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2-12 Bランク試験

 異世界二十四日目。


 今日は朝早く起きて体調を整えておいた。

 昨日は丸一日、目一杯休めたのでいい感じだ。


 これが一番大事な事さ。

 サラリーマンの心得十か条その一だぜ。

 俺はちゃんと栄養たっぷりに朝飯を食っていても、会社の違法な裏トップダウンのせいでドロップアウトしちゃったけど。


 装備は革鎧で、いつもは被らない革ヘルムも被る。

 盾は無しだ。

 はっきり言って邪魔だからな。


 基本的に試験本戦で白兵戦をやるつもりはないのだ。

 特にそいつをやれる能力もないのだし。


 なんたって今日の相手はゴブリンだのオークだのではない。

 手練れの冒険者達なのだから。

 人間相手に戦うとなると、またいろいろと勝手が違いそうだ。

 相手が冒険者の場合は、雑魚な盗賊なんぞとは訳が違う。


 ギルマスに聞いたところ、試験で収納を使ってもいいそうだから盾が欲しければいつでも出せる。

 要は実戦そのままで、持てる力は全て使っていいっていう事だ。



 冒険者ギルドへ行くと、会場となる広い修練場は凄い人数で一杯だった。

 ほおー、全員やる気が漲っているな。

 みんな御貴族様あたりを目指しているのか?


 やがて試験を開始する旨発表があった。


「只今よりBランク試験を開始する!」


「「「うおおおおおーー!」」」


 シンプルな開始のゴングに盛り上がる冒険者ども。

 こういうのが年中行事というか、毎月開催なんだからな。


 しかし現実は無情だ。

 国中から集まってきた元Bランクの教官の前にポイポイと脱落していっているようだ。

 CランクとBランクの間には相当な実力差があるらしい。

 なんか模擬剣でやるみたいだし。

 

