45-4 プロポーズ
「ナタリア、私はそのう……」
「神父様」
そこだ、行け!
チュウだ!
そしてファルが悪戯っぽく言った。
「あたし知ってるよ~。
そこで、『愛しているよ』って言ってチュウするんだよね~」
俺は笑いを堪えながら見ていた。
こいつ、いつの間にそんな知識を。
情報元は葵ちゃんだな。
俺がチラっと見ると、横を向いて口笛を吹く葵ちゃんがいた。
「ほらほら、神の御使いたる神聖エリオン様の思し召しだよ~」
すかさず二人をけしかける魔王。
そして神父様は照れながらも男らしく告白の台詞を口にする。
「ナタリア、愛している」
「神父様、あたしも愛しています」
二人は熱く抱き合った。
俺自身は口笛を吹くのを自粛して、子供達に向かって両手で大袈裟にアピールしておいた。
そして二人は盛大に子供達から冷やかされた。
その中には楽しそうなおチビ猫も混じっている。
意味は全く理解できていないようだったが。
俺は次にプログラムを進めるべく、一人所在無げにしていた御父さんを拉致してきた。
やっぱり初転移魔法に目を回し加減だった御父さんを差し出して、その後ろから特殊部隊のハンドサインのように手でアピールして神父様を促す。
諦めて突撃の覚悟を決めた表情で神父様は言った。
「御父さん、娘さんとの結婚を許してください。
必ず幸せにしてみせますから」
「……わかった。
こうなったのなら、もうしょうがない。
娘の事は頼んだよ」
彼も、俺が絡んだ以上は抵抗しても無駄だと諦めたものらしい。
実に懸命な判断だ。
まあ、その見返りは十二分以上に差し出す予定なのだが。
それはこの商人の矜持に溢れる親父さんを通すので、同時に俺が御世話になったエルミアの街への恩恵ともなるだろう。
「御父さん、ありがとう」
ナタリア嬢も嬉しそうだ。
「じゃあ、後は葵ちゃんの出番ね」
眼鏡っ子葵ちゃんは既にスーツ姿で出待ちしていた。
「どうも、アオイ・ブライダルコンサルティングのチーフ・コンサルタント萩原葵です。
娘さんを三国一の花嫁にとの御希望でございましたので、こんなプランはいかがでしょう。
当コンサルティングは実績として、オルストン伯爵家の宮殿結婚式や、ハイド国王夫妻の王国結婚式などがございまして……」
そう言われながら庭にある古びたテーブルの椅子を勧め、資料ファイルを広げる葵ちゃんの説明に目を白黒するお父さん。
俺は遅滞なく次の行動へと移った。
王宮へ転移してミハエルを捕まえたのだ。
「よお~。
王宮で結婚式をやりたいんだが、使用許可をちょうだい」
いきなり無茶を言ってやったぜ。
辺境住みの平民の結婚式のために王宮を差し出せと。
だが葵ちゃんからは、このように言われていたのだ。
「やるのなら『王宮で』ですよね」と。
まあ『三国一の花嫁』のための御式なんだから当然だよな。
その御相手は元アルバ大司祭候補だった方なんだからギリセーフという事で!
なんといっても俺自身が、その現大司祭なのだし。
そして、なんと疾風の王子様は淡々と返してきた。
「そうか。
わかった」
あれえ?
交渉はもっと難航すると思っていたから、逆にそれを楽しみにしていたくらいなのだが。
「いいのか? どこの誰かとか聞かなくても」
「どうせ、お前の事だ。
例の神父と、その御相手かなんかじゃないのか?
どっちも平民だろう。
だから貴族の参列はないぞ。
まあ、その代わりといっちゃなんだが、うちの親と妹達が出るそうだ。
ああ、あとエミリオもな」
え、ええ~~っ。
な、なぜえ?
というか、それ以前にどうしてそこまで手回しがいい?
