48-11 魔王様のパラベラムな午後
翌朝、珍しく遅く起きた俺はとりあえず、朝昼兼用の昼食後にミハエルのところへ相談に行く事にした。
「ふーむ。
滅亡したアル・グランド王国の王太子か!
あの男がなあ。
それで、お前はどうしたい?」
「決まっているさ。
アルスの国を取り戻す。
どうせ、あの国が騒ぎの元凶なんだ。
どの道もうゲルスは叩いておかにゃあなるまい?」
「そうだな。
あの男が王になれば、あの辺りも収まるか。
十三か国の方は他大陸だ。
頭のゲルスさえ潰しておけば、あっちの方も大人しくなるだろう」
「じゃあ情報は御願いね、御兄様。
そいつを集めるのが一苦労だぜ」
「う、気色の悪い呼び方はやめろ」
「じゃあ、兄上」
「ううーむ。寒気がする」
「妹を貰えと言ったのは、お前なのだが」
「ああ、まあそれはそうなんだがな」
疾風の御兄様は思いっきり渋い顔をしている。
どうやら魔王の義弟は御用命がないらしい。
「安心しろよ。
婚約はあの子を守るための方便だ。
婚約破棄はWEB小説サイトで一大ジャンルを築いた分野なんだぜ」
それを聞いたミハエルの奴は、何か微妙な顔をしている。
ん? なんだ?
俺はケモミミ園へ帰ったが、レミがアルスを乗り回していた。
最近は乗馬テクニックも上達したと見えて、お馬さんの挙動も大変素晴らしくなった。
だがレミは落ちる事もなく軽快に騎乗している。
楽しそうだな。
でも、せっかく仲良くしているこの二人を引き離す事になってしまうのだろうか。
アルスには王様になっても有効な、レミちゃんの騎乗馬特約でもつけておこうかしら。
「王子様はネコミミ娘のお馬様でした」とか「猫耳おチビの大冒険―騎乗馬はSランク冒険者の王様―」みたいなタイトルで小説を書いてみたくなるな。
でも、あいつはやっぱり、あの国へ帰らないといけないんじゃないかと思う。
俺はギルマス・アーモンのところへ顔を出した。
「おお、どうした?
その顔付きを見ると真面目な相談事らしいな。
まあ座れ」
ギルマスは乱雑に積み上げられた書類でいっぱいの執務机から眉間を揉みながら立ち上がり、ソファーの方へやってきた。
俺はすかさずコーヒーを入れてやる。
相変わらずキャンプに持ってきたカップのコーヒーだったが。
「お、ありがとう。
もしかしてアルスの話か?」
俺は頷いてリフレッシュの魔法をかけてやった。
さすがは元Sランク、いい勘をしているな。
ギルマスはレッグさんに人払いを頼み、話を続けた。
「あいつの事はヘレンから預かって、それ以来の関係だ。
その前にも一緒に仕事をした事はあるが、なかなか見所のある奴だと思っていた。
今回の騒ぎがあったんだ。
向こうに完全にばれる可能性は出てきたな。
あいつも、これまでにアル・グランドの人間と思われるような能力が記録に残る場面もあった。
空中庭園事件はその最たるものだ。
少なくとも各国の諜報の議題に上る事にはなっただろう。
だが、その前にSランクになっていたから今もなんとかなっている」
ギルマスは俺の方をチラっと見ながら言う。
まるで、「おまえも一緒だぞ」と言いたいかのようだ。
「それであいつは目立たないように王都へ入る時も並んで入っていたのか。
転移の腕輪をやった時に豪く喜んでいたしな。
アーモン。
俺は今回の元凶を潰して、アルスを新生アル・グランドの国王に据えるつもりだ。
ロス大陸三か国の両側二か国は『ゲルス帝国』に引きずられている格好だし、大陸の他の国が纏まってしまったので固まらざるを得なかっただけだろう」
俺も首を竦めて、そう返す。
「王宮の舞踏会での話は聞いている。
だが、さすがにアルバトロスが関係ないでは通るまい。
まあ神聖エリオンがこちらについているのだから、お前に喧嘩をふっかけてくる方がどうかしているのだが、そこはあの国の事だからな。
ゲルスが要求した御姫様を、よりによってお前に寄越したのだから、限りなくゲルスへの嫌がらせに近い。
面子を潰されるとあの手の連中は煩いぞ」
どうするつもりだ? と言わんばかりにこちらを見た。
俺も悪戯っぽい感じに返しておいた。
「そうだなあ。
十六か国連合の国を跡形もなく粉々に吹き飛ばす事ができる、稀人の国にあるような超兵器ならたっぷりと用意してある。
戦争の勝利条件が【敵国を滅ぼすだけ】という事であれば、今御茶を飲みながらでも俺は勝利できるけど」
アメリカの大統領で、晩餐のデザートを食っている最中にわざと中座して、テロリスト国家への『空爆の指示』を出してきて、何気なく(敢えて)それを告げて中国の国家主席を驚かせた奴がいたっけな。
ギルマスも、少しコーヒーに咽ながらこっちを睨む。
「おい、まさか本当にそれをやるつもりなんじゃないだろうな?」
俺も呆れてジト目で見返す。
「さすがにそれは厳しい。
二つの大陸のうち、半分ほどの面積が消えてしまうぞ。
それこそ俺が本物の魔王扱いになってしまうわ。
それに、そういう物は『オウンゴール兵器』と呼ばれていて、絶対に使っちゃいけない事になっているんだからな。
超兵器類は、とんでもなくヤバイ魔物とかがいた場合に使えるように念のために持っているだけだし。
そもそも、俺がゴッド系の魔法にフルパワーを込めたら、それに限りなく近い内容だぜ」
そいつは念のために準備してあって、魔法PCのアイテムボックス内の『オウンゴール魔法』のファイルに突っ込んである。
やれやれといった面持ちで、ギルマスもソファに深めに座り直した。
「というわけで、あらゆる通常兵器もふんだんに用意した。
稀人の国ならば軍事マニアな子供が見ても笑うような、稚拙で時代遅れの代物だが、この世界じゃまだまだ有効だろう。
万が一魔法を封じられると、また厄介だからな。
今まで何回も魔法を封じられた経験があるから、色々こつこつと用意しておいたのさ」
あの国は、ベルンシュタインよりも悪辣でキナ臭い匂いがする。
用意だけは怠らない方がいいと切に感じている。
なんというのかな、『重い感触』とでも言おうか。
これは普通の人にはよくわからない物なのかもしれないが。
まあサイキック系の感覚という物は、大体そういうものなのだ。
あるいは温度で感じ取る人もいるのかもしれない。
ESPの中には、そういう特徴を持つ物もある。
まあこの先にはマイナス五十度を下回るような真冬の南極でも汗をかきまくりになるほど、あっつあつな展開が待っているんだろうがなあ。
「とりあえず、お前がシルベスター王女との婚約を公にしたのだから、一旦はこの話は終わりだろう。
却って余計にきな臭くなったわけだが。
お前が神聖エリオンを表に押し出したので、敵方の中にも日和った国が出るかもしれんな。
だがゲルスは絶対に諦めないぞ。
連中は明らかにベルンシュタインよりも遥かに性質が悪い。
いずれにせよ、十分に用心しておくことだな」
俺は首を竦めて、ソファにもたれかかった。
耳の内に戦乱の足音を再び感じ取りながら。




