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3-5 魔道鎧完成、そしてダンジョンへ

 異世界三十日目。


 今日も引き続き王宮で、のんびりしていた。

 もしここに猫がいたとしたら喉をゴロゴロさせてから欠伸しそうなほどの、まったり満喫ムードだ。

 色々なおやつを作ってみたりで楽しく遊んだ。

 今日はエミリオ殿下にもドーナツを召し上がっていただいた。


 何故か、王妃様や王女様までもいらした。

 全員、美女・美少女揃いだ!

 王宮は美女で埋め尽くされていて凄いけど、やはり王族は超別格のオーラを放っている。

 しかも性格がとてもいい。

 それは日本人の血を引いているせいなのだろうか。


 生憎な事に御兄様である王子様方は、御仕事に埋もれているようだったが。

 こちらの方も日本人のDNAを色濃く感じさせる。

 合掌!


 みんな何故か生暖かく見守っていた。

 護衛の近衛兵でさえ。

 愛されているな、エミリオ殿下。

 今日は俺も訓練はサボリだ。


 皆に高級アイスとベルギーチョコも召し上がっていただいた。

 毒見係も超幸せそうだ。


 実にのんびりした、いい日だった。

 きっと自分の日頃の心がけがいいからに違いない。



 異世界三十一日目。


 さて、そろそろ例の懸案を片付けねばなるまい。

 そう、それはあの魔道鎧の着こなしだ。


 だがこれはちょっと難物だった。

 失敗したら俺は自分の強大な魔力で自分をふっとばしてしまうかもしれない。

 合気道だって、そんな器用な事はしないよな。


 念のために鎧を買いにいってきた。

 かなりごついタイプの金属鎧だ。

 俺は細身なのだが、もくろみもあって多少余裕のあるサイズにした。


 これをオリハルコン刀に使った鍛造オリハルコンに材料置換し、強化を重ねがけしておいた。

 これはオリハルコン刀とは異なり、日本刀のような積層構造ではなく完全な鍛造構造で分厚く作った素材なのだ。

 それから鎧と体との隙間に衝撃吸収素材をイメージして作成したクッション魔法を詰めた。


 体と鎧の隙間には余裕を持たせておいたので、そこへ十分に衝撃吸収魔法を待機状態で詰めたのた。

 こいつはクッションとして機能するための隙間を必要とする、まるで半物理のような変わった魔法なのだ。

 身体強化も最大に重ねがけし、体の表面にはバリヤーもガツンと張っておく。

 さらに鎧の周囲にはハイシールドをたっぷりと魔力を込めて重ね掛けしておいた。


 それから例のガラスの大地と化した魔法演習場へと転移魔法で移動した。

 そして、ふうと軽く息を吐いてから「スキル魔道鎧」発動。




 今、自分の身に何が起きたのか、よくわからない。

 ……気が付いたら数キロ先の荒野にまで吹き飛んでいた。


 ハイシールドは弾け飛び、あの超頑丈なはずのオリハルコンの鎧も粉々に吹き飛んでしまって跡形もなかった。

 微細なマイクロオリハルコンとして大地へ、あるいは直接魔素へ還ってしまったか。


 体の表面を覆っていた強力なバリヤーも効果が消え失せてしまっていた。

 ありえないほどの衝撃を食らったものらしい。


 無論、クッション魔法も食らった衝撃で消し飛んでいた。

 あれは、そうやって衝撃を吸収する魔法なのだから、消し飛んだのは当然なのだが。


 あれらが一体どれほどの衝撃を吸収してくれたものか、まったく見当もつかない。

 何しろ「星と喧嘩した」んだからなあ。

 今俺が生きてんのが不思議なくらいだわ。


 この魔道鎧、本当に曲者だ。

 威力は凄まじいのだが、特に俺の場合はなまじ魔力が強力なため、逆に制御出来なかった時のペナルティはでかそうだ。


 気が付いたら、遙か彼方にある荒野のど真ん中で気絶していたのだ。

 最初は何が起きたのか、まったく理解できなかった。

 なんというか、「知らない天井」状態であったのだ。

 いわゆる青空天上っていう奴だけど。


 自分の強大な魔力によって、ここまで放り出されたのだ。

 ええい、魔導レールガンか!

 自分で自分を打ち出してどうする!


