3-4 最強の首切り包丁とガラスの大地
異世界二十八日目。
とりあえずエリ一家を護衛する手筈は整えた。
あのエド達ならば、きっちりと仕事を回してくれる事だろう。
俺は迷宮に入る前に魔法のレベルを上げておこう。
あのキメラと相対した時はさすがに閉口した。
上級魔法なんて、いきなり実戦で使うもんじゃない。
まずは中級魔法のレベル上げかな。
高レベルの中級攻撃魔法なら、あんなに開けた戦場を探せなくても、ガツンと魔力を込めればキメラくらいは今の俺ならあっさり倒せるだろう。
幸いにして演習場に適した場所は見繕ってある。
フライで北へ向かう途中で見つけた場所だ。
そこはゴツゴツした岩が延々と広がる荒地なのだ。
あそこなら誰にも迷惑はかからない。
とりあえず中級魔法からいく。
さすがに初級魔法では威力にも限界がある。
また上級は威力がありすぎるので使い辛い場合もある。
あれで小器用に威力を抑えるやり方は最初から教わったのだが、それって屋内演習以外に何か意味があるんだろうか。
使い勝手のいい、また威力の高い魔法として、まず中級魔法を上限Lv10まで上げよう。
もう単にぶっ放すだけなので、いろんな撃ち方や威力のコントロールを練習した。
そして日が暮れる頃には全ての中級魔法がLv10に到達した。
この魔法のLvというものは、単に通常考えられる魔力でそのLvで何が出来るかという目安みたいなものなのだ。
その真の威力は、込められる魔力で決まるといっても過言じゃない。
ただ、Lvが高い方が当然威力は高まる。
それ以上の魔法が欲しければ、もう自分で新しく魔法を作るしかない。
後、切断系の魔法が欲しいな。
キメラの首を落とすのに大変難儀をした。
高ランク魔物を相手に接近戦はあまりやりたくない。
それと魔道鎧も完全に習得したいな。
色々と考えた挙句に、オリハルコン魔法剣の十倍サイズの物を作ってみた。
今、これを作ったら多分……。
実行に移したが、思った通り『MP不足』だった。
予想通り、88兆MPになんなんとする現在のMP全てが弾け飛んで無残に四散した。
十倍サイズオリハルコンは作成に200兆MPが必要なのだ。
とんでもない代物だ。
その代わりMPがレベルアップした。
まさか、このレベルが必要だと思わなかった。
自分以外に、この大型オリハルコン剣を作り出せる人間は、今この世界にいないだろうな。
MPレベルがLv10に到達し、2京2250兆MP強という凶暴なMPを誇った。
俺のMPの数字は魔法PCが確保する、魔素を取り込める領域に過ぎない。
この世界の人の言う魔力量というものとは根本から異なるようだ。
決まった数式に基づいて、必要になった時に領域の確保量を数字で拡大していっているだけなのだ。
不足したら、領域を広げるという代物だ。
PCゲームにはよくある設定方法だな。
普段は出来る限りPCに負担をかけないようにしておき、必要に応じて領域を多く確保していくというやり方だ。
そして、もう一回大型オリハルコン剣の作成を試す。
すると見事に拡大コピーで作られた、刃渡り十メートルに全長十三メートルの巨大なオリハルコン魔法剣が出来上がった。
巨大な魔石がキラキラと輝いている。
これこそ、まさに値段なんて絶対に付けられない代物だ。
さすがに迷宮の中以外では封印しておかないといけない物だな。
こいつにはフライを付与してみる。
試運転でそいつを飛行魔法で空へ飛ばしてみた。
一本なら自由自在に飛ばせる。
更に数を作成して飛ばしてみたが、なかなかコントロ-ルに骨が折れる。
魔法を飛ばすようには上手くいかない。
ただ単に空中に浮かべて、的へ目掛けて一斉にぶち込むだけなら複数でもOKだった。
コントローラーを振って遊ぶゲームの要領、コントロールするイメージだ。
そういうわけでコントローラーを作ってみた。
十字型ボール型と色々作って試した。
