50-3 楽しいバスの旅
とりあえず、いくらかの恐竜模型を作ってみた。
ティラノザウルスとか、トリケラトプスとか、プロントザウルスなどの有名処を用意した。
骨だけの奴や、再現された想像図の模型やパネル絵などを作ってみたのだ。
それらは、うちの子供には受けたようだった。
「かっくいい」
「すげえ、なんだかしらないけど」
「おいちいかな」
一部、違う興味も引いたようだったが。
まあ恐竜っていうのは現代でいうところの鳥類であるのだし、実際に食用にも供されているオオトカゲや鰐などが仲間扱いされているので、あれらと同様に美味しく食べられない事はないはずなのだが。
俺はオーストラリアで鰐を食べた事がある。
あの国ならではなのか、普通にレストランでメニューに載っていた。
あそこは鰐の養殖もやっているしな。
まあ豚っぽくて美味しい部類になる味だったのだが、野性味たっぷりの風味が口中に広がる紛れもないジビエだった。
鶏肉っぽいという意見もネットで見た事があるが、俺的にはパサっとした感じの豚っぽい味だった。
残念ながらオオトカゲの類は食した事がないな。
タイの、運河の水の中で雌を巡って、二本足で立ってガチンコの御相撲を取っているオオトカゲは見てみたいな。
そういや、魔物でいいならダンジョンの中にもいたっけな。
とりあえず王宮の中庭で、化石模型の展示会もやってみた。
結構物見高い人達は集まった。
エミリオ殿下には馬鹿受けだった。
「へえ、異世界にはこんな凄い奴がいるの!?
迫力だなあ」
大興奮の御様子だった。
ルーバ爺さんなど、思わず刀の柄に手がかかるほどだ。
いや、これってもうすんごい前の生き物だし。
というか、この世界にいる現役魔物の方が圧倒的に凄いよね?
第一回地球の恐竜化石模型展示会は盛況のうちに幕を閉じた。
いっそ遊園地に「地球化石館」とかを作ってみてもいいかもしれないな。
一応、ブラウンゴブリンの意見も聞いてみたが、なかなか好評だった。
「これは面白いです。
よかったら、我々も化石採集に参加してみてもいいですか?」
おお、有力なオブザーバー参加が!
この世界の文化方面においては、彼らが俺の一番の理解者のような気がする。
が、頑張れよ、この世界の人類達。
「OH! 人類は知的分野においてゴブリンに負けていました」というタイトルで小説を書いてみてもいいかな。
とりあえず幼稚園から小学一年生までの参加なので、遠足の栞はしっかりと作らないとな。
日本の化石採集ツアーのサイトとかは大いに参考にした。
遠足に向け学園長先生は邁進した。
主に自分の勉強に。
化石採掘ツアーなどという分不相応な事を始めてしまったので、しっかりと勉強しないとな。
インターネット先生、万歳だ。
俺が子供の頃は水晶拾いという遊びが流行っていた。
俺はあまり良い物は採れなかったけれど。
個人的には紫水晶っぽい奴が好きだった。
またそういう機会があれば、それもやってみようかな。
鉱物探査というのも立派な職業だ。
水晶は魔導具にもよく使用されるので、質の良い物は高額で取引される。
高品質クォーツというわけだ。
適当にやっていたら「山師」とか呼ばれてしまうかもしれないが、それが科学的根拠に基づいたものであるならば新評価に繋がるかもしれない。
魔法や魔導探査なんかを使ってもいいけどね。
そういう魔法を社会へ出ていく卒業生へ持たせるために、またそのうちに作っておくか。
社会へ出た奴から返ってくるフィードバックに従って、そういう魔法を作っていくのも悪くない。
そいつは、まだまだ先の話だがな。
うちは一般の孤児院なんかと違って十五歳まで在籍するからな。
