50-4 精霊の森へ到着
残りの旅は順調だった。
この王都から北上する主街道は、うちの商会などもよく使うので俺がしっかりと整備してある。
とりあえず、いつものところまでバスで街道を行き、そこからレビテーション走行? に切り替える。
途中でロスコーへ寄り道をしてブラウンゴブリン達をピックアップする。
彼らは二十名の大所帯での参加だ。
今日はフローラ達を連れてきているので、彼女らを顕現させて道を開かせた。
ミニョン達は窓に被り付きだ。
どうしてワンコって、ああ窓に張り付くのかね。
残念ながら、うちのバスは安全上の理由で窓は開かないんだ。
日本でも昔は観光バスの窓が開いたもんだが。
昔のバスは今の物ほどあれこれと良くなかっただろうから、子供が酔いやすかったのだろう。
俺も窓を開けて風に当たって車酔いを凌いだ事がある。
うちのバスはそのような事はないし、揺れにくいように精霊にコントロールを委ねたり、あるいはエアカーモードにしてしまってもいい。
王国騎士団も、魔法のように木々が体をくねらせて道が出来ていく様子を興味深げに窺っていた。
彼らも魔法は使うが、こんな精霊的な物は異質に映るのだ。
おまけに今日はピンク頭の女の子達がやってくれているからな。
あいつらは悪戯でウインクしたり投げキッスしたりしてくるので、若い騎士には目に毒だ。
ドライアドの奴らも黙っていれば、それなりに見られる容姿なので。
だが生憎と中身が無理ゲーすぎる。
苔精霊どもは寺が気に入ったので、あそこに引き篭もっている。
あいつらも可愛いといえば可愛いんだけど、色合いがちょっとな。
何故か、やたら好戦的だし。
寺にいるので、まるで僧兵であるかのようだ。
苔生し寺の護りはあいつらに任せてある。
寺はケモミミ園の御向かいにあるのだし、ケモミミ園の警備の観点からもね。
そうこうする中、バスは精霊の森へと無事に辿り着いた。
ブラウンゴブリンや王国騎士団達は、初めて眺めるその様を珍しそうに見回していた。
幻想的な色彩が広がる風景は、同じ異世界の住人から見ても異世界のように感じるのだ。
「あら、これはまた大所帯になったものねえ」
駆け寄ったファルを掬い上げて頭に乗せながら、レインが感慨深く呟いた。
間髪入れずに精霊どもが寄って来るので、盛大に魔力を振りまいて顕現させる。
初めてそれを目にする騎士団から感嘆の声があがった。
プリティドッグ達も犬の姿に戻り、さっそく大はしゃぎだ。
さっそく精霊達と遊びだす子供達。
御姫様方が空飛ぶ精霊に跨ったり、巨人の手の平で散歩したり。
騎士団にとっては心臓に悪いシーンが、しばらくの間は続く事だろう。
そして初めて目の当たりにするレインボーファルスの巨躯。
元祖神聖エリオンの実物がこんなにでかいとは思っていなかったらしくて、初めて見る騎士団員も目を白黒している。
中には両手を組んだ状態で片膝着いて跪き、神聖エリオンに対して厳かに敬意を示している者もいた。
いつの間にか、ファルもファルス体形だと、かなり親のスタイルに近づいた気がする。
そして前から薄々思っていたのだが、プリティドッグの奴らはスタイルというか雰囲気が少しファルスっぽい。
神々しい感じはせず、単にとても可愛いだけなのだが、今まで見た生物の中ではファルスが近い感じがする。
プリティドッグは動物的で、ファルスは精霊的というか幻想的なのだが。
その姿というか、纏う空気を少しでもファルスに近づける事により、襲われにくくするという事なんだろうか?
あるいは、そのように感じるようスキルで化かしているのかもしれないが。
そういうのは、こいつらの得意技だからなあ。
そっちの線の方が濃いな。
相変わらず不思議な生き物だ。
当の本人達は精霊と遊びまくってからレインの傍でうろうろしている。
あなた、もしかして私達に似ている?