 伊達にその境から上が高ランク冒険者と呼ばれている訳ではないようだな。

 なんたって世界のベスト200だった人達なんだものな。

 引退した今でも、磨きぬいた腕は未だ衰えずってか。

 こりゃあまた困ったもんだねえ。


 俺なんか、この猛者達の中で一人だけド素人もいいところだぜ。

 この試験の参加者連中は、その全員があのチームエドの連中と同格の冒険者なのだ。

 普通の貴族や大商人が雇うのはこのランクの冒険者だ。


 俺はボケっとしていたら、その組で最後になってしまった。

 気合を入れたBランクの冒険者は、面と向かい合うと凄い迫力だ。

 だが元Sランクのギルマスが持つ貫禄と凄みには遥かに及ばない。

 Aランク魔物であるキメラにもな。


 既に自分にはバフをかけまくってある。

 ファストを重ね掛けしておいたので、一瞬のうちに間合いを詰めて、鋭い音と共に教官の木剣を吹っ飛ばした。


 このあたりは剣道の経験が物を言った。

 今の俺は力だけなら十分にあるのだ。

 曲がりなりにも竹刀を毎日振った事のある、手を豆だらけにしていた経験は役に立った。


 腕前はまったく大したことなかったけどね。

 それでも開始直後に放つ、真正面からの不意討ちの打ち込みなら一本取れたからな。

 本日も得意の戦法が物を言った。


 しかし、そいつは俺が次に放ったガラ空きになったはずの正面への一撃を、なんと真剣白羽取りで受け止めやがった。


 とんでもねーな、元Bランクっていう奴らは。

 本物の剣ではないが、Cランク冒険者が振るう渾身の一撃を白羽取りしてみせるとは。

 そいつは真剣ならばⅭランク魔物はおろか、多人数でパーティを組んで攻めればBランク魔物にだって止めを差せる一撃なんだぜ。


 木剣といえども非常に丈夫に作ってあるものだ。

 剣道で使う『素振り専用の先へ行くほど太くなっている凶悪な超重量級木刀』を思い出すくらいの重量はある。


 あんな物の縦フルスイングを受け損なって真面に脳天に食らったら絶対に死ぬわ。

 普通なら避けるだろうが。

 相手が避ける事前提で放った、それなりの威力を込めた一撃だったので俺の方が少し慌ててしまった。

 避けて相手の態勢が崩れたところへ一撃入れてやろうと思っていたのに。


 ましてや、今の強化された俺が振るう怪力でそれを食らってはなあ。

 いくらそれが人間を相手にした、全力ではない手加減したものだとしても厳しいだろうよ。


 真剣白羽取りなんて昔の日本でだって奥義に近い代物だ。

 普通は受けられなくて脳天を割られて死ぬだけだ。

 あんな技は実際には存在しない、物語の中で創作された物に過ぎないと言う人さえいるくらいだ。


 まあ確かに、実際にやれと言われたら嫌な技の筆頭だよな。

 それで、その向き合った体勢のままで教官と見つめ合ったまま不遜に言い放った。


「なあ、予選で教官をうっかりと殺しちゃったら不合格なのかい?」


 だが教官もニヤリと笑って、同じく白羽取りしたまま不敵に言い返してくる。


「お前、教官を殺る気満々じゃねえか。

 普通なら教官を殺るどころか、そいつらみたいに無様に転がるのが関の山だから、そんな阿呆な規定なんぞないわ。

 だが面白え野郎だ。

 いいだろう、合格にしてやる」


 俺はそいつに手を差し伸べて引っ張り上げてやり、無事に本戦へと勝ち残った。

 力任せでよく通ったもんだ。

 これもギルマスやギルドの教官達による薫陶の賜物だな。



 試合場は二つ作られて、第一試合は各五試合ずつ行なわれる。

 俺の最初の相手は剣士だった。

 装備はバックラーと片手剣か。

 開始前にきっちりと自分へのバフを終了させて、開始直後に相手へのデバフを纏めて食らわせる。


 魔法を発動させて、それをアイテムボックスの中に取り込み、専用のファイルに突っ込んでおいてあるのだ。

 それをまとめて何個でも好きなだけ魔法を食らわす事が出来る外道技である。

 株のバスケット売買みたいな感じに外道な技だ。


 さすがに攻撃ポッドを出すのはちょっとマズイかなと思って。

 あれを使うと、うっかりと相手を殺しちゃいそうだ。

 自ら、己に失格を言い渡すのは馬鹿のやる事だからな。


 ファストとスロウがメインでバフ・デバフがかかる。

 ありえない速度で相手にデバフがかかるので、何がなんだかわからないうちに動けなくなった事だろう。

 これがゲームなら運営に通報されそうなくらいのチートだ。

 あっさりとバンが確定する事だろう。


 一瞬にして間合いを詰めて相手の剣を弾き飛ばし、喉元に剣を突きつける。

 はい終了。


 真っ当な方法でなんか攻めるもんか。

 なんたって、俺は只のド素人なんだからな。


 最初はなんで冒険者のランクを上げるのに対人戦闘なんかの試験をするんだとか思ったけど、まあ考えてみれば愚問だよな。

 この異世界で、俺が人間を相手にして最初にやった大立ち回りときた日には。


 村民の二十パーセントをあっという間に人的損耗し、村民の半数までもが負傷した。

 俺が反撃せずに更に被害が継続していれば、廃村一直線の運命だった。

 これが軍隊なら全滅判定の無条件降伏、あるいは生き残りの村人全員で村から逃げ出す完全撤退、冒険者の護衛任務なら完璧なまでの任務失敗だ。


 商隊を護衛する任務とかもあるのに魔法ばかりに頼っていたら、きっとアウトになるシーンが必ずあるだろう。


 そして次の試合、俺はシードになっていた。

 ギルマス推薦だからだろうか。

 一回勝てばそうなるところへ入れてくれていたものらしい。

 ありがたや、ありがたや。


 その次の試合は重戦士が相手だ。

 相手は金属鎧に身を固め、金属製の盾と大剣を持っている。

 問答無用で試合開始早々に、キメラを吹き飛ばせるくらいに魔力を込めた超強力なエアバレットで試合場から吹き飛ばした。


 重装戦士の見事なまでの吹き飛ばされっぷりだった。

 あの頑丈な、大震災の中でも潰れず街中にポツンと残ってしまうというガソリンスタンドの屋根を吹き飛ばすレベルのハリケーン・クラスかな。


 さっきの風で飛ばないほど踏ん張るほどの強者には、必殺の上級魔法・大竜巻トルネードを使ってやってもいのだが、あれを真面に使うとこの冒険者ギルドそのものが全滅してしまいそうだ。

