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48-8 冒険者ギルドにて

「そうさなあ。

 このあたりは、まあのんびりしたところさ。

 本来なら、そうガタガタするようなところじゃない。

 ま、ロス大陸と違って小国家群が犇いているから、ごたつく事は定期的にあるさ。

 だがそれも、そうそう短いスパンであるっていうものでもない」


 彼はハイボールで喉を潤しながら饒舌に喋った。

 俺は店主に断って炭酸水で割ってやったのだ。


 魔法で大きな単結晶の氷を作ってみた。

 こいつは大変に透明度が高い代物なので、初めてこれを見る人間にとっては、かなりインパクトがある。


 ミネラルもたっぷりと溶け込んでいる。

 イメージとしては、名古屋港に係留されていた南極観測船内の展示で拝見した南極の氷あたりか。

 あれは気を付けないと、数万年もの間氷に封印されていたヤバそうなウイルスも付録についていかねないが。

 物体Xのウイルス版は、地球温暖化で氷が溶ける事によって発生するリスクがリアルに心配されている。

 

「このハイボールっていう奴は美味いな。

 ところで、お前さんは確かあの国の公爵なんじゃないのか?

 いいのか、こんなところにいて」


「こんなところとは?」


 空惚けて聞いてみる。


 さすがは冒険者ギルドだ。

 俺の事を知っている奴もいたな。

 まあアルフォンス商会と言えばわかるか。

 一応は俺もランクだけなら世界最高峰の冒険者なんだし。


 男はジョニーといった。

 首に下げたプレートを見ると、なんとAランクだ。

 是非話の続きが聞きたいな。


 すると酒場のドアが勢い良く開いてドヤドヤと入ってきた一団があった。


「おい、貴様ら。

 そこをどけ。

 席を開けろ!

 爆炎のグランバースト公爵様の御成りだぞ!」


 おう!

 こいつはまた、なんかべたな奴が来たもんだな。

 よりにもよって、この俺がいる時にか。


 もしかして、またいつもの『セブンスセンスの御導き』っていう奴なのか?

 面白いので、とりあえず見物しておくか。


 もちろん誰も席を立とうとしない。

 冒険者は肩書きじゃない。

 実力こそが全てだ。

 

 それに誰だって気分よく飲んでいる所で邪魔をされれば腹も立てる。

 だが男は、言う事を聞かない冒険者どもに腹を立てると手近な椅子を蹴り倒した。


 おお!

 噂に違わぬ乱暴者じゃないか。

 いやあ、笑わせてくれるな。

 まあ俺は一見乱暴者に見えて、普段は本当に大人しくしているんだぜ。


 だって小学校の校長先生といえば、ちょっとした『地元の名士』で、最低でも『学区の名士』なんだからなあ。

 学区でローカルな催しがあれば必ず出席するような人なのだ。


 うちの従兄弟なんて、田舎の村で二代続けて小学校の校長先生を勤め上げたという名士中の名士だったのだ。

 まさに村の重鎮だわ。


 俺は立ち上がってズカズカと奴に近づくと、自分でも気持ちが悪いと思うような猫撫で声で話しかけた。


「ねえ、公爵様。

 俺と勝負いたしませんか?

