1-2 異世界キャンプ
引き続き、車のコピーを作っておく。
数台作ったところでMPが尽きて、またレベルがアップした。
これで、今1048万5760MP/Lv6か。
当座は十分なレベルだろう。
最後のMPが不足になった分についてはコピー失敗となり、その分のMPは無意味に霧散した。
そうだ。
後は武器になりそうな物を何か出しておこうか。
色々な物を持ってきていたのだが、まずはシャベルだ。
昔の家に錆びた奴があったが、そいつはあまりにボロかったので、先の尖ったいわゆる剣スコのタイプを買ってきて荷台に放り込んであったのだ。
これが一番活躍しそうだな。
シャベルは兵士が武器として使う事でもよく知られている。
おっさんの体力ではシャベルで戦うなんて無理かもしれないけど。
シャベルサンボならぬ、せいぜいシャベルモンキーサンバがいいところだ。
シャベルでの穴掘りは、俺にとっては若い頃でもかなりの重労働だった。
この俺に自衛隊や土建屋なんかは務まりそうもない。
次に手斧と鉈だ。
こいつは小さめの焚き付け用の薪を作ろうと思って持ってきたものだ。
鉈は日本製の結構いい奴だ。
元々、こいつは日本独特の刃物なのだ。
俺の体格だと刃渡り十八センチの奴が、バランスが良くて実にしっくりと手に馴染む。
ちゃんと薪を割るのに適した両刃の奴だ。
鉈だって良い物はお高いのですよ。
素人が燃料を燃やすなら炭よりも薪の方が絶対に楽だ。
楽しいし。
なんだかんだ言って、炭熾しは難しい。
気温の高い夏場はまだ火が点きやすいけど。
俺なんかがバーベキュー場によくある据え付け式のバーベキュー炉を使う時なんかは、先に火の点きやすい薪を二本くらい燃やしておいてから、そこに炭を突っ込んで炭火を熾すという手っ取り早くて酷いやり方をしていたりする。
おっさんだから、もうやり方なんか適当適当。
個人的には、固形着火剤と松ぼっくりの組合せが楽しいかな。
後は小枝や割り箸の焚き付けなんかのオプションを追加だ。
御遊びでは、火花が強烈なフェロセライト製の六角型ファイヤースターターでティッシュペーパーのみの火口で火起こしをする。
今回もそいつをちゃんと持ってきてある。
いざとなったら、これの出番だ。
さすがにキャンプなんかで教材に使うような火熾しキットは持ってきていない。
五円玉に水のレンズを作るやり方も難しい。
今ではそれを使うのも面倒なので非常用に仕舞ってあり、ワ〇クマンで買った値段は安めだが強力なバーナータイプの着火器具一択だ。
あれは非力な着火ライターなんかではなく、ほぼバーナーなので炎が強力だから一瞬で火が点くので、弱火のライターよりも却って燃料のガスが殆ど減らない。
おまけにガスの補充も出来るタイプだし、もうコスパ最強だな。
俺のお気に入りアイテムは、有名ガス器具メーカーである岩〇製の百均で購入した百円ガスマッチだ。
天下一品の正真正銘のブランド物が百十円ポッキリなんだぜ。
勿体ないから使わずに大事に震災用備蓄として持っているのだ。
今回は持ってきたけどな。
あれもなんとガスの補充が可能なのだが、岩〇純正のライター用ガスボンベが事業から撤退してしまったので、百均のボンベと一緒に仕舞ってある。
手斧は扱いが少し難しい。
販売店で手にしてみればわかるのだが、重量バランスがあまり良くなくてなあ。
あれも物によると思うのだが、その辺のホムセンで売っているような安物は物がよくない。
よれよれの俺が薪割りに手斧を使うと、誤って指を落としそうだ。
シーズナイフは御洒落だが、扱いがやや難しいので不器用な俺にはあまり向かない。
たぶん薪に嵌まって抜けなくなった状態のナイフを折ってしまうだろう。
他の人も、やっぱり折ってしまう事があるようなので、俺には少々厳しいアイテムだ。
だがナイフは漢のロマンなので、ちゃんとシーズナイフは仕入れてある。
あとは狩猟用の和ナイフだ。
さすがに、おっさんの一人キャンプでこんなもんは要らないだろうと思っていたのだが、サイトを見ていたら何故か無性に欲しくなって、ついつい買ってしまったものだ。
それも例の買い物衝動と同じものだったのだろうか。
こいつは刃渡り二十六センチもある完全な観賞用だ。
こういう事をするのは、金の余っているおじさん族の悪い癖だ。
気分で持ってきただけの代物なのだが、今はあって非常に助かるけど。
後は実用的なステンレスのアウトドアナイフや包丁類などだ。
和ナイフと手斧は一・五倍と二倍の拡大コピーのものを作って、また数も揃えておいた。
