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50-8 ワイルドイーターズ

 午後のおやつはワイルドにいった。

 焚き火おやつの時間だ。

 メインは焚き火バームクーヘンだった。


 これは最近、日本のキャンプなどでもよく挑戦されているメニューではないだろうか。

 担当は冒険者達だが、子供達もちゃんと作る側で参加している。

 自らの手で異世界おやつを焼き上げんとするファルの目の色が違う。


 これが普通の子供なら、ようやく「たっち」をマスターしているくらいの年齢なのだが、ファルスは違う。

 今のところ、これに対抗できる人類はアントニオのところのレオンくらいのものだ。


 神聖エリオン随一のおやつ師としては、これは絶対に見逃せないイベントなのだ。

 厚く焼き重ねられたバームクーヘンは、ずっしり系御菓子の一大ジャンルだ。


 今はまだ母親のレインが、あの状態ながら精霊の森とこの世界を一身に背負ってくれている。

 だが、いつかはそれを自分で背負わねばならない運命。

 ここはがっつりいって、しっかりと成長しておかねばならない。

 その所作の一挙一動に、真剣の二文字が張り付いている。


 でも、やっぱり単に食い意地が張っているだけなのかもしれない。

 他の奴らも目付きだけはファルとそう変わらないし。


 バームクーヘンが豪く人気だな。

 あちこちで色々なスタイルや生地でバームクーヘンが焼かれている。


 その一方で、その火元ではアルミホイルに包まれたサツマイモやじゃがいもがじっくりと焼かれていた。

 最近は子供達全般の食欲が凄くて、おやつもがっつりな物が多いのだ。


 待ち切れない子供のために焼きマシュマロやクッキーを焼いているので、辺り一面に香ばしい匂いが漂った。

 ビスケットのマシュマロサンドも好評だった。


 精霊の具現化したチビ達が待ちきれない御様子だ。

 まだ駄目? まだ駄目っていう感じで、こっちを見ている。


「おーい、エリ。

 なんか出来てる?」


 すでにキッチンエリ特製の野外おやつ、ワイルドケーキフェスティバルが始まっていた。

 ケーキというか、直火で焼いただけの即席おやつというか。

 さまざまな具材で焼き上げ、趣のある木目の素晴らしい木製テーブル上を彩っていった。


 パイなんかは、わざと焦げ目をつけて香ばしさを加え、いつものキッチンエリでは味わえないような野趣あふれるテイストに仕上げられている。


 プリティドッグの一団が被り付きで付き添っており、俺のスマホに、やたらとエリ-ンから電話がかかってくる。

 あいつは一体どういう嗅覚をしているんだ。


 まあ、あっちには葵ちゃんやリサさんもいるしな。

 御留守番をさせている事だしゴーレム達に配送させているのだが、王宮からも王妃様の催促が煩い。


 王妃様は、こっそりと遊びに来ようとしていたらしいが、大事な御客様が訪問していて懇親会から抜け出せないらしい。

 だいぶ不満気な様子だった。

 いや、幼稚園や小学校の遠足に普通保護者はついてこないよね。


 もう遠足というよりも完全に林間学校みたいになってしまっているが。

 なんたって二泊三日コースで、はるばる二百キロもバスに乗って来たんだからな。


 名古屋大阪間が約百八十キロくらいなのだから、それ以上の長距離だわ。

 幼稚園の行事としては、ちょっとありえないほどのロングディスタンスだ。


 俺の時なんか、西三河の小学校の就学旅行で、大阪よりももっと近い京都だったんだぜ。

 中学校の就学旅行でようやく東京まで行ったのだ。


 もっとも、東京タワーすら外から眺めただけだったし、どこへ行ったのかすらも覚えていない。

 有名なところはどこも行っていない。

 強いていうならば『首都東京』こそが、田舎民の就学旅行における社会見学の対象だったのだ。

 中学で東京へ行った事のある奴なんて、東京から転校してきた奴くらいだった。


 東京から比較的距離が近くて、東名高速や東海道新幹線などの真っ先に整備された首都圏との直通交通網が発達していた愛知県でさえ、当時はその程度だったからなあ。


 あれでようやく三百キロを超えたくらいだ。

 あの頃はまだ高速道路もあまり整備されていなくて、東名高速がメインの高速道路だった。

 新幹線も今からしたら鈍足なひかり号だったし、東京へ行くのも観光バスだった。


 当時は、なんでもかんでもバスで行くから、東名高速がなかったらもっと近場への旅行だったかな。

 高校の修学旅行で萩まで行って、やっと鉄道に乗ったんじゃなかっただろうか。


 中学の頃は、ようやく成田空港が出来たくらいで、あの日本一の巨大テーマパークなんかはまだ出来たか出来なかったくらいじゃないか。

 今の子は、みんなあそこへ行くよな。


 そういや、あの頃は阿呆の過激派が成田空港へ突入していくニュースをやっていたっけなあ。

 過激派なんていう阿呆な連中は、子供からも滅茶苦茶に馬鹿にされていたがな。

 俺も新聞読んで大笑いしていたわ。

 そういう真似をしていた北朝鮮あたりの息がかかっていそうな連中が作った腐った特撮番組とかは、超有名な歴史的に出来の悪い番組なので、その番組でネット記事として特集が組まれるくらい今でも語り草的に馬鹿にされている。



 こんなにがっつりと食っていて晩御飯が食べられるのかなと思っていたが、子供達にはそんな事は関係ないらしい。


 今夜のメニューはウクライナ料理のボルシチ、そしてビーフシチューだ。

 ドラゴンハムも、串に差して直火でワイルドに焼く。

 まるで有名なハム会社のCMのようだ。


 ジュージューと香ばしい音を立てて、焼きあがったハムが次々と平らげられていく。

 柔らかいロールパンも直火で焼かれていき、熱々の内に勢いよく消費されていく。


 エリの奴め、なんとウクライナ料理であるボルシチに合わせてウクライナの黒パンまで焼いていやがる。

 ボルシチは本来ロシア料理などではない。

 ロシアにおいてのボルシチは日本の中華料理みたいな立ち位置なのか?


 料理に関しては本当にマニアックな奴だな。

 この世界にもあれの材料があったんだ。


 あれは日本の黒パンとはまったく異なり、黒というか茶色と黄土色の中間のような色合いで、小さめでも非常にずっしりとした手応えのある少し変わった食パンなのだが、あれこそ本来の黒パンという物なのかもしれない。


