48-6 憧れのケモミミハイム
俺は転移するのではなく、わざわざ空を飛んで海を越えてメルス大陸へと向かった。
あるものを探しながら。
くそっ、要らん時には普通に出てくるくせに、わざわざ探すとなると「いない」もんだな。
仕方がないので、そいつの捜索は途中で諦めてパルシア王国へと転移した。
あとはゴーレムどもに任せた。
パルシアの港で入国手続きを済ませると、少しぶらぶらしてみた。
港は朝早くから賑わっていた。
漁師や仲買人、それに直接海産物を買い付けに来たバイヤーもいる。
物資を運搬してきた商人が、港で帰りに持ち帰る荷の買い付けをしていく。
ここは相変わらずの品揃えだ。
俺はのんびりと買い物をしながら辺りを観察したが、特に慌ただしいような気配は感じられない。
戦乱の足音は、ここではまだ遠いようだ。
海老・蟹・魚・貝・海草と、前回無かった種類もあるので、毒や鮮度などをチェックしてから山本さんのアイテムボックスへ空間転送しておいた。
俺にも帰ってからの御楽しみが少しくらいあってもいい。
さてと、とりあえず件のケモミミハイムへと行ってみるか。
俺は一瞬にして大空の住人となった。
眼下に広がる景色も、なんていうか新幹線の窓から見る風景のようなもので、すぐ見飽きてしまう。
この世界の景色なんて、そう代わり映えがするわけではないのだ。
アメリカによくあるような奇岩地帯とか、アルプスやチョモランマみたいな珍しい山とかがあるのならホバリングして、じっくりと拝見するのだが。
そういう景色もどこかにはあるかもしれない。
また今度探しに行こう。
小学校の遠足の行先にしてもいいし。
幼稚園の経営者が転移魔法を持っていると大変便利だ。
このパルシア王国も決して小さくはない。
ヒヨコ大陸の北部先端にあり、鳥の首に見立てたような形をしている。
ある意味でメルス大陸を象徴する形をした国土なのだ。
そしてケモミミハイム王国は、その首にかけられた逆三角形をした大きなナプキンのようなものだ。
この二か国だけでヒヨコ大陸の三分の一にもあたる面積を占める。
この広大なケモミミハイム王国を通らねば陸路からパルシアへは入れない。
あそこの港を使わないとかなり海路が延びるし、航路としての情報が少ないため、ロス大陸まで安全に辿り着けない。
また長く海上にあればあるほど海生魔物などの脅威が増すのだ。
メルス大陸からロス大陸を攻めるならば、十三か国の国家連合に属さない上、大陸の玄関口となるパルシア王国を落とさないといけなくなる。
ケモミミハイムも、巨大な楔形のように国家連合の真っ只中に打ち込まれていてパルシア王国への十三か国の侵攻を阻むが、逆に言えばケモミミハイムは南部の連合国に囲まれている形になる。
この大陸でも獣人の立場は低いが、獣人は力が強く、ここでは数も非常に多いため人族に従属させられるような事はなかった。
だが今、風向きは変わろうとしているのだ。
俺は、ほどなく国境に到着して入国手続きを行なった。
「アルバトロス王国のグランバースト公爵様ですか。
この国へは何の御用で?」
「色々あってね。
まあ、いつか来たいと思っていたので。
ところで君の家に赤ちゃんは?」
俺の大好きな熊の獣人である男性に訊いてみた。
「あ、俺独身なんです。
結婚するのなら同じ熊獣人の子がいいんですけど、俺達の種族は数が少ないんで……」
「あ、御免」
また要らん事を言ってしまったな。
「いえいえ、獣人の赤ちゃんが見たいのなら乳児院へ行かれては?
お金持ちの貴族さんの訪問は歓迎されますよ」
熊の御兄ちゃんは気が良さそうな感じに笑って情報をくれた。
「ありがとう。
後で行ってみるよ」
彼は親切に乳児院への地図を書いてくれた。
その国境の町は、なんていうか朴訥な感じだった。
派手な建物とかは建っていないし、いかにも田舎町といった風情だ。
大陸と交易のあるパルミアと接する国境の町なので、もっと華やかでもいいと思うのだが。
まあこの国は、大体こんな感じなものらしい。
いかにも大らかな獣人の国って感じだな。
街中も未舗装な場所が多い。
というか、農地や建物で無い場所が道といった雰囲気だ。
一応、道の端には柵のような物が大概ある。
久々に車でドライブしつつ向かった。
車で走ると土埃が立つのが気になるな。
埃は収納しながら行くとしよう。
土埃の中には土中のヤバイ細菌なんかが混じっている事がある。
その典型がボツリヌス菌だ。
あれは、この世界にもいるんじゃないか?
