48-4 戦の準備
「というわけで、また戦争になる可能性がある。
だから婚約式は派手にやろう。
敵も味方も全て呼んでな」
俺はケモミミ園で二回目の会議を開き、そう宣言した。
「わあ、園長先生婚約おめでとうございます~」
葵ちゃん……。
「まあなんにせよ、またきな臭くなるんだよね」
あれこれと事情がよくわかっているアルスは、これ以上ないほどの顰めっ面だ。
後で判明したのだが、彼にはそうするだけの理由があったのだ。
「園のセキュリティについてですが……」
エドは、きっちりと現実を見ている。
俺のところにいて何も起こらない筈はないとでも言いたそうだ。
心構えがあるのはいい事だ。
「ケモミミ学園の方は任せてちょうだい。
守り手となるゴーレムはみんな、私の係累みたいなものだから」
今や、うちのゴーレムは全部お前の劣化コピーみたいなものなんだからな。
全ゴーレムの御母さんみたいなもんだよね。
船橋の魂を受け継ぐ者達。
守りはお前らに任せた、守りは。
「エリーン達も一旦こちらへ戻らせましょう。
代わりにエルミアの教会へは三名職員を派遣します。
その不足分は冒険者でカバーします。
ギルマスにも応援を要請しておきますので」
ケモミミ園の方は、概ねエドに任せておこう。
ジョリーにもセキュリティの強化は依頼しておいた。
この魔王城は神聖エリオンの居城でもある。
いざとなれば世界中の精霊が押し寄せてくる。
その点において、それほどの心配はない。
婚約準備、それは一世一代の戦の支度だ。
槍を磨け、刀を研ぐがいい。
銃は分解整備……をしなくてもいい魔法銃だった。
ただ、魔法を封じられる可能性も考慮した。
ゴーレム兵には、俺が再現した近代兵器で訓練をさせた。
コツコツと作っていた戦車、攻撃ヘリ、自走装甲機動要塞などだ。
万が一に備え、魔導に頼らず機械式にエンジンや油圧機器や火薬式の砲などを搭載した奴だ。
強力な魔力バッテリーとそれを利用した、レールガンやレーザーなんかも開発しておいた。
かなり魔法でインチキをしているが。
そうでないと、いくらなんでもそんな近代兵器群を作れないわな。
それすらも魔法が封じられれば使用不能になるだろう。
今までも魔法が通用しない展開が幾度あった事やら。
衛星パイロット達には招集礼状を回し、ベスマギル・バッテリーごと衛星の中にぶちこんで、いつでも衛星軌道に打ち上げられるよう体勢を整えた。
「神の杖」も使用可能だ。
ゴーレムが採掘してきたタングステンのロッドはコピーして大量に用意したぜ。
俺の強化をかけてあるから、そのままでも大気圏突入には余裕で耐えるだろう。
そっちは魔法金属を使用してもいいが、さすがに勿体ないし、敵にそのような良い物をくれてやる謂れはない。
魔法を封じられれば使用可かどうかわからないのだが、オリハルコンやベスマギルのエネルギー還元兵器も各種用意した。
精霊衛星には地上から魔力糸を伸ばしておけば、そこから厖大な魔力を供給できる。
いわば戦闘用の宇宙凧だ。
そこから精霊パイロットが大型の精霊魔法をぶちこめば、敵魔法使いが呪われて魔法が使えなくなる。
大型の攻撃用精霊砲も搭載した。
今回はバランの時みたいに、こそこそする必要はないので大型の精霊砲を使える。
敵はこちらの魔法を封じ、強大な兵器を使用してくるとの前提で軍備を整えていく。
毒ガス・細菌などのバイオや化学兵器・魔物を使った攻撃にも対抗できるように、様々な対応を準備した。
地下シェルターの用意も行なった。
段々と俺がシェルターマニアのアメリカ人みたいになっていく。
「さすがに呆れちゃうけど、そこまでやっておいた方がいいのは認めるわ。
人間って碌な事を思いつかないものよ」
俺の方を見て言うなよ、真理。
初めて魔法に頼らない航空機を開発した。
魔力には頼っているのだが。
さすがに、そこまでハイテクにはやれなかったのだ。
航法を、風魔法だの魔力推進だの重力魔法に頼らないだけという、ただそれだけだ。
掲示板の連中の助けも借りて色々と作った。
エセではあるが、垂直離着陸式の超音速戦闘機っぽいものとかヘリとか。
本物に近い推進方式を得た兵器にしたのだ。
ジェット噴射で飛んだり、ローターを回転させたり。
細かい制御は魔核の性能と、精霊の助けを借りたりしてインチキをしている。
アイテムボックスまでも使用不能になった事さえ想定しての軍備だ。
移動式の格納出来る弾薬庫も整備した。
ゴーレムの移動式営舎も建設する。
空中給油機も用意した。
携帯空軍基地も。
燃料を燃焼して飛ぶミサイルも用意した。
地球のような精密な誘導は魔法が封じられれば使えないが。
精霊による誘導兵器も開発した。
久々の敵に精霊共も燃えている。
