50-1 春の遠足
色々あって、かなりごたごたしたのだが、学校行事の方は待ってくれない。
小学校を新設した事もあって、本学園としては遠足にも野外学習的な要素を取り入れたい意向がある。
というわけで、今から職員会議ね。
開き戸の上端のすぐ上に設置されてある看板に異世界語の文字で職員室と書かれた小学校の校舎の中の一室で、春の遠足を議題とした会議が始まった。
この校舎は、この世界には通常ない『鉄筋コンクリート』製だ。
本当は鉄筋じゃなくてオリハルコン筋だけど。
密かにオリハルコン製の装甲板も埋め込んである。
始めはケモミミ園と同じ建物を使用しておいたのだが、後で作り直したのだ。
本当は趣のある木造校舎が良かったんだけど、『防御性』を考慮して鉄筋校舎とした。
窓にも装甲シャッターを装備している。
不測の事態が起きた時には自動で生成するシールドやバリヤーも装備しているのは、地球の校舎とやや異なる点だ。
まるで、あの光〇力研究所並みの防御力だ。
「というわけで会議を始めたいと思いますが、生徒の要望は聞いてきてもらえましたか?
一応幼稚園との合同になるので内容的にはあれなのですが、まだ新一年生ばかりだからそれでもいいかなと」
参加者をぐるりと見渡しながら聞いてみる。
参加者は小学校の先生方と、そして真理と葵ちゃんだ。
「幼稚園の方はみんな、精霊の森へ行きたがっていますね」
と葵ちゃん。
「よーし、じゃあ精霊の森で決定だな!」
「学園長先生、それじゃ会議をやった意味がないじゃありませんか」
教頭代理のティルファ先生が呆れたような声を出した。
ティルファ先生は商業ギルドで秘書のような事をやっていた人で、スーツがピシっと似合う眼鏡美人だ。
ロゴスからの推薦で、こちらへ来ていただいたのだ。
ピシっとはしているが、子供には優しいので新一年生からは人気の先生だ。
「慌てるなって。
まだ行き先が決定しただけだ。
せっかくだから御泊りにしよう。
どうせならキャンプするのが楽しくていいかな。
二泊して中日を野外学習で、前後の日を向こうで遊べるようにしてやろう。
そんなところでどうだい?」
「それも悪くない案ですね。
せっかくの学校行事なので学習要素は取り入れたいです。
どんな企画にしますか?」
ティルファ先生も、それならと賛同してもらえるようだ。
「うん。
どうせ野外学習をやるならば、自然科学的な観察みたいに理科的な内容にしたいんだけど、まだ決めてないよ。
あの周辺で出来る事っていう感じにしたいから、ちょっと下見に行った加減で決めますわ。
あまりそういう物が無いようだったら、教科書の内容に沿ったイベントにしてもいいしね」
「じゃあ、その辺のお話は学園長先生に御任せという事で、日程は……」
教頭先生が実務方面はテキパキと進めてくれたので会議は手早く終了した。
とりあえず、下見という事で魔王様は作務衣姿で竹箒に跨って精霊の森へと飛び去った。
たかが二百キロなので飛んでいく事にしたのだ。
レインのところへ行くので、一応ファルは連れていく。
何か面白いものはないかなと思い、飛びながら探していたのだが、なかなかいいものは見つからなかった。
無難なところで植物採集にでもしておくか。
あいつらを連れていくと、食べられる野草についてとかのテーマになってしまいそうだが。
それも有意義ではあるが、どちらかというとそれは王都学園のモヤシっ子どもに与えたいテーマだ。
食料無しのサバイバル訓練を三日間とか。
これはチームの組み方一つで苦労しそうだ。
あ、ヤバイ。
マジでやりたくなってきた。
まるで自衛隊のレンジャー訓練だ~。
あれも時間が限られているから食料採集自体はないはずなのだが。
うちの子達なら、見知らぬ場所においても食糧採集程度は余裕でこなしそうだ。
とりあえず、精霊の森で御勧めを聞いてみるか。
あ、ジョリーにいろいろ聞いてからくればよかったのか。
とりあえず精霊の森の中へ転移で入らせてもらってレインを訪ねた。
ファルが、ささっと母親の頭によじ登るのを見ながら訊いてみる
「ねえレイン、この近辺のどこかに見所みたいな場所はないの?」
「はあ、見所ですか。例えば?」
「なんていうのかな。
博物的な知識を向上できるようなポイントというか、そういうイベントが出来るような場所とかだな」
レインは考え込む様子だったが、「ベイリー、ベイリーはいますか?」と精霊を一体呼んだ。
「はあい。なんでしょう、レイン様」
ベイリーと呼ばれた羽虫のような妖精タイプの精霊がやってきた。
「この子は好奇心が旺盛で、あちこち見聞するのが好きなのです。
何か知っているかもしれないから、一緒に行ってみてください」
「ありがとう。
じゃ、のんびりと行ってくるから、ファルとゆっくりしていてくれ」
俺はベイリーと一緒に精霊の森を出た。
とりあえず、そいつを頭の上にのっけておいて空から見渡した。
「どんなところがお好みでしょう?」
「そうだな、とりあえず変わった風景なんかがあれば。
そういうものは地理の勉強にもなるし。
あ、地層のある場所とかはないかな。
こう、なんていうんだ。
地面がずれて断面が見えるような場所の事だ。
砂とか粘土とかの、材質の異なる層が幾つも重なっているみたいな」
俺は身振り手振りを交えた念話で、おおざっぱなイメージを伝えてみた。
「それなら心当たりがありますよ。
精霊の森から、あなた方の言うところの単位で四十キロくらい離れたところかな」
「わかった。案内してくれ」
俺はベイリーの言うままに竹箒を操り、空から移動した。
すると、何か白っぽいような谷のような場所が見えてきた。
ほお。
これは何か、風化したような場所だな。
周りに水気がなくて、森とかでもない。
近場でこんな場所があるなんてな。
さすがは勇壮な大陸地形だけの事はある。
すかさず降りてみた。
なかなかの風景だ。
トーヤ好みのロケーションかな。
谷となり川に削られたが、大昔に既に川も伏流水を流す地下水脈も干上がってしまい、完全に谷が風化してしまったようだ。
風化した川底の白っぽい表面がなんともいえぬ趣を見せている。
これは、もしかすると。
俺はある物を検索してみた。
すると、あるわあるわ。
それはもうザクザクと期待に違わず。
日本でも、よくこういう河原みたいな場所で出土するんだよな。
その埋まりっぷりはもう、思わず身震いするほどだ。
それは、あり余るほどの量の化石の群だった。
ここは、かつてここで生きた生物、いや魔物の化石の宝庫だった!
俺は今、異世界にある手付かずな『化石の園』の真っ只中にいた。