結局、なんとこの怪物剣を操縦するには典型的な「魔法の杖」型が一番使い勝手がいいようだ。
よく地球のファンタジー映画に登場するような、ワンドタイプではない指揮棒のような奴だ。
振り回し、細かく杖を操作し、そして振り下ろす。
まさに剣舞を操り奏でる魔法のタクトだ。
そのうちには杖を使用しなくても制御できるようになるのではないか。
キメラ戦をイメージしながらイメージトレーニングをしてみた。
もうちょい頑張れば魔法の杖で二刀流もいけるかも。
ちょっと楽しくなってきて、思いっきり遊んだ。
そして、こいつらに強化魔法を付与していたら、身体強化とHPのLvが11に上がり400万HPとなった。
なんで俺のHPって、こういう不思議な上がり方をするのだろうか。
何かが激しく間違っているような気がしたが気にしない事にした。
きっと最初にチートを組む時に『俺の中のあいつ』が、また何か色々と勘違いして作ったのだろう。
あの時は時間もなかったしなあ。
まあ、それはいつもの事だ。
時間も、もう遅い。
あれこれと切り上げてエリの家へ向かった。
もう御夕飯の時間だ。
今日は、この前できなかったからカレーに挑戦するか。
とりあえず具材は鳥の胸肉で。
下ごしらえは既に出来ている。
水の量を若干大目にして、中辛でも甘めに仕上げる。
御飯は暖めてあるものをコピーした。
その作業を見つめるエリ-ンの瞳が鋭い。
それに子供達がわくわくしているのが感じられる。
子供が辛くて食べられなかったら、どうするかな。
レトルトやルーは中辛と辛口しかないんだよなあ。
恐る恐る出してみたが、一口パクっといってからエリが叫んだ。
「美味しい~」
ポールもマリーも美味しく食べられたようだ。
ちょっと辛そうにしていたけど。
エリ-ンの奴はバクバク食っていた。
しかも遠慮なく御代わり三杯目にいきやがったし。
いつかコイツには、目から火が出るような超激辛カレー食わせてやろう。
今でもルーの量を多めにすれば、やってやれない事もなかろう。
それでも御代わりをしそうな気はするんだが。
デザートは満場一致でプリンとなった。
エリーンの奴は当然のように三個だ。
皆でわいわいと食事を終えて、俺は王都の宿に帰る。
そして後は寝るだけという生活だ。
異世界二十九日目。
今日は上級魔法の訓練といこうか。
大幅に増やしたMPに不自由もないし。
ド派手にいくぜ!
もうやりたい放題に撃ちまくった。
エリーン達の御飯はエリに預けてある。
エリにはアイテムボックスの腕輪を作って貸与してあるし。
一応、絶対に使っているところを人には見せないようにと言い含めて。
エド達はエリがアイテムボックスを持っているのを知っているから別だ。
エリは頭のいい子だ。
それに信頼できる。
エリーンにはプリンは四個以上与えないよう言ってある。
その辺も含めて、きっちり出来る子なのだ。
エリーンは二十四時間密着護衛の体制にある。
あいつだけはエリの家に泊まり込みだ。
女性SPという奴だな。
あれで中々、エリーンの奴も冒険者としては優秀な人間なのだ。
弓士としての腕前はエドから買われているし、感知探索も一人前にこなす。
それなりに近接戦闘もこなせるし。
元々猟師であったために、シーフとしてもそこそこの腕前で、また薬草や調合なんかにも長けている。
そっちの関係からチームの回復関係も担っているのだ。
今は俺が与えた高額のポーション類があるけどな。
あのパーティでは一番オールマイティにやれる人材なのだ。
いわば、チームエドのエースといってもいい。
しかも女子供の相手を泊り込みで無理なく出来るから今回の任務にはピッタリだ。
食い意地の方も一番なのだがな。
今回はそれがいい方向に出る希少なミッションだ。
この仕事が終ったら、エリーンには褒美をやらねばなるまい。
まだ定番の外国産高級アイスとベルギーチョコは奴に与えていないのだ!