 チマチマ使えばいいっちゃあいいんだが。

 きっと吹き上がった対戦相手が、洗濯機で回したみたいに空中でクルクルと踊ってくれる事だろう。


 だがエアバレットで吹き飛ばしただけで相手はもう起き上がれなかった。

 まあ、この程度なら重戦士が死にはせんだろう。


 素人の俺があんなゴツイ奴と白兵戦をやるなんて冗談じゃない。

 向こうは落ち着いた佇まいで、いかにも歴戦のCランクっぽい感じの奴だった。

 俺なんか、つい昨日までEランクだったんだからな。


 金属鎧にはサンダー系の魔法がよく効きそうなのだが、それを使うと相手が死んでしまいかねないからなあ。

 いちいち手加減せにゃあならんので、実以て面倒臭い。


 どうせなら対戦相手にBランク魔物でも連れてこいよ。

 あれをソロで倒せる奴なら無条件でBランクに上げたっていい。

 何しろ、それをやれるのがBランク冒険者っていう奴なんだからな。

 俺なら、その程度の相手は(上級魔法を放つ)指一本で倒してやろう。


 これは場外になるのでルール上相手は見事に失格した。

 優勝までの残りの試合は、あと二つだ。



 三つ目の試合の相手は魔法使いだった。

 なんかブツブツと呪文を唱えている。

 開始直後にぶっ放してくるつもりのようだ。


 これならば剣を交える訳じゃないから互いに遠慮はいるまい。

 こっちは剣も抜かずに指向性の魔力をぶつけてやる。

 攻撃じゃないから、これは失格にはならない。

 こんなものは魔法使い同士なら試合前のメンチ切りのようなもので問題にはならない。

 隣に居た奴とかギルド職員なんかにあれこれと訊いておいたのだ。


 だが相手がそれに気が付かない。

 鈍い奴だな。

 これには俺も苦笑した。

 よくそんな奴がこの本戦に出てこれたもんだな。


 まあ試験だから必勝を期して、気合を入れて精神を集中しているのかもしれないな。

 魔法使いにとってはそれも必要な素養なのであるが、ちゃんとしていないと実戦の場合は相手次第では命が幾つあったって足りやしないぜ。


 更に濃密な魔力をたっぷりと試合会場一杯に垂れ流してやる。

 魔法使い以外でも気付くほどの濃さで。


 そいつは、ようやく試合直前になってからそれに気付き、青くなって棄権した。

 あれで気が付かなかったら、最初に思いっきりディスペルをかましてから、自分の体表面にバリヤーを目一杯かけて全力で突っ込んでいって体当たりで吹き飛ばし、ぶん殴って場外へ叩き出すつもりだった。