 一般的な日本人の味覚には少し合わないかもしれない。

 俺は日本の柔らかく香ばしい黒パンの方が好きだ。

 またあれは厚さ二ミリ程度に切っても、ピンっと真っ直ぐで板のようにしっかりしている不思議なパンだ。

 そこまで薄くすると羊羹と一緒で自立するのは無理だけど。


 あれは独特の風味が日本人には合わなくて今一つの代物なので、少し食べ方に困る食い物なのだが、何度か口にすると不思議と癖になる感じの味だ。


 最初は「なんだ、このパン!」とか思うのであるが、これで薄切りにした物をウオッカの友とすると、途端にその価値が一変するのだ。

 もうジャンクフードみたいに手が止まらなくなる。

 何か妙に脳を刺激するようなヤバイ成分でも入っているのだろうか。


 あのウクライナの強烈に厳寒な季節を、超高密度(ハイカロリー)のずっしりとしたパンと|アルコール度数の高い酒《ハイオク燃料》の組み合わせで凌ぐのかもしれない。


 ぐい飲みに注いだ原液のままのウオッカにウクライナ黒パンを漬けて口にすると、何かこう舌が痺れる感じがする。

 やはりウオッカは強烈な酒だ。


 非常にしっかりしたパンなのでウオッカに漬けてもすぐに形が崩れない。

 そのためだけに、あれほどしっかりと形を保つようにしているのではないかと邪推してしまうほどだ。


 それを口に含んでから、しゃぶってしばらくするとウクライナ黒パンの香ばしさが浮かび上がってくる。

 これはまた今度ウオッカの御伴として食すとしよう。


 まあ本日はケモミミ学園の遠足なんで、残念ながら園長先生もアルコール厳禁なのだ。

 ドワーフの連中がよく我慢出来ているな。

 たぶんトーヤのためか。


 当然、園長先生たるおっさんも飲めないのだが、たまには禁酒もよかろう。


 御飯派の奴らは自分達で飯盒を用いて、てきぱきと御飯を炊いている。

 そういう事なので俺もマニアックなウクライナパンは止めにして、御飯の御裾分けをしてもらいに茶碗を持っていった。


 酒が無いんだったら、やっぱり御飯が欲しい。

 焼き肉屋なんかだと鉄板のパターンだよな。

 俺にとってウクライナ黒パンとはウオッカのつまみ以外の何物でもない。


 子供達を携帯御風呂で洗い終わって、キャンプ地はなんとか寝静まった。

 ファルはレインを枕に寝ている。

 親子共々、実に幸せそうな寝顔だ。

 俺も、のんびり寝ることにした。


 俺がこの世界に初めて来た夜はテントを張る事さえなく、ただただドタバタしていた。

 今はこうして、おチビどもとテント遊びをする余裕さえある。


 今もゲルスや十三か国連合の事はあったのだが、俺は日常に埋没し夢の国へと旅立った。



 夜が明けると朝から大騒ぎだ。

 精霊の森の朝は神々しい。

 本来であれば神の降りる場所かと思うほどの神聖な場所なのだが、今朝ばかりは様子が違った。


 王女様方も侍女と一緒に大騒ぎで、水を汲んだり火を起こしたりと、きゃあきゃあ言いながらやっている。

 普段は凄く大人びている我が婚約者殿も、ああしていると歳相応だな。

 それとエミリオ殿下が大張り切りだ。


 朝から大騒動をして御飯を済ませてから、みんなを集めてメインベントの始まりだ。


「今から、例の大型化石の御披露目だよ~」


 トーヤやエディを始め、子供達がわっと集まってきた。

 当然のようにプリティドッグの奴らが最前列に居座っている。

 奴らはみんなワンコスタイルに戻っていた。