 真っ直ぐに真上へ向かっていって、大気圏を突破していなくて幸いだった。

 そんな目に遭ったら、気絶したまま真空の宇宙空間で窒息して死んでいたかもしれない。


 怪我一つ無いのはHPLv11、400万HPのステータスのおかげだろう。

 俺ってこんなに丈夫だったのか! と感心する事頻りであった。

 いやあ、真面目にレベル上げをしておいてよかったなあ。


 やはりオリハルコンを手に入れておいて良かったぜ。

 こいつが無かったら、あの超強度を誇るオリハルコンが粉々に砕けて衝撃を相殺した分のダメージを全て体で受けるところだった。

 その場合、はたして無事に済んだものかどうか全然自信がない。


 武器屋の親父、ありがとう。

 そして相変わらずのセブンスセンスの恩恵にも感謝する。

『あいつ』の言う事を聞かずに痛い目に遭いまくって、奴の言う事にはおいそれとは逆らわない習慣を作っていた過去の自分にも。



 それからギルマスのところへ話を聞きに言ったら、思いっきり呆れられた。


「よりにもよって、あれを身に着けていたのか。

 確かに試験の決勝で相手は魔道鎧を使ったが、あれは一朝一夕で使いこなせるような技ではない。

 あの代々使いこなしている一族だからこそ、なんとかなっているのだ。

 お前、本当によく命があったな」


「えー……」


「とにかく魔力コントロールの修行からだ。

 毎日魔力制御の修練はやっているか?」


「一~二時間くらいは」


「うむ。

 お前は魔法があの威力だからな。

 そいつだけはサボるんじゃないぞ。

 だが、それでも魔道鎧の制御には足りないだろう。

 よし、お前にピッタリの教師を付けてやろう。

 レッグ、アンドレを呼んでくれ」


 サブマスが俺のために仕事を言い付けられている。


「アンドレ? 誰なんだい、そいつは」

「ふふ、会えばわかるさ」


 やがてそう間を置かずに連れてこられたアンドレという人を一目見て、俺は妙な既視感に囚われた。

 アンドレさんは誰かに似ているなあ。

 一体誰にだ?


 そんな俺の怪訝そうな顔を見て、彼は笑った。


「ははは、似ているかい?

 私はアントニオの兄ですよ」


「アントニオ?」


「お前はBランク試験での決勝相手の名前も覚えておらんのか。

 泣くぞ、あいつ」


「ああ、ああ、ああ! どうりで」


「まったく。

 アンドレ、悪いがこの馬鹿をちょっと鍛えてやってくれ。

 こいつはSまで持っていく」


「へえ~。

 そいつはまた凄い入れ込みようですね」


 妙に感心するアンドレさん。

 滅多に無い事なのか。


「済まん、こいつは少し訳ありなのだ」


 ふふふ、少しなんてもんじゃないがなあ。


「しかし、我がオルストン家の魔道鎧を一度見ただけで、ものにしてしまうとは!」


「覚えただけで、ものに出来てないから頼んでいるんだ。

 じゃあ、そいつの事はお前に任せたぜ」


 それからの一週間というもの、ギルドの修練場で精密な魔力制御ばかりを徹底的に叩き込まれた。

 その副産物として、普通の魔法も今までよりも一・五倍は高威力の魔法を無難にこなせる技術が身についていた。

 その上達ぶりはアンドレさんも絶賛してくれた。


 しかし、それでも俺は魔道鎧を制御する事は出来なかった。

 そして、ついに模擬戦をやる事になったのだが、呼ばれた相手はなんとアントニオその人だった。


 奴は俺の顔を見るなり、顔を真っ赤にして怒っていた。

 まあ普通は怒るよな。

 あれは我ながら酷い試験内容だった。


「兄さん! 一体何を考えているんだ?

 こいつのおかげで我がオルストン家は赤っ恥をかいたんだぞ!」


「まあまあ。

 でもお前は勝ちを確信し、力に驕り、そして敗れた」


「ぐっ!」


「きっと、お前にとっても実のある訓練になるさ。

 全てのライバルを教師とせよ。

 我が家には、そんな家訓もあっただろう?」


「わかりました。

 おい、貴様。

 一回勝ったくらいでいい気になるなよ?