 これで俺は見事に決勝へ進出だ。

 まあ、かなりインチキというか、強大な魔力や、やっぱりインチキな魔法頼みというか。

 外道技のオンパレードだった。

 この俺に『真っ直ぐ』とか『正々堂々』という言葉は絶対に似合わない。

 それでも決勝は決勝だ。



 だが決勝戦、こいつはまた、とてつもなく嫌な感じがした。

 相手の若い男はパッと見には剣士風なのだが、ただの色男の剣士じゃない。

 体格はガッチリしているものの、気品というかそういう物が漂っていて、少し優男風にも見える。


 だが『俺の中のあいつ』が、セブンスセンスが全力で警告に来ている感じだ。

 体の内底から湧き上がってくる耐えがたい、あの独特なセブンスセンスの衝動に震える。


『一切手加減抜きでいけ!』


 こんな感じで、頭の中を白抜鍵括弧の文字メッセージまで、PC画面上のメッセージリボンのように左から右へ流れていくのだ。


 通常は、これが出るのは物凄く珍しいのだ。

 はっきりと言葉で伝えてくるんだからな。

 よっぽどの事なのだ。


 体全体を揺さぶるような強い衝動と白抜鍵括弧文字メッセージが両方一緒に出るのは生まれて初めての体験だった。

 つまり、こいつは容易ならざる相手というわけだ。


 バフは徹底的にかけた。

 そして魔力を練りこんだエアバレットを準備する。

 これはさっき使った手だから本来ならば使いたくないのだが、やたらな魔法を使って相手を殺してしまってもな。

 今の俺の魔力では手加減しないとドラゴンすら殺しかねない。


 だがセブンスセンスはこう言っている感じがする。

 こういうニュアンスが伝わってくるのだ。


『いやいやいやいや。ここは全力で行くシーンだから』


 絶対に潰す。

 そんな気概を持って、あれこれと魔法の発動準備をしていく。

 せっかくここまで来たんなら、やっぱりBランクの冒険者資格は欲しい。

 最初は特に要らなかったくせになあ。


 まあよくある人間の心理だ。

 特に欲しくはなかった物なんだけど、それが手を伸ばせばすぐ届くところまで降りてきて、しかも自分だけが手にする権利がある。

 まるで怠惰な感じでずり下がり加減に椅子に座ったまま、ひょいと手を伸ばせば届く御菓子のように。

 まあちょっとくらいは欲も出てきますわね。


 剣も魔力を纏わせた魔法剣を、全種類左側の腕輪のインベントリに準備し、いつでも出せるようにしておいてある。

 いくつも魔法を内包した魔法パッケージも何タイプか作って、しかも大量にコピーしてある。


「ちっ。こんな事なら上級魔法パッケージも作っておくんだった……相手を殺しちゃ駄目って言われていたから遠慮していて、しまったな。

 備えあれば憂いなしという、俺様御得意の座右の銘が泣いてるわ」


 開始の合図と同時にエアバレットをぶち込んで、全力で警戒しつつ相手にデバフをかけまくり、同時にシールドを全力で展開し……準備しておいた攻撃魔法ではなく、そのままシールド構築に全力を尽くした。


 何故なら、なんと相手は吹き飛んでなどいなかった。

 むしろ寸前まで迫ってきていたのだ。

 イコマがあんな感じだったから警戒しておいてよかった。

 ボーっとしていたら、最初の接敵で俺が敗北していたかもしれない。


 相手の攻めに対して、ともすればこちらのシールドが吹き飛ばされそうになる。

 生憎な事に、デバフはまったく効いていないようだった。

 何らかの効果で無効にされていたか。


 シールドの内側からハイシールドを構築して、そっちに切り替える。

 そして、そいつをさらに強く厚く重ねがけしていく。

 バリヤーも全力で体の表面に張っておく。


 間違いなくこいつはAランク相当以上の実力の持ち主だ。

 わかる、理屈でなくわかるぞ。

 俺のいつもの感覚だ。


 Bランク試験にこんな凄い奴が出てくるとはな。

 俺だって人の事は言えないのだが、こいつは予想外だぜ。

 まったく、なんてこった。


 くそ、ギルマスめ。

 こいつが今回出てくる事くらい、奴なら当然知っている。

 知った上でぶつけて、俺の実力を測ろうとしているのかもしれないな。

 相変わらず食えないおっさんだぜ。


 通常はBランク試験なんて、ここまでの奴が出てくるような激しい試験じゃないのだ。

 さっきまで勝ち進んでいた雑魚連中の技量からしてわかる。


 これは多分、物理的な存在に変わるほどに濃密な魔力を纏う事により、身体も爆発的な強度を得、そして凄まじいパワーとスピードを得る方法だ。

 身体強化というよりも、魔法鎧のような効果を持つ物なのだろう。

 自分が魔法鎧と一体化するような技だ。


 あ、何故か奴の発動を見取っていたようだ。

 新しいスキルを獲得しており、魔道鎧Lv1とある。

 これは莫大な魔力を必要とし、またコントロールも難しいのだろう。

 ともすると、自分自身が自分の魔力のパワーでもろに吹き飛ばされるのではないか?