 こういう時は犬の姿に戻っていた方が前方に潜り込みやすいのだ。

 本当にちゃっかりしている。


 まず、アイテムボックスの中で母岩を綺麗に除去する。

 普通の骨とは違うので、当然ピカピカつるつるではない。

 あの味わいのある博物館的な趣の外観だ。


 そして強化をかけて、崩れたりしないようにする。

 それから状態保存の魔法もかけておいた。

 こいつは御山の爺さんから仕込まれた魔法なので素晴らしい性能なのだ。

 こういった科学的な学習要素や、文化財保護なんかにとても役立つ魔法だ。

 まだ何か魔物関連で俺にさせたい事とかを隠し持っているのかもな。


 魔力糸で支えてレビテーションで自立させる。

 そしてゴーレム用の魔核を埋め込んだ。


 これは再生スキルの機能を一部取り込んで、この魔物が生きていた頃にどんな動きをしていたのか再現してくれるのだ。

 ただし、中身はゴーレムさんなのでB級映画のように暴れたりはしない。


 うちのゴーレムさんと同じような、子供達に対する慈しみの心を持った魔物化石ゴーレムさんが誕生した。


 ファーソー(化石)ゴーレムだ。

 その声帯さえも持たぬ骨の喉から、まるで風の音のような魔物さんの鳴き声が聞こえてきた。


 そして、のしのしと歩き出した。

 その後を子供達がわーっと走ってついていく。


 かつて血肉を備えていた時に歩いていたように、彼は辺りを懐かしそうに眺めつつ歩いた。

 周囲の足元に埋まっている化石を荒らさないよう、それもほどほどで控えるように言ってあるので、すぐに戻ってきた。

 そして頭を下げ、トーヤに鼻面をこすりつけるような仕草をした。


 魔物化石は、どちらかといえばブロントザウルスっぽい感じだろうか。

 今はアパトサウルスと呼ばれているのかもしれないが、おっさんの幼い頃はブロントサウルスでもなく、ブロントザウルスと呼ばれていた。

 いつの間に雷竜がアパート竜になってしまったのか。


 また最近は、この二つはやっぱり別種でしたという事で、前の名前が復活するかもしれないとか言っているし。


 とりあえず、新しいうちの子の体長を測っておくことにした。

 体長二十三メートルだった。

 ブロントサウルス換算だと中サイズという事だろうか。


 万が一にも子供が踏まれるといけないので、ゴーレム達が戦車の随伴歩兵の如くに寄り添っている。


 他の子にもせがまれたので、小さい奴らにもゴーレムの魂が吹き込まれた。

 化石の森に、かつてとは違う形で新たな命が吹き込まれた。


 精霊や化石魔物のファーソーゴーレムと遊びまくって、御昼御飯を食べ終わったら、精霊の森から撤収となった。

 化石魔物は生き物ではないので、俺のアイテムボックスへ収納できた。


 途中でブラウンゴブリンを降ろすと、彼らが発掘していた中サイズ魔物化石もロスコーへと降り立った。


 こいつは体長五メートルくらいの二本足で立つ奴だ。

 そういう訳で、新しいロスコーの名物が誕生した。

 なかなか愛嬌がある奴なので、ここには相応しい存在だろう。


 ブロントサウルス級のでかい奴はアドロスサウルスと名づけられ、アドロス遊園地のマスコットとして活躍する事になった。


 肝心の遊園地がまだ本格オープン出来ていないのであるが。

 また一つケモミミ園が新しい仲間を迎えて賑やかになった。


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