48-3 縁談会議
「というわけで、俺に王女との縁談話がきてしまった。
どうやって断ろうか」
という命題で会議を始めてしまった。
出席者は、エド・エリ・真理・アルス・山本さん・葵ちゃんだ。
「えー、御嫁さんに貰えばいいじゃないですか。
御姫様ですよ~」
他人事だと思って葵ちゃんが気楽にのたもうた。
「気楽に言うなよ。
この歳で今更なあ」
「見かけは若いんだからいいじゃないの。
それを言ったら私なんて」
などと真理が笑って言う。
いや、お前は別に嫁に行く必要とかないよな?
「セキュリティ関係の観点から言えば、特に問題はないですが」
相変わらずエドは冷静に述べた。
軽く脳内でシミュレーションしただけで、そう判断したようだ。
いや、そういう問題じゃないんだがな。
「魔王様が御姫様を攫ってくるわけだね~」
アルスはくすくすと笑いながらそう言った。
くそう。
いっそSランクのこいつを代役に……いや、やっぱり無理だな。
「シルがアル御兄ちゃんの御嫁さんになるのかあ。
あたしは応援しているからね。
ウエディングケーキは、どんなのがいいの?」
いやエリ、今日の議題はそれじゃないからな?
「まあ、いいんじゃないですか。
可愛い子ですしね。
ここにも馴染んでいるんだし。
あ、結婚式の御料理はどうしましょうか」
あんたもか、山本さん。
結局いい回避案が出ないので会議はすぐ解散した。
さて、どうしたものやら。
ふと足元を見ると、レミがちょっと不安そうな顔で見上げていた。
「どうしたい?」
俺は彼女を抱き上げて顔を寄せた。
レミはそのままキュっと抱きついてきて、切実そうにこう言った。
「おいちゃんは、おひめさまとけっこんするの?」
聞いていたのか。
「さあ、わかんないな。
そういう御話が出ているだけだ」
「けっこんしたら、ここからでていっちゃうの?」
俺は思わずチビを抱き締めた。
出てなんか行くもんかよ、こんな可愛いチビを置いて。
「行かないよ。
ずっと、ここにいる」
「ほんと?」
「ああ、本当だ。
約束するよ。
ほら、指切りげんまん。
嘘吐いたらオリハルコン剣千本飲ーます」
レミはキュッと俺の襟を掴んで引っ張った。
そして顔に可愛いミミをぐりぐりしてくる。
うっすらと曇っていた心がちょっとだけ温かくなった。
初めて会った頃は俺の手をパシっと跳ね除けて、思いっきり睨んでいたっけな。
あれには思いっきり凹んだよなあ。
この幸せは絶対に置いていく事なんて出来ない。
あれだな。
この場合の結婚というのは、小さい子供達を連れての再婚みたいなもんだ。
今まで通りがいい。
変な波風は立てたくない。
俺はスマホを取り出し、ミハエルを呼び出した。
「おい、この結婚話は無しだ。
俺にはたくさんの子供達がいる。
こんな話があると、みんなが不安がる。
だから無しにする」
そのまま電話を切った。
これでいい。
だが次の瞬間、鬼のような顔をしたミハエルが転移してきた。
「この野郎、ちょっと表に出ろ」
俺は驚いた。
このシスコンの貴公子が、いきなりこんなに怒って怒鳴り込んでくるとは。
一体どうなっている?
「おい、どういう事だ。
大体妹の結婚話なのに、シスコンのお前がそんなに大人しいのが解せなかった。
詳しく説明してもらおうか」
俺が問い詰めると、奴は苦しそうに言葉を漏らした。
「頼むから妹を、シルを貰ってやってくれないか。
でないと、あいつは意に染まぬ縁談を強いられる事になる」
ほお。
この魔王様のテリトリーで、そんな事があるのだと?