 その難物を、この若さで見事にコントロールしているこいつは相当の手練だ。

 こいつあ、またどうしたものかな。


 この魔道鎧とやらの耐魔法性も相当なものだし、へたをすると魔法を吸収して強化されかねん。

 俺ならディスペルの効果も持たせるな。

 迂闊に魔法を撃てないし、そもそも物理攻撃が簡単には通用しない感じがする。


 見取った同じ能力を発動して対抗しようにも、ちょっと俺には簡単には扱いかねる代物のようだ。

 わかる。

 理屈でなくわかる。

 おそらく今使えば、スキルをコントロールし損なって『場外負け』でも食らうのが関の山だ。


 即断で、魔法による飽和攻撃などという馬鹿な事にチャレンジするのは止めにする事にした。

 ここは風の魔法剣に切り替えて、その魔道鎧とやらが切れないか軽く試してみた。


 だが俺の魔法剣がそいつに触れた瞬間に、魔法の効果が打ち消される。

 というか、なんだか魔力を吸収された感じがした。

 やっぱりか、迂闊な真似をしなくてよかったぜ。


 仕方がないので、ここは物理兵器を試す事にする。

 まずガソリンを大量に奴の頭からぶっかけて焼いてみた。

 日本ならこれで無敵無双だよな。

 相手が確実に死ぬけど。

 ついでに周囲も丸焼けだ。

 

 凄い!

 炎の柱が奴の魔力鎧に巻き込まれて立ち上り、まるでイフリートみたいな感じになった。

 奴自身も堪らんといった感じに腕で頭を庇うような仕草を、炎の中の舞として俺に献上してくれた。


 これはやっぱり「燃焼の激しいもの」と定義される、通称名「爆発」っていう奴だよな。

 当然の事ながら中身である相手は無事だった。


 ほお。

 どうやら物理兵器による効果は防げても、その物理的な影響は打ち消せないようだな。

 まあ普通に考えて、燃焼という化学的な事象に干渉出来るような物じゃないよな。


 今度、やっぱり火薬式の銃を作るか。

 まさか魔法銃が役に立たないシーンがあるとはな。


 そういう事なら!


