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48-2 魔王の嫁取り

 国王の自室にて、たっぷりと沈黙が猛威を振るった。


 ええー???

 何を考えているのかな、この人達は。

 おっさん、もう五十四歳なんですが。

 目の前の女の子は!


「何、難しく考える事はない。

 単に慣習的なものだ。

 忘れたか、アルよ。

 ギルマス・アーモンから聞いておるであろう。

 SSSランクになった冒険者は公爵扱いとし、王家から婚姻を求められる事があると」


 ああっ!

 そんな話も聞いたような記憶が……あったような、なかったような。


「いや、しかし。

 この組み合わせはさすがにキツイのでは?」


「何、七十歳の国王に六歳の姫が嫁ぐ事もある世界だ。

 たいした事はない。

 たかが四十歳差ではないか。

 歳の差なんてのう」


「そうそうアルさん、歳の差なんて気にする事はないわ。

 あなただって、エルミアの神父様達の事を御祝いしてあげたじゃないの」


 まさか、それを言いたいがために、国王夫妻から王子王女なんかまでが、この前神父様の結婚式に出席したのだと?

 そういや、あの頃から王家の連中は何か様子が変だったな。

 やれやれ。


「じゃあ、一つだけ訊いておきましょうか。

 おたくの御姫様が幼稚園へ御嫁に来てしまう件について、如何お考えなものか」


 そう。

 うちは公爵とはいっても基本的に幼稚園なのだ。

 よく園長先生の奥さんが務めている副園長先生は間に合っているしな。


「それは構わないが、もう少し体裁を整えてくれるとありがたい」

「体裁?」


 というか、王女様が幼稚園へ嫁に行くのは構わないのだと?

 普通それはないと思うんだが。


「まあ、家の外観とかの話になるだろう。

 さすがに、あの幼稚園ではな」


 そんな事を言われても、うちは幼稚園なんだしな。

 というか、嫁……。


「えーと、園長先生は……私の事はお嫌いですか?」


 若干顔を赤らめながら、シルベスター殿下が遠慮がちに聞いてきた。

 ああ、わかるわかる。

 なんていうか、もう今更感が半端なくて。

 照れちゃうよな。

 その歳で、いきなり近所の顔見知りのおじさんというか、爺さんと縁談話が持ち上がったら。


 この現代医療の無いような世界の人だと、この歳ってもう寿命が尽き出す頃なんじゃないか?

 日本だって昔は人生五十年と言われたものだが。


「それより、君の方が、そのなんだ。

 あれなんだが」


 もう、あれという他に言い様がない。

 これで魔王を倒した勇者の若者ならばいざしらず。

 あ、魔王って俺の事だったわ。


 勇者様(魔王)は御姫様を御嫁さんに貰って、幼稚園で末永く子供達のうんこの世話をいたしました、ってか。

 それは物語的にどうなんだろう。


「さすがに無理があるんじゃないですか?」


 とりあえず、率直な意見を述べてみた。


「ふむ。

 それでは、お前はこの先も一人で過ごすつもりなのか?」


「あー、子供ならいっぱいおりますが」


 地球にいる時に、ずうっと思っていたことがある。

『口煩い嫁さんは要らないけど、可愛い子供は欲しかったよな』と。


 結婚はするべきだった。

 地球にいる時は、確かに歳を食ってからそれを半ば悔いてはいたが、まあ今はね。


 だが陛下は、笑ってこうおっしゃった。


「まあ、よく考えておいてくれ。

 我々としても、お前をこの国から手放すという選択が考えづらくてな。

 何せ、お前を結婚という手段で引き入れたいという国は多いだろう。

 そういう懸念もある。


 あと、このシルの嫁入り先がな。

 今は帝国も大人しくなった。

 へたな縁談を組むと、また色々とな」


 あー、今度は平和ゆえの悩み?


「それで、国内で婿を探すとなるとな。

 本来であるならば、バイトン公爵家のキルミスが生きておれば、あるいは……」


 うわ、シルベスター王女のあの嫌そうな顔。


「あなた……」


「わかっておる。

 わかっておるよ。

 ああ、抓らないでおくれ、わしの可愛いロッテよ」


 その歳で、堂々と目の前でラブラブされると辟易するな。

 まあ、王妃様の見た目が若いのでまだいいのだけれど。


 あ、ブーメランが帰ってきた。

 俺って実は王様と同じ歳。

 王様と違って全然貫禄なんて無いけどね。


「その加減で、あちこちの国内貴族からオファーがあってな。

 まあ、そのなんと言うか、はっきり言ってしまえば碌な奴がいない」


 さすがに陛下も言いづらそうだ。

 そりゃあそうだろう。

 一応、みんな自分の配下なんだからな。


「いい人はね、みんな売れちゃっているのよ、アルさん」


 ああ、なんて身も蓋も無い。

 まあ普通は貴族なんて子供の頃から許嫁がいるよな。

 まあ強いて言うなら、まだあいつがいるんだが。


「陛下、『奴』は候補に上がらなかったのですか?」


 奴とは、もちろん俺の舎弟になった、あの独身国家元首の事だ。


「うむ。

 それもな、なんというか国内で反対意見が多くて。

 帝国の皇帝はさすがにな。

 あそことは長年に渡り、あまりにも色々とあり過ぎた。

 本来ならば、今ならそれもあってよい話なのじゃが。


 それに姫自身も帝国行きは嫌がっておる。

 帝国は自分の姉や弟を無理やり攫おうとし、下手をすれば自分にもその御鉢が回ってきたのかもしれん状況だったのだからのう。

 嫁に言ってから皇帝が代替わりして、またうちの国と仲が悪くなったなんていったら困るだろうし。


 色々と検討した結果、お前が候補に挙がってなあ。

 王女の相手として、身分的な物も不足はないわけだし。

 まあ、歳はその……あー、まあのう」


 さすがに同じ歳の息子が出来るのは厳しい。

 可愛い娘を嫁にやるのに、かなり複雑だよなあ。


 それにしてもドランめ、嫌がられているな。

 まあ、帝国とは俺が来てからでさえ本当に色々とあったからなあ。

 あいつ本人は結構真面な奴なんだが。

 そうでなかったら、この俺が付き合ってはいない。


 あれか。

 わかりやすく言えば、あの無くなってしまったバイトン公爵家の代わりを務めてくれという事か。

 うーん。

 陛下からの大概の御願いは聞いてあげてもいいのだけれど、さすがにこれは厳しい。


「ちょっと、御返事は保留という事で宜しいでしょうか」


 ここでスパっと断っても角が立ちそうだし、この場で「はい」とも言いがたい。

 返事はこれしかないわな。


「おお、そうか。

 当座、婚約という事でもよいので考えておいておくれ」


 婚約して破棄したら、小説が一本書けるだろうか。

 これって、やっぱり異世界転移のタグとかは付くのかな。

 いや、公爵令嬢物じゃないんだから無理だな。

 この俺自身が公爵なんだった。


 やれやれ。

 よく、あのシスコン王子が文句を言わなかったな。


 俺は王女と顔を見合わせたが、なんか向こうも困ったような顔をしている。

 だって、この子は御姉ちゃんと同じような大恋愛がしたかったんじゃなかったっけ?


 とりあえず、どうしようもないのでケモミミ園へ帰る事にした。


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