48-7 マリノ王国へ
今回この国へやってきた主な目的は果たしたが、肝心の国家連合を見てこないとな。
主に、ここケモミミハイムに侵攻する予定はあるのかとか、ロス大陸へはどうやって渡ってくるつもりなのかというような事を。
あそこは国の数が多いので厄介だな。
これらの国は主に地形で区分けされたもののようだ。
ケモミミハイムが広大な国土を擁するのは、主に十三か国との境界が過酷な山岳地帯であったからだ。
そのため人間が暮らしやすい場所に人間が、過酷な環境の場所には獣人がという感じで自然に区分けされていったとの事だ。
パルシアとケモミミハイムの間には大きな河がある。
ベルンシュタイン帝国とアルバトロス王国の間と同じだ。
日本の県境とか市町村の区切りにも、そういうところはたくさんあるよな。
小国群の方は、地形もあれば長い間の紛争で協定により決まったものもある。
消滅したり、合併したり、分割したり、国の数が増えたり減ったり。
地球でも最近こそあまり変化は無いのだが、千年単位で見れば凄く変わっている。
そこいらへんの事情については、おそらくはこの大陸の人にだってよくわかっていないだろう。
仮に世界史の教科書があったとて、なんていうか「多くの説の中での一解釈」が載っているだけなので、それが絶対とは言い切れない。
特に侵略による国境線の変更があった場合には、侵略者に都合のいいように歴史は捏造改変される。
あるいは時代と共に変わっていくかもしれない。
後世にて歴史上の新発見とかもあるし。
また意図的な捏造も確実に混じっているはずだ。
中には歴史の闇に葬られたものもあるのだろう。
とりあえず、国境を見て回るか。
何か動きがあるのかどうか。
俺は牧歌的な風景が続くケモミミハイムを飛び越えながら、国境を接する場所へといった。
国境を接する五つのうち「点」で繋がる国はパスして、後の四つとの国境を見ることにした。
先の尖ったエプロン状の先端に接する部分は、いわゆる「フォー・コーナーズ」と呼ばれるような状態になっていた。
アメリカの州の中には、そういう風に四つの州が十字を切って分けたような形になって接している場所がある。
そこは観光スポットになっており、両手両足をそれぞれの場所においたりして記念撮影をする。
喫煙禁止の州に足を置いて喫煙可の州の方に頭を置き、ブリッジのようなスタイルで煙草を吸いながらの記念撮影とかが、そこでの主な遊び方だ。
おっさんは激しく道に迷っていて、そこへは行き損なった気がするな。
その辺は確かに通ったはずなのだが。
前世紀の西暦千九百八十年代当時の車にナビなんかついていなかったので、そんなニッチな場所へは辿り着けていなかっただろう。
生憎な事に、ここのフォー・コーナーズは、あまりにも地形が激しいのでそんな名所にはなっていない。
そこへ行くための道もないし、明確な国境線さえ示されていないのだから。
国境線は十~百メートル単位で曖昧な感じなんじゃないか。
あるいは、もっと。
おっさんは魔法PCのMAPがあるので、そうなっている事がわかるだけだ。
左側から、マリノ王国・マウテニア王国・ピークネス王国・アクリア王国か。
なんか面倒だな。
とりあえず左から国境線を見ていくが、厳しい山岳地帯なので人っ子一人いないわ。
国境の手続きをする場所も順番に見ていったが、なんだかよくわからない。
試しに左側のマリノ王国へと、ケモミミハイム側から入国してみた。
海沿いの国家上端から正式に入国する。
国境警備所にて特に何か言われるわけでもないし、何か変わった事があるのかもわからない。
ここは割と変哲のない感じの場所だ。
やっぱり、どこから見たって海はいい眺めだな。
ここはケモミミハイムとは違って主要街道は一応道の体裁を繕ってあるし、メイン街道は石造りに舗装されている。
その辺りは概ねアルバトロスと同程度か。
まあまあ発展している国のようだ。
