45-2 任務は茶飲み話
とりあえず、御相手のナタリアちゃんの顔を拝んでくる事にした。
彼女は今日も教会のボランティアに来てくれると、神殿の諜報員から電話があった。
行くのは葵ちゃんと真理、それにファルとレミがついてきた。
おチビ達は特に関係ない。
こやつらは単に遊びに行きたいだけだ。
御邪魔にならなけりゃいいんだが。
おまけにプリティドッグの群れもついてきた。
こいつらも結構物見高い。
いや、こいつらこそか。
そういう生き物らしいし。
「やあ、こんにちは神父様。
ちょっと御暇なので、少し御手伝いに来ました」
「きた~」
「来たよ~」
うん、お前らは「御邪魔します」だよね。
「そうですか、それはありがたい。
あ、ダニエルを神殿で雇っていただいたそうで、ありがとうございます」
「いえいえ、今までこんなに人手不足だったのが、どうかしているので」
何せ習うのに金貨二十枚が必要な回復魔法持ちなのだ。
しかも使える魔法の種類も多いときたもんだ。
雇っておいて損はない。
そういえば、あの俺が払った金貨の九割以上を神殿本部が徴収していた。
くそったれどもが。
おかしいと思っていたのだ。
あれだけ収入が入って、あんなに貧乏なわけがない。
あの辺境で金貨二十枚をポイっと出せる奴なんて、そうそういないだろう。
日本円にして二千万円相当だぞ。
滅多にないような臨時収入だったはずなのに、それを殆ど神殿本部に持っていかれてしまって、残りのせいぜい百万円分くらいはあっという間に無くなった事だろう。
子供があれだけいるんだからな。
このエルミアには、神父に対して嫌がらせをするかのように予算配分が0になっていた。
今まで必用な物も満足に購入出来ていなかっただろうから、金貨一枚なんて足しにもなるまい。
子供服なんかも街の人間から寄付されたものだろう。
そういや、俺もよく物品を寄付してるな。
その辺は徹底的に調べ上げて、やらかしていた奴らにはファルから追加で破門状を発行させた。
長年の未払い分予算は全て払わせておいたし、無謀な徴収金も新たに取り決めた割合以外はエルミアへ戻させた。
とりあえず、回復魔法習得費用にかかる本部の徴収金額を二割にまで減らしておいたのだ。
これで各教会も回復魔法士の育成には意欲的になるのではないだろうか。
今までは頑張って回復魔法士を育てても成果は皆本部に取られてしまうので、回復魔法士を育てる意欲は少なかった。
これで国中で不足する回復魔法士の育成が進めばいいのだが。
これは神殿や教会でしかやれない事になっており、本部の爺どもが暴利を貪っていた。
できれば料金のディスカウントも考えたいのだが、地方の零細教会達の収入源を減らしたくはないのだ。
彼らは頑張っているので、その分は自動的に孤児などに還元される。
今まで孤児院に収容されず放置されていたような子供にも福音があるだろう。
孤児院では単に衣食住だけでなく、人手も要るのはケモミミ園をみれば火を見るよりも明らかだ。
この世界も人件費は馬鹿にならない。
葵ちゃん達は子供の御世話を始めた。
俺はいつものチビ達を、担いだり魔法で投げたりして遊んでいた。
これをやっているだけで神父様の負担が減る。
本日は子供の遊び相手としてプリティドッグ親子が大活躍だ。
ダニエルもこれから大きくなるから、こっちの面倒も負担してくれるだろう。
一方、うちのおチビコンビは、地元の子に混じって悪い事をしているようだ。
時折、副園長先生から耳をうりゃあっとされている。
せっかく教会に神の子たる神聖エリオン様がいらしてくれているのだが、全くありがたみが無いので、ボランティアの人達も誰も気にしていない。
ただ微笑ましく見守っているだけだ。
肝心のナタリア嬢はどこだろう。
気が付くと俺は本来の目的を忘れて、ただのボランティアになってしまっている。
おっと、神父様とお話中の可愛い女の子がいた。
チラっとダニエルに目線を走らせると、コクンと頷かれた。
俺は資料収集用の撮影のためにカメラポッドを出した。
あ、こらミニョン、カメラにじゃれないの。
盗撮がバレるだろ。
いや、パンツは写してないからね?
俺は犬体形のミニョンを抱えながら、ナタリア嬢に話しかけた。
「こんにちは。
ボランティアの方ですか?
私、今臨時でアルバの神殿本部を預かっています、アルフォンスといいます」
「あ、御噂の魔王様なんですね。
そのワンちゃん、可愛い~」
おや、俺の正体はバレていましたか。
俺はミニョンをナタリア嬢に渡し、もう一匹ワンコを呼んで神父様にも持たせた。
頼んだぞ、お前ら。
賢いミニョンは任務をすぐに飲み込んだ。
「この子達はプリティドッグ。
魔物だけど、無害な可愛い連中ですよ」
任せたぞ、ワンコども。
この並み外れて頭のいいワンコ二匹はすぐに事情を飲み込んで、頑張って可愛さをアピールし、少しぎこちなくて固い感じがしていた二人も直にいい雰囲気になった。
俺はそっとその場を離れ、次に情報の収集に走る。
ターゲットは当然、おばちゃんだ。
街のおばちゃんが二人ボランティアに来ていたので、さっそく話しかける。
「どうも、今日は教会の御手伝いですか?
御疲れ様です」
「いやあ、神父様はいつも頑張ってらっしゃるからねえ」
「ちょっと一服つけませんか?」
俺は御茶と御菓子を勧めながら、おばちゃん達と世間話を始めた。
「あの神父様は、本当にいい人でねえ。
いつも教会の御仕事を熱心にやられて、子供達の世話も頑張って。
たくさんお金を払えない貧しい人のために、僅かなお金で治療もしてくださる。
本当にありがたいことだよ。
聞けば、あんた。
あの神父様は王都の大神殿の方じゃ凄かったらしいじゃないか。
それなのに」
そう言って溜め息を吐く街のおばさん。
安心してくれ。
魔王と神聖エリオンのタッグによって悪は滅んだ。
「あんなにいい人なのに、とうとうこの歳まで独り身で」
お、この話題がきましたね。
「それなら、あそこにいらっしゃる女の子なんて御相手にどうです?
なかなかいい感じじゃありません?」
まず外堀から埋めていくとするか。
「ええ、ええ、そうなのよ。
いい感じでしょう?」
ちょっと目を三日月っぽい形に変えたおばさんが、にやにやしだした。
まあ、おばさんにかかったら、こんな話はいい御茶請けだよね。
田舎の街なんだしさ。
俺が異世界へ来た当初は、こんな田舎の街にさえ入れてもらえなかったのだが。
「もう、それなんだけどね。
本人達は満更でもないと思っているんじゃないかっていう風に見えるんだが、あの子の御父さんがねえ」
ほう。
そいつはまあ、あれだよな。
歳の差もさる事ながら、どうせ娘をやるのなら、いい取引先の所へとかかな?
「それで、あちこちの商会への嫁入りや、果ては貴族の妾にとか考えているみたいでさ。
まあ無理もないけどねえ。
年の差のある貧乏神父様じゃ、親もいい顔はしないだろう。
だからこそ、逆に応援してやりたいってもんじゃないか」
情報収拾完了。
方向性は見えてきたな。
「辺境の小さな商会」の会頭さんか。