ここに何がいるかよくわからないから、備えるだけは備えておこうと思ってね。
やはり、あれこれと備えておいたがいいだろう。
こんな変なスキルとかが出来たくらいのところだ。
絶対に真面なところではないはずだ。
元々用意周到な性格なのだが、二泊三日のキャンプ如きで、よくぞここまで色々と持ってきたものだ。
道具なんかを片っ端から試して遊ぼうと思っていただけなのだ。
この日本で初めて作られたという元祖タイプの逆三角形をした永遠のベストセラーたる焚火台、そしてベストセラー商品なのだが焚火台のくせに何故か炭火調理にリソースを割いた設計の不思議な焚火台を買っておいた。
こいつらってコンパクトに畳めるし、防災用に持っていてもいいしな。
果てはおっさんが野外コンロで行きつくところまで行くともうこれしかないと言われるマニアックを極めたミニドラム缶のようなベストセラー商品の「カマド」なんかもある。
こいつは畳めないのだが、中には薪を仕舞っておける。
昔ながらの一斗缶代わりにして焚火も出来るし、防災ではこれが一番役に立つらしい。
おまけにシンプルな構造だから超安い。
その下に敷くための焚火台シートは、流行のプラッタシートじゃあなくって、なんとファイヤーブランケットなのだ。
要は体に火がついてしまった時に、それを被って転がるための消防用品なのだ。
大仰な真っ赤な袋に入っていて、多分いざという時に窓を叩き割るための赤い斧あたりとセットになっている物じゃあないのかな。
用途が全然違う物なのだ。
これがまたすぐボロボロになってくるらしい。
やっぱり俺のやる事は何かズレているわ。
カマドなんかはコンクリブロック二個の上に乗っけてあるだけだしなあ。
普通のバーベキューコンロなんて小リュックに収まるサイズのミニタイプしか持っていなくて、その中に百均で買った炭を突っ込んでセットにしてある。
防災用に買っておいた物なのだが、いつか電車と徒歩で行くバーベキューがしたいと思っていた。
アルスト、アルコールストーヴも防災用に各種持っていて、有名メーカーのチタンストーヴに、百均の二百円ストーヴやホムセンで買った見た目だけは素敵なアルコールストーヴなんかもある。
無論、有名な百均の灰皿ストーヴも自分で作ってみたし。
不器用なので、ちゃんと作れていないのだが。
あれは適当に作った奴でも、コーヒーを飲む御湯くらいは沸かせるところがいい。
アルコールストーヴは風で火が揺らいだり地面に熱を吸われてしまったりして、なかなか野外調理には向かない。
しかし自動炊飯で御飯が焚けるのは大変な魅力だ。
それが簡単にやれる、中に入れておく炎を制御するバーナーも買ってある。
あれも自作する人が多いらしく、俺もいつか挑戦してみよう。
断熱材や風除けの折り畳み式アルミ防風板などで工夫してメスティン炊飯などを楽しむのだ。
俺の腕じゃあ、なかなか上手く炊けないけど。
もっぱらこいつは台所キャンプ用品だ。
防災用だな。
ウッドストーヴも、火を焚いて遊んだり御湯を沸かすのに最適だ。
個人的には燃料として、公園なんかによく落ちている実で、まるで3Dプリンターで作ったかのような球形かつ網状になった奴が高火力で使いやすい。
他の人もみんな、よくあれで遊んでいるし。
あれって割と年中落ちている。
最近では、百均で売っているプレス打ち抜きの折り曲げ式小型ストーヴが楽しい。
あれだって小枝でお湯が沸くから凄い。
それらは皆遊び心や防災用品として揃えておいたものだ。
キャンプなんて久しぶりなのもあるが、この三日は楽しみつくそうと思ってネットやホムセン・百均などで道具を買いまくってきたのだ。
それがなんで、こんな酷い事になってしまったのか。
なんにせよ、色々と衝動に任せて買いまくり、あれこれと山ほどこの世界へと物資を持ち込んだ事が吉と出た。
もう全部コピーしまくりだぜ。
『俺の中のあいつ』、俺のセブンスセンスの示した事はやっぱり正しかった。
それは三十年近くもの間、この俺を裏切ったことのない特別な感覚。
いや、そうではない。
厳密には感覚というのとは違っている。
『特別な奴』なのだから。
あの日、俺が不幸にも『神』に遭ってしまった時から、いつも一緒に居てくれる『俺の中のあいつ』。
会社は違法に俺を裏切った。
だが、それでもお前は一緒にいてくれた。
本来なら小説のネタなんかにしていいような者じゃなかったのに。
感想欄で、もうあれこれとセブンスセンスに関して言われまくりだわ。
そういう事さえも、あのイコマ本人の奴は楽しんでくれているのだろうが。