夕方には転移魔法でギルドに顔出しをした。
ポーションとかの御用命が無いかと思って。
あと上級治癒魔法の件もあったし。
しかし、顔出ししたのっけからギルマスに呼びつけられた。
う、なんだか嫌な予感がするぜ。
そして開口一番に言われてしまった。
「なあ。
今日王宮から問い合わせがあってな。
実は北方の方面から、かなり強烈な魔法を多数、それはもう多数検知されたと。
何か情報は無いか、とな」
ちょっと背中を伝う冷や汗が。
えー……。
「やっぱり、お前の仕業だったか。
その前にも、かなりの魔法が検知されたという報告もあったぞ」
いや、まだ何も言ってないんだけど。
顔に書いてあったかな。
俺って正直者だから、すぐ顔に出ちゃうのさ。
俺は開き直って、ギルマスにすべてをゲロした。
「この間教わった上級魔法、その殆どをLv1からLv10まで一気に上げた。
それはもう、丸一日撃ちっぱなしだった。
その前は中級魔法でそれをやっていましたが、それが何か」
「そうだったか……」
「あれ。怒らないの?」
「怒りはしないが、今から一緒に王宮まで行って言い訳をしてもらおうか」
「えーー」
「やかましい。
物には限度っていう物があるという事を知らんのか」
「その前に、ちょっと付き合ってくれない?」
「どこへだ?」
「ここへさ」
一瞬にして、ギルマスと一緒に俺の演習場へ転移した。
「こ、これは!」
広大な面積が完全にガラス化して、尚且つ同心円状に幾重にも溶けて重なったクレーターだらけになっている。
それがまた虹色にキラキラと輝いていて、それはもうとっても綺麗なのさ。
もう一種の芸術作品だな。
作ろうと思ったって、この美術音痴の俺には絶対に作れない偶然に出来た代物なのだが。
「ちょっと目眩がしてきた……。
それで見せたかったという物はこれか?」
「うーうん」
重い沈黙がその場を支配した。
そして静謐な空気の中、必殺の超オリハルコン剣乱舞を披露した。
剣はもう二百本まで増やしていた。
無造作に振り回すだけなら、この本数でもいけるのだ。
そしてそいつらを目の前にズラリと、まるで軍勢のように立てた状態で並べてみせた。
「いやあ。
キメラの首を切るのに結構苦労したもんだから、でかいオリハルコン剣を作ってみたんだ。
これならドラゴン相手でもいけそうじゃね?
是非ドラゴンスレイヤー様の御意見が聞きたくてな」
「おんまえ……いや、もう何も言うまい。
とはいえ、それは絶対に人前で見せるな。
何を考えているんだ、まったく」
「やっぱりか。
それで、このガラスの大地をどうしようか」
「知るか!」
「という訳なのだが、それでえーと、今から王宮へ行く?」
もう遅い時間だったので、特別に王族の住まう後宮ゾーンへ通されてしまった。
「アル!」
おー、エミリオ殿下だ。
もうすっかり仲良くなったので、俺の事をアルと親しげに呼んでくれるようになっていた。
実に嬉しいものである。
心が洗われるわあ。
なんたって、この子は可愛い。
「御久しぶりです、エミリオ殿下」
つい、にっこりと笑顔になる俺。
ああ、地獄に仏とはこの事だなあ。
そんな俺の様子を国王陛下もほっこりして見ている。
「それで、アーモンよ。
例の魔法騒ぎは、全てこやつの仕業であったのじゃと?」
「大変申し訳ないです。
すべて私の不徳といたすところでございまして」
王の御前にてアーモンが粛々と頭を下げている。
うっ、肩身が狭いな。
冒険者の親玉が、俺の粗相のせいで国王様に頭を下げて陳謝している。
なんという聞こえが悪い状況だろう。
「まあよい。
怪しげな何かでなくてよかった」
「あー、その件につきましてはですね。
その、エミリオ殿下の一件で、たかがAランクのキメラ風情に苦戦してしまいましたので、私も少し修行をと思いまして。
本日精進して非常に頑張りましたので、今度奴を見かけましたなら超強力魔法でイチコロですわ」
「「……」」
あ、国王陛下に対して口の利き方がまずかったかな。
特に最後のタメ口の辺が。
「まあ……よい。
とんでもない魔物でも敵でもなかったのじゃから」
「もっと性質が悪かったですけどね」
ああっ、ギルマス!
もう酷い事を言うなあ。
その後はエミリオ殿下と色々な御話をして、結局今夜は王宮泊まりになった。




