3-3 またしても懐かしい顔ぶれ
異世界二十七日目。
少し視点を変える事にした。
とりあえず、どの道この親子も金を稼がないと生きていけないしな。
そのへんは知識チートで行くとするか。
最近、スタンスを脳筋に極振りし過ぎている嫌いがある。
文明人なら少しは文明人らしく!
異世界でインターネットという最強の武器がありながら全く使っていない。
普段はアニメとか映画を見ているだけじゃないか。
あとはゲームなんかをしているだけだ。
いい歳こいたおっさんのくせにまずいよな、それじゃあ。
とりあえず食い物屋台をやろう。
食い物なら異世界で色々やってもそうは目立たないだろう。
とりあえずエリ達には護衛をつけておいて、晴れて俺がSランクになった暁には街のダニは潰す。
完璧な御仕置きのフルコースだ。
そして朝っぱら早々、エリの家へ上がりこんだ。
「というわけで、食い物屋をやろう」
「アル御兄ちゃん、何がというわけでなの?」
不思議そうにエリが小首を傾げる。
「まあ、そう細かい事は気にすんな。
商売、商売。
それじゃあ、色々と試作すんぞー」
「「おー!」」
おチビ達が勇ましい。
ふふふ。
夕べはネットで厳選レシピのダウンロードに勤しんでおったのだ。
まずは簡単な奴からね。
「じゃあ、まずはこれだな」
そう言いながら俺が収納から取り出したのは、あらかじめ作っておいたドーナツ生地だ。
本当に基本的で単純なレシピの奴ね。
そういや、まだエリーンにこれを食わせていなかったな。
それを面棒で伸ばして適度な厚さに伸ばしてみた。
そして、イメージ作成で作った昔ながらの鉄製のドーナツ型を取り出す。
うちで使っていたような奴だな。
もしかしたらアルミ製だったかも。
銀色だったけど、なんとなく鉄製だったような気がするんだよな。
今はプラスチック製の奴なんかもあるのだろうか。
これがまた楽しいんだ。
子供の頃、これを使って家族でよくドーナツを作ったなあ。
ここでも、みんなでポンポンと型抜きしていく。
輪っかの部分の内側に出来る真ん中の丸い奴も、ちゃんと揚げてプチドーナツを作ったっけな。
周囲の端材をどうしていたのかは忘れた。
お袋が太平洋戦争の生き残りであった我が家の事だから、それも決して無駄にはしていまい。
適当に切ってそのまま揚げたか、それを丸めてリサイクルしてまた型抜きしたか。
前者だったような、あるいは両方だったような。
それはもう半世紀近いくらい昔の記憶の彼方だ。
そいつを油で揚げて、普通の砂糖からアイテムボックスで加工して作った粉砂糖を塗して完成だ。
どこが厳選レシピなのやら。
しかし、これが子供達には馬鹿受けだった。
お次はポップコーンだ。
これは使い捨てアルミ鍋のセットの奴だ。
俺って、こんなものまでキャンプに持ってきていたのな。
このアルミ鍋のセットは結構音がする。
若い頃に一度作ったきりだから、それもうろ覚えだけど。
バラで作る袋入りの爆裂種のコーンは、鍋でしっかりと蓋をすると音が多少小さくなるのだが。
こいつは音が煩いからキャンプ場なんかで作っちゃマズイかもなと今更ながらに思うのだが。
まあ、あの時は俺の貸し切りだったけどな~。
ポンポンと爆裂種のコーンが爆ぜる音にチビ達が少しビックリしていたが、食う時はもう夢中だった。
今日は火加減を美味く出来た。
これって結構焦がして、しかも半爆裂で香ばしい物がたくさん出来たりする。
次は「チュロス」だ。
チューロ、あるいはチューロウともいうのか。
アメリカのテーマパークでは日本とは少し呼び方が違っていた気がする。
確か元はスペインあたりの御菓子だったよな。
エクストラバージンの上質オリーブオイルを持ってきていて助かった!