 しかも、あんな勝ち方で」


「でも勝ちは勝ちだぜ?」


 俺はBランク冒険者カードを奴の目の前でひらひらさせてやる。

 するとアントニオは顔を真っ赤にして叫んだ。


「この野郎。

 今すぐ勝負だ!」


 青いなあ、この程度の挑発に乗るとは。

 もっと精進しなされ、お若いの。


 だが、意外と俺は奮戦した。

 魔道鎧とは違うが、上達した魔法制御を利用して、いろんな魔法防御や超魔力を込めたシールドなどで奴の攻撃を弾き、見事に往なした。


 こんな事が出来るとは思っていなかったのに。

 この一週間で俺も随分と成長したもんだなあ。

 なんというか、五十代の手習いとでもいうかな。


 アンドレさんは本当に素晴らしい教師だ。

 オルストン家というものに凄く興味が湧いてきた。


 そして何度も何度も奴の魔道鎧を真近に見て、極自然に使い方を見取っていった。

 一週間後には、いつの間にか当たり前のように魔道鎧を完璧に纏っていた。

 アントニオの、信じられないという感じで吃驚した顔が傑作だな。


 アンドレさんは絶賛してくれたし、ギルマスからもドラゴン退治の許可をもらった。

 ドラゴンの倒し方もギルマスからレクチャーを受けた。


「ブレスを吐かせるな。

 動きを止めて首を落とせ」


 首狩りなら日本人、いや敵の首を獲りまくって天下さえも取った三河人に任せてくれ。

 具合のいいドラゴン専用の首狩り剣も出来た事だし。

 試し切りにはちょうどいい相手かな。



 異世界四十五日目。


 Aランク試験まであと七日。

 今、俺達は朝っぱらから迷宮都市アドロスまで来ている。

 もちろん、ここのダンジョンの最下層にいるドラゴンを退治するためにだ。


 アントニオと一緒に来たのだ。

 かき集めた情報によれば、ここにもドラゴンはいるらしい。


 アンドレさんの、「それならアントニオも一緒に行っておいでよ」の一言でそれは決まった。

 もちろん俺に反対する理由なんぞない。

 魔道鎧なんていう反則技を使える超強力な肉壁がいるのだ。

 使い倒すのに決まっている。


 あいつは、あの兄貴に頭が上がらないようだ。

 日頃、かなり世話を焼かせているとみた。

 あのヤンチャっぽい性格ではな。


 なんだったら、この井上のおじちゃんが矯正してやろうではないか。

 余裕で親子ほど年が違うのだから。

 まあ、ほんの三十一歳差程度だ。


 もっとも兄の方も、やや情緒不安定気味な弟を心配しているようで、「弟を宜しく頼むねー」と言っていた。


 それで一緒にやってきたわけだ。

 このアドロス迷宮へ。

 転移魔法でな。


 初めは奴もいきなりの転移による世界を切り取った急変貌に、脳の視覚処理が追い付かないようで大混乱していたようだったが、やがて苦虫を噛み潰したような顔になり、そしてついに諦め顔になった。


「じゃあ、今からドラゴン退治と洒落込むけど、心の準備はいいかな?」

「どうせ出来ていなくても行くんだろっ!」


 ドラゴン退治に当たっては色々な想いがあるのだろう。

 奴も怒ったようにそう言った。


「まあ、君なら魔道鎧を纏っているのだから死なないと思うし。

 じゃあ行くよ」


 そして行ったことのある階までは転移魔法で行く。

 時間の許す限りは、修行の傍らにこつこつと下層へと歩を進めてきたのだ。 


 本日は四十五階からの攻略だ。

 後は魔法や兵器で無双して進んだ。

 御蔭様で、かなりの量の素材が集まった。


 そしてボスのいるゾーンには、御馴染みのあいつがいた。


「グルーー」


 キメラだ。

 あれから後にポップアップした奴なのか。

 この階層からはAランクがボスなんだな。


 そしてキメラがいきなり前置き無しの強烈なブレスを吐いた。

 やるな、キメラめ。


 こいつのブレスは強烈だ。

 おまけに即応性も高く、持続力にも自信ありという奴らしい。

 しかし、そのすべてをアイテムボックスの中にすーっとブレスを吸収してやる。


 奴は驚いた顔で唸る。

 それでも、ただちに物理攻撃の態勢に入った。

 こいつは、しぶとさが売りの魔物のせいか、魔法と物理の複合的な攻撃も出来るくせに、あまり魔法は使わずにこういう態度に出る事が多いらしい。


 厄介そうな獲物を前足で押さえつけて、自慢の毒尻尾の餌食にしようという魂胆か。

 だが、そうはいかん。


「魔道鎧発動」


 俺は高速で回り込みながら向かってくるキメラを、目一杯のパワーを込めたカウンターパンチでぶん殴った。


 奴は、この俺の強化された肉体の踏ん張りを押し倒せず、逆に猛速のトラック相手に事故った乗用車のように軽々と吹き飛んでいった。

 そして最後には犬猫のように仰向けになって、左右に羽根を広げたまま見事な降参ポーズを極めてしまっている。


 すかさず次の瞬間、俺は奴の顔の隣に立つと、またもやしつこく起き上がりかけた奴の頭に渾身のキックを食らわせた。


 強烈無比な、魔導鎧を纏った足による容赦のないフルパワーの蹴りに頭が砕けて、さしものAランクの魔物も一撃で息絶えた。


 うん。

 強くなったな、俺。

 もう、こいつから逃げ回る必要は無い。

 かつてEランクのグリオン如きに苦戦し、蹲って震えていた情けない自分は既に過去の人物だった。


「へえ、やるじゃないか。

 もうすっかり魔道鎧を使いこなしているな。

 発動までのスピードが半端じゃない」


「ああ。

 本当は威力の上がったサンダーレインで雪辱を果たしたかったんだが」


「また来ればいいさ」


 そう事も無げに言うアントニオの奴も大概な野郎だな。

 こいつも、まだBランクですらないくせにAランク魔物をソロで狩れる口だろう。

 Bランク試験の結果を意趣に思ったこいつに、こっそりとつけ狙われているような酷い状況じゃなくって本当に良かった事だ。


 

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