53-2 班分けタイム
翌日、俺は恒例の朝の儀式を終えて学園に顔を出したのだが、開口一番に生徒達から言われてしまった。
「あのう、アルフォンス先生。
その格好でダンジョンへ行かれるのですか?」
はっと気が付いて自分の格好を見たら、いつもの作務衣と雪駄、そして竹箒だった。
まあアドロスのダンジョンへ行くくらい、今の俺ならこれでも充分なのだが。
ゴブリンやコボルトみたいにチャチな人型魔物の群れなんざ、これの一払いで十分だわ。
俺は咳払いを一つして、さっと何事もなかったかのように爆炎スタイルに換装した。
「皆さん、おはようございます。
ざっと見たところ欠席者はいないようですね。
本日はなかなかの討伐日和、頑張って訓練いたしましょう。
全員一人も欠ける事無く戻れましたら、今日の訓練は成功です」
俺の挨拶には、ちょっと反響があった。
それを聞いて帰ろうかどうしようか迷っている奴もいたのだが、今後の人生のためにも王都学園を卒業しておきたいという意思が勝ったようだ。
何せ、ここで帰ってしまったら退校処分決定だからな。
「何か質問のある方」
「はい!
手強くて倒せない魔物がいたら、どうしたらいいですか?」
「頑張りましょう」
俺はあっさりと一言で済ませた。
質問した生徒はちょっと顔が引き攣っていたが。
この世の中、理不尽な事などいくらでもある。
いつも誰かが助けてくれるなどという甘えがあっては、この厳しい世界では生きていけない。
一応は引率の冒険者もついているし、インビジブルモードでゴーレムもつける予定だ。
中には、そのゴーレムを察知出来る優秀な生徒もいるのだが、そういう「出来る奴」は余分な事などは決して言わないものだ。
ただニヤリと笑って、その後は他のビビっている連中を尻目に涼しい顔をしている事だろう。
そんな奴は将来王国騎士団へ入団したって十分やっていけるのに違いない。
「じゃあ、班分けするぞー。
平民グループはバラして貴族の強いチームに入れるからな。
仲良くやれよー」
清貧三銃士も、見事にバラバラになった。
平民の割合は二割もないくらいだから、大体各チーム一人でいいくらいだろう。
貴族連中はやれやれといった感じで見ている。
従者を生徒として入れている奴らもいるので、離されると嫌がる奴もいるのだ。
何でも我儘を聞いてくれたり、あるいは本人は腕がからっきしでボディガードみたいにさせたりしている連中もいるので。
むしろ腕に自信のある奴らは「俺は一人でもいけるぜ」とか思っているようだ。
上級貴族の子弟の方が面倒見はいいので、そいつらのところへ優先的に平民を割り振っている。
中には割り振りが不満で、担任の教師に盾突いている貴族の子弟もいる。
お取り巻き連中と離れたくないのだ。
メンバーが四人いるならバラけたくないし、三人のところだと入れた平民が虐められそうだし、担任教師達が調整に四苦八苦している。
「ああ先生方、別にクラス対抗の行事ではないですから、さっと混ぜちゃっても構いませんよ。
生徒どもー、こういう時はぐちゃぐちゃ言わずに立場が上の者とかがよく面倒をみるのが初代国王の方針だからなー」
貴族関係で困った事があった場合は、これを言っておけばまず問題ない。
この国限定の荒業だ。
俺が日本の船橋家と懇意な事は、この王都ではよく知られている事実なので、そいつはなおさらなのだ。
船橋家の事は国王陛下だって大層崇めているんだからな。
ぶちぶち言っていた生徒達も、とりあえずは収まる。
ふう、貴族の子弟なんかよりも幼稚園児の方がまだ聞き分けがいいぜ。
まあ、その方が躾け甲斐はあるがな。
くっくっく。
最後に余ってドタバタしていた平民二人がいたので、侯爵家の嫡男シモンズが声をかけた。
「お前らで最後か? じゃあ俺達と一緒に行くぞ」
「は、はい。
宜しくお願いします」
こいつは、ちょっと強面なタイプなので他の連中からは若干敬遠されているのだが別に悪い奴じゃない。
