リオのカーニバルに関して、こんな記事を眼にした事がある。

 リオデジャネイロ警察関係者による談話だ。

「今年のカルナバロは平穏だった。死者が百人くらいしか出なかったし」


 まあ、もしこれがブラジルの場合だった場合、大統領がこの病気にならなければカーニバルがやれないというのなら、この病気にならないような大統領には絶対に一票を入れないとか国民が言いそうな気がする。


 アルバのハンニバルは結構有名らしい。

 去年はやっていなかったから、俺は知らないけど。


 そして、ついに狂気のトーナメントが始まった。

 なんていうか、これは大勢の観衆から笑いや拍手を勝ち取るトーナメントらしい。

 トーナメントといいつつ、直接の対戦はない。


 どうやら審査員がいるようだ。

 それ、ただのお笑い大会とかなんじゃねえ?

 それでエリがあんなに笑っていたのかよ。

 開催場所は王宮前広場か。


 聞いてないよー。

 どうせなら股間に白鳥を装備させてくれよ。

 さすがの俺も、そこまでの用意は出来ていなかったわ。


 まあちょっと、おつむを患った病気の人がやるイベントだからな。

 自然にこういう催しになる訳か。

 やだなあ。

 あ、でもミハエルの出番は見てみたい気がする。


 そして大会のトップを切ったのは、なんとAランク冒険者だった。

 確かこいつはゲルスの隣の国あたりにいる奴じゃなかっただろうか。


 情勢がキナ臭くなって、あっち側が嫌なんでこちらへ流れてきたのかな?

 そしてアルバにて発症したのか。

 誠に御愁傷様なことだ。


 奴はボロボロな服を衣装として纏い、何かとても怪しげな表情をしている。

 あの表情には見覚えがあるぜ。

 怪しげな新興宗教なんかにどっぷりと浸かっている奴の顔だ。

 何か不気味な笑顔を湛えて、真面な思考が出来ていない状態だろう。


 何を言っても話が通じないし、普通の人と意見がまったく噛み合わない。

 笑みを浮かべながら、トロンとした目をして遠くを見ているようで大変に怖い。

 ほぼ洗脳状態なのだ。


 俺はゾッとした。

 今、王様がこの状態なんだぜ。

 そうか、この御祭りの真の意味は保安措置なのか。

 王様がトチ狂っておかしな真似をしでかさないための、一種の一時的な権限の剥奪なのだ。


 そして、その周辺には信頼出来る者をこうやって配置しておくのだ。

 よく考えてみたら、あんな状態の陛下が俺を呼び出したりなんか出来るはずがない。

 あの招待状は陛下の名を借りて宰相が送ってきた物なのだ。

 やれやれ。


 不意に背後で気配を感じて振り向いた俺の前に、疲弊に疲弊を重ねたかのような疲れた表情をした宰相が立っていた。


「おわかりいただけたようですな、グランバースト公爵。

 宜しくお頼みもうす。

 なにしろ、この病気を早く散らすためには、爆裂に盛り上がって日頃の憂さを晴らす以外にありませんので。

 最近は、陛下の御心を煩わせるような事も多かったものでして。

 前回発症したのは二年前の空中庭園事件の時でございましたな」


 あー、なんて性質の悪い病気なんだろう。

 そして一応、訊いてみた。


「これがゲルスの陰謀とかの可能性は?」


 宰相は首を振って、非常に残念そうに言った。


「もしこれがそうであるのならまだマシなのですが、この大陸全土に昔から蔓延る風土病なので。

 ゲルスでも、我が国とほぼ同時に発症したそうです」


 あ、そう。

 もしかしたら、この季節がこの大陸で一番平和なシーズンなのかねえ。


 ふっと見ると、陛下とミハエルが玉乗りしながら親子漫才をしているのが見えた。

 うわあ……。


 王妃様が大道芸人風の格好をして、笑顔で見事なジャグリングをしていらっしゃる。

 隣でエミリオ殿下が半泣きで一緒にやらされているし。

 でも、なかなか上手に出来ているな。

 頑張ってね~。


 お次の選手は、なんとハンニバル大王の出番だった。

 おい親方、あんた達はストレスなんか溜めないから発症している訳がなかろう。

 この病気はストレスが限界まで溜まった人間が感染して発症するのだろう。

 だから王家では陛下とミハエルが発症しているのだ。


 親方達は単に大騒ぎしたいだけなんじゃないのか?


「あの方達は、毎回あちこちのハンニバルの催しを荒らし回っているんですよね。

 まあドワーフと揉めたい国も特に無いですし、盛り上げてもらった方が早く収束に向かいますので。

 ただ時々やり過ぎるので、結局は鼻つまみ者ですな」


 親方……。

 あの人達は年中発症しているみたいなものだし。

 まあ、名は在りようを示すものなのか。


 きっとドワーフにとっては、異世界五月病、つまりハンニバル病は無くてはならないものなのだ。

 もしかしたら、あの国の国王はハンニバル病に敬意を表して、代々ハンニバルを名乗っているのかもしれない。


 ついに俺の番が来た。

 来てしまった。


 仕方が無い。

 俺は合図をしてゴーレム達に花火を怒涛の如く打ち上げさせた。

 おおーっ、と観衆からどよめきが上がった。

 異様な盛り上がりだ。


 こいつらの中にも発症していやがる奴等がたくさんいるんだろう。

 本日は王国騎士団も総出のはずだ。


 きっと奴らの中にも発症している奴がいて人手不足なのに違いない。

 生真面目な連中だからな。

 あいつらも、この病気の発症率は高いとみた。

 まあ騎士団の人間なんて、この病気を発症した方が仕事を真面目にやっていると見られるのではないだろうか。


 うちの花火は真っ昼間でも鮮やかな光を放つ魔法仕立ての特別な代物だ。

 なんていうか、LED光源のように鮮やかなのだ。

 見ていた観衆がハイになって大騒ぎしている。


 パニックで暴れたりする奴がいないように、かなりの数のゴーレムを群衆に潜ませてある。

 しかも周りの連中を盛り上げるために、ゴーレム達もかなりはしゃがせてあるのだ。


 そして俺はとっておきを披露した。

 自動で広がっていく超大型マジックテントを展開する。

 これは、いつか子供達のためにと思って用意しておいた物なのだ。

 遊園地にサーカスは付き物だからな。


 上からサーカステントが被さるような感じで、広場に居た群衆を丸ごと収容してみせた。

 下にいる人間が下敷きにならないように、前もってシールドで封鎖しておく。

 ゴーレム達が誘導して広場にいた連中は残らず収容した。


 ゲルスと決着をつけたら遊園地をオープンさせて、こいつもやる予定だったのだが、思わぬデビューになってしまった。


 さあ、稀人サーカス団の始まりだ。

 俺は美人のゴーレムを相方に空中ブランコと洒落込んだ。

 だがよく見たら、それはゴーレムじゃなくて真理だった。

 いつの間に入れ替わった!


 なんかヤバイ笑みを浮かべていらっしゃるし。

 あれ?

 この病気って魔導ホムンクルスも発症するのか!?


 いや違うな、この笑いは。

 真理も楽しんでいるのだ。

 大方、武が発症していた時の事でも思い出しているのだろう。

 まあ、たまにはこの御姉さんとコンビもいいか。

 というか、元々はこの御方こそ俺の相棒枠にいる者なのだった。


 それから俺達は、普通の人間にはできないような、とびきりの芸を次々と披露していった。


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