日本だって俺の子供の頃は、親父の在所へ行く道は砂利道になっていて非常にわくわくしたもんだ。
今もそうなのだったとしたら、本格的なクロカン車で奇声を上げながら突っ走るぜ。
生憎な事に、もう殆ど舗装されちまっていたがな。
あんなに国中隅々まで舗装されている国なんて、今でも地球じゃ日本くらいのものじゃないのだろうか。
アメリカだって未舗装の脇道がゴロゴロあって、うっかりとそこへ探検気分で足を踏み入れて何かあったとしても自動車保険が適用されない。
そもそもアメリカは国内の治安が非常に良くないので、そのような場所へ入ったら何があるかわからないのだし。
あの国じゃ、うっかりと間違って勝手に私有地に入ると、いきなりライフルをぶっ放されても文句は言えないしな。
昔、確か名古屋かどこかからアメリカへ留学に行った高校生の男の子だと思ったが、ハロウインのイベント中に間違って他人の敷地へ入り込んでしまって、強盗と勘違いされてライフルで射殺された事件があった。
マリノ王国は小国ではあるが、これでも大国アルバトロス王国の二十パーセント以上の面積はある。
マリノ王国の国土は日本よりも面積があるだろう。
およそ日本の一・三倍くらいの面積じゃないかな。
小国などと呼ばれながら、ここは広大な大陸国家の内の一つなのだ。
とりあえず、この国の首都を目指した。
マリノ王国の王都は長さ九百キロメートルくらいはある国土線の、海沿いの真ん中ほどにある。
どうも、この世界の人は割合と中央くらいの位置に首都を置く傾向があるな。
よく考えたら日本だってそうだけれど。
日本は首都が殆ど湾岸みたいな場所にあるから、東京湾に大津波が来たら一発でお終いだけどな。
国会議事堂も霞が関も首相官邸も議員会館も、みんな海から三キロメートル以内に在る。
東日本大震災の最大津波クラスが襲ってきたら全滅しそう。
南海トラフは本土まで日本海溝よりも半分くらいの距離しかないから、最大津波も強力なのが来そうだ。
目指すのは、この国の冒険者ギルドだ。
あっさりと飛んで四百五十キロメートルを飛び越えた。
やっぱり海沿いはいいな。
ここは日本と違って海が汚くない。
愛知県近郊は工業が発達し、また湾に面した黒い海が殆どなので、こういう綺麗な海には憧れる。
俺にとって海とは黒潮の透明度の低い海なのだと、小さな子供の頃から刷り込まれているのだ。
保育園児の頃に、そういう真っ黒な海の絵を描いた事がある。
あの辺は工業廃水なんかで汚れて海が真っ黒なのか、それとも黒潮のせいで黒いのか見ただけじゃわかりゃあしねえ。
沖縄や日本海の透明度の高い海には憧れるな。
海外の綺麗な海にも。
しばし海上でぶらぶらと遊びながら行く。
別に急ぐ旅でもないのでな。
マリノ王国の王都は、アルバトロスの南端よりも少し南に行った緯度のところにある。
つまり日本で言えば那覇より南に位置する。
緯度的には台湾くらいの感じなんだろうか。
もしかしたらバナナなんかも売っているのかもしれない。
なんたって、ここは豊穣の女神メルスを崇める土地なんだからな。
もし見かけたら、是非御土産に買って行こう。
王都にも特に問題なくすんなりと入れた。
この街は高台にあり、海が見えて大変見晴らしがいい。
街の中で高い場所へ行くと港が見える。
是非とも別荘なんかを建ててみたいような景観の良いところだ。
思わず用件を忘れて景色に見入ってしまった。
MAPで検索して冒険者ギルドの場所を探した。
ほぼ中心街にあるようで、なかなか利便性はいいな。
さすが南国に位置するだけあって、人々の服装もゆったりとした軽微な感じになっている。
俺はアロハシャツとゆったりズボンで、ハワイっぽい感じの格好で決めてサングラスに帽子を被った。
アロハシャツなんて、元々の起源は日系人移民が持ち込んだ派手な柄の着物を仕立て直しただけの物だからな。
いかにも日系移民が多かったハワイらしいエピソードだ。
