53-6 記憶のオモチャ箱
それから、ほどなくして次の組を見つけた。
そして声をかけようとしたが、向こうのメンバーの一人に止められた。
「しっ!」
自分の唇に指を当てながら、真剣そうな顔で何やら見ているようだ。
残りの四人が車座になって集中している。
何かと思えばメンコだ。
あれは……。
そう、そいつは俺が小学生の頃に使っていた物に間違いない。
それは厚くて大きくて銀色をしていて。
紛れもなく、うちの主砲だった奴だ。
デザインはあまり記憶になかったのだが、割と昔ながらの花札のような絵柄の奴ではなかったかと思うのだが自信はない。
縁取りが銀色だったのはよく覚えている。
だが今は、それが俺の持っていた物だと何故だかわかる。
理屈でなくわかる。
その後のそいつの末路については記憶にない。
かなり使い古してボロボロになっていたし。
何百回も思いっきり床に叩き付けた衝撃で、メンコの端っこから紙が幾重にも剥がれてくるんだよね。
印刷の絵柄も擦れて薄くなり汚れてくるんだ。
あれは、そこまで使い込んだ歴戦の戦士なのであった。
多分メンコ自体を使わなくなって、終いにはコレクションの入った箱ごと親に捨てられたのではないかと思う。
あるいは勝負に負けて誰かの物になったか。
アドミンめ、これも俺の記憶からリアルに再現していやがるのか?
だとしたらヤバイな、おい。
そのうちにウ○トラ怪獣とか出てきかねない。
初代の最終回に登場した奴とかが出て来ると結構ヤバイんじゃないか?
確か主人公だった正義の宇宙人が、雇われた殺し屋か何かの宇宙人の手で返り討ちに遭って死んでいたよな、あれ。
しかも自分の攻撃を怪獣のバリヤーによって無様に跳ね返されたんじゃなかったっけか。
バリヤーは彼の得意技でもあったのに、敵にそれを使われて自分の攻撃で殉職とか泣ける。
マフィアのボスを逮捕するために組織に近づいて、敵のボスを殺る前に主人公が殺し屋に殺されて返り討ち、主人公殉職により映画が上映時間の途中で終了みたいな感じの悲惨な最終回だった。
普通はそれで地球がお終いだったよな。
そいつを御迎えに来た回収係として直属の上司が来ていたから、ストーリー的に地球は大丈夫だったと思うのだが。
俺もこの異世界で、出来ればああいう悲惨な最期だけは迎えたくないものだ。
この世界だと、そういう事があっても何の不思議もないからな~。
最後にニールセンとやりあった時なんかマジで危なかったぜー。
あの最終回は、ウ○トラ怪獣大図鑑に載っていた必殺の『一兆度の炎』とやらは封印したまま、余裕の悪役怪獣大勝利だった。
あの技は、後に作られたリメイク版の映画によると地球を破壊出来るほどの威力があったらしい。
当時は子供だったから、そんな事には全然気が付かなかったぜ。
「一兆度すげえ!」くらいのもんだ。
あの頃でもかろうじて、一兆が一億の上の単位であったのは理解出来ていた。
いかに当時の番組設定が適当であったのか、よくわかるエピソードだ。
あれでも、かつて宇宙に瞬間存在したという『絶対温度』に比べたら超低温の部類に入るのだろうが。
強すぎだろ、ゼ〇ト〇。
ああいうのを反則なチートっていうんだぜ。
しかも人気番組のあんな終わり方があるかよ。
ありえねえ。
ああ、やだやだ。
この異世界ではあんなアレな奴がどこかにいてもおかしくないのだが、絶対にやりあいたくないもんだ。
異世界なんて油断も隙もあったもんじゃないけどな。
もしかしたら、あの番組って打ち切りだったのか?