精霊魔王軍の力を見せてやろうぞ。
イメージ作成のスキルは恐るべき性能を発揮して、元の世界でさえ作り得ないような兵器を作り上げていった。
素材は有り得ない贅沢さを実現できるしな。
俺は兵器製作の鬼と化した。
エミリオ殿下には、きちんと姉達を守るように言っておいた。
何、ゲートで姉達を連れてくるだけの話なのだが。
精霊の森にも受け入れ準備を要請しておいた。
ルーバ爺さんは、武の残した「折春紺一文字」の銘の入ったオリハルコン剣を携えて武者震いだ。
任せたよ、そっちは。
そして俺はといえば、「共和国」とやらへの宣戦布告文に頭を悩ませていた。
顔見知りじゃないので「やあ」とか言えないし。
「拝啓」というのも何かこう硬いしな。
「トラトラトラ」も違う。
あれは奇襲成功の報告だ。
俺は書いては丸めて捨ててを繰り返していた。
そして数日後、文才のない俺が上手い宣戦布告の文章を思いつかなくて、うんうんと唸っていた時の事だ。
「園長先生。
王宮から御迎えですよ」
職員さんが声をかけてきた。
「おお、そうですか。
じゃ行ってきます」
いよいよ召集かあ~。
十六国連合め。
地球産兵器の威力を見せてくれるわ。
俺は突き進んでいた。
砂塵を巻き上げる戦車軍団と共に。
現代の最新鋭戦車には無い、無骨さ丸出しの代物だ。
だが、旧型大排気量のディーゼルエンジンを響かせて、オリハルコン製のキャタピラを回していた。
砲塔には、戦車砲ではなく203ミリ榴弾砲を備えている。
だが自走砲ではない。
戦車は魔法金属製のボディだから、大型砲の強大な反動にも耐えうるのだ。
地上から発射する大砲だって制動装置で反動を和らげているんだからな。
普通の戦車にこんな物を据え付けたら、ぶっぱなした途端に砲撃を食らったかのように砲塔が吹き飛んで、たぶん車体も引っくり返るわ。
一トンフォークで、二トンくらいある金型を持ち上げようとするとケツが上がってしまって酷い事になるのと同じようなものだ。
完全な戦車スタイルで分厚い装甲と大型の砲塔を持つ。
普通の戦車と比べると、月の輪とヒグマみたいな差がありそうだ。
少々の魔法地雷(そんな物があればの話だが)の攻撃があったとて、強化されたオリハルコン製のボディは平然と耐えるだろう。
普通の戦車に比べれば全高が高くなってしまうが、戦車同士で撃ち合うのではなく、また対戦車ミサイルを警戒している訳でもない。
戦車のない世界に対戦車ミサイルはないし。
ここでは極端に戦車の背を低くする必要はないのだ。
一応、魔法で動く無敵な戦車を前面に出すが、魔法を封じられても動ける兵器を今回は大量に用意した。
以前から「男のロマン」という事で色々作っておいたのが功を奏した。
これらを強化しまくったので、久しぶりにHPレベルアップを果たした。
それは実に三千二百万HPに達した。
この世界で俺しか持っていない、HPという概念的な数字。
だが強力なステータスなのは確かだ。
待っていろよ、クソども~。
「タマとっちゃるわ~」
俺は戦車のハッチから上半身を出して、雄叫びを上げながら王都へと進軍した。
魔王の紋章である爆炎の紋章が描かれた旗を、砲塔に立てたポールにはためかせて。
そういう気分なので砂塵は魔法で消さず、そのままにしておいた。
まるで傭兵戦車兵(俺の心象的なイメージ)のように、鼻から下には西部劇の強盗のように真っ赤な布を巻いている。
そして予想通りに門番と揉めた。
「グランバースト公爵、その軍勢は一体なんですか!
そんな物に王都の門を通せるわけがないでしょう」
結局王都の中へ入れてもらえなかった。
仕方がないので、全部収納に仕舞ってから転移魔法で中へ入った。
「陛下~」
俺は、迷彩服にヘルメット・ブーツ、肩に火薬式自動小銃といった地球式スタイルで国王執務室へ乗り込んだら誰もいなかった。
「陛下なら、御自分の御部屋でお待ちですよ」
いつもの陛下の侍女さんが声をかけてくれた。
彼女も俺の奇行には、もう完全に慣れっこっていう感じだ。
「陛下~」
俺は再びバンっと扉を開けた。
「おお、来たか」
陛下はにこにこして俺を迎えてくれる。
「まあまあ、なんですかアルさん。
その格好は。
アネット!
着替えさせてあげてちょうだい」
俺は何故か王妃様の侍女さんに着替えさせられてしまって、なんだかタキシード姿みたいにされてしまった。
おーい、俺の迷彩服を持っていくなよ。
銃だけは危ないから急いで回収しておいたけど。
「さあ、さあ。
こちらへ」
俺は王妃様に、ぐいぐいと押されて連れていかれた。
全く冒険者っていう人種は強引だな。
日本人の俺にはついていけないぞ。
促されるように扉を開けたら、そこは何故か舞踏会場だった。