 今までの百倍くらいの魔力をぶち込んで、こっちのバリヤーやシールドを超強化して守り、野郎に向けてニトロセルロースを大量にぶち込んでみた。


 ついでに奴との間に、半球的な形状で張ってあるこちらのシールドと反対向きでシールドを構築した。

 何がやりたいかというと、爆風を極力奴のいる方向へ向けるためにだ。


 あまり狙いを絞って空砲みたいに使うと狙いが逸れてしまいそうなので、まあ大雑把に狙いを定める感じに。

 まあ言ってみれば散弾銃的な使い方だよな。


 出来れば、奴の面前まで筒状に構築したシールドを突き付けて『直撃ち』にしてやりたかったのだが、さすがに速度で避けられるだろう。

 あの魔道鎧というものは、そういう性質をもった厄介なスキルなのだ。


 果たして、これを使って観客が無事で済むかな~。

 選手じゃなくて観客を巻き添えにしても失格だろうか。

 まあ、それだとたとえ優勝は出来ても、後の審査とやらが通らない気がする。


 それもあって『指向性御皿型大型空砲』をセットしてみたのだが。

 もちろん、弾丸代わりに吹き飛ぶのはあいつさ。


 もう最後の試合である決勝なんで、隣の空いてる試合場があったので、一応そっちに向かってぶっ放してみた。


 その方が、まだ被害は少なかろう。

 火薬は超大量に使っておいたので。

 あんな奴相手に遠慮なんかしていたら逆にこっちがやられてしまう。

 半ば本当に殺す気で火薬量は『百キログラム』を奢っておいた。

 炸薬ではない装薬のような物とはいえ、これだけを食らったら本物の重戦車でも吹き飛びそうだな。

 おい若造、頼むから死なないでくれよ。


「ファイヤー!」


 俺の掛け声と共に物凄い爆発音がして、奴は綺麗に吹き飛んでいた。

 さすがはシールドをリフレクター代わりにしてやっただけの事はある。

 まるでヘッドランプの反射板が電球の放つ光を前方へと撥ね返すかのような、見事な吹き飛びっぷりだった。


 だがなんと奴は無様に場外寸前まで転がったにも関わらず、そこでかろうじて止まっていた。

 チッ、あれでも場外に届いてなかったか。

 火薬量が少なすぎたかな。

 だがあまり無造作に火薬量を増やしすぎると、ギルドが壊れたり観客に死人が出たりしそうだったんでな。


 まあ俺自身が奴にかなり奥まで押し込まれていたからな。

 あのまま押されまくっていたら、逆に俺の方が場外負けを食らっていただろうから危なかったぜ。


 おそらく奴自身は掠り傷一つ負ってはいまい。

 しかし本人は、何があったのか訳がわからないだろうな。

 この世界には通常ないだろう兵器を使ったので。


 奴は場外寸前の場所で蹲っていた。

 強者である自分がこのようなやり方で無様に転がされる事など予想もしていなかったのだろう。

 あんな反則スキルを持っているんだからな。

 何があったのかわからず大混乱しているようで、猛烈な白煙に阻まれた視界と相まって動けないみたいだ。


 凄まじい硝煙の煙幕の中、俺は拡大したレーダー画面を頼りに超速で走りこんでいって、魔道鎧ごと奴を場外へ蹴り出した。


 おお、物理的な蹴りは通用したぜ!

 まあ火薬でちゃんと吹き飛んでいったから、思いっきり蹴れば叩き出せるとは思ったけど。

 御蔭で二発目の爆発は出さずに済んだ。


 すかさず風魔法で素早く硝煙を一気に吹き飛ばし、俺の無茶苦茶な蹴りのパワーで隣の会場まで無様に転がっていき、瞬間固まっている野郎を指で指しながら、魔法を放った腕とは反対側の腕をぶんぶんと回して審判に大声で場外アピールをする!


「へーい、審判。場外、場外だぜー」


 早く早くー。

 審判様、早いとこ判定してくれー。

 でないと、あいつが戻ってきちゃう。

 野郎、物凄いスピードの持ち主だからな。


「アントニオ場外、勝者アルフォンス」


 やったぜ、見事に奴の場外が認められた。

 勝者、俺。

 思いっきりガッツポーズを決めたぜ!


 チラっとギルマスを見ると苦虫を噛み潰していた。

 あ、ヤベ。



 そして変な勝ち方をしたので、てっきり審査で揉めるかと思っのだが、あっさりと俺のBランク昇格は認められ、今までの物とは違った派手なデザインと色合いをしたBランク冒険者カードを授与された。

 ギルマスも強く推すと言った約束は守ってくれたらしい。

 わざと俺をぶつけただろうあいつに見事勝ってみせたのだから、そこは御褒美っていうところかな。


 しかも、やはりというか対戦相手のあいつは掠り傷一つ負っていなかった。

 うーん、なんて野郎だ。

 生身なら十回は死んでいるはずの攻撃を連打してやったというのに。


 目が合ったら、ちょっとこっちを睨んでいた。

 絶対に自分が優勝出来るつもりでいたんだろう。

 甘いな、小僧。

 世の中はとっても厳しいんだぜ。


 こういう事は年季が物を言うんだ。

 たとえ冒険者としてはド素人だろうが、この老獪なおっさんが貴様如きのようなケツの青い若造なんぞに負けて堪るもんかい。

 この年寄りからの有難い薫陶を人生の糧とするがよい。


 しかし、こいつと実戦でやりあう羽目にでもなったらとんでもないな。

 なんたって、相手が俺の事を意趣に思って逆恨みの襲撃を食らうとかがあってもおかしくないほど激しく遺恨の残る真っ黒な試合内容だったからなあ。

 いや、ビジュアル的には白煙濛々だったけどね~。


 おそらく、こいつ以外にもこれの使い手はいそうだ。

 対抗手段は持っておかないと。


 しかし、こんなとんでもない代物があるなんて。

 異世界っていうところは、やはり油断も隙もないぜ。

 ここで、このスキルをゲット出来て本当によかった。


 一か月後にAランク試験がある。

 色々とレベルを上げないとついていけそうもない。

 もう一回、今度は修行のためにダンジョンに潜るのも手か。


 とりあえず北のダンジョンへ先に行って、ダンジョン内の転移機能を見取り可能か試してみよう。

 そこの見取りが駄目でも、宝物庫で作った転移の魔導具である腕輪があるし。


 とりあえずは、そっちのダンジョンの転移機能から見取った転移魔法で地球まで移動出来ないかを確認しなくてはならない。

 午後から早速、飛行魔法のフライで北のダンジョンへと向かう事にする。

 目指すはダンジョンの転移石だ。


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