もしかして親戚だったのかしら。
そんな事でも言いたげにうろついている。
レインはそれを微笑ましそうに見ているだけだったが。
彼女から見たら似ても似つかないものらしい。
俺の眼から見てもな。
やっぱ狸に化かされているんだな。
御弁当タイムには、レインも参加しているようだ。
レインの分は、なんとファルが作った巨大おにぎりだった。
これがまた直径五十センチくらいある。
おまえ、そんなでっかい奴をどうやって作ったのっていう感じの物だ。
まあ、食べる人? が十メートルサイズだからな。
形はなかなか見事なもんだ。
俺もちょっと上前をはねて味見してみたが、結構美味かった。
レインも愛娘が作ってくれた御弁当を美味しそうに食べていた。
具は定番の、しゃけ・梅・たらこだ。
神々しい姿のレンボーファルスが、しゃがんで巨大おにぎりを前足で掴んでいる様子は何かシュールだ。
「レイン、梅干は大丈夫なの?
その赤い色をした酸っぱい奴。
千年前は、きっと梅干も無かったんだろうな。
その梅干しおにぎりは、武が食ったら泣きながら食ったかもしれない。
日本人が外国で必ず恋しくなる味なんだ」
「まあ、そうなの。
それなら味も一入というものね」
案外、梅干は平気のようだ。
チビのファルが食えているくらいだから親も大丈夫なのだろう。
カップケーキ好きなおチビ猫も、今日はおにぎり派らしい。
遠足では、やっぱりおにぎり。
そう心に刻んだようだ。
おっさんは無論おにぎりだ。
山本さんの分は葵ちゃんが作ってくれた、おにぎりの愛妻弁当だ。
凄く味わって食べている。
「もう、あと半年くらいですか?
異世界で今回初の日系二世の赤ちゃんが生まれますねえ。
まあ日系というか、単に日本人同士の子供なのですが。
もはや我々自身がアルバトロス日系一世と呼ばれてもよいくらいなのですから」
「ええ、不安と期待で胸がいっぱいですよ。
私なんかが親になってしまっていいのかと思ったり。
それに、ここには日本にあるような産院もないですしね」
「そうですねえ。
産院もドンガラだけなら作れるかもしれませんが、それを使ってくれる産婦人科医や助産師さんはいませんからね。
こっちの方に任せるしかないです。
万が一に備えて、出産時には私も待機している予定ですが」
「ええ、宜しくお願いします」
何故か山本さんとだけ話していると、御得意様と話しているかのような丁寧語になってしまう。
それはきっと、彼が凄く丁寧な日本語を使う人だからだろう。
おっさんみたいに製造現場で怒鳴るような事はしていなかったのだ。
和風な方である上に、御客様商売だったのだし。
それにしても異世界で日本人同士の子供が生まれるのか。
赤ちゃんは生まれたところの環境に順応するといわれているが、一体どんな子に育つんだろうか。
絶対にレオンみたいにしちゃいけないな。
子供達が御昼寝に入ったので、ゆっくり見回ると王族ゾーンへ行ってみた。
「御機嫌用、婚約者殿」
「ご、御機嫌よう、公爵様」
そしてシルベスター王女と、御互いに顔を見合わせて笑ってしまった。
「あっはっは。
やめやめ。
まあ、おかしな事になっちまったよな。
とりあえず因縁をつけてきたチンピラには、思いっきり殴り返してやった格好にはなったわけだけど」
「そうですねえ。
これからどうなるんでしょうね」
「ミハエルは何か言っていたかい?」
「うーん。
相変わらずバタバタしていましたわ」
「そう」
今度また話を聞きにいってみるかな。
「あと、カルロス御兄様の結婚式を急遽早めるそうです。
今は諸国との同盟を固くしておく事が必要だと」
「そうだな」
少し考えてから思った。
王太子の身辺護衛の強化もしておくか。
あと彼のフィアンセ殿の方も。
そういう展開なら敵から狙われかねない。
まあそんなものは、あの草原のシスコン太子が黙って見ていたりはしないだろうが。
とりあえず彼女には転移の腕輪でもやっておこうか。
危なかったら、こっちへ逃げてきてもいいし。
シスコン太子の方の腕輪もバージョンアップして転移機能を付けておいてもいいかな。
今の状況でミハエルも嫌とは言うまい。
「ま、とりあえずは遠足行事に集中かな。
きっとこれからは、この世界でもこういった科学的な教育が取り入れられていくようになると思うんだ」
「そうなるといいですわね」
エミリオ殿下は可愛らしい寝顔で御昼寝中だ。
化石掘りをかなり楽しみにしているようだ。
ここはそう危険があるわけではないので、騎士団の連中もリラックスしている。
一番の危険といえば、こんな場所では御飯が美味し過ぎて食べすぎてしまうので体重がヤバくなるという事ではないだろうか。
エミリオ殿下の場合、今が育ち盛りなのでその点に関しては全く問題ない。