当時は後に超名作として称えられるような作品でも、そういう悲壮な終わり方をする番組が多くてな。
逆に打ち切り番組の穴埋めという事で、準備期間一週間で急遽始まった特撮なんかもあったみたいだが。
あれは宇宙特撮ヒーロー物の走りみたいな番組だったので、まだ世間が受け入れなかったのかもしれんなあ。
SFなんて読む奴は変わり者扱いだったしなあ。
もちろん、俺は当然のように変わり者だった。
しかし、よく当時の小学生が暴動を起こさなかったな。
それから十八年か十九年くらい後の話だったが、白黒がはっきりつかない人気漫画の最終回が気に入らないからって小学生が大勢で編集部に文句をつけて、なんと漫画家に最終回を描き直させたなんていう悲惨な実話もあったのだ。
漫画家やアシは打ち上げをやって盛り上がった後なんだろうに。
何年も連載した人気漫画の。
可愛そうになあ。
あれは実は打ち切りだったという説もあるが、それにしてもあれはない。
まったく、お子様っていう奴らには本当に困ったものだ。
今では俺も、うっかりと大勢のそんなお子様を預かっている訳なのだが。
そして、その俺のメンコの対戦相手となる彼は、全身をバネのようにして渾身の力で手に持ったメンコを地面に叩きつけた。
かつての俺の主砲たる最強メンコが見事に吹き飛んだ。
こ、こいつら。
童心に帰って昭和の遊びにのめり込んでいやがる。
頭が痛いな。
だが全員の頭にファルのハリセンが唸りを上げて、みんな正気に返った。
これも神聖エリオンの持つ不思議な能力のせいなのか⁇
「あれ、俺達は一体何をやっていたんだ」
そして手に持ったメンコを不思議そうな顔をして見ている。
こいつらも強制送還してから先へと進んだ。
他にも、一心不乱に大人数で縄飛びをしていた奴ら、おはじき遊びをしていた連中、陣取りという地面に描いた長方形の中で石を弾いて自分の陣地の面積を増やす遊びに夢中だった奴らなんかがいた。
メジャーな昭和の遊びであったはずのベーゴマ遊びが無いのは、俺があれをやった事が無いからだろう。
不思議と俺がいた街の子達は、全国的にメジャーな遊びであったはずのあれをやっていなかった。
地蜘蛛取りに、水晶拾い、あと蟻地獄を探している連中もいた。
それらは全部俺が御幼少の砌に夢中でやっていた遊びばっかりじゃないか。
アドミン、御楽しみのザリガニ取りが抜けているぜ。
あれが俺の一押しだというのに。
「ふう、後は我が婚約者殿御一行様が十二名ほどで全生徒の回収終了だな」
「なんか色々と面倒な事になっていますね」
「嫌な予感がするわ」
あいつらが全員でザリガニ取りをしていたら、どうしようか。
いっそ俺も混ざっちゃおうかな。
ゴーレムの報告によると、もう少し先に残りのメンバーが固まっているようだった。
そして、そこにはなにやら真剣な顔をした我が婚約者殿がいた。
なんと、それは「競馬」だった。
その様子を見て、さすがに俺もずっこけた。
いやあ、物凄く好きだったんだよなー、これ。
「あれは何をやっているの?」
「なんか広いところだねー」
馬券を固く握り締めて応援しているシルを見ながら、ふとあの頃に思いを馳せた。
中京競馬場へ行って、よく飲み食いしながら遊んでいたな。
間違いなくここは中京競馬場のメインスタンド前、そのゴール板前の真正面にある柵に被り付きの黄金席だ。
毎回、俺の定位置だったところじゃねーか。
あそこって割と簡単に居座れるんだよな。
みんな結構ギリギリまで馬券で悩んでいるから、あそこまで行かないのだ。
中京はメインストリート前が割合とゆったり出来るスペースになっているのがいい。
仲間内や家族でピクニクシートを敷いて、お花見感覚で楽しめる。
競馬場を改修してからは行ってないがな。
電話投票も使って遊んでいたが、止めてしまった。
その主な理由は楽しめないからだ。
わくわくしてレースを見ていても、一コーナーを回るか回らないかで「負ける」のがわかってしまう。
他の人がわくわくしながら見ている間に、俺はもう四つんばいの姿勢になっているのだ。
逆に勝つ時は、先頭が四コーナーを回る頃には笑顔でガッツポーズをしていた。
せめて始まる前に勝つ結果がわかってりゃあ、もっと続けたんだけどね。
いや、中にはわかる物もあったさ。
俺は、それを「神の単」と呼んでいた。
テレビで有力馬の紹介を見ていると、ピシャンっと雷に打たれたように、そいつが勝つのがわかってしまう。
理屈なんか無い。
単勝は競馬の基本だ。
一着になる馬がわかっていれば、よほど低い配当の時や買い方がまずくなければ負けはしない。
必ず来るとわかっているのに、慎重な性格の俺は強気で行けなかった。
後で「もっと行っておけばな」と毎回必ず後悔するのだが。
俺はそれくらいリスクを嫌う人間だった。
それが異世界へ来てからも少し祟っている感じだ。
だから競馬はもちろん下手だった。
年間数レースしかないのだが、百パーセント勝つ事がわかっている勝負にだけ金を注ぎ込める特別な人間だったのに、それでも負けていた。
いわゆる馬券下手という奴だ。
だから競馬はやめた。
どう見てもアドミンの野郎は俺に喧嘩を売りたいのだとしか思えない。
嫌な事を思い出させやがって。
そしてシルが両手で端をギュっと持っている馬券を見て、今日も見事に感じとった。
丁度、今レースの先頭が一コーナーにかかったところだ。
(シル、その馬券って外れだから)
やがて馬がゴールして、シルが「きゃあ、外れた~」とか言いながら馬券を空に撒いた。
俺は風魔法で、そいつを華麗にゴミ箱にシュートすると婚約者殿に話しかけた。
「楽しかったかい?」
俺は自慢じゃないけど、外れ馬券は余韻に浸るため持ち帰るか、ちゃんと一枚残らずゴミ箱に放り込んでいた。
日本人なら、それくらいは常識だと思うのだ。
シルだって日本人の子孫なんだしな~。