シナモンっぽいものは王都で手に入れた。
さすがはテーマパークでも人気商品なだけの事はある。
やっぱり子供達に大人気だったぜ。
生地作りには少し苦労したが、成型する形はアイテムボックス頼みだ。
これも搾り出し用の星型を作るかな。
カスタードクリームが出来たら、それを中に入れた奴を作ってみてもいい。
そうこうするうちに、御昼になった。
ここは焼きソバとインスタントラーメンをチョイスした。
俺はこっそりとビールを、ちょろっとだけ頂いた。
だって、せっかくの焼きソバなんだしな。
カレーは辛いので、とりあえず保留にしておいた。
飯を食ったら、御腹がいっぱいになったチビ達が御昼寝に入った~。
まだ小さい子達だからな。
その間に、おやつ用のフライドポテトと唐揚げの準備をしておく。
あとはポテトチップスか。
芋餅とわらび餅もチャレンジしたいな。
でんぷん粉やきな粉はとっくに作成済みなのだ。
さすがにキャンプへ「わらび餅専用粉」までは持ってきていない。
そういや、手作りプリンならレシピがあれば出来そうだな。
屋台でやるなら相応の設備がいるかな~。
あ、それならクレープの方がさっと作れていいかな。
いつかキッチンカーならぬキッチン馬車を作ってみても面白い。
それならパンケーキにフレンチトーストあたりも悪くないかもしれない。
どうせ魔道具を作るなら、綿菓子やアイスクリームの製造器具までまで一通り頑張って作ってみるか。
あれこれと普及させる前に、少しばかり『ゴミ掃除』が要るがな。
おっと、お御好み焼きを忘れていたぜ。
お好み焼き粉とかも一式持ってきてあるんだった。
あの、お好み焼き専用のヘラまで作ったのにな。
うどんっていう手もあるよな~。
味はこちらの人の舌に合わせるとして。
さすがに自分で麺を作った事は無いけど!
人形焼きっぽくキメラ焼きなんかを作ってみても面白いかも。
今度、型を作ってみるか。
日本蕎麦を持ってこれなかったのは痛恨の極みだ。
まあ普通キャンプで日本蕎麦はやらないよね。
自分で打つ人はいるかもしれないけど、どっちかというとあれは遊びに行った先での蕎麦打ち教室か何かでやるもんだ。
タコ焼きやたい焼きは、またいろいろと難しいなー。
どうするかな。
これも型から作らないといけないし、何よりもたい焼きなんかだと材料の小豆がないと作れない。
あれだけは代用品じゃ、さすがに無理だ。
何故、餡子作りで古来より延々と小豆を使用するかというと、あれが美味すぎるので代用が効かない代物だからだ。
スーパーの冷凍食品の大判焼きでも餡子の物が真っ先に売り切れる。
イチゴやカスタードは、ほぼ全部売れ残っていてもな。
大手亡でもあれば白餡に挑戦してもいいのだが、俺は白餡はあまり好きではない。
高級和菓子なら白餡でも食べたりするのだが。
むしろ、あれの方が代用は効くかもしれない。
最近は、白餡の原料である大手亡は品種としてあまり使われておらず、代わりの品種にチェンジしているらしいので。
だが小豆は代替品にチェンジしていない。
つまり、そういう事なのだ。
袋入りの小豆があれば良かったなあ。
昔、好奇心から庭でそれを撒いて栽培してみたら、なんと全高十センチくらいの小さな小さな木が育って、数粒の小豆を収穫出来て大変驚いた記憶がある。
夜御飯はお好み焼きにした。
これなんか屋台飯の定番なんだし。
屋台として運用するのなら、搭載できる設備的な物の関係もある。
そして、どんな客層を狙うのか。
王都アルバみたいな街なら、女の子をターゲットにすれば御洒落路線も有り得るが、ここは冒険者の街アドロスだ。
むろん、ターゲットは冒険者向けのガッツリ系である。
エリーンではないが、体力勝負である冒険者稼業をしている女子の胃袋は食欲旺盛だ。
そして設備は汎用性の高い、応用の利くものがいい。
となると、やはり鉄板系か。
フランクフルト・焼きソバ・オムソバ・お好み焼き。
ついでにクレープなら中身しだいではガッツリにもなる。
このあたりは、そこそこ回転が効く。
パンケーキなんかも地球では専門店があるほどのものだ。
油系なら唐揚げ・フライドポテトあたりか。
やっぱりドーナツ・チュロスもいいな。
余裕が出来たら設備拡張だな。
このあたりが現実路線だ。
飯系かオヤツ系か。
ドリンクも付けたいところだ。
売り子をさせるならチビ達にも計算を……。
しまった。
そういや自分の読み書きの勉強もあったんだった。
翌日の朝、王都の冒険者ギルドに顔出しをしたらギルマスに呼ばれた。