「おい、御兄様。
そこんとこ、詳しくきりきりと吐けや。
え? 国家諜報責任者様よ」
そして奴が齎した内容には恐るべきものがあった。
先の帝国戦において、圧倒的な闘いがあった。
大陸のバランスが、ある意味で崩れたと言ってもいい。
そこで問題も起きてくるらしい。
その問題の主な原因は、ロス大陸西方の暴れん坊ゲルス共和国にある。
かの戦いに絡まなかったロス大陸国家三か国のうち、帝国の他に大陸の問題児と言われている国だ。
サイラスからもザイードからも国一つ距離をおいており、特に問題はないかと思われたのだが、そいつが帝国の「跡地」で暴れだした。
共和国を名乗ってはいるが、その実は王族をクーデターで倒した独裁国家だ。
だから、この大陸の国家はゲルス共和国に対して非常に憂慮している。
すっかり牙を抜かれた帝国とは異なり、この二十数年ほど前に出来た新興国家は、あろう事か隣のメルス大陸の大国家連合と手を組んだ。
十三か国からなる大連合だ。
それはメルス大陸の三分の二を占める面積となる。
あの大陸において、単一国家で一番でかいのはケモミミハイムだそうだけれど。
メルス大陸の玄関であるパルシア国、そしてその向こうに広大に広がるケモミミハイムがある。
それらは北方に位置する大国だ。
そして、ケモミミハイムの南に広がる十三の国家郡。
そしてロス大陸に残った、今回のアルバトロスを中心とした同盟に参加出来なかった三か国。
それが手を組んだ。
もし戦うなら十六か国対最大でも六か国の戦争となる。
その間に挟まったメルス大陸の二つの国家、パルシアとケモミミハイム。
二つの大陸における全ての国家を巻き込んで戦陣の大嵐が吹き荒れるのだ。
味方中、血縁あるいは婚姻関係が四、舎弟一に友達一か。
情勢を見て中立を保つ国もあるだろう。
パルシアとケモミミハイムがこちらについても最大で十六対八だ。
そしてケモミミハイムが狙われている。
『ケモミミが』
そこが落ちれば、通商に力を置いており、あまり軍事力は重要視してこなかったパルシア王国も間違いなく落ちる。
そして次は。
おそらく海を渡る算段もつけての狼藉だろう。
別にどの国も海を渡る能力が無いわけではない。
あまりにも被害が大きいので敬遠してきただけだ。
損耗覚悟なら大軍で押し通せばいい。
クラーケンでも出たのなら、いくらかの生贄でもくれてやればいいのだ。
そういう事かよ、陛下。
そして、あのタヌキミミ大使。
やっぱりタヌキだったのか~。
性質のよくない方の。
それはミハエルも国王陛下も卒園式にやってくるはずだわ。
あろう事か、ゲルス共和国の国家元首がシルベスター王女を要求しているという。
つまり、朝貢という事か。
姫を差し出して俺を大陸の盟主と認めろと。
二つの大陸全土を巻き込んだ大陸戦争を避け穏便に済ませるために、大国アルバトロスがシルベスター王女を差し出す案まで関係国の間では検討されていた。
そら、あの一家が動くわな。
というか、それではエミリオ殿下の二の舞じゃないか。
そういう事は帝国との間で、当時のメリーヌ王女殿下にもあったらしいし。
絶対に許さん。
ああ、そういう事か。
またしても、この俺に喧嘩を売ってきている奴がいるっていう事ね。
だが、それにはミハエルも渋い顔だ。
「だが、お前が暴れれば世界は……お前は本物の魔王を目指すのか?」
それを聞いて俺は大笑いした。
奴は怪訝そうな顔をしていたが、俺は手を振って消えた。
俺はとりあえず、王宮へ飛んだ。
「陛下、この度の婚約、謹んで御受けいたします」
いきなり転移魔法で現れて、そう言い放つ俺に陛下は目を瞠ったが、王妃様は笑っていた。
対応した息子のミハエルを信じているのだろう。
シルベスター王女は若干驚いたようだが、その美少女の面を朱に染めた。
あー、何か勘違いをしているな。
これは後でちゃんと説明せんとな。
じゃあ、とりあえずやる事は一つだな。
婚約式は派手にやろう。
そしてケモミミ園は俺が守る。