 あなたが勝ったら、この光金貨を差し上げますよ」


 俺はそいつを親指と人差し指の間に挟んで、奴に向かって見せ付けた。

 それは小さな山吹色の金貨。

 そう、見紛う事無きオリハルコンの輝きだ。


 別に俺がコピーして作ったわけじゃない。

 これは正当に稼いだ物なのだ。


 男の顔がみるみるうちに欲望に染まり、ダミ声で怒鳴りつけてきた。


「そいつを今すぐに寄越せ!」


 おやおや、これはまた金に汚そうな豚公爵様だこと。


「はははは、俺相手に腕相撲で勝ったらな」


 それを聞いて、そいつの顔は歓喜に歪んだ。

 何しろ俺ときた日には、身長百七十センチに届かないような「ひょろ君」だ。

 一見すると筋肉なんてありそうには見えない。


「いいだろう。

 SSSランク冒険者の力を見せてやろうではないか」


 案の定、野郎はあっさりと乗ってきた。

 俺の正体を知っているジョニーは、思いっきり含み笑いを堪えながら立ち上がった。


「では、Aランクの俺が審判をしてやろう」


 俺達は花瓶の台にしていた小さな机の上で、互いの手を握り合わせた。


 ちっ、豚男の手なんか握りたくなかったぜ。

 脂ぎっていて実に気持ちの悪い感触だった。

 こいつは失敗したな。

 だから。


「レディ、ゴー」


 次の瞬間、机は大音響を奏でて粉々に砕け散った。

 そして奴の右手は、血塗れの骨折だらけと相成った。


 あまりにも気色の悪い手の感触だったから、本当はじわじわと嬲るつもりだったのに一瞬にしてケリをつけてやった。


 こいつめ、俺の名前を騙ってあちこちの女を泣かせてきたんじゃあるまいな。

 いかにもありそうなこった。

 他にもそんな奴がいそうだな。

 よし、あちこちに手配して、そういう輩がいたら捕縛して処罰するように御触れを回そう。


 床に転がったまま奴は豚のように泣き喚く。


「痛てえー、畜生。

 貴様あ、公爵に向かってなんて狼藉を。

 おい、お前らやっちまえ!」


 それを受けて剣を抜いた三人の男達の両足の甲へ、俺は一瞬にして九ミリパラベラム弾を一人頭四発ずつ御見舞いした。

 さっきからファストをかけまくっていた俺には造作も無いことだ。

 魔道鎧など出番すらない。


 男達は両のブーツの甲の部分を押さえて、初めて味わうタイプの熱い苦痛に苦鳴と共に転がった。

 他の人間には、放った十二発の銃声が機関銃のようにけたたましく響いたことだろう。

 なあに、上級魔法サンダーレインが引き起こす惨状に比べたら、この程度どうっていうことはないさ。


「パラベラム。

『闘いに備えよ』か。

 うん、いい言葉だ」


 俺は紫煙を上げる火薬式の九ミリ自動拳銃を右手に呟いた。


「ちなみに、アルバトロス王国の公爵を顕すマントは、この仕様だ」


 俺は落ちていった空薬莢を目視収納で回収すると、爆炎スタイルを披露してマントを捲り上げてデザインを見せてやった。


 公爵位を示すマントは、表は黒地に紋章で裏地は金色だ。

 そう、「国王と同じ」物なのだ。

 平民が勝手に使ったら、その場で処刑される。


 ロス大陸国家では、ほぼ共通の仕様だ。

 くっそ、あのベッケンハイムの奴や亡きバイトン公爵とも実は御揃いなのだ。


 さすがにこのまま逃がすわけにはいかないので、奴が泡を食ってドタバタと起き上がり、つんのめりながら仲間を置き去りにしたまま逃げ出そうとしたところを魔力糸で拘束した後で、無情にも糞頑丈なヒュドラのニュルポン革で出来た紐で縛り上げた。


 他の三人は両足の甲を二発ずつ弾丸で撃ち抜かれているため真面に起き上がれない。

 這いずっての逃亡は諦めたようだ。

 そこの豚だけは死刑が確定だが、他の連中は逃げさえしなければ命だけは助かる。

 そんな状態で俺からは逃げられないと、仲間の醜態から察するだけの知恵はあったようだ。


「ジョニー、こいつはここの冒険者か?」


「いや知らないな。

 というか、顔を知られている場所でそんな真似をすると思うか?」


 そう言われてみれば確かにな。


「た、助けてくれ。

 ほんの出来心なんだ」


「おい公爵閣下、ハイボールの御代わりをくれ」


 それを虫けらを見るかのような目で無視しながらジョニーが言う。


「あいよ」


 カラーンと球形単結晶氷の音が響き、ウイスキーと炭酸水を注いでから御洒落なマドラーでかき混ぜた。


 誰も悪党の泣き言なんかに耳は貸さない。

 他の連中は面白そうな顔をして見ているだけだ。

 いい肴が来たと言わんばかりに。


 ふと気がつくと、俺の隣に男が一人立っていた。

 パッと見に四十歳くらいか?


 見上げると厳しい顔付きにがっしりとした体躯が目に入る。

 小洒落た格好をしており冒険者の格好はしていないのだが、こいつからは強者の匂いがする。

 そして、そこはかなく感じ取れる包容力のようなもの。


 間違いなく、そいつはここのギルマスだろう。


「お前が、あの噂に高いアドロスの暴れん坊か。

 また微妙なタイミングで現れたもんだな」


「微妙なタイミングでなきゃ、こんなところくんだりまで飲みにこねえよ。

 アルバ冒険者ギルド所属、SSSランクのアルフォンスだ。

 あんたがここのギルマスか?」


「ああそうだ。

 俺はベンソン。

 まあ、それには違いねえな。

 こんなところじゃなんだ。

 俺の部屋まで一緒に来い」 


 アーモンよりもかなり野趣溢れるといった趣の男だが、悪い奴ではなさそうだ。


 俺が後に続くと、ジョニーもついてきた。

 そういや、こいつの話の続きも聞き損ねたんだった。


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