護衛の人間を用意してくれたと。
手間がないように、ギルドの入り口あたりで会わせてくれたメンバーは。
「会いたかったー。プリーン!」
お前らだったか。
ああ、でも好都合かな。
こいつらなら絶対に信頼できる。
「むう。
匂ったか、エリーン。
ちなみに俺の名前はプリンじゃない。
久しぶりだな。
エド、デニス、ロイスも。
今回の仕事は、お前らが受けてくれるのか?」
「ええ。
ギルマスから頼まれたのでね
(本当は、あなたの御目付け役なんだけど)」
「じゃあ、行こうか。
こいつに乗っていくぞ」
そう言って、アイテムボックスから車をドンっと出す。
車なんか出したら本当はマズイのだが、ギルマスが転移魔法は使っちゃいけないっていうんだから仕方がない。
という事にしておく。
「な、なんですか。
これは!」
驚いて車内を色々と覗き込む一行。
「これは自動車だよ。さあ乗った乗った」
ポカンとする四人を車内に押し込んでギルドを出発する。
図体のでかいロイスが助手席だ。
他の人間は狭い後席へ強引に三人押し込んだ。
一応は定員五名だしな。
後席は狭いから大人ばかりで五人はきついけど。
連中がスリムな人間ばかりで助かったぜ。
俺も痩せているからエドと交代すると丁度いいが、運転席以外に座れないからな。
その野太いエンジン音を立てながら走り去る車の後ろ姿を見て、また頭を抱えるギルマスの姿があった。
車のせいで王都の門にて一悶着あったが、Bランク冒険者カードによるゴリ押しでそれはなかった事にして、あっという間に砂塵を巻きながら二十キロ先のアドロスに着いて、そのまま街へ乗り入れる。
ここには門だの塀だのはない。
門番もいない。
強いて言うなら、冒険者各自が門番を兼ねるといってもいい。
だから、地理的に王都あたりから流れてきた、あるいは王都へ入れなかった者、入る事すら諦めてしまった者なんかもやってくる。
当然、溢れる貧民の真面な食い扶持はない。
どうしたって治安は悪くなる一方だ。
その入り口からのメイン道路を車で突き進んでいた。
やがて裏通りに入り、エリの家へと向かった。
辺りには、この街を牛耳る裏の連中もいたが、じっと見つめるばかりであった。
車で来たのは、そいつらに向かって見せつける意味合いもあったのだ。
うちの車は御上品な静音タイプの高級セダンでも、静かなハイブリッド車でもない、環境問題も騒音規制も糞食らえの野生児たる本格的な4WDのクロカン車だ。
騒々しい4リッター・ガソリンエンジンの爆音を立てまくるド派手な真黄色の原色ボディは、異世界の貧民街においてはさぞかし色鮮やかに、また賑やかしく映った事だろう。
「ここだ。
この家を中心にした護衛計画を立ててほしい。
お前らの拠点はどうする?」
「そうですね。
この辺は色々と狭いですから。
少し離れたところになりますが宿屋にします。
警護中のトイレなどは家で御借りするとしましょう」
「とりあえず、食い物屋台をやらせようと思うんだが。
この辺りには無い美味い奴をな。
どうせ、ちょっかいをかけてくる馬鹿がいる。
見かけたら遠慮はいらないので潰しておいてくれ」
「わかりました。
あなたは、どうなさいますか?」
「とりあえず、俺はAランク試験の準備がある。
その合間に色々、この子達がやる商売の準備をしようと思うんだ。
その間、きっちりとエリ一家を護衛して欲しい。
それとエリ-ン、そんな切なそうな顔で俺を見るな。
プリンくらい食わせてやるから!」
「ケーキやシュークリームもですよ~」
きらきらした目で言ってくる食いしん坊さんがいた。
「言っておくが、美味いのはそれだけじゃないからな?」
エリ-ンが人生最大の衝撃を受けたみたいな顔でこちらを見て固まっている。
「ダンジョンでは料理禁止だから、殿下にも振舞えなかったんだよ」
「それ、絶対に全部食べますからね!」
決意を秘めた表情で見つめてくるエリーン。
「おお、仕事は気張れよ。
それはエリ達に作らせるから」
「襲い来る全ての敵を殲滅いたしましょう!」
その様に苦笑しつつ、エドから御祝いの言葉が届けられた。
「ああ、アルフォンスさん。
遅まきながらBランク昇格おめでとうございます。
なんですか、試験の時のあの最後の奴。
死ぬかと思いましたよ。
吹っ飛んでいた奴らもいたし」
「あははははは。
だって、あいつは凄く手強かったんだよ。
魔道鎧なんて、あんなとんでもない物がありなのかよ。
まあ、そいつもスキルとしてキッチリといただいたがな」
俺がそう言うとエドは目を丸くした。