しかも、何故かそれが向こうで大流行したらしい。
確かに今ではアロハシャツもハワイの代名詞の一つになっているくらいだから、それはあそこの風土に合っていたのだろう。
とにかく、とても敵地に来た人のする格好ではない。
だって誰も俺を敵視しないし。
というか大陸レベルで余所者である俺の事など誰も知らないだろう。
そもそも、俺はこの世界の人間ですらないのだ。
うっかりと次元を越えて来ていなけりゃ、絶対に見かける事すらないわ。
王都の冒険者ギルドへとやってきたが、なんか扉も西部劇に出てくる酒場の奴みたいに半分しかないサイズで、前後どちら側へも開く観音扉のようなもんだ。
実に緩い雰囲気だ。
うーん、二丁拳銃が欲しいな。
やはりシングルアクションの一発ずつ弾を込める奴がいい。
火薬式の自動拳銃などもあるんだけど、これじゃない感でいっぱいだ。
手持ちの火器の中では、腰のホルスターにぶら下げるなら六インチバレルの44マグナムあたりかな。
あれは銃身が重いせいか撃った時も非常に安定していて、しっかりと両手で構えてよく狙えば大変よく当たる銃なんで俺は好きだ。
ただ撃鉄を引くのが超大変だけど。
撃鉄が固いので、銃に慣れていない人間だと、たった数発撃っただけで親指の腹が真っ赤になる。
あれが素人には痛くて痛くて。
今ならどうという事もないが。
もう、どんっと五十発入りの弾薬箱を出されて、そいつを全部撃ち切らないと本命の超大口径マグナムを撃たせてもらえないので半泣きになって射撃場でノルマをこなして必死になって撃っていた懐かしい思い出。
六発が八回とラストが二発だから、死に物狂いで撃っていると気が遠くなるんだよな。
やっぱり俺は自動拳銃が好きだな。
弾を込めたらスライドを引いて撃つだけだから。
あれも大口径の銃だとマガジンの発条がキツイので、最後まで弾薬を装填するのが豪い事なのだが、射撃場ではちゃんと機械でローディングしてくれてあるので助かる。
とりあえず冒険者ギルドの中へ御邪魔してみる事にした。
俺の原色豊かでとても冒険者には見えない格好を見て、皆の視線が集中した。
だが特に絡まれるわけでもない。
何しろ、冒険者装束ではないし兵士のような物々しい格好でもない。
とても盗賊ギルドの人間には見えんしな。
公爵にはもっと見えないだろうが。
まあここへ御邪魔するには、作務衣やジャージよりはマシな格好じゃないか?
なんていうか南国特有の、あののんびりムードが店内中に漂っている。
もうギルドっていうよりは完全に「お店」のノリだな。
俺も最初からこんなのんびりした土地に来たんだったら、あそこまで大立ち回りにはならなかったと思うのだが。
それもみんな、あのベルンシュタイン帝国がいけない。
そして俺は酒場のカウンターに座り酒を注文した。
そこにはアルバトロス王国でも御馴染みの酒が置いてあった。
そう、それは俺が販売している、日本から持ち込んだりアイテムボックスで魔改造したりして作ったウイスキーじゃないか。
ここでは、べらぼうな値段がしている。
まあ、あの危険な大洋を渡ってきた酒なのだから仕方がないな。
すると隣のテーブルに陣取っている男がのんびりと声をかけてきた。
雰囲気からすると高ランク冒険者か。
そいつから特に悪意は感じない。
レーダーも黄色の輝点を輝かせ、そいつが中立である事を示している。
「へい、坊主。
その酒はお前なんかが飲むようなもんじゃない。
せめてCランクになってからにするんだな」
「それは困ったもんだな。
この酒は、この俺自身が売ったものだ。
わざわざロス大陸から売れ具合を覗きにやってきたのさ。
俺はアルバトロス王国のアルフォンス。
アルフォンス商会の会頭だ。
あんた、よかったら俺の奢りで一杯どうだい?」
まずは情報収集からだ。
残念ながら、ここマリノ王国王都の冒険者ギルドには、俺好みの物知りな老人二人組はいなかった。