少しシドに似たところがある、いかにも強者といった雰囲気を醸し出している。
あいつのように貴公子然としてはいないが、容姿も決して悪くはない。
どうせ仲間に入れてもらえなくて余る平民がいるかなと思って、こいつらは最後までキープしておいたのだ。
こいつについている無口な従者のマイケルも子爵家の三男なのだが、主人以上に腕は立ちそうだ。
いざとなったら、この二人はバラにして各自でリーダーをやらせてもいいかなと思っていたくらいだ。
多分、こいつらは現状でもBランク冒険者に届くくらいの実力はある。
マイケルが無口過ぎるので、別にグループを切り盛りしてくれる人間が必要になるが、そういう奴なら人材にはそう困っていないし。
最後に残った奴らは、如何にも平民・町人・雑魚といった雰囲気を醸し出していたのでバランス的に丁度いい。
あの二人にマンツーマンで面倒を見させよう。
俺が大事にとっておいた人材と一緒なので、平民二人も安心して彼らについていった。
シモンズ達も、そうやって相手を安心させるだけの器量と貫禄を持っている。
それでいて威張っていたり荒ぶったような態度を取る事はまったくないので、すぐに二人から信頼されたようだ。
彼もいい侯爵家の跡取りになりそうだな。
「よーし、班分けは済んだな~」
シルとベルベット嬢は、それぞれ王国と公爵家の騎士団の若い騎士見習い達と組んでいる。
彼らは卒業後に、それぞれの騎士団で正式に騎士見習いを勤めるのだ。
それと彼女達の侍女達も各二名ついていて、彼女らは侍女のみで別の班を作り王女チームに付随している。
彼女達は魔法持ちの貴族の子女だ。
シル達本人も強力な魔法を使える上に、俺の腕輪を持っているので更に強化されている。
それにBランクの冒険者が班に付き一名ずつ付き添いでつく。
さすがにこのあたりの人間には配慮がある。
まあ何かあった時は、呼んでくれれば俺がすぐ飛んでいくけどね。
最初から特別に対応したりはしない。
一応は教師として生徒は平等に扱わないといけないので。
「じゃあ、まず最初に支援魔法をかける」
そう言って全員の装備に強化をかけた。
平民の八割は学園の制服だけで来ているし、その他の連中もたいした装備はもっていない。
「次に、頭関係だ。
スライムが降ってくるから頭は絶対に守れよ」
革の帽子やヘルム、あとは頭巾みたいな奴とかを色々と配る。
女子はこんな時でも、きゃあきゃあ言いながら、なるべく可愛い物を選ぼうとしていた。
まあ、ビビって青い顔をしているよりはいいかな。
「あと、ポーション類を渡しておくぞー」
一応、御付きの冒険者達には、回復魔法を仕込んだアイテムボックスの腕輪を貸与してある。
それと彼らにはポーション類を大量に渡してあるが、何があるかわからないので生徒各自にも持たせるのだ。
結構過保護な態勢だが、これって別に探索なんかじゃなくって只の学校の授業なんだからな。
「というわけで、今から各自で潜ってもらうぞ。
予定は日帰りコースで。
昼食後に折り返してくれ。
万が一戻れないパーティがいる場合は連絡してくれ。
その時はすぐに迎えを寄越す」
まあ、御付きのゴーレムに強制送還を命じるだけなんだけどね。
今日なんかダンジョン初トライなので、ただ弁当を食いに行くようなものさ。
「それでは心の準備ができたパーティから出発!
間違っても他のパーティを攻撃したりしないように。
あと、ダンジョンにいる冒険者さんの仕事の御邪魔はせんようにな。
じゃあ落ち着いて行ってこい」
もう今か今かと逸っていた、実力はないのに気持ちだけ空回りしているグループが先頭を切って一目散に駆けていった。
やれやれ、ああいう連中が必ず世話を焼かすんだよな。
まあ、あそこにはそれなりのベテラン冒険者を付けておいたし。
俺は出発する生徒達に軽く声をかけながらゲートを開き、次々とダンジョンへと送り出していった。