『あいつ』は、いつも正しい。
間違えるのは、いつも俺だ。
だが今回は俺も間違えなかった。
あまりにも強烈過ぎる衝動に襲われていたから。
この俺にしても、ここまでセブンスセンスの衝動に突き動かされまくる事など滅多にないのだ。
少なくとも、御蔭でこんな場所でも食うには困らないし、水・食料・薬・服・車・ガスボンベ・発電機・ガソリンにいたるまで、しかも無限にある。
武器になるような物も少しはあるのだし。
何よりも鉄の箱に護られた移動手段である車を稼働させられる事が何よりも好ましい。
日本では完全に持て余していた、この厄介なまでの図体の大きさがまた頼もしい。
そして、その数ある日本製クロカン車の中でも類稀なる走破性と信頼性がまた。
やれやれだ。
とりあえず、どうしようか。
だがしばらくの間は、ここに留まってみることにした。
こういう神隠しのようなものは、時間が経つと元の場所に戻れたりする可能性がある。
そんな話を読んだ事があったような気がする。
その手の物が捏造本の可能性も高いが、そういう話は世界中にあるはずだ。
とりあえず、三日くらいはここに居座る事に決めた。
元はといえば、キャンプをしに来たんだ。
とりあえず寝るところはバンガローがあるのだし。
水や食い物、コンロや燃料も充分にというか、もう無限にある。
せっかくなので、御楽しみの薪拾いに行くことにした。
周りは鬱蒼と生い茂った森、いや山に近いと言ったほうがいいのだろうか。
そこは拾い切れないほどの資源に満ちていた。
少し妙な地形なのが気になるのだが。
まるで何者かが、何かの目的のために設えた檻であるかのようにも見える、森に囲まれた奇妙な平坦地であった。
やけに開けた広い場所なのに、周囲は車で出入りするのも不可能なほど木々が密集している。
それらは広葉樹が多いようだ。
よく乾かしてから薪にすれば長く燃えてくれることだろう。
紅葉している葉もあり、パッと見た感じでは、ここもまだ季節は秋といえるのだろう。
道らしきものは近くにはないようだ。
しかし疲れてしまいそうなので、すぐにベースキャンプまで帰ってきた。
俺は体を壊して、長い間引き籠っていた世捨て人なのだから。
薪は細いような枝が、そこそこ手に入っただけだ。
もう面倒だから、それをコピーして増やした。
そういやキャンプ場で買った薪も持ってきていたんだし。
それと併せれば、いい焚火になるだろう。
こんな場所で夜になれば、あっという間に真っ暗になるはずだ。
所詮は気分転換のための只の散歩なのさ。
おじさんは、やっぱりあかんな。
若い子なら、こういう時にどうするのだろうか。
気合を入れて探検なんかにいっちゃうのかねえ。
親と一緒に来た子供なら、あちこち走り回りそうな場所だ。
とにもかくも、おじさんの異世界キャンプは始まった。
ここは、たぶん異世界のような場所なんだと思う。
少なくとも、少し前までいた愛知県の端辺りではなさそうだ。
そういう事も理屈でなくわかるのだ。
それがセブンスセンスというものなのだから。
だから、この異常な事態でも比較的落ち着いていられるのだろう。
といっても特別な事をするわけじゃない。
特にテントを立てたりもしないので、BBQの仕度をするだけだ。
今日はそれすらもやる気になれないが。
水や食い物の心配が無いので危機感が全くない。
ドラッグストアで仕入れた医薬品も大量に持っている。
いざとなったら長距離を移動できる車やガソリンもあるしね。
その場合は道のある場所まで歩かないといけないのだが。
ちゃんとあるといいな、道が。
なんといっても車を収納していけるのがありがたい。
そうでないと、この森を斧一本で開拓しないと車で広場から外に出られない。
俺のような世間から見放された完全にうらぶれたおじさんは、人生そのものにも全くやる気が見い出せないので、こんな異常事態の中でも座り込んでビールを飲むだけだ。
まず一杯。
それで人心地がついた。
まず、すぐ眠れるように布団を敷いておいた。
夜は冷えそうだから暖房器具もセットしておいて。
電気カーペットと電気ヒーターでバンガローを暖めておく。
トイレはアイテムボックスで土を収納して穴にした。
イメージ通りに穴が掘れて、ちょっとだけ嬉しい。
これならゲリラ兵みたいに落とし穴とかも掘れそうだ。
そこにコピーしたバケツを埋めてみた。
百均で買った厚手で凄く頑丈な奴だ。
こいつは掘り出し物なので、自宅には防災用に六十個以上持っている。
そいつにビニールを被せて使い捨てトイレにしてみたのだ。