うちには子供がたくさんいるので、破傷風菌は存在を確認しておいた。
ケモミミ園の敷地内にいたものは完全に撲滅したし、検疫魔法の応用で後から侵入してきた破傷風菌にはリジェネのように自動的に作用し、すべて殺処分となる。
あれは発展途上国で裸足のまま走り回る子供達にとっては最悪なパートナーだ。
うっかり釘でも踏んでしまうと、傷口から奴らに侵入されて豪い事になる場合もある。
ボツリヌス菌は胃腸の脆弱な赤ん坊が吸い込んだりすると最悪だ。
実際に工事現場で舞う土埃の中にボツリヌス菌がいて、ベビーカーで散歩中の赤ん坊がそれを吸い込んで感染してしまったという稀有な症例もある。
そんな街の一角に乳児院はあった。
エルミアの教会のようにボロボロなわけじゃない。
ただ素朴な感じで、ちょっと大きいだけの建物だなという印象だ。
ここは孤児院ではないので、エルミアの孤児院のように外で遊んでいる子供達はいなかった。
「ごめんください~」
俺は汚れてもいいようにスエットに着替えてから御邪魔した。
このあたりはロス大陸の大陸共通語が通じるらしい。
「はい、なんでしょう」
ウサギミミの可愛い御姉さんが、パタパタと音を立ててスリッパでやってきた。
この国は日本みたいに靴を脱ぐ習慣があるらしい。
それに子供は裸足で走り回るしな。
「いや、こちらに可愛い獣人の赤ちゃんがいると国境で聞いてきまして。
私はアルバトロス王国のグランバースト公爵と申します」
「はあ」
彼女はよくわからない風で首を傾げていたが、ちゃんと案内してくれるようだ。
あは、最初はちゃんとした格好で来た方がよかったかな。
「まあ、どうぞこちらへ」
すぐ中へ通してくれたのだが……うわっ!
いたよ。
それはもう可愛いケモミミの赤ちゃんの群が。
だが、このケモミミ園の園長たる俺は知っている。
これが歩き出すようになると、また悪い事ばっかりをするのだ。
俺は可愛いケモミミのおチビさん達を抱っこし放題コースを堪能した。
柔らかくて、可愛くて、もふもふで。
猫・ウサギ・犬・熊・虎・狐・狼・あとなんかよくわからない種類の子もいた。
あまりに可愛いので、動画で生中継も始めた。
俺には獣人チビの匂いが染み付いているのだろうか。
赤ちゃん達もいっぱい寄ってきて、むしゃぶりついてくる。
ここは二歳になる前の子達がいるので、初めて会った時のレミくらいの歳の子もかなりいる。
本来ならあの子だって、こういう場所で大切に育てられていたかもしれないのだ。
帰ったら、いっぱい頭を撫でてやろう。
「あのう……」
何かを期待するように、ウサミミ御姉さんが頃合のタイミングで声をかけてきた。
「はい。
些少ではありますが寄付をしたいと思うのですが、ここってロス大陸の金貨は使えますので?」
「ええ、ハイドとパルシアの方で貿易をやっているもので、この大陸では同じ規格の金貨銀貨は流通しています。
国によっては使っていないところもありますが、貴金属を使用していますので換金は可能ですわ」
「では金貨十枚お納めください」
俺は、その方が使いやすいかと思って、ハイドデザインの金貨を渡した。
あの国は大陸各国と貿易をしているので、これならどこでも使えるのではないだろうか。
これは日本の中規模児童養護施設だと、通常の一年分以上の寄付金に相当するだろう。
国や自治体から貰えるお金の十五分の一から二十分の一くらいかな?
うちの近くにある児童養護施設では、多い年で確かそれよりも少ないくらいだった。
少なければ、更にその半分ほどだ。
ここでは運営資金として、この二十倍以上の金がかかっているのではないだろうか。
乳幼児ばかりの施設は非常に人手やお金がかかる。
「ありがとうございます。
こういうところでは色々と物入りなものですから」
うん、本当にね。
俺も自分で大枚稼いだり、色々な物を作れるんじゃなかったら、ケモミミ園の財政が凄い事になっていただろうな。
よし、このケモミミハイムは絶対に守らねばならない。
主に俺のもふもふのために。