何か変だ。
明らかにおかし過ぎるだろう。
情報自体は俺絡みなので、こいつが調査しているのは当然だとしても。
ま、まあいいか。
俺としては都合がいいんだから細かい事はどうでもいい。
ついでなので、もう日取りは決めてきた。
その前にエリに電話して予約を取っておいた。
「オッケー。
そうか、あのエルミアの神父様が結婚か~。
いつ何があってもいいように、新作のウエディングケーキは既に用意して収納に仕舞ってあるのよ~」
さすがは世界に名だたる大師だな。
手回しの良さは相変わらずだ。
そして俺にもよく訳がわからないのだが、とにかく話はどんどん勝手に進んでいった。
その次は、アントニオの結婚式やハイド国王結婚式のドレスを作ってくれた店の御針子達を急遽攫ってきた。
彼らもたくさんの立派な弟子を育てており、今やっている通常の仕事は彼らに任せるとの事だ。
弟子一同大感激で、整列して師を見送った。
ついでにケモミミ園の裁縫グループをピックアップして、ゲートの魔法で教会へぞろぞろと御邪魔した。
他の関係ない奴らまでついてきてしまったが。
そして式について御父さんに説明した。
「こ、こ、こ、こ」
おや。
御父さんはニワトリに転職したのかな。
「国王陛下がうちの娘の結婚式に~?」
「うん、結婚式は王宮でやるから、陛下にも移動の御手間はかけさせないで済むと思うが。
なお王宮の料理人を使う許可を頂いたから、陛下が晩餐会の無い日にせよとの仰せなので、式は三日後に決定だ」
俺の一方的な通告に、御父さんは更にショックを受けたようだ。
ナタリア嬢はやはり目を白黒していたのだが、神父様は実に落ち着いたものだった。
「まあ、アルさんのやる事だから」という感じに、心の在り方を片付けているようだ。
事態はもう、彼がどうするとかいう段階ではなくなっているのだから。
「アルさん、御支度の方はそちらで御願いいたしますね」
彼は俺にそれだけをポツリと言った。
花嫁花婿に御父さん御母さんと、関係者の衣装はプロの手によって、シャキシャキと進められていった。
そして、その他の出席者、つまり孤児院の子供達やボランティアのおばさん達の衣装は、大胆にも全てうちの子達の手に委ねられた。
その辺の衣装は、もし失敗しても代用という事で既製品にて誤魔化せるからな。
はっきり言えば、うちの裁縫グループの子達のための練習台以外の何物でもない。
裁縫関係は人気があって、うちの裁縫グループは総勢二十人もの大所帯になっていた。
カミラがババババっとラフスケッチを描き散らし、他のデザイナー志望の子がそれを清書していく。
出来た端から、今度は手の空いた子から型紙へと変換していく。
この辺の作業は場数だ。
子供達は、俺が生み出したミシンや様々な二十一世紀のデザイン・裁縫技術をもって、日々作業に臨んでいた。
日本の服飾デザイナーやパターンメイカーの卵達により、そのあたりの高度な内容もネット授業を受けており、子供達の技術の向上は目覚しい。
日本の学生達も、何も知らない異世界の子供達を指導するために今までの三倍以上の猛勉強をしたので、本人達も格段の技術の向上があったらしい。
ケモミミ園の子供達の着る服は自給自足、いやそれどころかネットを通じて日本からの情報が入ってくるため、この世界では最先端といっても過言ではなかった。
フードコートの野外劇場でも、自作衣装によるファッションショーを何度も成功させており、貴族達からも好評を得ている。
オペラ仕立てのファッションショーなどにもトライして、芸能方面に向かう子供達もモデルとして参戦しているのだ。
田舎の町の住人達のファションが、着々と結婚式仕様にチューンナップされていった。
次々と魔法のように、華麗に服の群れが生み出されていく。
そして今回は、食事には「和洋折衷」にトライしてみようと思った。
日本だと結婚式でありがちなメニューだ。
今回は当事者が只の辺境の住人に過ぎないからな。
国王結婚式のようにやってしまうのは却って憚られる。
料理関係は和食を含むため、山本さんを主軸に据えての取り組みだ。
王宮料理人と俺達は非常に懇意にしているので、いきなりこういう仕事を振っても笑顔で対応してもらえる。
その分、エリはスイーツに手をかけるのだ。
今回の出席者には子供が多いので、そこは抜かりがない。
どさくさに紛れて、うちの子達も全部出席者に入れておいたのだが、今更文句は言われなかった。
その件についても、ミハエルはポンっと書類にサインをくれた。
やけに奴のサービスがいいのがマジで気になるが、俺にとっては都合がいいので放っておいた。
エルミアの教会関係者がばたばたしているので、孤児院の応援にエリーンとデニスを呼んである。
この二人には、神父様達が新婚旅行へ行っている間は教会の方を任せておくつもりだ。
元々、神父様が御一人でやられているようなもんだしな。
回復魔法の治療は、俺が通う予定だ。
そっちは助手がダニエルだな。
彼にも仕事を半ば任せる形にして、大いに発奮させよう。
将来は彼にここの回復士部門を任せてもいいし、辺境なのだから周辺各地を巡回させてみるのも面白い。
そうするなら、少し腕っぷしの方も鍛えた方がいいかもしれない。
冒険者資格を取らせてギルドで鍛えさせてもいいのだが、まだ十二歳になる前なのだし、とりあえずは俺の腕輪を与え、そっちの方は魔法でやらせるか。
この子の心根なら、まず悪い事には使うまい。
回復魔法の腕は良さそうだから、上級の回復魔法を自前で使えるように教えてもいいし。
腕輪搭載の魔力コンバーターや魔法金属製の魔力バッテリーがあれば、魔力にも事欠かない。
エリーンなどは女将さんから譲ってもらった割烹着を着込んで、お玉を旗印のように振りかざしている。
「みんな、ごっはんよー。食堂に集合~」
その格好も案外と似合っていて意外だ。
本当に小器用な奴で羨ましくなる。