子供達の未来の可能性について探求するのも、こんなところで学園長先生をする事になった俺の務めなのかもしれない。
今回葵ちゃんは御留守番になった。
連れていってやってもいいのだが、御目出度なのに野外の変なところで転んでしまってもいけない。
結構足場の悪い場所へ行くからな。
悪いが御飯係という事で山本さんは連れていく。
彼らにはゲートの魔法まで渡してあるので、会いたければすぐに空間を繋げられるし。
葵ちゃんは、その間はリサさんのところへ行って、母親としての色々な心構えとかを勉強するつもりらしい。
あそこの家の子供達も遠足についていくので家にいないし。
念のため、エリーンを久々にあの家につけておいた。
奴も遠足に行きたがったが、ここは我慢してもらった。
食い物だけはアイテムボックスへ届けてやろう。
ついでに、お前も将来のために勉強してこいや。
今回は王女様王子様もついてくるようだった。
滅多に行けるところではないからな。
もし彼らが予定外で精霊の森へ行くとしたら『緊急退避先』としてだし。
まだ、あのクソ鎧が二つも残っているからなあ。
マジで洒落にならんのだ。
参加者には事前講習を実施した。
あまりに無茶な掘り方をすると色々と台無しだ。
やり方とかを諸々資料を見せて解説した。
多分、この世界で化石発掘ツアーなんてものをやるのは、これが最初なんじゃないだろうか。
当日は改良して進化したバスで出発となった。
バスも結構リアルな感じにしてみたのだ。
子供八十人、園の職員が四十人、冒険者二十人、プリティドッグが七匹、小学校教師が十二人、王族とその付き添いが十人に騎士団が五十人、エリ達と山本さんで四人に俺と真理、アルスそしてファルだ。
総勢二百二十七人の大所帯だ。
バスも八台となった。
情勢がやや不安な事もあるので、今回は騎士団もそれなりの人数が来る事になった。
化石を掘るのはいいとして、そのクリーニングが問題だな。
ああいう事は経験が物を言うから、この俺も含めた化石発掘素人集団には不向きな作業だ。
アイテムボックスの分離機能(周りについている母岩の分解)を使用して、状態保存の魔法を使えばいいのだが、それだとどうにも趣がない。
やれるところまでは普通にやってみようか。
最悪は割れてしまっても、俺のアイテムボックスの機能でなんとかなるし。
というわけで色々と道具だけはふんだんに用意しておいた。
小さなハンマーを何種類か、ワイヤーブラシ各種、ヤスリ、コンクリート針にカッターナイフなどだ。
あと、割れた化石をくっつける接着剤や塗布用の保護剤だが、魔法を使ってナチュラル仕上げにしてもいいかもしれない。
個人的には、そういうやり方が好みだ。
工芸用に作ったルーターは使わないほうが無難だろう。
化石の表面がズタズタになるのがオチだ。
多分、今それをちゃんと扱えるのがトーヤくらいしかいない。
ポールやエディにも今度やらせてみるか。
バスは俺が整備しておいた街道を滑らかに走っていった。
車内では葵ちゃんの絵細工を見て、そしてカラオケしたり、なぞなぞ遊びをしたりで楽しく遊びながら進んでいった。
おやつもみんなで取替えっこするなど、ミニョン達プリティドッグは初めてのバスの旅に大はしゃぎだった。
しばらく進むと、例によってどこかから飛んできたと思われる街道の御邪魔虫を発見した。
石畳模様の保護色なので、街道でこいつは見つけにくい。
この模様の奴は冒険者との遭遇率が高い中で生き延びてきた強者のはずだから、通常ならば要注意の個体だ。
デニスからも念話が飛んできた。
(どうしますか?)