そして、せっかく借りておいたので、自前の物じゃないキャンプ場レンタルのファイヤースタンドで炭火を熾す。
こういう事をやるのは初めてなんで、なかなか火が付かず火熾しに三十分くらいかかってしまったが、最終的には薪の助けを借りて素晴らしい炎が燃え盛って満足できた。
これも本来は焚火台なんだから、最初から薪を燃やしておけよな。
炭って火熾しバーナーを使ってもなかなか火が点かないのだ。
あれだけ一生懸命に焙っているのになあ。
あれってプレヒートを数分やらないといけないので、たたでさえ面倒臭いのに、これだと割に合わない。
また着火剤の奴が役に立たないのだ。
液体の方も使ったが、そいつも今一つ。
なんか炭火料理店なんかだと、固形燃料を使う着火のやり方もあるらしい。
業務用スーパーだと、あれの大きいサイズが火熾し用に売っているそうなので欲しい。
ちょっとここから業務用スーパーへ買い物に行くのは無理そうなのだが。
生憎な事に『スキル・業務スーパー』は会得していない。
やっぱ薪を燃やして、その中に炭を突っ込むのが最高だわ。
炭の火熾しは火熾し器を使うのが一番いいらしいのだが、生憎と持ってないんだな、これが。
個人的に調理は炭のイメージなのだ。
トライポッドを用いて焚火料理なんかも悪くないのだが、それも持っていない。
マニアの人は木の枝を組み合わせてトライポッドを作ってしまうそうだが。
本来はそういう物だったのを、道具としてわざわざ作った物がトライポッドという製品なのだろう。
ダッチオーブンは十インチの奴を持っているが、焚火台の上で使うならそれを置ける調理テーブルがあった方がいい。
にも関わらず、そのあたりの焚火料理用の定番アイテムを持ってないのだ。
所詮は初心者だからな。
結局ツーバ-ナーあたりがメインで活躍しそうだな。
それか二重風防付きの強力カセットガスコンロか。
あれが一番使いやすいのだが、あれも上手く囲わないと風で温度が下がってしまう。
昔はカセットコンロの周囲をダンボールで囲っていたものだけど、今は安い折り畳み式のアルミ板があるから助かる。
あれもうっかりと囲い方を間違えると、ガスボンベのところが熱くなってしまって危険だが、折り畳み式のアルミ板は上手にボンベ部分を外して囲えるからいい。
いやあ、いい雰囲気が出てきたなあ。
人がいないなんて、もう今更気にならない。
所詮、俺は世捨て人なのだから。
もう時刻は十六時を回って、森の中だからかなり薄暗い感じになってきた。
この方がキャンプの気分は出るけどな。
これが夜の神社だったら恐ろしくて仕方がないのだが、ここにあるのはバンガローくらいのもんだ。
むしろ、おじさん好みの小ぢんまりとした隠れ家的な別荘のような趣さえある。
そんな贅沢は、この人生において、ついぞした事がないが。
暗くなってしまってからBBQコンロで火を熾すのは面倒なので、ツーバーナーのキャンピング用二口ガスグリルで料理をした。
結局こうなるんだよな。
気分だけ味わいたくて、拾ってきた細い薪で少し火を燃やしてみた。
こんな場所で、日頃は縁の無いような焚火台の大きな炎に照らされていると不思議な気分になる。
あと燃え盛る直火に網を載せて、ワイルドに食材を炙ってみたり。
ウインナーやらハムやら、後は和牛の肉も焼いてみた。
細かい火加減が出来なくて、ちょっと黒くなって微妙だったが、まあ外御飯だから美味しいかな。
ビールを飲みつつ、これからどうしたもんかなとボンヤリしながら考え込む。
そういや、例のPCみたいな奴を見ておかんといかんかったんだよなあ。
このやる気のなさは如何ともしがたい。
そんな事は会社を辞めて以来毎度のことなんだけど、こんな常識を超えたような事態になってもこれなのかあ。
そんな無気力な自分に失望する気概さえもない。
「コンピュータ」欄に「ステータス」の項目があった。
いわゆるステータス画面だな、これは。
種族 人族
性別 男性
年齢 53
称号 迷い込みし者
HP 500/500
MP Lv6 1048万5760/ 1048万5760
スキル
EXP±
PC
インターネット
MAP
レーダー
アイテムボックス
付与
コピー
身体強化
再生
鑑定
解析
異世界言語
隠蔽
全属性魔法
おおー、なんだかチートな感じだ。
そこに表示された称号は実に情けないものだったが。
それにしてもシンプルな内容だな。
実に年寄り向けだ。
あれこれと調べるのも、なんだか面倒だし。
アスタマニャーナ。
今夜はもう寝ちまおう。