(毎度ただ跳ね飛ばしていくのも芸がないな。
ちょっと俺にやらせてくれ)
そして俺はバスを降りると、他のバスを見学できるようにグルリと並べさせてから始めた。
一応、冒険者志望の子供達に参考になればと思い、普通っぽくやる事にした。
ネットを介して日本へも中継しておく。
ファストを重ねがけして加速、そして大カマキリの側面に素早く回りこんだ。
奴も素早く回るが、それを上回る高速で。
そして片側三本の足を、敢えて鉄の剣を使って順番に刈り払う。
たまらず横へ倒れ伏すそいつの反対側の足も手早く切り落とす。
飛んで逃げられないように、薄羽根も含めて両方の羽根を根元から切断した。
これは素材としてもそれなりの値段で売れるので上手に斬り落とすのだ。
必死で鎌を動かして這いずって逃げようとするそいつの両腕を付け根から切断しておく。
そうすると、街道に同色の石畳迷彩を施した丸太ん棒が転がった。
頭を必死に打ち振るい必死で抗うが、細い胴の付け根を両断した。
さすがの巨大な街道の死神も、これでジ・エンドだ。
わあ~っとバスの子供達から歓声が上がるが、俺は片手でそれを制して声をかけた。
「お前達、まだ終わっていないぞ」
胴体を残してカマキリの素材を収納してから剣を収めた俺の声に、みんなが注目した。
カマキリの胴体に。
やがて、その腹がピクっと動いたかと思うと、腹を突き破って黒い槍が飛び出した。
このカマキリは超大物で、全長のサイズが十メートルもあった。
当然、中のハリガネムシも直径六センチ、長さ二十四メートルと、なかなか御目にかかれないような大型サイズだ。
子供達が息を飲んで見守る中で奴のターンが始まった。
鋭い突きのラッシュが迫る。
まるで寝転んだままで攻撃してくるフェンシングの達人、しかもとてつもない巨人の放つ一撃だ。
俺は簡単なステップでそれを躱しながら子供達に解説する。
「本来なら、この魔物を切り落とせる威力の武器で細切れにしてやればいい。
細かく切っていくのがコツだ。
一番先に真っ二つにしてしまうと、二体を相手にしなければならなくなるので悪手だ。
こいつの別名は『黒いバリスタ』といい、大変危険な代物だ。
だが両側の槍のような部分を小さく切り落としてしまえば、それほど怖くは無い」
そして奴は力を溜め、少しの間を置いてから必殺の一撃を放ってきたが、俺はそれをわざと待っていて飛んできたそいつを左手で掴んだ。
「こいつは躱し続けていると、このように必殺の一撃を放とうとしてくる。
その時一瞬動きが止まる。
腕利きのベテランはそこを攻撃するんだ。
神速を必要とするが、もっと上位の魔物もたくさんいるんだから、冒険者として上を目指すならこれくらいはやれないとキツイ。
まあ、無理をする必要は無いんだ。
一人でやる必要はない。
そのために冒険者には仲間がいるのだから」
言うは易いが、この手法はBランク以上の冒険者でないと死ぬ確率が高い。
ハリガネムシはCランクのオオカマキリよりもかなり手強い。
ついでに言えば、俺のように『身体能力の高い魔法使い』向けのやり方だ。
奴は慌てて、反対側の先端で俺を攻撃しようと身をくねらせた。
それが届く前に俺は左手で奴を掴んだままで右手から電撃魔法を放ち、そいつを絶命させた。
体の表面にバリヤーを張っているので、俺自身は電撃が伝わったってどうっていう事はない。
本来なら相手を掴んで電撃を浴びせるなどという不合理なやり方はしないのだが、今日は子供達に色々なやり方を見せるため敢えてそうしているだけだ。
「このように電撃魔法などは、こういう素材が高価な魔物相手にも大変有効だ。
仲間にこれを使える奴が一人いてくれると心強いな。
ハリガネムシは他に代替が利かない希少な素材だ。
この魔物を刻む時にも、きちんと大きさを考えて切るようにすると高く売れる。
こいつの素材は死ぬと急速に傷むので、剥ぎ取り作業は迅速にな」
園長先生の冒険者講座はこれで終了だ。
真剣な顔をして見ている子もいたので、記録して進路指導資料に付け加えた。
そしてベテラン冒険者であるエドから一言。
「みんな。
あれが簡単に出来るのは、世界広しといえども、あの園長先生くらいのものだからね」




